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HODINKEE読者の皆さんは、私が大きくてキラキラしたものが大好きなのをご存じだろう。展示会ではたくさんの宝石に囲まれて感動すればするほど、心が安らぐ。ダイヤモンドとの戯れは、私にとって現実からの逃避行なのだ。別世界に飛び込み、私の心はしばし体から離れ、ひたすら光との対話に集中する。
しかし時計にダイヤモンドを使用することがなぜ時計業界の一部の人たちにとってセンスの欠如につながるのか、理解に苦しむ。今回タグ・ホイヤーのプラズマが、時計に施された宝石が過小評価されている理由について説明するきっかけになればと思う。そして何より、この特別な時計においては、ジェムセッティングが極めて重要な科学的イノベーションの証明につながっているのだ。
タグ・ホイヤー カレラ プラズマ ディアマンテ ドアヴァンギャルド 44mm。
タグ・ホイヤー カレラ プラズマ ディアマンテ ドアヴァンギャルド 36mm。
2022年、タグ・ホイヤーは初のカレラ プラズマを発表した。直径44mmのトゥールビヨンモデルは、展示会の大きな目玉となった。実はガラスケースのなかの貴重な時計をもう1度見たいと何度かブースの前を往復してみたりしていたのだが、そのうちの9割方はケースに存在すらしていなかった。あまりに見つけられないので、私たちを展示会場に引き留めるための策略なのかと思ったほどである。新しい恋人がたまにしかメールを返してくれないので、「調子はどう?」という返事すら愛の告白のように感じてしまうようなものだ。
2022年にカレラ プラズマを目撃したのちに、私はこの年の大半をラボグロウンダイヤモンドに関する知識のブラッシュアップに費やした。ジュエリーの世界ではこの話題について二極化しており、840億ドル規模の“天然”ダイヤモンド産業に関する議論には必然的にさまざまな政治的要素が絡んでくる。
昨年は少し控えめな表情だった、カレラ プラズマ ディアマンテ ドアヴァンギャルド 44mm。
しかし、もしあなたが事実を知りたいのであれば、それはとても簡単だ。科学者たちはいまや、地球から採掘されたダイヤモンドと構造的に同じ宝石を実験室で作ることができるようになったのだ。
昨年発表されたプラズマ第1世代の価格は35万スイスフラン(約5112万円)で、タグ・ホイヤーとしては非常に高額であった。この時計はユニークなカッティングに加え、実際に宝石をセッティングする際に非常に独創的な手法を取り入れている。主な特徴としては、ダイヤモンド独自の多結晶構造を利用した、無垢のダイヤモンド製リューズと単一素材による文字盤の実現が挙げられる。CVD法により成長させた無数のダイヤモンド結晶から、ひとつ大きなダイヤモンドを作り上げているのだ。
ラボで宝石を育てるのには、ふたつの方法がある。地殻の自然な熱と圧力の設定を再現するHPHT(高圧高温)法と、ダイヤモンドを原子単位で成長させるCVD(化学気相成長)法だ。後者は、作り出すダイヤモンドの大きさをより細かく制御することができる。タグ・ホイヤーのヘリテージディレクターであるニコラス・ビュビック氏は、「CVDの大きな利点は、仕様に極めて近いダイヤモンドを製造できること。無駄を省き、電力使用量も大幅に削減できるのです」と語る。
盾型でピンクのラボグロウンダイヤモンドと、9カラットのラボグロウンピンクダイヤモンドの原石。
プラズマ トゥールビヨンからプラズマ ディアマンテ ドアヴァンギャルドへのアップデートには、ケースから連なるように宝石がセッティングされたアルミニウム製ブレスレットと、ベゼルへのダイヤモンドの追加などが含まれる。タグ・ホイヤーは、パテック フィリップを含む高級時計メーカーから頻繁に依頼を受けている宝石セッティング界の第一人者、ジュネーブのサラニトロ社とカットから取り付けまでさまざまな工程で提携している。だが、このユニークなシングルピースのダイヤモンド製リューズは、カットから取り付け、接着までを自社で行った。
また今年、プラズマシリーズにまったく新しいモデルが登場した。36mmのカレラケースをベースにした、カレラ プラズマ ディアマンテ ドアヴァンギャルド 36mmだ。このモデルは、リューズと文字盤上の盾の装飾に、時計業界初のカラーダイヤモンド(具体的には、ソフトベビーピンク)を使用するなど、前作を上回るテクノロジーを搭載している。「これらのカラーストーンはいずれも加工されておらず、石そのものの色を使用し、すべてCVD法により製造されています」とビュビック氏は述べている。なお、タグ・ホイヤーはこのカラーストーンのために、スイスの新しいサプライヤーを使用した。この種の技術はまだ非常にニッチでサプライヤーの数も少なく、現在知られている最大の拠点はイスラエルとアメリカであることを考えると、非常に興味深い事実だ。
ラボグロウンダイヤモンドは厳重に管理されたジュエリー業界のコストを一般化し、デザインに柔軟性をもたらし、廃棄物の削減に貢献することで、消費者を取り巻く環境を変化させつつある。タグ・ホイヤーはスイスの高級時計メーカーとしては初めてラボグロウンダイヤモンドを製品に採用し、LVMHラグジュアリーベンチャーズはその他の主要投資家とともに、ラボグロウンダイヤモンド産業のリーダーであるイスラエルのルシックス社に9000万ドルの投資ラウンドを完了した。LVMHが同分野を着実に切り拓こうとしているのは明らかだ。これは、長期的な視野に立ったラグジュアリーブランドの挑戦なのだろうか。まあ、テクノロジーと、将来の若い高級品消費者の意識に追いつこうとする試みであることは確かだ。
ラボグロウンの議論について、あなたがどちらの立場にあるか、あるいはジュエリー業界で最大の論争となる議論に少しでも注意を払っているかにかかわらず(まあ、私たちは論争が大好きなのだが)、LVMHがCVD法によって宝石を製造しているならば、私たちは重い腰を上げて注視しなければならない。タグ・ホイヤーはこの件に関して、業界をはるかにリードしている。そしてこのことが、今後数年間でどのような結果をもたらすのか、私は大いに興味がある。
タグ・ホイヤー カレラ プラズマ ディアマンテ ドアヴァンギャルド 44mm: 48個のラボグロウンダイヤモンド(4.3カラット)をセットしたブラックアルミニウムケース、34個のラボグロウンダイヤモンド(1.9カラット)をセットしたダブルフォールディングクラスプ付き一体型ブラックアルミニウムブレスレット、26個のラボグロウンダイヤモンド(1.9カラット)をセットしたベゼル、2.5カラットのラボグロウンダイヤモンド製リューズ。ラボグロウンダイヤモンドによるアヴァンギャルドな12のインデックスと3枚のポリクリスタルプレートで構成された、ポリクリスタルダイヤモンドダイヤル。ムーブメントにはCOSC認定を受けたホイヤー02T ナノグラフを搭載(パワーリザーブは65時間)。2023年9月に50万スイスフラン(約7280万円)で受注販売を開始。
タグ・ホイヤー カレラ プラズマ ディアマンテ ドアヴァンギャルド 36mm: WG製ケース、WG製ピンバックル付きブラックアリゲーターストラップ、1.3カラットのピンクラボグロウンダイヤモンド製リューズ、多結晶ダイヤモンド製ダイヤルにシールド型のピンクラボグロウンダイヤモンド、12のWG製インデックスにホワイトラボグロウンダイヤモンド、スケルトン仕様の時針と分針。サファイアガラスのシースルーバックから見える自社製自動巻きムーブメント、Cal.7を搭載。なお、Watches & Wonders 2023で発表されたタグ・ホイヤー カレラ プラズマ ディアマンテドアヴァンギャルド 36mmはプロトタイプとなる。このモデルは2023年末に数を限定し、世界中のタグ・ホイヤーの店舗で受注生産による販売を行う。販売価格は1100万円(税込)。さらにフルカラーモデルのリリースも予定している。
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