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ここ1年のあいだ、チューダーはスポーツスポンサーシップ(あるいは非公式な関係)を拡大させてそれを生かし、興味深くも驚きに満ちたモデルを次々と発表した。ダイヤルカラーを変更したシンプルなものもあれば、インテル・マイアミからわずかにインスピレーションを得たピンクのブラックベイ クロノグラフのように非常に珍しいものもあり、一部にはより目的に特化したものもある。新しいペラゴス FXD クロノ“サイクリング”エディションは、後者のカテゴリに確実に属するものだ。
理論上、これは機械式時計を望むサイクリストのために特別に作られたツールである。そのような人が実際に存在するかどうかは、私が非公式に調査した真剣なサイクリストのあいだで議論の余地がある。ただそれは私にとって重要な点ではない。私はブラックアウトされたケースの大ファンであり、生涯に時計を何本も購入する余裕があれば、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)のように“ジャンボ”ロイヤル オークにPVD加工を施すだろう。そのためこの新しいチューダー “サイクリング”エディションに対する私の興味は、主にその基準だけであった。しかし、私は実際のペラゴス FXDはおろか、新しいFXD クロノも見たことがない。
はっきりさせておこう。私は自転車の乗り方を知っている。このストーリーに自転車(またはヘルメット、サイクリングシューズ、サイクリングジャージ、サイクリンググローブ、タイヤパッチなど)が登場しないからといって、誤解しないでほしい。私は自転車に乗れるのだ。これは約束しよう。実際、大学時代サイクリングに夢中になっていた時期があり、ある冬には父の古いクロモリスティールの自転車(私の巨体に適したサイズ)を分解・大掃除したあとに再組み立てしたこともある。しかし、サイクリングと貧乏な大学生生活は相性が悪く、趣味として真剣に取り組むための本格的なレーシングバイクを買う余裕がなかった。ゆえにもっと手ごろな趣味である時計を選んだのは、当然素晴らしい選択であった。
チューダーがブランド初、あるいはロレックスのブランドとして初のカーボンファイバー製モデルを発表してから、ちょうど1年が経過した。これまでのところ、このケース素材はチューダーがスポンサーを務めるチームに合わせた、スポーツ特化型デザインのプラットフォームとして採用されている。最初に発表されたのは、アメリカズカップのレーシングチームであるアリンギ・レッドブル・レーシング向けの2本の時計(時刻表示のみとクロノグラフ)だった。そして少し驚いたのは、少なくともクロノグラフの3時位置に、スタートまでのカウントダウンを行う“ヨットタイマー”クロノグラフのレジスターがレイアウトされていなかったことだ。
アリンギモデルは、レッドブルチームの赤と青のカラーを使用していたが、新しい“サイクリング エディション”はチューダー プロサイクリングチームの赤と黒のカラーを採用している。チーム専用のこの時計は当サイトでも2度(その1とその2)取り上げているクロノグラフであり、寄稿してくれたザカリー・ピーニャによる素晴らしい写真も掲載されている。その時計は、ブラックコーティングされた41mmのSS製ケースという伝統的なブラックベイ クロノグラフだった。さらにネジ込み式のプッシュボタン、インダイヤル周りの赤、白い日付表示、タキメーターベゼル、赤いチューダーの紋章など、ほかの時計とは異なる特徴が施されている。また本モデルはチューダー プロサイクリングチームのメンバーにのみ提供されていた。
新しいカーボンコンポジット製ケースのペラゴス FXD“サイクリング エディション”は、単なるダイヤルやケースカラーの変更とはまったく異なるベクトルへと舵を切った。カーボンケースは装着性においてより実用的な影響を持っている。その点については最後に述べるが、理論上ではそのほかにもいくつかのディテールがこの時計をサイクリストにとってより実用的な時計にしている。
まず、きわめてブラックアウトされたデザインであることに変わりはなく、視認性を高めるためにマットな文字盤を採用。そして9時位置のランニングセコンドと3時位置の45分積算計を強調するために、文字盤の周囲に赤いアクセントをあしらっている。また、この時計はすべてのペラゴス FXDモデルと同様に“スノーフレーク”時針とマッチするスクエアインデックスを備えている。これは私が愛するブラックベイ 58について少し気になっている点だ。もしスノーフレーク針を採用しているなら、スクエアインデックスがあるべきなのだ。ラウンドインデックスは“メルセデス”針との組み合わせが適している。ヴィンテージのチューダーもそうであったし、そのスタイルに戻ったほうがよいだろう。
ケースデザインは、当然固定式のバーがラグのあいだにある少し奇妙かつ魅力的なFXDスタイルであり、一重とおしのファブリックストラップが付属している。このケースがカーボンコンポジット製であることは、近くで見るとさらに驚かされる。私も含めほとんどの人は、カーボンケースには何らかのシボや格子模様、編み込みパターン、縞模様、またはマーブル模様を期待するだろうが、これはそうではない。横から見るとわずかにテクスチャーが見えるが、ウニマティックとHODINKEEが共同でつくったカーボンファイバーウォッチほどではない。その代わりに、ケースはコーティングされた金属のようで、シャープなエッジと面取りが施されている。
このモデルはネジ込み式リューズを備えているが、防水性能はアリンギ ペラゴス FXD クロノから半減しており、“サイクリング エディション”では200mから100mになっている。また、チューダーはおそらくこの防水性能の変更に関連して、ダイヤルから“ペラゴス”の文字を削除している。水中サイクリングが存在する(らしい)とはいえ、“サイクリング エディション”に高い防水性が必要ないのは理解できる。アリンギウォッチと同様、このモデルもネジ込み式プッシュボタンを持っていないため、水中でクロノグラフを使って何かを計測しようとするのは避けるべきだ。
しかし、アリンギウォッチやサイクリングチームのブラックベイ クロノグラフと比べて最も実用的な変更は、チューダーがベゼルと見返しリングに関して行ったことである。チタン製のベゼルは固定式で、経過時間スケールはカーボン製だ。さらに興味深いのは、ダイヤルとベゼルのあいだにある見返しリングである。
チューダーはこれをサイクリスト専用のタキメータースケールと呼んでいる。通常のタキメータースケールは、1周のホットラップを計測したり、1マイルや1kmの速度を計算するのに便利だが、チューダーはそれをサイクリストにとって最適な用途ではないと考えた。結局のところ、標準的なタキメーターでは60秒以上の走行を計測することは難しい。それに標準的なタキメーターを用い、1マイルを60秒以内に走るサイクリストを計測しようとするなら、おそらくツール・ド・フランスのコート・デ・ラ・コメラを下っているところだろう。では、タキメーターをより使いやすくするにはどうすればいいか? スケールを延長するだけでいい。
これは双曲線のあるタキメータースケールの例だ(y=3600/xという計算に基づいており、xが時間、yが結果として得られる速度)。最初の15秒のスケールを気にせず、それ以降すべての速度に焦点を当てた場合、どのように見えるかを示している。これは昔、クルマを含む物事の移動速度がはるかに遅かった時代の“スネイルダイヤル”クロノグラフにおいては一般的であった。しかし、スケールをダイヤルの中央に配置する代わりに、チューダーはこれを見返しリングに配置した。
確かに、現在のデザインはクリーンでありモダンだが(2024年にチューダーがスネイルダイヤルのクロノグラフをつくるという考えは完全に突飛だ)、新しいデザインがサイクリストにとってどれほど実用的かは疑問だ。スケールが1分を超えて延びているのは実用的であるが、下の時計を見て、それを自身の手首に装着しているところを想像してみて欲しい。1分23秒で1マイルを走行したとしたら、その速度を瞬時に読み取ることができるだろうか? 少し疑わしい。サイクリストがこの方法で時計を使用するかどうかは別として、スケールは非常に混み合っており、じっとしている時だと読み取りにくいと感じた。解決策は何だろうか? よく分からない。しかし、プッシュボタンがかなり硬く、走行中に操作するのが難しいかもしれないという事実も加味すると、このクロノグラフはペロトン(集団)からの離脱を目指してトレーニングするサイクリストよりも、ベロドローム(自転車競技場)でラップタイムを計測するコーチのほうがはるかに役に立ちそうだ。
時計の3時位置に45分計しかないという事実も、サイクリストにとってもうひとつの潜在的な問題である。クリテリウムレース(市街地を小周回するコース)に出場する場合を除けば、この時間の長さはサイクリストにとって実用的ではないと感じるだろうし、仮にクリテリウムであってもクロノグラフをスタートさせたりストップする時間はない。
さて、“サイクリング エディション”に手を加えるとしたら、変更したい点はこれだけではない。日付表示が好きな人には朗報だが、私はCal.MT5813(ブライトリング B01に基づいている)の日付表示にはあまり好感を持っていない。時計に日付表示ができるからといって、必ずしもそれが必要というわけではないと思っている。この時計からブラックベイ クロノグラフに至るまで、すべての日付表示が6時位置にないほうが見栄えがいいと思う。しかし日付表示は目立たない位置にあり、黒でカラーマッチングされた日付ディスクがそれを目立たなくしている。また、その他の点ではCOSC認定を受けているほか、自動巻きで約70時間のパワーリザーブを誇るなど優れたムーブメントであることに変わりはない。
この時計はソリッドなチタン製ケースバックと、ブラックメタルのピンバックルが特徴だ。このようなメタルパーツの採用により、カーボンコンポジットウォッチとしては少し重厚感を感じるかもしれないが、ただ悪い意味ではない。私はカーボンやその他の超軽量素材が、ときには軽薄または安っぽく感じられることがあると感じているが、必ずしもそうではないのだ。この時計に関して言えばそのような安っぽさはまったく感じられなかった。時計は非常に軽く(文字どおり、お酒の席で見せた友人たちは皆、その軽さに感嘆していた)、しっかりとしたつくりである。本気で取り組んでいるサイクリストが転倒した場合、この時計がどのように耐えるかはわからないが、少なくとも重すぎて負担になることはないだろう。
私はパフォーマンス向上のためにg単位で計量するようなことはしないが、もしそうするなら自分の自転車のフレームから始めるだろう。しかし、もしそれがあなたのこだわりなら、この時計はストラップとバックルを含めて71gだとお伝えしておこう。それは超軽量でもなく、特に重いわけでもない、まさにゴルディロックスな“ちょうどいい”重さだ。重量以上に気になっていたのは、ユニークな固定バーのデザインが妙にフィットして手首に食い込んだり、逆に浮いたりするのではないかと心配したが(ケースの厚さがすでに13.2mmもあるから)、そんなことはなかった。最終的には、非常に快適で、つけていることを忘れるほどだった。
私はサイクリストではないので、インターバルトレーニングやワット数(パワー出力)にこだわる人に、チューダーの新しい“サイクリング エディション”がヒルクライムやセントラル・パークでの周回に適しているかどうかを判断する資格はない。結局のところ、水中でダイバーズウォッチをレビューすることの滑稽さと同じだ。私の批評はすべて仮説に過ぎない。本当に正しいかどうかはサイクリストの判断に任せる。ただし、ほとんどの専用ツールが本来の目的以外の場所で使われることが多いのも事実だ。なので自身の見解はここで締めくくる...これらは本モデルをしばらくつけてみたサイクリストではない人間としての意見だ。
チューダーの新しいペラゴス FXD クロノ“サイクリング エディション”は、率直に言って、タイトルどおりの目的で使用されなくても十分に魅力的な時計だ。大手ブランドであるチューダーから登場した興味深いケース素材を採用したブラックアウトクロノグラフは、それだけで注目に値する。またこのモデルは、ロレックスのより手ごろな価格帯やヴィンテージ志向の小さな兄弟ブランドではなく、ロレックスを補完する先進的な時計製造と研究開発としての未来のチューダーの象徴でもある。チューダーはまた、チタンウォッチを先に発表したブランドであり、ロレックスも最終的にはそれに続いた。もしかすると、これはシールド(チューダー)の新奇な製品だけでなく、クラウン(ロレックス)の未来の兆しを示しているのかもしれない。
チューダー ペラゴス FXD クロノ“サイクリング エディション”。Ref.M25827KN-0001。43mm径×13.2mm厚、マット仕上げのブラックカーボンコンポジットケース、100m防水。マットブラックダイヤル、クロノグラフカウンターにレッドのアクセント、専用のスロータキメータースケールを装備。60分の固定ベゼル。時・分・ランニングセコンド表示、クロノグラフ(45分積算計)。ブライトリング B01をベースにしたCOSC認定マニュファクチュールムーブメント、Cal.MT5813。自動巻き、パワーリザーブは約70時間。ブラックのファブリックストラップ。価格は74万300円(税込)
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