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オーデマ ピゲのCODE 11.59コレクションは、2019年、ビッグバン級の衝撃で誕生した。バリエーションは全部で13本。デイト付き3針からミニッツリピーターまで、6種類のサブコレクションで構成されていた。3つの真新しい自社製ムーブメントにまったく新しいケース。そして、HODINKEEが紹介した最初の記事には、500件以上のアンチコメントが寄せられた。その反響は世界中に伝わったが、その評価は決して高くはなかった。
その日は、正直なところ、すぐにまとまった意見を述べることができないほど、多くのことを吸収することができた。スイス時計界で最も権威のある老舗メーカーが、同社の主力製品であるロイヤル オークの枠にとらわれないまったく新しいコレクションを発表したのである。よくも悪くも、オーデマ ピゲはロイヤル オークであり、ロイヤル オークはオーデマ ピゲであるのだ。
では、ロイヤル オークでないとすれば、CODE 11.59は一体何なのだろうか。
困難なデビューから3年、CODE 11.59コレクションはようやくそのグルーブを掴み始めたように感じられる。そこに至るまでにオーデマ ピゲがとった3つのステップをご紹介しよう。
CODE 11.59は複雑であるために生まれた
CODE 11.59の発表にまつわる否定的な意見の多くは、コレクションのなかで最もシンプルなエントリーモデルである日付表示つきの3針のCODE 11.59を中心に語られており、明らかに味気ない仕上がりとなっている。確かにこの時計は、現在でもあまりよい印象を持っていないが、コレクションの主人公になるような時計ではなかったのだ。
同社がCODE 11.59をこれほどまでに多くのバリエーションで発表したのには理由がある。それは、複雑機構のためのプラットホームとして、ケース形状の柔軟性をアピールするためだったのだ。3針モデルだけに焦点を当てるのはまったくの的外れで、そうすることで多くの人がCODE 11.59リリースという最大のニュース(AP初の自社製一体型自動巻きクロノグラフムーブメント、Cal.4400の開発)を見逃してしまったのだ。たしかに初期ロットに含まれていたのはオーデマ ピゲの責任だが、より手頃な価格のものを市場に出したかったというのは理解できる。
オーデマ ピゲは、初期の不手際を徐々に是正していった。その一方で、新しいコンプリケーションや既存の複雑機構搭載モデルの新しいフォーマットを常に試してきた。今週初めにお伝えしたビッグニュースを見て欲しい。同社は3種類のCODE 11.59モデルを発表した。個人的な意見だが、これらは今までで最も見栄えのする例だと思う。
フライングトゥールビヨンの新モデルはふたつあり、それらはトゥールビヨンを搭載しただけの空っぽの器ではなく、アプライドインデックスを取り除きオニキスの無垢石で作られたインクのようなダイヤルという外観上の調整など、ディテールが整えられた。また、最高水準の装飾が施された内部の極めてシンメトリーなムーブメント構造を際立たせるオープンワークモデルも見逃せまい(そして、ブリッジのブルーの色合いにもご注目を。そう、とても素敵なだと思う)。
CODE 11.59 フライング トゥールビヨン クロノグラフのムーブメントレイアウトにも、この非常識な対称性が見て取れる。
今回、CODE 11.59 グラン・ソヌリはリリースされなかったが(APは2020年にCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリをリリース)、CODE 11.59の最初のモデルの数々に見られた、やや主張の強いラッカーダイヤルの仕上げと比較すると、これらの時計の完成度は驚くほど高くなっている。たしかにフライングトゥールビヨンとオープンワークフライングトゥールビヨンは、どちらも2019年のCODE 11.59の初期ロットに含まれていたが(2020年にはトゥールビヨン クロノグラフ ハイブリッドもコレクションに加わった)、この3年間で完成度は向上する一方である。つまり、CODE 11.59 フライング トゥールビヨン クロノグラフのワイルドなツートンブリッジと非常識なまでの奥行き感は、垂涎必死なのだ。もしこれがジュウ渓谷の独立工房で作られたものなら、コレクターは工房の周りに丁重に列をなすことだろう。
素材の組み合わせで、CODE 11.59のよさを引き出す
最新のCODE 11.59 フライングトゥールビヨンに見られるオニキスダイヤルは、先週の水曜日に取り上げた3つのリファレンスのなかでヘッドラインとなる素材だったかもしれないが、3モデルすべてで最も重要な素材はセラミックと言えるだろう。3年前にAPが大々的に発表したふたつのパーツからなるCODE 11.59のケースデザインの利点は、ひとつの時計に2種類の素材を使用できることだ。
CODE 11.59の3つの新作は、いずれも八角形(CODE 11.59が唯一ロイヤル オークを参照している部分だ)のセラミック製インナーケースを、18Kホワイトゴールドまたはピンクゴールドのラグケージで包み込んでいる。ムーブメントを保護する硬度の高いセラミック製インナーケースと貴金属製のベゼル、ラグ、ケースバックの組み合わせにより、ツートンカラーという意外性のあるデザインに仕上がっており、美観的にも非常に興味深いものとなっている。
先週発表された3本のCODE 11.59のうち2本はブラックセラミックのインナーケースだが、フライングトゥールビヨン オープンワークは、先週ダニー・ミルトンがハンズオンしたブルーセラミックのロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーに見られるのと同じ製法の成果で、明るいブルーのインナーケースを備えている。カラーセラミックは、白黒のセラミックよりも実現が難しく、青、赤、緑などの色を実現する焼結プロセスが解明されたのは、2010年代初頭のこと。もちろん、これらのインナーケースは手作業で装飾されており、中央部分はサテン仕上げで、面取りはポリッシュ仕上げだ。
Code 11.59 バイ オーデマ ピゲのリリース
CODE 11.59が私たちの生活に入り込んでから、丸3年が経ったとは信じがたいほどだ。HODINKEEはSIHH 2019直前のローンチ日に、APのCEOフランソワ-アンリ・ベナミアスと一緒に、初回ラインナップのすべてを詳細に取り上げた。また、CODE 11.59が生み出す初期のアグレッシブな反応については、コメント欄もご覧あれ。
APはセラミック素材の装飾を自社で行っているが、その素材を製造するサプライヤーと協力している(スイスの時計ブランドでセラミックを自社生産しているところはほとんどないため、不思議なことではない。私が知っているのは、ロレックスと、たぶんウブロだけだ)。APは、酸化ジルコニウムと未公表の結合剤を組み合わせた独自のプロセスを採用するバンゲーター社(Bangerter)と提携している。結合剤は焼結工程の開始前に除去されるが、5軸のCNCマシンがインナーケースのユニークな八角形の形状を形成した後に除去される。セラミック素材の青い色合い(と硬さ)は、最終的に約1400℃の熱を加えた後に得られるものだ。
つまりオーデマ ピゲとバンゲーター社は、熱に強いということだ。
色彩こそ王者
先週、CODE 11.59の新モデル発表後にオーデマ ピゲの中心メンバーと話すことができ、そのプロセスのいくつかを話してくれた。カラーセレクトは、一般的に製品開発の最終段階のひとつだが、時計の素材選びと密接に関係していることがわかった。コンプリケーションと素材が決まると、文字盤、ケース、ムーブメントの色を検討する。「素材に色をつけるには、ふたつの方法があリます。“レイヤーを追加するか、素材そのものに入り込むか”です。たとえば、自動巻きオープンワークトゥールビヨンの鮮やかなブルーのブリッジはチタン製で、鮮やかな色合いを実現する特殊な原子層堆積法(ALD)を適用しやすくなっているのです」
新作のCODE 11.59 フライング トゥールビヨン クロノグラフでは、ブラックセラミックと18Kピンクゴールドを組み合わせ、ツートンカラーというユニークなデザインが採用されたが、これも美的センスに欠けるものではなかった。従来のツートーンカラーのデザインでは古臭さを感じるかもしれないが、非常にクリーンなブラックセラミックを貴金属の外装で囲むことで、予想外にモダンな印象を与え、スケルトンラグと内部の八角形ケースの両方の視覚的な存在感を高めている。
オーデマ ピゲにとって、このツートンカラーは初めての試みではない(しかし歴史的に見ると、ヴィンテージでツートンカラーの複雑時計は非常に少なかった。オーデマ ピゲが1882年から1969年のあいだに製造したツートンカラーの複雑時計は、ロイヤル オークのデビューの3年前で、合計8本と言われている)。CODE 11.59の最初の大きなサクセスストーリーは、実はAPが2019年のOnly Watchチャリティーオークションに寄贈したツートーンのオープンワーク トゥールビヨンで、最終的に100万スイスフランという素晴らしい価格で落札され、オークションで売れたAPの時計史上最も高額な時計のひとつとなった。そのユニークピースの成功は、間違いなく最新のCODE 11.59のリリースを予感させるものだった。3モデルとも、Only Watchで初めて展開されたツートン、バイマテリアルのコンビネーションが採用されている。
今日、ロイヤル オークの美的センスは多種多様であることで知られているが、八角形のフォルムとタペストリー文字盤で本格的に実験を始めるには、数十年の歳月が必要だった。しかし、オニキス文字盤のCODE 11.59フライングトゥールビヨンに見られるインキーブラックのミニマリズムから、新しいオープンワークのフライングトゥールビヨンのブリッジに見られるエレクトリックブルーの色彩まで、CODE 11.59の範囲をできるだけ広くすることに遅れはなかったのだ。
最終的な感想(現時点での)
2069年になる頃には、時計界全体がロイヤル オークのゴールデンジュビリーで認識したように、CODE 11.59の50周年を祝うことはないだろうと、私は思っている。CODE 11.59は明らかにロイヤル オークではないが、だからといって製品群としての失敗を意味するわけではないし、3年前の発売時に見られたような激しい批判に値するというわけでもない。
3年のあいだにいろいろなことが変わった。CODE 11.59が誕生した当時、バーゼルワールドやSIHHはまだ存在していた。世界的なパンデミックもなく、ミレネリーやジュール・オーデマといったかつての時代のAPコレクションは、まだバックミラーに映っていた。私は、この3年間で自分が大きく変わったことを知っている。時計ブランドに人間性を処方するのはためらわれるが、APは当初のCODE 11.59の発売時の散漫な問題から学び、今はそのよさに集中できているのかもしれないと考えるのが妥当だと私は思う。
いずれにせよ、CODE 11.59は、デビュー当時から大きな話題となり、少しずつ進化を遂げてきたのである。
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