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Talking Watches 時計宝飾店ベイヤーの8代目当主 ルネ・ベイヤーが語る公私にわたる時計コレクション

時計業界のレジェンドが、世界で最も魅力的なコレクションを案内してくれます。

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本稿は2018年6月に執筆された本国版の翻訳です。

時計コレクターとしての人生を歩んでいると、決して忘れることのない瞬間が訪れることがあります。ヴィンテージロレックスを初めて手首に巻いたとき。初めてミニッツリピーターの音を聞いたとき。それらは、その後に起こるあらゆることを決定づける節目でもあります。ベイヤー時計博物館でルネ・ベイヤー氏と過ごした午後のひとときは、僕にとってまさにそのような瞬間でした。

 ルネ氏は、1760年にスイスで時計店を創業して以来、時計宝飾業界に携わってきた一族の8代目当主です。ちょっとした歴史のおさらいをしておくと、ベイヤー家の人々はフランス革命やアメリカ建国以前から時計を販売していたことになります。でも、時計とクロックの歴史に関する総合的な知識、時計師としての技術(そう、彼はただモノを売っているわけではありません)、チューリッヒのバーンホフ通りにあるベイヤークロノメトリーの地下にある公立博物館に展示されている彼の一族の素晴らしいコレクションにとどまらず、ルネ氏は情熱と寛大さにあふれた人物です。正直なところ、彼はあと数時間あれば、博物館を案内してくれたり、老朽化したマリンクロノメーターの修復や、見つけにくい時計を追い求めた話を聞かせてくれたりしただろうと思います。

 ルネ氏の個人的なコレクションは、多くの偉大なコレクションがそうであるように、彼の一族の前の世代にルーツを持つものであり、特定の時計について語る彼の声から、それが窺えます。単に時を刻むだけではないのです。さて、今回のTalking Watchesは、時計業界のレジェンド、ルネ・ベイヤー氏にお話を伺いました。


ロレックス デイトジャスト オイスタークォーツ

 ルネ氏が最初に手に入れた時計です。スタートとしては悪くないですね! この時計は彼がまだ16歳のときに父親から贈られたもので、裏蓋には彼のイニシャルが刻印されています。この時計は、彼の学生時代、時計ビジネスを学ぶために世界中を旅したときにも身につけていたもので、いまでも時々(たいていは特別な日に)身につけている時計だということです。


ロレックス デイトジャスト(コンビ)

 次はもうひとつのデイトジャストです。ルネ氏はスティール、チタン、プラチナなどの白色系金属ケースの時計を好んで身につけるそうですが、この時計はコンビが流行していた1990年代に手に入れたそうです。誰だって、たまには華やかさが必要でしょう?


ロレックス ホワイトゴールド製のデイデイト

 これはルネ氏にとって特別な時計です。2002年に父親が亡くなり、家族で私物の時計をわけることになったとき、ルネ氏がいちばん欲しがったのがこの時計でした。WG製のデイデイトにプレジデントブレスレットというシンプルなものですが、とても感傷的な価値があります。父親の親友で、ロレックスの元社長であるアンドレ・ハイニガーもおそろいの時計を持っていました。


ベイヤークロノメトリー創業250周年記念のロレックス デイデイト

 ベイヤー創業250周年を記念して、ロレックスはプラチナ製デイデイトの特別モデルを製作し、スイスの小売店のみで販売しました。特徴的なアイスブルーダイヤル(ロレックスのプラチナモデルのみ)には、ブルーのローマ数字とブルーの針が配され、裏蓋には記念のエングレービングが施されています。ルネ氏は特別なとき、特にロレックス社を訪れる際にこのモデルを着用しています。


ハンス・ウィルスドルフがルネ氏の父に贈ったロレックス デイデイト

 ルネ氏の一族は、ロレックスの創業者ハンス・ウィルスドルフにさかのぼる代から、同社と特別な関係にあります。実際、このYG製のごく初期のデイデイトは、ウィルスドルフからルネ氏の祖父セオドアへの個人的な贈り物です。


1953年、エベレスト登頂のために着用されたロレックス オイスターパーペチュアル

 この時計は、ロレックスのエクスプローラーのひとつです。エドモンド・ヒラリー卿とシェルパのテンジン・ノルゲイが1953年にエベレストに登頂し、史上初のふたりによる登頂を達成したとき、この時計もともに登頂に立ち会ったのです。コートの上から着用するための、オリジナルのレザーストラップも当時のままです。探検のあと、この時計はテストのためにロレックスに送り返され、最終的にベイヤー博物館に展示されることになりました。ルネ氏は、この時計を実際に見てもらうことが重要だと考えているようです。正直に言うとこの時計を手にしたとき、僕は鳥肌が立ちましたよ。


ロレックス ディープシースペシャル

 これはほとんど目にすることのない時計です。1960年にドン・ウォルシュとジャック・ピカールが潜水艇トリエステでマリアナ海溝に潜ったとき、ロレックスはディープシースペシャルという非常に珍しい時計を潜水艇の外側に縛り付けていました。その後、この時計の生還を記念して、ロレックスは特別なパートナー、なかでもベイヤーのために、SSとYGのコンビモデルを製作しました。これもまた探検の歴史の1ページなのです。


パテック フィリップ プレRef.5170 ベイヤークロノメトリー250周年記念モデル

 ルネ氏にとってはロレックスだけがすべてではありません。Ref.5170が正式に発表される前に、パテック フィリップはベイヤー創業250周年記念として50本の限定シリーズを製作しました。このモデルは美しいホワイトダイヤル(もちろんダブルネーム入り)を持ち、タキメータースケールと12時・6時にアプライドされたローマ数字が特徴です。


パテック フィリップ Ref.5205G、ベイヤーのパテックブティック5周年記念モデル

 ベイヤーは2011年にスイスで初めてパテック フィリップブティックをオープンした小売店です。このブティックが5周年を迎えたとき(2016年)、パテックとベイヤーはこのパートナーシップを記念して、美しいブルーダイヤルと特別なケースバックを備えたRef.5205Gアニュアルカレンダーを発表しました。


パテック フィリップ Ref.3450

 1983年、ルネ氏が一族の系列店で働き始めたとき、これが彼が初めて販売した時計でした。キャリアとして悪くないスタートでしょう? 実は最初に売ったのはスウォッチだったのですが、その日のうちに来店した叔父と叔母を説得し、投資としてこのダブルネームのRef.3450を購入させたのです。現在、この時計は彼のプライベート・コレクションの一部となっており、彼は時々この時計を身につけていますが、最終的には博物館に寄贈する予定だということです。


ベイヤークロノメトリー創業225周年記念パテック フィリップ Ref.3940

 ルネ氏の父セオドア・“テディ”・ベイヤーは、パテック フィリップのオーナー兼CEOであるフィリップ・スターン氏と非常に親しかったそうです。ふたりはスイス時計業界にとって、最悪の時期をともに乗り切った仲間です。そこでパテック フィリップは、ベイヤークロノメトリー創業225周年(1985年)を記念して、今やアイコニックピースとなったRef.3940パーペチュアルカレンダーの最初の25本をベイヤーに納品しました。これらの時計は、ダブルネームと6時位置のインダイヤル内にシリアルナンバーを持つサーモンダイヤルがセットされています。この個体は当然のことながらNo.1と表記されており、Ref.3940初の生産モデルとなりました。これはルネ氏にとって、両社の緊密なパートナーシップと個人的な関係の象徴でもあります。


パテック フィリップ Ref.2499 ベイヤーサイン入り

 ルネ氏にとって、Ref.2499は20世紀で最も美しい時計だということです。このクラシックなYGモデルには、お察しのとおり6時位置にベイヤーのサインがあり、より個人的で特別な時計となっています。


パテック フィリップ トゥールビヨン Ref.866500

 パテックとベイヤーが上記のRef.3940の製作に取り組んでいた頃、テディ・ベイヤーは特別なトゥールビヨンを見たことを思い出しました。このムーブメントは3個製造されましたが、当時ケースに収められていたのは1個だけでした。このムーブメントはケースに収められ、博物館への “贈り物”としてテディに提供されました。テディは購入しなければなりませんでしたが、この機会そのものをパテック フィリップからの贈り物と捉えました。ルネ氏がコレクションのなかで最も気に入っている時計のひとつです(ムーブメントは、1950年代に天文台コンクール用に作られた非常に珍しい50秒周回トゥールビヨンです。詳しくはこちらから)。


パテック フィリップ Ref.2597

 Ref.2597は、めったにお目にかかれない時計のひとつですが、非常に特別な時計です。ベイヤーのサインや特別なエングレービングがないにもかかわらず、ルネ氏にとって極めて重要なのは、パテックがこのトラベルコンプリケーション(旅行中にケース左のボタンを押すと短針が1時間単位でジャンプします)を開発していた頃、ルネ氏の父がニューヨークのヘンリー・スターン時計商会を訪れた話をしていたのを覚えているからです。ベイヤーはまた、この時計を販売した数少ない小売店のひとつでもあります。ケースバックには赤いステッカーが貼られ、館内の誰もがこの時計が1度も販売されたことがないことを知っています。


ジョージ・ダニエルズの懐中時計

 テディ・ベイヤーはジョージ・ダニエルズの長年の友人で、いつも彼の時計を欲しがっていました。しかし、ダニエルズはベイヤーによくこう言ったそうです。“君にふさわしいものがないんだ。待っていてくれ”と。そしてある晩、マン島でダニエルズはポケットからハンカチに包んだこの時計を取り出して、ついに時計が用意できたと告げました。ベイヤーは何の質問もせず、もちろんその時計を購入しました。ベイヤー博物館にあるダニエルズの時計はこれだけではありませんが、最も貴重なものです。


A.ランゲ&ゾーネ ランゲマティック サクソマット

 ルネ氏の時計のほとんどはスイス製ですが、このランゲは彼にとって特別なものです。1994年にブランドが復活した際、グラスヒュッテに招かれた小さな代表団の一員だったこともあり、特別な親近感を抱いているそうです。このモデルはランゲのなかで最も有名なモデルではありませんが、彼は秒針のゼロリセット機能を備えた自動巻きムーブメントと、夜光針を備えたブラックダイヤルが気に入っているということです。彼にとって、この時計はとても実用的で、身に着けやすいものなのです。


モンディーン スイス鉄道時計

 逆に、これはスイスらしい時計です。モンディーン・スイス鉄道時計は、スイス全土の鉄道駅に設置されている時計をモデルにしており、このモデルは、各分の頭で秒針を2秒間停止させ、各分の正確な“瞬間”を提供するという、特有の機能まで模倣しています。特に時計を実際に見るとクールな機能だと思いました。ルネ氏は、この時計が放つクリエイティビティと、優れた時計が高価である必要はないことを証明している点が気に入っています。


ブライトリング スーパーコンステレーション No.00/10

 時計への情熱以外では、ルネ氏は船、クルマ、電車、飛行機など、あらゆる乗り物の熱烈な愛好家でもあります。このブライトリング No.00/10は、ブライトリングの再建とロッキード社スーパーコンステレーションのその後の飛行を経て、同航空機の乗組員のために製作されました。ルネ氏はこのプロジェクトの支援者であり、ブライトリングはこの特別な作品で彼に感謝の意を表したのです。