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How They Made It 謎に包まれたスモーキーダイヤルについて

アンオーダインは、フュメエナメル文字盤に透明感と神秘性を見出している。

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本稿は2020年12月に執筆された本国版の翻訳です。

1点の曇りもないワインレッド。ガラスの下に閉じ込められた紫煙のテクスチャー…上の写真のエナメル文字盤は、堂々たるルビーをあしらったシルバーリング、ベルサイユのベルベットクッションなど、あらゆる種類の幻想的なイメージを呼び起こす。人を魅了する力を持つこの文字盤は、グラスゴー発の手頃な価格の新興メーカー、アンオーダイン(AnOrdain)が製造したものである。同ブランドは幸運な偶然から、フュメエナメルダイヤルの製造方法を発見した。ではアンオーダインのフュメエナメル文字盤はどのようにつくられているのか? さっそく見てみよう。


ステップ1: 銅をやめる

アンオーダインの工房に到着した時点での、まっさらな状態(ブランク)。

ルイス・ヒース(LEWIS HEATH)氏、ANORDAIN創業者

 「当初は銅のブランクダイヤルをベースに使用していました。エナメルを扱う人なら普通そうするでしょう。しかし、銅にはいくつかの欠点がありました。窯のなかで酸化するため黒い酸化片ができ、 それが熱でポロポロと落ちるのです。高温の窯を想像してみてください。あらゆる種類の対流が起こり、小さな黒い破片が空気中に舞い上がり、また下に落ちるのです。生産用の文字盤をつくり始めて1年ほど経ったころ、私たちは銀のほうがずっときれいに生産できると考えました。しかし銀を使う場合、変更しなければならないことがたくさんありました」

Anordain

アンオーダインの文字盤にエナメルを塗る、サリー・モリソン(Sally Morrison)氏。

 「最初のダイヤルのひとつは歪んでいました。真ん中が盛り上がっていて、そこから中心に下り坂のように窪んでいたのです。実はエナメルの質には透明なものと不透明なものの2種類があります。これは透明で、文字盤が歪んでいたために、外周よりも中央のほうが透けて見えていました。その効果はフュメのテクニックを思い出させました。しかし文字盤が歪んでいたために使えませんでした。ケース内のムーブメントに収まるよう、文字盤は底面がフラットでなければなりません」

 「それから底が平らで、上部がドーム状になっていて、エナメルがグラデーションになるような適切な比率のシルバーエナメル文字盤をつくろうと思いました。厚い面と薄い面とのギャップが大きすぎると、全体的に暗くなります。ただし狭すぎても明るくなってしまいます。適切な深みとエナメルの種類の組み合わせが重要なのです」

 「私たちは約18カ月前にこの問題を検討し始めました。その結果、ストラザーズ(英国を拠点とする独立系時計メーカー)にたどり着き、そこにいた型彫り職人と連絡を取るようになりました。彼はコインやメダル、その他の金属製品を成形する金型を油圧プレスで生成していました。この時点で、まだ時計の文字盤は手がけていません。彼は非常に有能でしたが、時計業界以外の人と一緒に仕事をしているときに常に感じる、寛容さに問題がありました。時計製造の許容範囲が厳しくなったのです。正しい組み合わせに行き着くまで、何度も行ったり来たりして試行錯誤を繰り返しました。文字盤の刻印と彫刻が終わると、彼はそれを送ってくれ、私たちはスタジオで作業を始めます」


ステップ2: 銀を磨く

銀のブランクをポリッシュして輝きを出し、刻印された風合いを出す。

サリー・モリソン氏、アンオーダインのエナメル職人

 「そのブランクが到着すると、底がフラットで、上部がわずかに、ほとんど感じられないほどの傾斜があり、少し乱雑でマットな見た目をしていました。最初のプロセスでは、銀の表面を明るくします。これは銀の表面から反射する光をできるだけ多く取り込むために行います。ご覧いただいているテクスチャーは、実際にブランクにスタンプされたものです。ポリッシュすることで浮き上がって見えるようになります。これが、完成した文字盤にグリセリンのような質感を与えているのです」


ステップ3: エナメルを塗る

ポリッシュされたブランクにペイントされたエナメル。

サリー・モリソン氏

 「このステップでは基本的に、壁の高さ(ここで言う壁とはブランクの一番外にある盛り上がった縁のこと)と同じ厚さになるよう、1層ずつ重ねていきます。この作業で通常、5層から8層くらいになります。さらに文字盤の裏にもエナメルを塗布します。その目的は、焼成中に銀のブランクが受ける力のバランスを取るためです」

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ステップ4: 焼成!

焼成後に研磨されていないエナメル。

サリー・モリソン氏

 「エナメル加工は、ガラスの膨張と収縮の速度、さらに銀の膨張と収縮の速度との戦いになります。これらは同じ速度ではありません。この灼熱の窯のなかで文字盤が起伏することで均衡を図ろうとしているのです。そして、それを何度も繰り返します。これにより非常に多くの歪みが生まれる可能性があります」


ステップ5: 文字盤の足にも火をくべる

裏蓋へ足を取り付ける。文字盤裏側にエナメルの粗い層があるのに注目。

ルイス・ヒース氏

 「誰にも見られない部分なのはわかっていましたが、(文字盤の)足を後ろに付けることが最大の頭痛の種のひとつでした。シルバーのワイヤーを金属にくっつけるには、熱を加えなければなりません。その金属を加熱すると、狭い範囲で加熱して膨張させることになります。もちろん、その段階ですでにエナメルが付いているので、割れてしまう危険性があります。これがダイヤル破損の最大の原因のひとつです」

サリー・モリソン氏

 「私たちは銀に足をつけるために、裏側のエナメルを少し削っています。銅のブランクから始めたときは、エナメル加工を始める前に足をハンダ付けしていました。しかし、それは多くの問題を引き起こしました。ある時点で、私たちはエナメルを塗布したあとにそれを取り付ける方法を見つけました。そうすることで、ハンダが文字盤の表面を突き抜けて、エナメルに影響を与えるといった問題が解消されたのです。また、作業中にダイヤルを水平に保つことにも影響しました。エナメル加工後の足をハンダ付けするプロセスを理解することで、やり方は完全に変わりました。小さなことのように思えますが、これは大きな違いです」


ステップ6: 研磨とポリッシュ

研磨後のエナメル文字盤。

サリー・モリソン氏

 「エナメル加工を終えた文字盤は、表面に凹凸ができます。エナメルを平らで滑らかな表面になるように研磨し、液体ダイヤモンド懸濁液を用いて自動回転研磨機で磨いていきます」


ステップ7: プリントする

完成した文字盤にインデックスをプリントしたもの。

 文字盤を磨けばプリントできるとモリソン氏は言う。アンオーダインは、文字盤にある数字フォントをデザインしており、そのユニークな外観を考えればそれほど驚くことではない。HODINKEEではたくさんの時計の文字盤を見てきた。エナメルダイヤルはたくさんあるが、これは特に個性的である。瞬時に1970年代に流行していたフュメダイヤルを想起させ、2020年代のほかのモデルより群を抜いている。

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モデル1 フュメ

 モデル1 フュメは、エレガントなサイズの38mm径ステンレススティールケースに収められたグリーン、ブルー、プラム、ペインズグレーと呼ばれる4色のガラスエナメルから選択できる。これらの美しい文字盤を自社でエナメル加工しているのみならず、アンオーダインはグラスゴーにある工房で、針の製作と熱処理まで行っている。ムーブメントは信頼度の高いスイス製ETA 2824-2を搭載。小売価格は税別1750ポンド(日本円で約32万7000円)からと、モデル1 フュメは素晴らしい価値を提案している。

 アンオーダインはグラスゴーの工房で3人のエナメル職人を雇っており、これらの文字盤の製造工程は(ご覧のように)かなり綿密だ。同社はクリスマス前の納品に向け、12本のモデル1 フュメを初回生産する。その後、継続的に生産される予定だ。

詳しくはアンオーダインをご覧ください。