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Interview カルティエCEO シリル・ヴィニュロン氏がクラシック回帰するメゾンの内幕を明かす

カルティエの最高経営責任者が語る「タンク」「旅」「過去からの重責」。そして、「全てが "通常に戻る "ことはないだろう」ということ。

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カルティエ インターナショナルプレジデント&CEOであるシリル・ヴィニュロンは、業界経験が豊富だ。2016年からカルティエのトップとなった彼は、同社やリシュモン・グループで長年にわたり上級職を務め、過去にはカルティエ・ヨーロッパの総責任者やLVMHジャパンの社長などを歴任してきた。カルティエではこの5年間で、クラシックなデザインに新たな重点を置くという大きな転換を主導(タンク アシメトリックや今年のクロシュなど、クラシックデザイン復活の基盤となったプリヴェ コレクション ウォッチの進化を含む)。

© Cartier

 また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、通信、製造、流通などあらゆる面で予期せぬ危機が発生したが、そのような状況下で会社を導く責任者でもあるのだ。今年のWatches&Wondersで、ヴィニュロン氏は本誌に、急速な進化の必要性とともに、顧客が誰であろうとクラシックといわれるものには理由があるということについて語った。

By Jack Forster
新型コロナウイルス感染症が生産や販売に与えた影響、そしてカルティエのコミュニケーション方法に与えた影響は?

シリル・ヴィニュロン:2020年4月は最悪の時期で、全てがストップしました。工場も全て閉鎖しましたし、物流拠点も閉じなければならず、世界中のほとんどの店舗が休業となりました。

 中国は4月に再開しましたが、それ以外の国は全てロックダウン状態になりました。ヨーロッパの私たちの工場は4月に全て閉鎖されましたし、4月の生産量はゼロになったのです。

 私たちは全てを変えなければなりませんでした。製造、物流、出荷、店舗運営に関連する全てのことを。多くの地域でイベントを開催すること不可能になり、4月から9月までに予定されていたパブリックイベントを全て中止しなければなりませんでした。4月の生産量はゼロでしたが、その後、徐々に安全な方法でワークショップを稼働させる方法が分かってきました。少しずつ活動を再開し、昨年の5月からは本格的に稼働しています。

 多くの都市がロックダウンされていても、被害を受けていない人たちは自分たちの情熱を表現したいと思っていたのです。基本的には、昨年の6月から7月にかけて非常に堅調な回復を見せており、現在も続いています。

人々に「結局のところ、私たちは新しいものにはそれほど関心がない。長持ちして美しいものがいいんだ」と言われました。

– シリル・ヴィニュロン氏
コロナの影響と思われるような、商品の売れ行きの劇的な違いはありましたか?

 はっきりとは感じませんでしたが、過去にあったトレンドが強まったと思います。2016年以降、我々のアイコニックなラインやデザインを復活させていますが、それらの強さを感じます。かつてカルティエは、プロポーション、フォルム、美しいデザインで知られていました。その後、他よりも斬新なものに挑戦しようとしたことが多かったのですが、ある意味、カルティエらしくない領域を開拓していたのかもしれません。

 ある時点で、私たちは一部のお客様を失いました。しかし、カルティエが愛されてきたコアに立ち返ることで、確実にお客様の関心を取り戻すことができましたし、今回のコロナパンデミックでは、そのことをより強く実感することができました。家から出られない、あるいは特定の機会にしか国境を越えられない、そんな時代だからこそ、自分の心の中にあるものに従うのだと思います。HODINKEEのポッドキャストで、カルティエのデザインには "必然性 "があるとおっしゃってくださいましたね。「タンク」や「サントス」のような本当にアイコニックな製品を求める傾向は、今回の危機でさらに強まったと思います。

 また、カルティエ プリヴェ コレクションで復活したのは、クロシュやトノー、タンク サントレなどがもつ美しいフォルムです。また、コレクターの方々もカルティエへの関心を新たにされていました。おそらく、何かを考えるときに、「自分が本当に好きなものは何だろう? 自分が本当に欲しいものは何だろう?」と心の声が言うのでしょう。

  人々に「結局のところ、私たちは新しいものにはそれほど関心がない。長持ちして美しいものがいいんだ」と言われました。 過去の美しいシェイプである「タンク シノワーズ」や「タンク サントレ」、「タンク アギシェ」、「トーチュ」、「トーチュ モノプッシャー クロノグラフ」などをもう一度見直してみようということです。

タンク サントレといえば、あの時計はインスタグラムやソーシャルメディアで大きな話題になりました。また、あっという間に売り切れてしまいましたが、これらのことは驚きでしたか?

 出荷時にはすでにウェイティングリストがいっぱいになっていましたが、これには驚かされました。クラッシュ ウォッチをリニューアルしたところ、すぐに非常に長い行列ができこれもとても驚きで、モデルによっては1年で在庫が足りなくなるだろうと思いました。その後コンスタントにリクエストが入り、サントスのスケルトンに対してさえ、お客様からの注文が2倍から3倍になったのです。しかし、手巻きで防水性もないタンク サントレの復刻モデルでは初めてのことでした。発売前に完売してしまったのですから。

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つまり、ある意味では、消費者の嗜好の変化というこの1年ほどの状況に、あなたの戦略が非常によくマッチしたということですね。

 インターネットのおかげで、何かに興味をもつとそのときに手に入らなくても、非常に深い知識を得ることができます。そのため、若いコレクターの中には、すぐに時計の専門家になれる人もいます。最近では、20歳のお客様からクラッシュやタンク サントレのウェイトリストに載れないかと聞かれます。以前は40代以上で、様々なことを経験し、自分で選択してきた年代のお客様がほとんどでした。

 おっしゃるように、ある意味で、私たちは間違った時期の正しいときに来たとも言えます。過去にはあまりにも多くの新作がありました。2016年に私が今の役職についたとき、チームに去年のノベルティをいくつ覚えているか聞きましたが、100個以上作ったのに、皆5個か10個しか覚えていませんでした。

 なぜ、すぐに忘れてしまうようなものをたくさん作っているのか、ということです。また、今まで作ってきた多く美しいアイコンよりも素敵な新作がどれだけあるだろうか、とも思いました。そのフィルターを通るものはほとんどないと思います。

 今日の時計は、時間を知らせるというよりも、自分自身を表現するためのものです。美しさとデザインがより大きな役割を担っています。コネクテッド・ウォッチには多くの機能が搭載されていますが、デザインの美しさや優れた素材にはかないません。そのため、子や孫に引き継ぐことはないでしょう。他のものに取って代わられてしまうからです。しかし、パンテールやタンクには永続的な美しさがあるのでそれができます。不朽の美しさに取り組めば、技術的なもの(スマートウォッチなど)や、10年、20年で繰り返し交換されるものよりも長持ちするでしょう。

Watches & Wonders 2021で紹介された「タンク マスト」。© Cartier

最近、業界の人に聞いたところ、近頃のお客様は10年前に比べて時計に関する知識が少なくなっていると感じているそうです。それはあなたのおっしゃることとほぼ矛盾しているようにも思います。しかし、情報が簡単に手に入るようになった一方で、流行に流されやすくもなっています。人々の教養が高まっているのか、それとも流行に左右されやすくなっているのか、あるいはその両方なのでしょうか?

 私は両方の組み合わせだと思います。人々は、いわゆる「興行成績」を追う傾向があります。多くの人に評価されているものが悪いはずはない、という考え方です。現代の優れた芸術家は誰かと人に聞くと、まず作品の価値が市場でどのくらいかと聞かれるでしょう。そして、それが数百万ドルであれば「それなら良いに違いない 」と言うのです。世の中には、家族や親、友人からの推薦よりも、世間一般に「良い 」と認められているものを信じるという、そういった枠組みがあります。

 ワイン評論家のロバート・パーカー氏が「これはいい」と言えば、自分の好みに自信がない人はそれに従うでしょう。「一番間違いないところに行きたければ、自分の前に他の人たちが選んだものを参考にする」ということです。

 そして、概してその考え方は使えます。一流ブランドのベストセラーモデルを見ると、大抵そうなる理由があります。たまたまではないのです。昔の人は、雑誌や新聞を読んだり、家族に何が正しいのか教えてもらったりしていました。今は、集合的な知性があります。ある意味では楽になりましたが、だからといって安直に知識が少なくなったわけではありません。むしろ、集合知への信頼が高まっていると言えるでしょう。

Olivier Arnaud © Cartier

クラシックで時代を超越した不朽のデザインへの再評価について、多くを語っていらっしゃいますね。プリヴェ コレクションのクロシュはその一例のようです。プリヴェ コレクションで注目する時計はどのようにして決めるのですか? また、デザインを変更する場合、あるいは変更しない場合の創造的なプロセスはどのようなものですか?

 私たちはオリジナルのアイコニックなデザインに回帰しようと考えました。それには、パンテールやパシャのように、広く販売され高い評価を得ている時計も含まれます。過去に作られた美しいシェイプのものはたくさんあります。そこで私たちは、それらを1つずつ再訪していこうと考えました。カルティエ プリヴェでは、クラッシュに始まり、タンク サントレ、クロシュへと続きました。次は皆さんからのウィッシュリストを受け取る番です!

 私たちの元へはたくさんのリクエストが寄せられています。我々は、ヴィンテージの手法で、ヴィンテージと全く同じ形、同じプロポーションのものを作ることができます。例えばサントレの場合、機械式ムーブメントを搭載していますが、薄すぎて完全防水ではありませんが、コレクターはそれを知っています。

 しかし一方で、初期のデザインを現代のプロポーション感覚に合わせるにはどうすべきかとも考えます。今のお客様が求める品質や耐久性を満たすには、どのようなムーブメントを搭載すればいいのか。あるいは、本当に付加価値のあるスケルトンのムーブメントを入れることは可能なのか? また、オリジナルの形状を採用する場合、複数ある場合があります。例えばタンクですが、1918年から1930年代にかけて、非常に多くのバリエーションが存在していました。

 最終的には、美しいものでなければなりません。もし、大きすぎたり、プロポーションがうまくいかなかったり、ムーブメントがうまく収まらなかったりした場合は、考えた末にやらないことにしています。正しいと思えないことは、やる必要がないと考えます。

Laziz Hamani © Cartier

タンク マストの新コレクションはどのような経緯で生まれたのですか?

 マスト ドゥ カルティエは、(最初に発売された)当時、ベストセラーになっていました。そこで、オリジナルに立ち返って、いろいろな見方をしてみようと思ったのです。再現したら何ができるのか? そのひとつが、太陽電池用の文字盤を探ることでした。ソーラービート™ムーブメントは、最低でも16年間は作動することができます。これは、私たちの最も古く最も永続的なデザインに搭載する、最も革新的で耐久性があり、持続可能なムーブメントなのです。そして、伝統と革新、過去と現在の間に軋轢がないのは素晴らしいことです。過去が生きているとされるのは、このデザインが100年前と同じように、今も美しいからです。

 マスト ドゥ カルティエを振り返ってみると、当初コレクターの間であまり評価されていなかった時期がありましたが、今はやはり良いものだと思われています。タンクを振り返るとしたら、どこを見ればいいでしょうか。基本的には、デザインの原点である1910年代、1920年代ですが、70年代も同様に重要です。色のついた文字盤は重要でした。1920年代のタンクも興味深いですが、1970年代のタンクも同じように興味深いと思います。過去の特定の瞬間だけを振り返るのではなく、全体を振り返ろうと考えたのです。

オリジナルのマスト ドゥ カルティエ、ヴェルメイユケース。

先ほど、コロナが業界全体、特にカルティエにどのような影響を与えたかという話をしました。あなたが今回行わざるを得なかった変更は、平常時に戻っていく中で、多少なりとも恒久的なものであり、将来に向けて実行可能なものであるとお考えですか?

 「平常時に戻る」といっても、それはすぐには訪れません。私たちはコロナ禍の制約の中で丸1年を過ごしてきましたし、それは少なくとも今年の年末までは続くでしょう。アジアの多くの国では、12月までは国境を開放しないと言っています。その場合でも、東京オリンピックに向けて計画されていたものは、さらに厳しい制約を受けることになるでしょう。私たちはしばらくの間、現在の状況下で生きていかなければなりません。

 色々なことが戻れば、ビジネス出張は急速に再開されるでしょうが、一般の旅行に関しては、時間がかかるでしょう。空港や航空会社は、投資や機材、乗員を削減しています。ホテルも規模を縮小しています。みんながスピードアップするには時間がかかります。

 基本的には、最低でも55億人に最低でも2回、つまり110億回のワクチンを接種しなければなりません。その後、旅行が再開されるまでには最低でも1〜2年かかるでしょう。また、私たちは家の近くでいろいろなことをしたり、オンラインで買い物をしたりすることに慣れてきました。このように、新しい小売業のあり方が急速に形成されつつあり、Eコマースが1年で3倍に成長したのなら、もう元には戻らないでしょう。つまり、 耐久消費財の世界では、5年、10年かかる変化が1年で起きてしまった、ということです。

「若い人のための若い製品を作らなければならない」と勘違いしている人々がいました。しかし、それは間違いです。

– シリル・ヴィニュロン氏
あなたは鋭い指摘をしています。もちろん、元通りになるとしても、数ヵ月の内ではないということですね。
しかも、これらのことは数ヵ月単位ではなく、数年単位で展開されることになるでしょう。3月にオフィスを出たときには、このような長期にわたる変化があるとは思っていませんでした。情報を素早く見つけ出すことができる世代のコレクターは、何がトレンドかもすぐに見つけ、基本的にそれが当たり前のこととして育ってきました。彼らは、これらのチャンネルがオープンであり続けることを期待しているのでしょうか?

 もちろんです。5年後のブランドランキングで皆がトップだと思うものは、過去15年間とは全く違うものになっているかもしれません。こうしたお客様、つまり「若いお客様」といっても、明日のお客様ではありません。既に存在しているお客様なのです。

 「若い人たちのための若い製品を作らなければならない」と勘違いしている人々がいますが、それは間違いです。人々と接するとき、彼らにとって自然な方法でそうしなければなりませんが、同時に自分自身には忠実でなければなりません。何か違うことをしなければならないということではありません。古典的な製品なのであれば、それに適した方法でプレゼンテーションすればいいのです。

プラチナ製のカルティエのポケットウォッチ。1910年にエドモンド・イェーガーが特許を取得したケースデザインを採用した。

カルティエはとても古くからある会社で、20世紀にラグジュアリーを発明した会社のひとつとして知られています。しかし、非常に適応力が求められたと思います。これほど大きく、歴史があり、名声のある会社からは想像もできなかったことです。

 伝統とは進化させるものであり、常に変化していくものです。そうすることで、常にインスピレーションの源となる豊かさが生まれるのです。

 例えば、『サマータイム』のような古いジャズから、それに忠実でありながら絶対的に新しいものを作りたいと考えたときに、何か新しいアレンジを見つけることができます。そして、美しいものを作る立場に立ったとします。クラシックは必然的なものです。私たちの心や記憶の中に、常に存在しています。その伝統を正しく生きる方法を知っていれば、それは未来への素晴らしい源泉となるでしょう。

By Yu Sekiguchi
ここ数年は、特に伝統的なアイコンウォッチにフォーカスされているように感じます。そこに注力される理由を教えてください。

 カルティエは、力強くタイムレスなデザインで知られています。そのデザインによって、バランスを保持しつつ象徴的なクリエイションを生み出すという比類なき財産を築いてきました。2017年の「パンテール ドゥ カルティエ」、2018年の「サントス」や「ベニュワール」、そして昨年の「パシャ」などのアイコニックなウォッチのリニューアルに続き、今年は新たな解釈がなされた「タンク」ウォッチ。 モノクロームカラーダイヤルのモデルについては、1980年代の「レ マスト ドゥ カルティエ」から発表されたモノクロームのウォッチにインスピレーションを得ています。 

 また「カルティエ プリヴェ」コレクションからは、伝説的なデザインをもつウォッチも登場しています。世代を超え、普遍的かつ魅力的でひと目でカルティエ ウォッチと分かるコレクションを数多くもっていることは私たちの誇りです。そして、これらのオリジナルデザインを踏襲しつつも新たに作り上げることにより、自らの財産を活かしています。 

 全体としては、時を超越し、長く使えるタイムピースを生み出すことで、カルティエらしさを維持しているのです。

Cartier careによるメーカー補償の長期化でメゾン側にもたらされるメリットはありますか?

 ここ数年、私どもは製品のアップグレードを強化するとともに、提供するサービスをより豊かにしてきました。2019年のカルティエ ケアの発表は、まさしくこの流れであり、顧客一人一人にパーソナライズされたサービスやアドバイスをしています。また国際保証の期限も最大8年間まで延長することが可能です。これによって、顧客の方々と末永いケアが可能な、パーソナルな関係性を築き上げることができるのです。 

このインタビューは、分かりやすく簡潔に編集されています。