Buying, Selling, & Collecting バイデン大統領の時計 - 最高指令室のコレクター

　プレジデンツデイ（大統領の誕生日）の週末、HODINKEEで以前から続けている「歴代大統領の時計カタログ」を完成させることにした。数年前、元寄稿者のエリック・ウィンド（Eric Wind）氏は、1700年代から2010年代までの歴代大統領が着用したポケットウォッチから腕時計にいたるまでをまとめた。このデータベース（のようなもの）は、現在、第45代大統領ドナルド・トランプ氏までが網羅されている。

　この機会を利用して、真の時計コレクターである（と思われる）唯一の現職大統領のため、最新の情報にアップデートしたい。バイデン氏のコレクションは、アナログクォーツからスマートウォッチ、スイスの高級時計に至るまで、実に多彩だ。

　これは彼がこれまで公の場で身につけてきたすべての腕時計を網羅するものではなく（たくさんありすぎるため）、行政府の長として、現在の彼の腕時計のコレクションを紹介するものである。

　それでは前置きはこのくらいにして、ジョー・バイデン大統領の時計をご紹介しよう。

　1995年の映画『007/ゴールデンアイ』でピアース・ブロスナン（Pierce Brosnan）の腕にはめられて登場したことから、この時計をボンド・シーマスターと呼ぶ人もいるが、その後、この時計はほかの2人の高位な人物と関わりを持つ。1人目は、ケンブリッジ公爵ウィリアム王子。彼は子供のころからシーマスター プロを着用している。この時計は、彼の母である故ダイアナ妃から贈られたものであり、彼にとって特別な意味を持っているのだ。

　そしてもう一人がバイデン大統領で、彼はちょうど20年ほど前からこの時計を公の場で身につけている。彼のものは1990年代半ばころの初期モデルのようで、ブルーの波模様のダイヤル、ペイントのマーカー、6時位置の文字、そして少し色合いの違うブルーのアルミニウム製ベゼルを備えている。

　90年代独特のブレスレットとグレー/ブルーのカラーリングが特徴的な時計だ。バイデン氏は話すときよく腕を動かすので、我々にも簡単に見分けがつく。この時計は、遠くから見てもその古さと全体的な状態からわかるように、彼が最も身につけている時計であるように思える。

　70年代まで遡って彼の時計収集の旅を追跡してみると、これがバイデン氏にとって最初の高級時計であったように思われる。彼がダイバーズウォッチを選んだことは非常にふさわしく思えるし、ボンドウォッチが大統領執務室に置かれていることはさらにクールだ。

　この変り種は、今までにないほど特出している。セイコーのクォーツクロノグラフで、スティールとゴールド（トーン）のツートンカラー、アラーム機能付きだ。7T32は、80年代後半から90年代初頭にかけてセイコーが製造したクォーツムーブメントを搭載した時計である。

　写真の記録では、バイデン氏は少なくとも2000年代半ばからセイコーのアラーム付きクロノを愛用していたようだ。この時計は選挙戦で彼が選んだ（というより最も多く身につけた）時計であり、いくつかの理由から興味深い。

　バイデン氏は普段オメガとロレックスを愛用しているが、大統領選に出馬する際に、労働者のためのチョイスとしてセイコーを選んだと推測される。そして、副大統領時代にもよく手首につけていた。

　また、この時計はブレスレットがかなり太いことも注目に値する。そのアンバランスさは、ツートンカラーによってさらに強調されている。ツートンカラーがこの国の最高権力者から尊敬を集めるというのは、個人的にはとても嬉しいが。

　バイデン大統領が、初めてこの時計を身につけた大統領だと言ったら？　そうなのだ。アメリカの歴史と深い関わりを持つこの時計が、現職の大統領の腕にはめられたことは、これまで一度もなかったのだ。多くの時計愛好家は、バイデン氏がこの時計を所有していることを『Esquire』誌の特集で撮影された写真で初めて知った。シーマスターに比べれば確かに着用回数は少ないが、それでも彼の手首には欠かせない存在だ。

　バイデン氏は就任以来、大統領執務室のデスクでスピーディを着けているところを目撃され、より広い時計好きのSNS（Instagram）界を熱狂させた。アームストロングとオルドリンがスピードマスターをつけて月面を歩いたとき、彼は27歳だった。若いころからアメリカの政治と公共サービスに身を捧げた男が、自国の偉業を象徴する時計に夢中になるのは当然のことだろう。

　しかし、彼が1969年……もしくは79年にスピードマスターを買ったかというと、そうではない。彼のスピードマスターは、それ以降のモデルなのだ。ブレスレットのスタイルから判断して、この時計は1990年代から2021年（新しい3861スピーディが発売された時期）までのあいだのものである可能性がある。したがって、これは彼のコレクションの主要となるもの、あるいは最近追加されたもののどちらかだろう。

　スピードマスターを所有していること自体は、必ずしも衝撃的なニュースではない。地球上で最も人気のある時計のひとつなのだから。しかし、過去にそのような大統領はいなかったことから、現職のアメリカ大統領がバイデン氏のように頻繁にスピードマスターを着用することはニュース価値があるのだ。ニクソンは1本贈られた（ゴールドのモデル）が、断ったことで有名だ。

　我々はよく見かける時計についての話をしている。バイデン大統領は、たくさん所有しているSS製（またはツートン）のスポーツウォッチを着けていないときは、Apple Watchを着けていることが多いようだ。なぜ、あるいはどのような場面で、時計ボックスからスマートウォッチを選ぶのかは不明だが、彼はほかの時計と同じように、執務室やデスクでそれを着用している。OEMの標準的なブラックのラバーストラップで、時計本体のブラックケースとマッチしている。

　これまでのバイデン氏の時計は、いずれも何らかの奇抜さや複雑さを備えている。シーマスターはセカンドリューズにヘリウムエスケープバルブを備え、セイコーはアラーム機能付き、スピーディーはクロノグラフを備えていた。彼は複数の機能を持つ時計が好きなようだ。フィットネストラッキング、心拍モニタリング、メールやテキストを表示するiPhoneを腕にはめるというのはどうだろう？

　以上、Apple Watchはバイデン氏が所有するなかで圧倒的に複雑な機能の時計であり、アメリカ大統領のように多忙な人が実用性と機能を備えたものを身につけるのは、理にかなっていると言えるだろう。

　就任式当日にこのモデルを見つけたとき、ジュビリーブレスレットに引かれて注目した。そして、滑らかなベゼル、サンレイブルーのダイヤル、太いホワイトマーカーが目に入った。41mmという大きめサイズの、モダンなデイトジャストだったのだ。

　選挙戦の最中に突然現れたものではない。就任初日に発表されたようなものだ。スピードマスターと同様、デイトジャストもクラシックなモデルだ。ひとつ持っていれば間違いない。しかし、現職の大統領がロレックスを着用するのは、リンドン・ジョンソン（Lyndon Johnson）以来ということで興味深い。ちなみに彼はゴールドのデイデイトを着用していた。レーガン（Reagan）はホワイトダイヤルのデイトジャストを所有していたが、実際に大統領として着用したかどうかは定かでない。そして、トランプ（Trump）氏はゴルフの際にロレックスを着用していたことは間違いないが、私の知る限り、彼は大統領就任宣誓の前につけていた。また、大統領時代はスーツの下にフレンチカフスのシャツを着ていたので、時計を見るのがより困難だった。

　いずれにせよ、バイデン大統領は就任以来、このロレックスをコレクションの定番としている。シーマスターとほぼ同じ時間を過ごし、スピーディとApple Watchがそれ以外のローテーションを構成しているようだ。今後数年間、バイデン氏の腕から目が離せない。彼のコレクションに変化があれば、このレポートを更新する予定だ。

Lead photo, Getty