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Photos by Tiffany Wade
私のなかで、モータースポーツを(少しは)評価するという新しい時代を迎えようとしている。というのも生活のために時計の記事を書いている人間は、いつかクルマの話をしなければならない可能性があるからだ。自分の強みはわかっているし、何にでも興味を持つふりをするのは得意ではない。だから、タグ・ホイヤーのモナコを着用して、モナコで開催されたF1を観戦したことは、この10年間で一番楽しかったかもしれないという私の気持ちを、どうか信じてほしい。
タグ・ホイヤーは、2011年からモナコGPのオフィシャルウォッチパートナーを務めるほか、2016年からはF1チームであるオラクル・レッドブル・レーシングのパートナーもしている。タグ・ホイヤー(ルビ:ヴィンテージ・ホイヤー)は、間違いなくモータースポーツウォッチとクロスオーバーしたい愛好家のためのブランドである。
タグ・ホイヤーのモナコウォッチは、その誕生以来、いや、実際にはスティーブ・マックイーンがル・マンで着用して以来、“時計愛好家が選ぶアイコニックな時計”の定番となっている。ル・マンのスティーブ・マックイーンに夢中になっていた私でさえそう感じている。
モナコは決して簡単に線引きできるモデルではない。正方形で、大きく、少し派手な面があり(これは否定ではなく、大胆なデザインこそが美学の進化を衰えさせないのだ)、そして現在、この新しいオープンワークという文字盤デザインで、より視認性の高い先代モデルよりもさらに存在感を示している。
厳密には、実はタグ・ホイヤーがスケルトン仕様のモナコを製作したのはこれが初めてではない。2021年のOnly Watchのために、同社は史上初となるオープンダイヤルを製造している。ただ今回のモデルは、一般消費者向けにつくられた最初のオープンワークダイヤルなのだ。
私が選んだスケルトンクロノグラフは、ブラックDLCのサンドブラスト仕上げのダイヤルと、同じくブラックDLCサンドブラストを施したチタンにターコイズのアクセントを加えたもの。この時計は私が普段買うような時計であると見栄を張るつもりはない。本当のことを言うと、角型の黒いオープンワークなんて私の琴線からはほど遠い場所にあるように思うだろう。でも何度でも話すが、私は変わったデザインと、リシャール・ミルに好意を抱いているので、自分自身と時計に身を任せて楽しんでいるに過ぎない。
39mmのケースは、(化粧品ブランドの)メイベリンがマスカラの最も濃い色を“ブラッケスト ブラック”と呼ぶような真のブラックで、さらに針、インデックス、日付表示窓にはスーパールミノバを塗布。ブラックとターコイズブルーのカラーリングが非常にクールで、スケルトナイズによってタグが目指している近未来的な雰囲気をさらに高めている。この時計の文字盤ではいろんなことが起きているが、配色されたサブダイヤルや針のコントラストは、不思議なほどにすべてを見やすくしている。右側のケースサイドにDLCブラックコーティングのリューズとプッシャーを備えたモダンなモナコは、ケーシングが非常に滑らかでコンパクトにも感じるし、若干カオスな内部にある種穏やかな境界線を与えているとも感じる。
オープンケースバックからは、合金製のレーシング・ホイールを模したローターが付いたムーブメントが鑑賞できる。そして従来のレザーに必要なアップデートが施された、ラバーとレザーのハイブリッドストラップを採用している。
新しいモナコ クロノグラフは、シースルーバックから覗くCal.ホイヤー02 自動巻きムーブメントを搭載し、約80時間のパワーリザーブと100mの防水性を確保。141万3500円(税込)の価格で提供される。
今回のモナコ・イン・モナコは、本当につけ心地がよく、なぜか私の手首にしっくりとなじんだ。いつもブレスレットで覆われている私の右腕と対をなすにふさわしい。私のワードローブのスローガンである“more-is-more(多ければ多いほどいい)”にぴったりだ。
モナコでモナコをつけることは、まるで秘密結社の一員になるような感覚だ。実際、切り札を手にしたようなものである。なぜならモナコGPで繰り広げられる本物の狂気と優雅なお祭りは、凡人の選択肢に入らないからだ。ロロピアーナを着用してチップは100ドル札のみ用意している味方がいない限り、これはクローズドサーキットでのイベントに過ぎない。
だが私は傍観者の立場であること以上に楽しいことはない。動物学者のジェーン・グドール(Jane Goodall)が野生の動物を観察するように、私もモナコに実際に赴いて、サーキットやパドック、そしてジミーズ(知っている人は知っている)で実際に何が起こっているのかを見に行った。ボートで泊まったまま練習用のラップ音で目を覚ますような環境、かつマックス・フェルスタッペン(Max Verstappen)から数メートルしか離れていないことを知ったら、イエス以外の選択肢はないだろう?
1日目は、真っ黒なDLCコーティングをした四角いモナコを装着していた。ちなみにこれは時間が経つにつれてとても気に入ってしまった。最初はケース形状に違和感を覚えたが、やがて目が慣れてきて、最終的には地中海フューチャリズムを感じさせるターコイズブルーのアクセントが効いた黒い四角形が好きになりそうになった。非常に狭く、急な曲がり角が多い、地球上で最も過酷なサーキットとして知られるコースを、ホット・ラップ(F1ドライバーが運転するその隣に乗ることができる体験)で周った。その日の朝、私は朝食を食べるという非常に重大なミスを犯した。
吐き気を催す前の私に割り当てられた2023年型ポルシェ911 GT3 RSに、私は無邪気にも乗り込み、比較的中年でとても純真そうなフランス人のコ・パイロットの隣でシートベルトを締めた。この紳士は物理的に可能だと思っていたよりも速いスピードで運転してくれた。そのとき、私がいかに世間知らずであったかを思い知らされた。なんて街の見せ方だ! それが実際に楽しいかどうかの目印は、スマートフォンでビデオを撮らないことである。だから証拠はないが、当時のスリルと強く握りしめた白い拳の記憶はずっと残っている。
ガタガタと手足が浮きながらも予選の様子を見たり、人々のボートにテンダーを運んだり、シャンパンを飲んだりと、その日の活動を進めた。もちろん、すべてはリサーチの名の下に行ったことだ。
そして、タグ・ホイヤーのサタデーナイト・ソワレが始まった。巨大なタグ・ホイヤーの風船、汗だくの人々の顔に光が反射するなど、夢のようなダンスフロアでカイリー・ミノーグ(Kylie Minogue)のパフォーマンスを見たり、またモナコをつけたコナー・マクレガー(Connor Mcgreggor)が予告なしにボートに現れるなどメンタルの準備ができない場面もあった。母のために(カイリーの)ビデオも撮った。
レースの日は予想以上に早くやってきた。それも、私が地球上で最も好きなナイトクラブである、前述したジミーズでの一夜のあとに。内装はフィリップ・プレインとの共同デザインで(ジミーズをよく利用する人たちが、この皮肉を完全に理解しているかはわからないが、私はとても楽しめた)、水場と壁画はアレック・モノポリー(申し訳ないけど超おもしろい)がデザインしている。ドンペリニヨンのボトルをライトアップするには最適かつ唯一の会場かもしれない。私は誇らしげにモナコを身につけ、壁画の前で何枚も写真を撮影した。その写真は決して日の目を見ることはないが。
私は継父が、テレビでF1を観戦しているような穏やかでない雰囲気のなか育った。『Formula 1: 栄光のグランプリ(原題:Drive to Survive)』やクリス・ジェンナー(Kris Jenner)がパドックを練り歩くのが流行る前のヨーロッパで育った人間にとっては、ごく普通のことだ。でも実際にレースを見ていると、少なくとも最後の数周まではなんだか拍子抜けしてしまった。テレビ観戦のようにコース全体を見ることはできないからだ。でも会場の雰囲気は漂っていて、タグ・ホイヤーのロッジでトム・ホランド(Tom Holland)が隣に立っているときや、純粋に優勝チームを応援しているときのほうが楽しいことは、誰もが知っている。
モナコに72時間滞在し、そしてモナコを身につけていた私は、この時計がレースのスリルとクルマ文化の真の象徴であることを確信した。マルジェラのTabiが本当にファッションを愛し、理解している人のためのものであるのと同じように、クルマのことが本当に好きでなければこれをつけることはないだろうし、そのほうがクールだと思う。
新しいスケルトンは、元のオリジナルデザインと比べると逸脱しているかもしれない。しかし、私は革新と進化を求めている。安全策をとるのは、サーキット内外を問わず敗者のすることだ。
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