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我々が知っていること
聖パトリック・デーは先週だったが、H.モーザー社は来週のWatches & Wondersフェアに向けて、グリーンのティーアップをしてきた。シャフハウゼンを拠点とするモーザーは、ジュネーブで開催される時計見本市の一部であるカレ・デ・オルロジェ(Carré des horlogers = 時計の広場)に出展する予定となっている。ここへの出展者たちにはいくつかの特権があり、そのうちのひとつが、ロレックス、パテック フィリップ、タグ・ホイヤー、ショパールなどの有力メーカーがジュネーブのコンベンションセンター・パレクスポ(Palexpo)に集結するのに先駆けて、数日前に新製品を発表することができるというもの。
今朝、私の手元に届いたのは、この小さなグリーンの可愛らしい時計だった。直径40mm×厚さ11.2mmのコンパクトなステンレススティールケースに収められた、大胆な顔つきの3針時計だ。2022年に発表された新しいエンデバー・センターセコンド コンセプトは、ブランドが「ライムグリーン」と表現する主張の強いダイヤルが備えられている。ダゴバ(スター・ウォーズに登場する惑星)を連想させるようなグリーンダイヤルとは異なり、モーザーの最新作は、太陽が降り注ぐサマーカクテルや、シャルトリューズ入りのドリンク、そして足元に広がる穏やかな草の葉に似合うデザインだ。カラフルで質感の高いこの時計は、モーザーの“コンセプト”ラインとして、文字盤に時間マーカーや文字列、ブランドロゴが一切ないのが特徴だ。
H.モーザーの特徴であるフュメグラデーションが施されたグラン・フー エナメルのダイヤルは、ミニマルデザインはこれまで通りだが、実は同社が初めて用いた多段階の精巧な仕上げと装飾プロセスが反映されている。文字盤はゴールドのベースから始まり、ハンマーで叩いて複雑な独特のパターンを作り出す。テクスチャーが完成したのち、エナメル職人が3種類のグリーンの顔料を洗い、砕き、文字盤に塗ることで、移り変わりのある色のフュメを表現している。各色は一度にひとつずつ加えられるため、熱が加えられると酸化して文字盤上でシームレスに混ざり合う。H.モーザーによれば、フュメダイヤルの品質基準を満たすには、エナメル炉で12回もの焼成が必要だという。そしてもちろん、精巧なハンマーワークとエナメル加工が施されているため、ライムグリーンの文字盤はひとつひとつが微妙に異なるものだ。
グラン・フー エナメル文字盤とリーフ型の時分針に加え、H.モーザーはセンター秒針に意外な選択をした。文字盤を横切るように配された秒針は、熱処理によって繊細な紫色を帯びており、一般的な青焼き針とは対照的な仕上げになっている。ドイツでは、モリッツ・グロスマンが熱処理されたバイオレットカラーの針とネジを現在のビジュアル・ランゲージの中核に据えており、これは珍しいことではない。この紫色を実現するために、金属部品は従来の青色を実現するのに必要な時間よりも若干長く熱処理されなければならず、その結果、誤差が生じる可能性が高くなるのだ。
H. モーザー エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーンには、アフリカ原産のアンテロープ、クーズーの皮から作られたグレーのハンドステッチレザーストラップが付属し、価格は357万5000円だ(税込)。なお、この新作は限定生産ではない。
我々が思うこと
スキットルズ─そう、あのお菓子の話だが、2013年にちょっとしたアイデンティティクライシスを経験している。その年、マース社傘下の菓子メーカーは、食べられるレインボーの「緑」のフレーバーを、ライム(1974年にデビューしたオリジナルの5色/フレーバーの一部)からグリーンアップルに変更したのだが、これはうまくいかなかった。
多くのお菓子好きたちが、中毒性のある酸味の効いた味が変更されたことに心を痛め、何年もネット上で辛辣なコメントで抗議を続けてきた。その結果スキットルズは昨年秋、ライムをオリジナルの5種類のフレーバーにカムバックさせ、グリーンアップルが永久に姿を消すことになると発表し、ようやくその誤りを正すこととなった。
H.モーザーを所有するメイラン一族は、最近のライム愛好家たちのネット上での好意的な反響に(おそらく意図せず)影響され、本日リリースとなったプレWatches & Wonders '22の本作にその名前をつけることにしたと考えざるを得ない(これが「エンデバー・センターセコンド コンセプト グリーンアップル」だったら、まったく違うタイプの記事を読むことになっていただろう)。
冗談はさておき、H.モーザーの“コンセプト”ダイヤルシリーズの最新作には、気に入る点が多い。しかし、このエンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーンは、私が同社を最も高く評価している要素の核心を突いているのだ。
まず、ダイヤルワークの素晴らしさが挙げられる。私が初めて、H.モーザーのダイヤルに本当に唖然とした瞬間を今でも覚えているが、それはバーゼルワールド2018の会場外のホテルにおいて、ブランド幹部から手渡された、ミニッツリピーターを搭載したユニークピースのスイスアルプウォッチが備えたブルーフュメのモザイクスタイル文字盤だった。今日のエンデバー・センターセコンドに採用されたコンセプトダイヤルも、エナメル加工により新鮮な躍動感が与えられているものの、ダイヤルには同様のちょっとした質感の妙がある。さらに、熱処理が施されたパープルの秒針を加え、思いがけない色彩を楽しむことができるのだ。
また、私はエンデバーのケース形状が、他のどのH.モーザーの時計よりも気に入っている。モーザーの“パイオニア”シリーズに見られるような、4つのグリルのような凹凸がなく、曲線的で彫刻的なケースサイドが特徴的だ。この新モデルはまだ実物を見ていないが、過去に扱ったエンデバーのケース仕上げには特に感銘を受けたことを覚えている。凹面のポリッシュ仕上げと、ケースバンドを縦断するサテン仕上げが施され、着用感はダイナミックだ。また、エンデバーはパイオニアシリーズで採用されている従来の42mm径よりもひと回り小さい。エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーンは、貴金属ではなくSS製のケースを採用した2番目のモデルだ(通常、ローズゴールドやホワイトゴールドが使用される)。SS特有のクールなトーンが、ハンマーで叩いたようなフュメダイヤルを美しく縁取ってくれることだろう。
エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーンは、ブランドの実験的な“コンセプト”ウォッチでありながら、マニア心をくすぐる魅力に溢れている。40mmのステンレススティールケースに、他では見たことのない色と質感のライムグリーン文字盤が備えられているわけだ(まだ実物を見ていないが、またご報告したいと思う)。
さらに、自動巻きCal.HMC200が内部で時を刻み、ケースの端から端まで広がるサファイアクリスタルのケースバックから見ることができる。本記事ではそのよさをあまり強調していないが、この自社製ムーブメントは、H.モーザーの姉妹会社であるプレシジョン・エンジニアリング社が製作した特許取得のシュトラウマン・ダブル・ヘアスプリング、揺るぎないV字型のテンプ受け、ラチェット式の両方向巻上げシステムなど、実に素晴らしいものだ。2017年に同社が発表したモデルに搭載されてリリースされたこのキャリバーは、それ以来、同社が様々なコレクションを構築することを可能とした、ある種ベースとなる3針ムーブメントである。
エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーンには、美的感覚とムーブメントのどちらを重視するかに関わらず、あなたの関心を引く何かがあるはずだ。
しかし、H.モーザー、もしこれを読んでいるのなら、警告をしておきたい。この場を借りて、スキットルズの友人を思い出し、この先、よいものを殺さないようにお願いしたいのだ。新型エンデバーのライムグリーンダイヤルの酸味とキレのあるビジュアルフレーバーを、グリーンアップルのまろやかさにすり替えてはいけない。
絶対にだ。
基本情報
ブランド: H.モーザー(H. Moser & Cie)
モデル名: エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーン(Endeavour Centre Seconds Concept Lime Green)
型番: 1200-1233
直径: 40mm
厚さ: 11.2mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: グラン・フー エナメル(ライムグリーンのフュメ)、ハンマーで叩いたようなテクスチャー
インデックス: なし
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ハンドステッチ仕上げのグレーのクーズーレザー、スティール製ピンバックル付き
ムーブメント情報
キャリバー: HMC 200
機構: 時、分、秒
直径: 32mm
厚さ: 5.5mm
パワーリザーブ: 最小3日間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万1600振動/時(3 Hz)
石数: 27
追加情報: 自動巻き(ラチェット式両方向巻上げ)、オリジナルのシュトラウマン製ダブル・ヘアスプリング®、モーザーストライプ仕上げ、ダイヤモンドポリッシュ仕上げ
価格 & 発売時期
価格: 357万5000円(税込)
発売時期: 2022年内発売予定
限定: 通常生産品、だが少量だと思われる
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詳細は、H.モーザーの公式サイトへ。
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