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In-Depth “ダーティダース” 素晴らしい12の安価なミリタリーウォッチコレクション

イギリス軍が使った初めての非一般用腕時計であるこれらは、現在、最も入手困難な軍用時計に入る。

“ダーティダース”は、第二次世界大戦中の架空の兵士たち12名の不運を描いた1960年代の映画の題名だ。それはまた、時計コレクターの間では同時に、実際に大戦中の兵士たち、具体的には、イギリス陸軍の兵士たちが着用した12本の腕時計につけられた名前でもある。これらは第二次世界大戦中にイギリス国防省(MoD)が特別に作らせたもので、個々に見た場合は他のミリタリーウォッチほど高評価ではないかも知れないが、これがセットとなると、極めて収集価値の高いものになる。とりわけ、イギリスの(もちろん、それに限定するわけではないが)コレクターたちにとっては垂涎ものとなっている。

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 イギリス軍は、常に時代の最先端を行く時計を装備していた。ハリソンやジョン・アーノルドといった時計のパイオニアメーカーによるマリン・クロノメーターは、王立海軍に海上での経度を精密に測定できる力を与えたし、第一次世界大戦中にはスミスウォッチが“割れないガラス”を謳い文句にした腕時計を出していた。しかし、イギリスが1939年にドイツに宣戦布告したとき、国内の時計メーカーには、もはやスイスの優れた生産技術に対抗する能力はなく、時計部品を作り続けていたメーカーにしても、空軍や海軍の軍事部品の生産に力を注ぐよう要請されていた。

1945年、ドイツのヴェーゼル郊外でのイギリスコマンド部隊。写真:ウィキペディア

 第二次世界大戦中、スイスは、連合国にもドイツにも大量の腕時計や懐中時計を輸出していたが、それらは戦前に民間市場から発注されたものであった。イギリス国防省は、それらがイギリス軍の兵士のニーズを満たしていないと考え、特注の腕時計の製造を依頼することにした。これらの時計には正確性、信頼性、耐久性が求められたが、時計作りの用語でそれを言い換えれば、クロノメーターの基準を満たし、なおかつ防水性と耐衝撃性を兼ね備えることを意味した。 

 また、その時計はブラックダイヤル、アラビア数字、夜光付きの時針と分針、夜光付きアワーインデックス、レイルウェイミニッツトラック、飛散防止クリスタルガラス、さらにステンレススティール製のケースを備えている必要があった。そして、それらを動かすのは11.75から13リーニュの15石ムーブメントだ。

 12社がこれらの要件を満たすことになる。すなわちビューレン、シーマ、エテルナ、グラナ、ジャガー・ルクルト、レマニア、ロンジン、IWC、オメガ、レコード、ティモール、バーテックスである。

写真:ウォッチズ・オブ・ナイツブリッジ 

 各メーカーは、自社の生産能力が許す限りの数の時計を納入した。イギリス国防省から正式な数が公表されているわけではないが、大手なら最大2万5000本、小規模メーカーなら5000本ほどの生産能力があったのではないかと考えられている。正確な受注数を記録に残していたのは、IWC、ジャガー・ルクルト、オメガの3社のみで、それぞれ順に6000本、1万本、2万5000本であった。1945年後半には、合わせて15万本の腕時計がイギリスに輸出され、それらは“一般用”と分類されながらも、無線操作員や砲兵隊員たちを含む特殊部隊に支給されていた。 

軍用とメーカーのシリアルナンバーが入ったレコードの裏蓋。

軍用とメーカーのシリアルナンバーが入ったシーマの裏蓋。 

 ダーティダースは、裏のエングレービングで容易に特定できる。3つのWは、Watch(時計)、Wrist(手首)、Waterprrof(防水)を表し、また、腕時計を政府の所有物であることを示し、製品の種別を示すことで武器とは区別している。その他の特徴としては、ダイヤル、ケースの内部、裏蓋に、矢印マークの“ブロードアロー”が入り、さらに裏蓋には、2段のエングレービングも施されている。大文字のアルファベットとそれに続く最大5桁の数字は、軍用品のシリアルナンバー、そして、その下にある2つ目の数字は、通常のメーカーのシリアルナンバーだ。なかにはメーカーのナンバーをケース内部に入れているものもある。(イギリスの官有物にブロードアローを入れる慣行は、1585年に兵站部〈軍の後方で軍需品の補給、輸送などにあたる機関〉の共同長官であったフィリップ・シドニー卿にまで遡る。彼の家系の紋章がブロードアローであった) 。

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 今日、何千とはいかないまでも何百人ものコレクターたちが、イギリス国防総省の作らせたこの軍用時計を所有している。しかし、“ダーティダース”をオリジナルの状態の完全セットで所有しているコレクターは非常に少なく、世界中で20名もいないのではないかとする声もある。なぜなのか? それは、非常にたくさん作られ、そのほとんどは比較的容易に見つけることができる一方で、グラナのように入手困難なものもあるからだ。 

 それは、グラナが他の11のミリタリーウォッチに比べて外観が異なっていたり、優れていたりするからではない。実際、どれが一番魅力があるかと尋ねられれば、他のモデルを挙げるコレクターが多い。相変わらず、時計を見た目だけで評価したときには、誰も同意しないようだが…。 

 しかし、ほとんどが、ロンジンを一番のお気に入りとして挙げる。現代的なサイズ(38mm)とステップケースが、この機種を非常に興味深い時計にしているのだ。また、他にダーティダースならIWCだと譲らない人々もいる。この機種はマークXとしても知られ、熱烈なファンたちに支持されて、現代に至るまで次々と後続モデルを生み出している。マークXVIIIが、その最新版だ。 

 だが、12本のうちでグラナほど切望されているものはない。見つけるのがはるかに難しいという単純な理由からだ。コンラッド・クリニム(Konrad Knirim)氏の著書『British Military Timepieces(英国軍の時計)』によると、英国軍用のグラナは5000本以下、おそらくは1000本ほどしか作られておらず、そのため最も希少な機種となっているのだという。 

『British Military Timepieces(英国軍の時計)』で公表された推定に基づく生産本数 。

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 その希少性や歴史を考えれば、グラナが現在でも手頃な価格の範囲内であることを知って驚かれることだろう。2016年にウォッチズ・オブ・ナイツブリッジの7月のオークションでも1本出たが、それらが市場に出品される際には通常、7000ドル(約73万円)辺りの提示価格から始まる。これは、一般的なダーティダースに対してコレクターたちが支払う価格の7倍になるが、6桁価格であるロレックスのミリタリー サブマリーナーに比べれば桁違いに安い。 

 そして他に11モデルがある。全コレクションを手に入れるには、十分な資金が必要となるが、ダーティダースの収集において、特にオリジナルの状態のものを手に入れたい場合には、落とし穴がないわけではない。それらが晒されていた過酷な状況のせいで、その多くは使用中のどこかの時点で、修理や修復が施されている。それはつまり、王立陸軍電気機械技術兵団(R.E.M.E)に送られたことを意味する。兵士が着用する腕時計を含め、機械装置のメンテナンスや修理のすべてを処理していた部隊だ。当然、送られてきた腕時計の当初の状態を保存することなど、同部隊が興味を払うはずもない。彼らの一番の関心事は、それらを一刻も早く戦場にいる兵士の元へ戻すことであり、品質の劣る国防省の部品を使えば、はるかに現実的で時間効率もよいと思いつき、場合によっては他のモデルの部品を使ったりもした。間違いも生じ、特に裏蓋が入れ替わってしまうようなこともあった。そして、そうしたことが、戦後に発生した事もある。1960年代には、ラジウムとプロメチウムを含むダイヤルが、非放射性のダイヤルに交換された(ウォッチズ・オブ・ナイツブリッジで見られたロンジンとIWCは、どちらもその実例である)。

 そのため、コレクターとして、もしも製品のオリジナリティーが一番の関心事であるなら、オンラインやオークションで入手する場合にはくれぐれも慎重に事を進めたほうがいい。 

 グラナ以外で非常に見つけにくいダーティダースは、ヨーロッパでの戦争末期に、一時的に国防省に戻されたものだ。確保できたもの、そして確保しておく必要がないそれらのものは、パキスタン軍、オランダ軍、インドネシア軍など、他地域の戦線に従事している他国の連合軍に売却された。それらには、その時計の新たな所有者を特定する4段目のエングレービングが入っている。 


最後に

 この世界には、時計コレクターたちの数と同じだけ、時計をコレクションするための多くの理由がある。ある人々にとっては、それは我々の歴史の重要なひとコマに繋がる手段だ。また、ある人々にとっては、希少な一品を見つける興奮がモチベーションとなる。ダーティダースは、そのどちらをも満足させる。

 そしてまた、優れた明白な美しさをもつ時計を追い求める人々もいる。ミリタリーウォッチはその性質上、そういったタイプのコレクターの人々に対して、あまり訴えかけるものはもたないが、そのデザインの誠実さは、それ自体満足のいくものであることを多くの人々が気づいている。

 最後に、1ダース、つまり12本を集めるというわかり易いチャレンジもある。12本というのは、危険なほど達成し易い本数として響く。特に、一般的なモデルの価格や、その本数を見てコレクションへの信頼が高まるほど大量に出回っていることを考えれば、なおさらだ。しかし、それは実は、想像以上に、遥かに極めて難しいのである。