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How To Wear It クラシカルなジャケットを自分らしく着こなすために必要な時計とテイスト

つまるところ個人の趣味であり、自由だ。でも、実はこの手のテーマは、知れば知るほど、考えれば考えるほどハマり込むものでもある。それは、時計も装いも極めてパーソナルなものだから。

 このHow To Wear Itは、本国版のスタイルエディター マライカ・クロフォードが愛用する時計をより満足して着用できるよう、洋服のスタイリングも含めてお見せする企画。初となる日本版では、時計と同様にファッションを愛する編集長の関口と、本誌レギュラースタイリストの石川英治さんとで3本の時計のための3つのジャケットスタイルを提案。ときに、世界でも高い評価を得る日本流のMIXテイストを、今回は国産ジャケットの最高峰を志向するリングヂャケットのマイスター(ハンドメイド)ラインを用いて表現していきます。


ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・スモールセコンド

ジャケット30万8000円、シャツ4万2900円、パンツ5万5000円、タイ2万8600円、チーフ(参考商品)、シューズ(スタイリスト私物)

ジャガー・ルクルトのレベルソは1931年に誕生した歴史ある時計で、その出自はポロ競技のためのスポーティなものだったが、そもそもが貴族階級に向けて作られたわけで、本質的にドレッシーな雰囲気が強い。それも金無垢ケースともなれば王道のスーツスタイルに合わせるのが大正解なわけだが、そもそもポストコロナのこの時代において、タイドアップしたスーツスタイルでゴールドのレベルソを合わせることはだんだん時代のテイストには合わなくなってきていることも事実。せいぜいジャケット+スラックスくらいのコーディネートが、現代的なビジネススタイルとしてはより王道になるのではないだろうか。

 さて、時計自体の性格がはっきりしているこんなときは、王道に少しだけひねりを加えると自分の個性が加えられる。ネイビーブレザーにグレーのスラックスという合わせは、ビジネスマンにとって3指に入る王道スタイルだが、色味のところで若干の変化を加えれば、やや退屈にも映る王道に自分のテイストが宿る。リングヂャケットのMEISTER MODELは、高級生地を贅沢に用いてオーセンティックな職人技によって仕立てるのが最大の魅力だが、色で遊びを加える場合にはトップクオリティのカシミアシルクに施された、こんなブルーがいい。ロイヤルブルーの発色は、品よく、緊張感すら漂うレベルソの金無垢ケースとしっかり調和し、時計だけ、ジャケットだけが浮いてしまうことがない。

 ソックスでロイヤルブルーの発色に明るさの近しい、抜けのあるパープルを選べばさらに旬な雰囲気が加わる。ここで、単にグレーや黒のソックスを選ぶと、途端に他のコーディネートが浮いてしまうことがあるため、ひねりを加えたこんな装いをする場合には、最後のチョイスまで丹念に行うことがたいせつだ。

 一方で、明るいブルーのジャケットはゆったりと過ごす休日のカーディガンのようにも着られる。友人とワインや時計を楽しむ食事会であれば、趣味着としてタイドアップしてもよいだろうし、ヘインズのBEEFYのような厚手のコットンTシャツと合わせてくつろいだ印象にまとめてもいい。意外にも、ネイビーブレザー並みの高い汎用性を備えているのがこんなブルーのジャケットなのだ。ビジネス用やかしこまったシーンのために、ネイビーブレザーを1着備えておくのは大人の男性として最低限ケアしておきたいところだけれど、オンとオフとのあいだで途端に子供っぽいコーディネートになることを避けるためにブルージャケットは活躍する。

ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・スモールセコンド 322万2000円(税込)
詳細は、ジャガー・ルクルト公式サイトへ。


パテック フィリップ カラトラバ 5226G

ベージュサファリジャケット39万6000円、ニット4万9500円、パンツ4万6200円、シューズ、メガネ(スタイリスト私物)

パテック フィリップは、いまテイストに少しずつ変化が見られる。2022年の新作Ref.5226Gは、カラトラバの名前を冠していながら、アンティークカメラを思わせるテイストを取り入れた外観で驚かせた。ザラつきのあるテクスチャーで仕上げられたグレー文字盤はドレスウォッチとは程遠く、インデックスや針に施された夜光は実用時計のようだ。その夜光はベージュ色で、意図的にヴィンテージ観を演出。現代のジェントルマンの時計は、エレガントでありながら実用性を伴っているべきだと言わんばかりに感じられる。

 カラトラバは1932年にドレスウォッチの規範を定義したとされるが、いま振り返ればそれも時代に新しい感性を問いかけたものだった。ミドルケースと一体化した太いラグは長くスラリと伸び、ケースに対してラグ幅も大きくとられて太いレザーベルトと合わせることが前提とされた。インデックスはより上品なローマンではなく、立体的なバー型でミニマルな一体感を優先。これらがかつて定義づけられた特徴だった。パテック フィリップの顧客は上流階級がメインなのはいまも昔も変わらないが、その層に対する新鮮な提案はカラトラバでこそなされるのかもしれない。

 では、モダンジェントルマンといえば、スリーピースに合うハットをあつらえ、ステッキを常用するような人だろうか? いや、きっともう少し動きやすさとか過ごしやすさ、実用性を伴った装いを好むはずだ。若いエスタブリッシュメントには、ハイゲージのプレーンなニットにジャケット、それもオーセンティックなテーラードというよりもサファリテイストを加えたような、若干カジュアルなものがしっくりくるという人の方が多いだろう。サファリジャケットのディテールは40年代の紳士のようでありながら、ヌードベージュのシープスエードレザーなら素材が品格を保つためカジュアルになりすぎることがない。明るいベージュはまさにサファリカラーだけれど、リングヂャケットが仕立てたこの形はコンパクトなアームホールながら、全体にタイトすぎないシルエットであることが余裕のある上品さを醸し出してくれる秘訣だ。パテック フィリップのような時計と合わせるならば、カラダのラインが出るようなタイトレザーよりも、懐の深さを感じさせるリラックスシルエットがよいのだ。

 上半身にこだわりを詰め込んだら、あとは自分の制服のように見えるボトムを合わせればなお気負った感じが抑えられる。スティーブ・ジョブスが毎日はいていたリーバイスとニューバランスのように、黒いコットンパンツとローファーがあれば、時計とジャケットを主役に据えたコーディネートは完成だ。

パテック フィリップ カラトラバ 5226G 601万5705円(税込)
詳細は、パテック フィリップ公式サイトへ。


パルミジャーニ・フルリエ トンダ PF オートマティック

スーツ24万2000円、ニット4万5000円、デニムジャケット、スニーカー(スタイリスト私物)

ダークカラーのスーツは、永遠のクラシックだ。日本では“背広“のような印象が強いけれど、それは欧州のエスタブリッシュメントが着こなしていたこのスーツの、色味だけがインポートされてしまったからに他ならない。ダークトーンのスーツはグレーか濃紺というのが大定番だが、現代ではグリーンをベースとしたこんな色味のものもある。ドーメル社のブリオライトをリラックスしたシェイプの型紙で仕上げたスーツは、幅広い世代のメンズを格上げしてくれる懐の深さを備えている。しかしながら、イメージがクラシックであるがゆえ、日本では着られるシーンがビジネス(それも、リモートワークに代表される昨今のくだけた雰囲気のものではなく)の場にほぼ限定されてしまうのもまた事実。いっそ発想の転換をして、グリーンカラーを軸にカジュアルダウンして、遊び着としてこなしてしまうというのも手だ。

 リングヂャケット謹製のダブルスーツは、ダーツを入れて少しだけ絞ったシェイプとほんのり大きなラペル幅で少しモダンなメリハリを加えているものの、トレンド性はさほど強くない。クラシック過ぎずモダン過ぎない、着方によっては無難に映るとも言えるが、こんなスーツこそ品を保ったまま遊び着にするのに適している。時計のセレクトは、パルミジャーニ・フルリエのトンダ PFのようなものがいい。アンダーステイトなルックスで、適度なヌケ感を与えてくれるのだ。現パルミジャーニ・フルリエCEOのグイド・テレーニは、「私たちのお客様は、初めて時計を買う人たちではありません。また、物質主義的なスタイルや自分の富を表現したい人でもありません。トンダ PFは標準化されていないエレガンスを表現しているのです」とトンダ PFを表したが、現代的なラグジュアリースポーツに属していながら、あえて主張をしすぎないこのデザインは着こなし全体の調和をとる場合に最も活躍するのだ。

 ではそんなベーシックなアイテムを用いて、どのように個性を加えていくか。例えば、アウターにオーバーサイズのデニムコートを羽織ってみる。ベーシックなアイテムに独特のゆるさがあるアイテムをプラスすれば、気分はジュード・ロウだ。あくまで遊び着であるから、気負った感じではなく、オフのシーンでも愛用しているデニムコートやジャケットがいい。着慣れているからこそ、自分らしいテイストでこなせるものだからだ。

 とくれば、足元はオーセンティックなニューバランスのスニーカーあたりがしっくりくる。US製の1300を「雲の上を歩いているよう」とラルフ・ローレンが評した系譜を次ぐ高品位な1足ならば、質のよいダークスーツの格にも劣ることはないだろう。デニムコートの代わりにほどよく色落ちしたデニムシャツをインしても同じ効果が得られるし、ここではくつろいだ印象を加えることを意識したい。ひとつだけ注意点は、スーツはあくまでも上下そろってスーツとして着ること。よりカジュアルに設計されたセットアップとは異なり、スーツの上下をバラバラに着てちぐはぐなジャケットやパンツと合わせても、マッチさせることはドレスウォッチをウェットスーツに合わせるほどに困難だ。クラシックには、ほどよく自分らしさを加えるに留め、ベースのルールを下敷きに着ることがオススメだ。

 クラシックなスーツを自分流にこなすことには、最初はとまどいを覚えるかもしれない。けれど結局のところ、時計も洋服のコーディネートも、本人らしいかどうか、好きなアイテムをあれこれ考慮して自分なりの正解を表現できているかが一番たいせつだ。華美に装うためではなく自分らしく。その一歩のためには、自分だけが実感できて控えめな、プラチナのトンダ PFのような時計の重みがあなたの背筋を少し伸ばしてくれ、着こなしを一段と素敵に見せてくれるだろう。

パルミジャーニ・フルリエ トンダ PF オートマティック  305万8000円(税込)
詳細はパルミジャーニ・フルリエ公式サイトへ。

Photos:Yuji Kawata Model: KOU (donna models) Styled:​Eiji Ishikawa(TRS)