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In-Depth オーデマ ピゲ CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ 2020年新作

世界的に有名なエナメリスト、アニタ・ポルシェによる文字盤を備えた、最も壮大なコンプリケーション。

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複雑時計製造の歴史の中で、チャイミングコンプリケーションほど恐ろしく複雑な機構はない。そんな鳴り物系コンプリケーションは、他のどの複雑機構よりも時計製造を完璧に熟知している必要があり、そのメカニズムは部品数の多さを誇るだけでなく、高級時計製造で見られるさまざまな部品間の極めて難解な機械的相互関係を完全に把握する必要がある。故ドナルド・デ・カールは、著書『Complicated Watches And Their Repair(複雑時計とその修理)』(1956年初版)の中で、一般的には専門家が他の専門家向けに執筆するような超然とした態度をとっているが、彼は鳴り物ウォッチの修理について議論する際には、まるでヨーダのような語り口で、とりわけハンマーやゴングをもつコンプリケーションほど「落ち着き払った」心の状態を必要とする複雑時計は他にないと語っている。彼はまた、誰もが分解された部品の箱を手渡され、説明書を見ることなく最初から最後まで完璧に機能する時計を組み立てることができるようにならない限り、鳴り物ウォッチの作業を始めるべきではないと厳しく主張している。(これは、ほぼ不可能なほど高い基準のように思えるが、印象的な作品がチャイムを鳴らしている様子を見れば、すぐに彼の主張に納得することができる。自分が何をしているのかを正確に知らずに作業を始めたくはない)

オーデマ ピゲは、その創成期から鳴り物系コンプリケーションの製作者として知られていた。上の写真は、ジュール=ルイ・オーデマがエドワール=オーギュスト・ピゲとのパートナーシップを結ぶ前に製作した、クォーターリピーター付きのグランドソヌリだ。

 もちろん、鳴り物ウォッチの複雑さはほんの始まりに過ぎない。その機構には、優れた目と安定した手だけでなく、優れた耳も要求される。時計職人は、列車のチャイムが心地良いテンポで鳴るように(それが何を意味するかは、クライアントによって異なる場合がある)ゴングの性質を、そして同様にゴングをムーブメントに取り付ける方法(または、今日では、ケース自体やクリスタルに取り付ける方法も増えている)を保証し、望ましい音を出すようにしている。ゴングはもちろん正確で不協和音のない、正しい音を奏でなければならないが、金属をどのように加工するかが最終的な結果に劇的な影響を与えることがあるため、ケースメーカーの技術も関与している。

2016年に発表された、オーデマ ピゲのロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ。

 このことは全ての複雑時計にいえるかもしれないが、特にグランドソヌリに当てはまる。だが、グランドソヌリは、どのような形であっても滅多に出会えない。時計愛好家としての私の人生の中で、実際に見ることができたのはほんのひと握りで、リピーターの数に比べてはるかに少なく、またグランドソヌリの希少性はトゥールビヨンを10セント硬貨ほどに霞んだものにしている。グランドソヌリは「時打ち時計」と呼ばれることもある。鳩時計やリピーターのようにオンデマンドでチャイムを鳴らすことができるだけでなく、着用者が作動させる必要がなく、時間(Hour)や15分を音で知らせることができるからだ。この複雑な機構にはエネルギーが必要なため、時打ち輪列のためだけに別の主ゼンマイを収めた香箱があり、多くの場合、アワー/クォーターストライクを作動させたり、止めるための機構をもつ。時打ち輪列のパワーリザーブ表示もよく見られるもので、グランドソヌリとプチソヌリをもつ時計では、時間(Hour)と15分をチャイムするように設定することも(グランドソヌリ)、時間(Hour)だけをチャイムするように設定することも(プチソヌリ)、さらにチャイムを全く鳴らさないように設定することもできる。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ

 オーデマ ピゲのCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリは、同社のグランドソヌリウォッチの血統を継ぐ最新作だ。これはどの時計ブランドにもいえることだが、注目すべきことである。現代におけるオーデマ ピゲのグランソヌリに通じる時計が登場したのは、1982年から1988年にかけてフィリップ・デュフォーによって製作された5本の懐中時計セットだった(1882年から1892年にかけて、グランドソヌリを備えた時計は28本あり、1980年代にデュフォーの制作したマスターピースが注目され、グランドソヌリのメカニズムが復活した)。デュフォーはその後、1992年に史上初のグランドソヌリウォッチを製作した。

フィリップ・デュフォーがオーデマ ピゲのために制作したグランド&プチソヌリ懐中時計、1987年。提供:オーデマ ピゲ ヘリテージコレクション。

 グランド&プチソヌリウォッチは、1995年にオーデマ ピゲによって初めて製造され、73本が製造された。最初のグランド&プチソヌリ ミニッツリピーターウォッチムーブメントは1996年に続き、Cal.2890(グランド&プチソヌリ、カリヨン、ミニッツリピーター)とCal.2891(グランド&プチソヌリ、カリヨン、ミニッツリピーターに加えて、時打輪列と駆動輪列のパワーリザーブインジケーター付き)が製造された。後者のCal.2891は、グランド&プチソヌリ ミニッツリピーター カリヨン リザーブ・ドゥ・ソヌリ&ダイナモグラフに使用され、Timezone.comのカルロス・ペレスによって、“世界で最も長い名前の時計”と呼ばれた。この時計はジュール オーデマのシリーズに含まれていたが、今ではかつての姿を失ったものの、パワーリザーブインジケーターを備えたグランド&プチソヌリはコレクションの一部に残っている。このCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリは、グランドソヌリとプチソヌリ両方の機能を備えているため、本来ならCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ “グランド&プチソヌリ” カリヨン スーパーソヌリと呼ばれるべきだ。

オーデマ ピゲのCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ:グランド&プチソヌリ、ミニッツリピーター機能を搭載。アニタ・ポルシェによるパイヨンエナメルダイヤルをもつ。

 CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリは、2016年に初代のAP コンセプト スーパーソヌリがデビューして以来、同社が段階的に取り入れてきたスーパーソヌリ技術の恩恵を受けたオーデマ ピゲの最新の鳴り物ウォッチだ(オリジナルのコンセプトウォッチは2014年に発表されている)。現在のスーパーソヌリウォッチのラインナップは、コンセプト スーパーソヌリをはじめ、2019年のGPHG(ジュネーブウォッチグランプリ)で、メンズコンプリケーション賞を受賞したCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ミニッツリピーター スーパーソヌリや、ロイヤル オーク ミニッツリピーター スーパーソヌリなどがある。同社では2017年にも、ジュール オーデマコレクションでミニッツリピーター スーパーソヌリをリリースしている。新作は、スーパーソヌリの技術的なソリューションとグランド&プチソヌリ、ミニッツリピーターのコンプリケーションが初めて組み合わされたことを表している。

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 忘れてはならないのが、"カリヨン "という言葉が時計の名前の一部であるということだ。この単語は、元々教会の鐘のセットを表すために使われていた(そして、今でも使われている)。時計や腕時計では、一般的に2つ以上のゴングでチャイムを鳴らす時計を指すものとして理解されている。本作の場合は、クォーターストライクは3つのゴング(高音、中音、低音)で鳴る一方、時のストライクは低音であり、分のストライクは高音だ(ミニッツリピーターでは一般的)。

Cal.2890を搭載した39mmケースをもつオーデマ ピゲのグランド&プチソヌリ。2019年にアンティコルムの香港オークションにて落札

 新作は全て新規設計のムーブメント、Cal.2956を搭載している。Cal.2890と2891の後継モデルであり、裏蓋を見ると、ブリッジのレイアウト、受け石の位置、ゴングの位置と向きが同じであることから、単純に前身モデルの1つと見なすことができるだろう。ただし、Cal.2956ではゴングはムーブメントプレートに取り付けられておらず、他のスーパーソヌリと同様に、共鳴体に取り付けられている。その複雑さにも関わらず、Cal.2956は驚くほどコンパクトなムーブメントだ。489個の部品が直径29.9mm、厚さわずか5.88mmのスペースに収められ、53石(Cal.2890と同じ)、2万1600振動/時で動作している。

Cal.2956のダイヤル側とソヌリ、リピーター機構を表示している。

トッププレート側。脱進機のすぐ右上に3つのハンマーが見える。

 このムーブメントは、グランド&プチソヌリキャリバーの慣習として、着用者がグランドストライク(自動の時およびクォーターストライク)、スモールストライク(アワーストライクのみ)、またはチャイムが鳴らないサイレントモードのいずれかを選択できるセレクターを備えている。伝統的な鳴り物ウォッチのように、リピーターとソヌリの機構はダイヤル側にあるが、作業中は落ち着き払った状態で、かつ集中して作業する必要があるというデ・カールの指摘が、ひと目見れば理解できるだろう。

パイヨンエナメルダイヤル

 この限定シリーズの5本の時計のダイヤルは、それぞれアニタ・ポルシェのアトリエで作られている。彼女は、エナメル細密画をはじめとする、エナメルのあらゆる分野のマスターであるが、今日では比較的少数の職人が実践するパイヨンエナメル作品でも知られている。パイヨンとは、金属箔から一枚ずつ切り出された小さく装飾的な金や銀のパイヨン(金属片)のことで、そこからその名が付けられた。これらは、金属箔から一度に1つずつ切り取られ、失われた芸術のような技法である。それゆえ、彼女のたいていの作品でアンティークのパイヨンを使用することが多く、CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリのダイヤルに使用されているパイヨンも、同社によれば、全てが少なくとも100年以上前のものだという。

作業中のアニタ・ポルシェ。

 エナメルダイヤルの製作には少々手間がかかる(大量生産向きにスケールアップすることもできるが、一般的にパイヨンのような職人的で労働集約的な技術ではできない。パイヨンエナメルダイヤルを作るための最初のステップは、エナメル自体の準備から始まり、色の付いたエナメルの背景層を作ることだ。エナメルは基本的に着色ガラスであり、まずは生のエナメルを乳鉢と乳棒を使って非常に細かい粉末にする。エナメルを水や油などの運搬剤と混ぜ合わせ、非常に細かいブラシでダイヤルに塗布する(エナメル細工で使用されるブラシは、髪の毛一本で構成されていることもある)。

 望んだ深みのある豊かな色を実現するためには、いくつかの層を徐々に塗り重ねていく。 エナメルの次の層が形成される前に、各層は800ºCの温度でエナメル用オーブンで個別に焼成される。下書きやほこりなどがエナメルを汚したり、塗布や焼成の過程で泡やひび割れを引き起こしたりする可能性があるため、この種の作業のマニアならご存じのように、あらゆる段階で細心の注意ときめ細やかなケアが必要となる。なぜなら、進行中の作業を破棄して、最初からやり直すことを意味するからだ。

 続いて、個々のパイヨンを一度に1つずつ塗布していく。

 そして、ダイヤルを再焼成し、パイヨンを所定の位置にセット。最後に、パイヨンの上にクリアエナメルを塗り、光沢のある仕上げに磨き上げて完成となる。

 彼女は5本のうち3本分のダイヤルを製作しているが、ここでは5本全てを見ることができない。残りの2つはカスタムオーダー用に予約されているからだ。ポルシェの作品は世界的に知られ、コレクションされているため、71万スイスフラン(約8209万円。日本での価格は要問い合わせ)という価格でも、すぐに売り切れてしまいそうである。

 これはもちろん、あらゆるレベルで、私たちが一般的に知っているようなウォッチメイキングとはほとんど関係のないものであり、最も伝統的な意味での贅沢を表している。それには費用がかかり、それと同じくらい時間がかかるため、私はおそらく、このような時計を実際に見ることはできないだろうから、少し残念な気がする。私は長年ポルシェの作品を見てきたが、これはぜひとも実物を拝みたいと思うし、ムーブメント、ダイヤル、ケースの仕上げには、息を呑むような美しさがあることは間違いない。このムーブメントをスーパーソヌリのケースに適合させることの唯一の欠点は、トランスパレントバックにできないことだ。しかし、その反面、音量は大きく、音が豊かになるという利点もあり、グランド&プチソヌリウォッチにおいては、ムーブメントを見ることで得られる視覚的な満足よりも、聴覚的な体験の方が優れている。3つのダイヤルの中から選ぶとしたら、私はおそらく、高級時計製造の中でも最も希少で、作るのが最も難しく、最も貴族のような複雑さをもち、そして、夏の月夜の池の底に落ちる雨粒が反射したように見える、ゴールドのサークルが付いたダイヤルが欲しいと思う。

オーデマ ピゲ  CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランドソヌリ カリヨン スーパーソヌリ:ケースは18Kホワイトゴールド、41mm × 13.505mm、20m防水、ねじ込み式リューズ、スーパーソヌリ共鳴体と穴の開いた裏蓋、ムーブメントはAP Cal.2956、29.9mm × 5.88mm、グランド&プチソヌリ、ミニッツリピーター、機能選択式グランドストライク、スモールストライク、サイレントモードののファンクションセレクター付き。振動数は2万1600振動/時、53石、489個の部品で動作。パワーリザーブは48時間。5本の限定モデルで、3本のダイヤルが製作され、2本分のダイヤルはカスタムエナメルダイヤルの取次用に予約されている。価格は71万スイスフラン(約8209万円。日本での価格は要問い合わせ)。詳細については、オーデマ ピゲ公式サイトをご覧ください。