trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth ダイバーズウォッチの7つの神話を徹底解明

ダイバーズウォッチについて耳にする全てが真実であるとは限らない – その真相を明かそう。

※本記事は2017年7月に執筆された本国版の翻訳です。   

ダイバーズウォッチほど誤解されている時計はないのではないだろうか。これは、奇妙なことだ。というのも、それは間違いなく最も人気のある時計でもあるからだ。ダイバーズウォッチは、その頑丈さ、スポーティなルックス、そしてこれを着けることで、誰でもダーク・ピット(Dirk Pitt)やジェームズ・ボンド(James Bond)のような雰囲気を醸し出すことができると考えられていることから愛されている。このような認識は、時計メーカーのマーケティングで我々が目にするイメージや誇張されたコピーに由来しており、そこでは無精ひげで黒ずくめのダイバーが、2000m防水の大型の時計を着けて海から上がってくる様子が描かれている。しかし、ダイバーズウォッチの実態は、しばしば我々の多くが信じているものとはかけ離れていることが多い。そして、ダイバーズウォッチが本来の目的で使われなくなればなるほど、その神話が広まっていく。ここでは、ダイバーズウォッチに対する最も一般的な誤解と、その裏に隠された現実を紹介する。


回転ベゼルは、酸素の残量を把握するのに役立つ。

 この意見にはいくつかの誤りがある。これは、私が最近のダイバーズウォッチのプレスリリースからそのまま引用したものだが、それはダイバーでなくても分かる。まずは、タイミングベゼルだが、汎用性はあるものの、かなり単純である。機能はたった一つ、1時間までの時間経過を追うことである。ダイビング中ずっとベゼルを見つめていても、水中圧力計を定期的にチェックしていなければ、誤ってタンクを空にしてしまう可能性がある。空気消費率、すなわち一定の時間にどれだけ呼吸するかを知っていれば、残っている空気量を概算することができるが、これは圧力計を無視する理由というよりも、ダイビングプランを立てる上でより役に立つ。

Eterna diver chronometer

ダイビングベゼルには様々な用途があるが、残存酸素量の計測はその一つではない。

 この意見のもう一つの誤りは、“酸素”という言葉を使っていることで、この言葉は、一般的にダイビングに言及する際によく誤って使われているのを目にする。ほとんどのスポーツダイバーは、約21%の酸素、約79%の窒素、ごく微量の他の気体を含む圧縮空気を吸っているが、水深20ft(約6.1m)以下で純粋な酸素を吸うことは有害で、痙攣を引き起こし、通常は溺死という不快な死を迎えてしまうことになる。

 ダイビングベゼルは、総潜水時間、減圧停止時間、水泳距離、水面休息時間の計測など、さまざまな用途に使用できる。しかし、時計メーカーが圧力計を時計のケースに内蔵する方法を見つけ出すまでは、ダイバーズウォッチは酸素または空気の残量を知ることはできなかった。

ADVERTISEMENT

オレンジ色(または明るい色)のダイヤルは、水中での視認性を高める。

 明るいダイヤルカラーはダイバーズウォッチの代名詞となっているが、そのトレンドは1967年のあるブランド、ドクサ(Doxa)にまで遡ることができる。伝説によると、今では有名なドクサ SUB 300のデザイナーであるウルス・エシュレ(Urs Eschle)が、よどんだヌーシャテル湖でさまざまなダイヤルカラーを試すことを決断し、水中での視認性を高めるためにはオレンジ色が最適であることを発見したとされる。オレンジ色はドクサのアイコンとなり、ブライトリングからセイコーまで他の数多くの時計のダイヤルにも採用されたが、それがベストというわけではない。

オレンジ色のダイヤルは、ドクサのダイバーズウォッチを有名にしたが、この写真のように人工的な光に照らされない限り、水中ではすぐに色褪せてしまう。

 ダイバーが潜るにつれ、水は光のスペクトルの色を1つずつ吸収していく。水深15ft(約4.6m)では、まず赤が消え、次にオレンジが消えるという具合である。これらの色は、蛍光色であれば全ての色が非常に深くまで光るが、そうでない限り、単にくすんだグレーに変わってしまう。水中で最も長く見える色は黄色と青であることが分かっているが、これには議論の余地がある。なぜなら、ダイバーズウォッチの視認性は、ダイヤルの色とは関係なく、針とダイヤルのコントラストがどれだけあるかで決まるからだ。そのためには、ブラックダイヤルにホワイトの太い針、特にホワイトの分針に勝るものはない。


ベントストラップは、手首の通気性を良くする。

 これは神話というよりも、実際に使用した経験のない人には評価されない(または誤解されている)デザイン上の特徴と言えるだろう。シチズン、セイコー、パネライ、IWCなどに採用されている波打つラバーストラップは、ダイバーズウォッチの歴史の中で最も独創的なイノベーションの一つであり、それは時計そのものとは関係がない。

IWC Aquatimer Deep Three.

IWC アクアタイマー・ディープ・スリーのベントストラップ。

 水圧は、ダイバーが10m潜るごとに、上空の大気の全重量に相当する力がかかる。これは、鼓膜から清涼飲料の缶まで、圧縮可能なものを全て押しつぶす働きがある。そのため、ネオプレン製のウェットスーツの袖は、ダイバーがより深く潜るにつれて、ゆっくりと腕を圧迫していく。NATOやフラットラバーなどの従来の時計ストラップでは、単にだんだんと緩んでいき、時計のヘッドが手首の上でパタパタと動いてしまうのだ。1975年、セイコーは画期的な600m防水のプロフェッショナルダイバーズウォッチに、アコーディオン型の“ベント”ラバーストラップを初めて採用し、また、L字型のガスケットやベゼル保護カバーなど、数多くの革新的な技術を導入した。

Seiko Pro Diver

セイコーは、1970年代にベントラバーストラップ使用の先駆者となった。

 水圧の影響を受けないようにするために、ダイバーは水に入る前にベントストラップを“過剰に締め”、基本的には波が真っ平になるまで引っ張る必要がある。ウエットスーツが圧縮され、手首周りが縮むにつれ、その波が徐々に緩みを取り戻し、時計がしっかりと固定された状態になる。これは非常にシンプルな解決策であり、また回転ベゼルと同様に目に見えるダイバーズウォッチのデザイン上の特徴となっている。しかし、これは地上では基本的に役に立たないし、手首の通気性を良くしたいのであれば、単に穴の開いたストラップを手に入れた方が良いだろう。


ヘリウムエスケープバルブを使えば、より深く潜ることができる。

 ヘリウムエスケープバルブについての私の考えは以前にも明らかにしたが、ここでは個人的な意見はさておき、よく言われる、このバルブによって時計とそれを着けた人がより深く海に潜ることができるようになるという誤った考えについて取り上げたい。確かに、ごく一部の商業ダイバーや軍のダイバーが、時計の“バープバルブ”を利用して他のダイバーよりも深く潜ることがあるというのは真実かもしれないが、それは時計の性能というよりも、むしろ彼らの作業環境の影響が大きいのだ。

Rolex Sea Dweller

ロレックス シードゥエラーのヘリウムエスケープバルブ。

 ヘリウムエスケープバルブは、加圧された居住施設での作業中に最も頻繁に経験する時計ケース内のヘリウムの過圧を単に緩和するものである。詳しくはジャックの飽和潜水についての素晴らしい記事「飽和潜水の真の意味とは? (そして時計職人はそれにどう対応したのか)」を読んで欲しい。実際には、多くの商業飽和潜水士は、仕事に出るときには時計を居住施設に置いたままにしているが、これは、長時間のシフトにはほとんど役に立たず、マイナスに作用する可能性があるからだ。そのため、時計が高圧にさらされるとしても、多くの場合、水圧ではないので、防水性を示すメートル数はそれほど重要ではない。そして、時計の中に入ったヘリウムは、水からではなく、居住施設の中のガスに由来している。とはいえ、ほとんどの商業ダイバーは水深200mよりもさらに深い場所で作業をすることはなく、それよりもずっと浅い場合が多い。

 ダイバーズウォッチのファンは、オーバーエンジニアリングを好む傾向があり、またヘリウムエスケープバルブとその開発当初の裏話は魅力的ではあるが、それはより深く潜ることには役立たないのである。

ADVERTISEMENT

100mの防水性能は、ダイビングには不十分である。

 過酷な環境下で使用されるギアに関しては、行き過ぎは良いことだが、数字を考えてみよう。最大のプロフェッショナルダイビングインストラクターの組織であるPADIは、60ft(約20m)が基礎的なオープン・ウォーター認定カード保持者が潜るべき深さであるとしている。アドバンスド・オープン・ウォーターの認定を取得すると、PADIダイブマスターが130ft(約40m)まで連れて行ってくれる。100m防水の時計はその倍以上の深さなので、全く問題ない。それはまた、今日多くのダイバーが目にしている途方もない水深に耐えるものよりも、よりスリムで、より軽く、より安価なものになるだろう。実際、私は、プラスチック製で50m防水のタイメックスのアイアンマンをバックアップタイマーとして着けているダイバーを少なからず見たことがある。

Rado Captain Cook

ラドーのキャプテン クックの防水性能はわずか100mだが、それで十分だ。

 最初期のダイバーズウォッチは防水深度表示がかなり控えめだったが、それは1950年代のことで、当時は時計が水中で必要な機器として日常的に着用されていた。ロレックスの初代サブマリーナーの深度表示は100m、またブランパンのフィフティ ファゾムスは、ダイバーが安全に潜れる最大の深さが50ファゾム、つまり300ft(100m弱)と考えられていたことから、その名が付けられた。実際には、187ft(約57m)より深くなると、圧縮空気中の酸素の分圧が危険なほど高くなり、有害になる可能性がある。

 ただし、私の言葉を鵜呑みにしないで欲しい。ダイバーズウォッチの仕様を定めた国際規格ISO 6425では、最低でも100m以上の防水性が必要とされている。だから、深度表示1220mのダイバーズウォッチの素晴らしい技術を評価するとしても、オリスのダイバーズ 65やラドーのキャプテン クックはシードゥエラーと同じように潜水時間を計れないと考えるのはよそう。水中で腕を振ってもである(続きを読んでいただきたい )。


水中で腕を振ると、時計にかかる水圧が増す。

 ああ、またこの陳腐な説:水中で泳いだり腕を振ったりすると、腕時計に作用する水圧の測定値が極端に上がるという考えだ。つまり、水中エアロビクスや映画『007 サンダーボール作戦』の戦闘シーンを再現するために時計を着けたい人は、ダイバーズウォッチをよく考えて選択する必要があるということか。しかし、それは全く真実ではないのだ。

The author and friend reenact a Thunderball fight scene.

筆者と友人で『007 サンダーボール作戦』の戦闘シーンを再現。

 実際には、どんなに強く腕を振っても、時計のガスケットにかかる水圧が目に見えて増加することはない。私は物理学者ではないが、私よりももっと研究をしている人によると、圧力を1気圧上げるため(さらに33ftまたは10m深く潜るのに相当)には、時速32mile(約51km)で腕を動かさなければならず、それも圧力がガスケットに直角にかかる場合に限られるが、そんなことは起こりえない。ここで私が言いたいのは、防水機能を備えたほとんど全ての時計は、着けて泳いでも問題はないということである。とにかく、ベテランのダイバーは腕をあまり使わないことに気づくと思う。なぜなら、腕を振り回すと流体力学が減少し、余計な労力が必要となり、ひいてはタンクの空気をより早く早く減ってしまうからである。

時計にかかる圧力を1気圧上げるためには、時速32mile(約51km)で腕を動かさなければならない。


ダイバーはダイバーズウォッチを着ける。
ADVERTISEMENT

 プレスリリース、時計ブランドのウェブサイト、プロモーション用の写真だけを見ていると、ダイバーズウォッチはスキューバダイバーにとって必要不可欠なギアであると思われるかもしれない。しかし、世界中のダイビングボートに乗ってみると、デジタルダイブコンピュータ以外の時計を着けている人を見かけることはまずないだろう。実は、ダイバーズウォッチの進化の中で、1990年代の初めまでには、ダイブコンピュータが最先端のものとなり、水深をダイナミックに追跡し、組織の窒素負荷量、無減圧潜水の限界、減圧停止などが計算できるようになった。ダイバーは、もうラミネート加工した表を携帯したり、水中で頭の中で計算したりする必要はなくなったのだ。 

ダイバーズウォッチを着けてダイビングする理由は、まだたくさんある。

 とはいえ、依然として時計を着けてダイビングをする理由はたくさんあり、私はダイブコンピュータの反対の手に時計を着けずにバックロールエントリーすることは決してない。まず、2台目のダイブコンピュータを携帯するのは別として、ダイバーズウォッチは便利なバックアップのボトムタイマーであり、機械式深度計と組み合わせて、コンピューターが故障した場合には安全なダイビングの時間を計るために“昔ながらの”方法で使用できる。次に、デジタルダイブコンピュータにはあまり適さない水中での他の時間計測がある。たとえば、ナビゲーションのための水泳距離、折り返しや集合時間、安全停止などである。海の上では、ベゼルを回転させて水面休息時間やボートに乗っている時間、そして大切なダイビング後のお楽しみの時間を追跡することも簡単だ。

著者はダイブコンピュータを着けているが、反対の手首にはいつもダイバーズウォッチを着けている。

 これら全ての目的は別として、ダイバーズウォッチを着けてダイビングすることは、これまでに考案された中で最も目的のある時計の伝統を称えることになる。ダイバーズウォッチを着けることで、歴史上の偉大な時計の系譜や、以前にそれを着けていた探検家や冒険家たちとの繋がりが生まれる。それはまた、デスクに戻ってからも思い出を振り返ることができる、素敵な伝承者でもある。あのクラスプの傷は? 沈没船ティッスルゴーム号のペネトレーションダイブで付いたもの。風防についた傷は? キュラソー島でミノカサゴ狩りをした時に、サンゴでこすって付いたものだ。ダイバーズウォッチは、我々の冒険心を目に見える形で称えるものであり、また外に出てクールなことをするよう励ましてくれるものである。そして、それこそが何よりの理由かもしれない。

Photos: Gishani Ratnayake