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Hands-On サーモンダイヤルを纏ったモンブラン ヘリテイジ スピリット パルソグラフ

最新のモンブラン パルソグラフはひと目惚れ必至のサーモンピンクの文字盤に、垂涎もののムーブメントを備えて登場した。

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モンブランのペンメーカーとしての歴史が、腕時計メーカーとしてのそのアイデンティティに影を落とし続けていると考える人もいる。だが同社の腕時計は、この10年の間に目覚ましいレベルのコミットを見せている。そのため批判的な人々でさえ、文字盤上の名前について思うことがあったとしても、同社の腕時計作りを真摯に受け止め始めている。これは 略してミネルバと呼ばれる、インスティトゥート・ミネルバ・デ・ルシェルシュ・アン・ハウテ・オルロジュリーの工房で作られたムーブメントを持つモンブランの時計で特に言えることだ。
 

コレクターにはおそらく、ミネルバは1920年代に始まった、最高級クロノグラフとクロノグラフ ムーブメントのメーカーとして最もよく知られているだろう。自社製造のムーブメントにこだわる人々には皮肉なことに、ミネルバそのものはマニュファクチュールとして出発したわけではなく、その形態へと成長を遂げた企業だ。同社は、エタブリスール(専門工房から部品を受け取り最終的な組み立てを行って、完成した時計を小売店へ卸す会社)として1858年に創業した。そして、自社でムーブメントと時計を製造する垂直統合された企業へと、徐々に変化していっただけである。これは時計メーカーとしてのモンブランの進化と、やや似ているところがある。

ミネルバ マニュファクチュールでの時計製造について言うと、どちらかと言えば未だ古風なこの企業においての必然である。作られるムーブメントの特性上、そうならざるをえない。現在のミネルバ クロノグラフムーブメントの基本的構造は、1920年代および1930年代にミネルバの設計士によって開発された、クロノグラフ懐中時計および腕時計のムーブメントから直接生まれたものである。それらの組み立てと仕上げに使われる技術もまた、大変魅力的に古風なものであることが多い(また、時間と費用面で効率の良い現代的手法とは本質的に相容れず、限定生産を免れえないことを意味する)。
 

より確かな信頼性と精度のために、そして現代の顧客がラグジュアリー時計に抱く耐久性と信頼性への期待に応えるため、最新式の機械が使用されていることは確かだ。しかしその一方、今日のミネルバでは、数多くの手仕事も目にすることになる。そこで使われている技術は、20世紀初頭にミネルバが真のマニュファクチュールになって以来、ほとんど変わっていない。そしてミネルバが完全にモンブランへと統合された今も、そのアイデンティティが失われることはない。現在のムーブメントがオリジナル製品のデザインと製造技術の直系にあるだけでなく、「ミネルバ ヴィルレ」の刻印もまた、今日まで受け継がれているのだ。

今年、モンブランはモノプッシャー ミネルバ クロノグラフ ムーブメントにサーモンピンクの文字盤を備えた、最新のパルソグラフ クロノグラフを発表した。これはモンブランにとって初のパルソメーター式クロノグラフではない。2014年に登場したマイスターシュテック ヘリテイジ クロノグラフは文字盤に同じパルソメーター式の目盛りがあり、ムーブメントにも同じキャリバー MB 13.21が使われている。このムーブメントは、20世紀半ばにミネルバの最も魅力的なクロノグラフのいくつかで使用されたミネルバ キャリバー 13.20の直系にあたる。
 

サーモンピンクの文字盤はこの数年でますます人気が高まっているが、このクロノグラフのインスピレーションとなったのは大変美しいカッパー系サーモンピンクの文字盤を持っていたミネルバの腕時計だ。それもまた、20世紀半ばに作られたものだった(しかしそのクロノグラフにはツープッシャーのムーブメントが使われている)。

2019年版のパルソグラフにインスピレーションを与えた、ミネルバ クロノグラフのヴィンテージ腕時計。

サーモンピンクの文字盤(サーモンピンクとカッパーの文字盤の違いを私も完全には理解していないので、未だ誰からもそれについて聞かれたことがないのは幸運だ)は最近ちょっとしたトレンドとなっているが、どこでも見られるというにはまだ程遠い。それに、少なくとも現代の時計の中では今もって十分に新鮮であり、ホワイト、ブラック、グレー、そしてアンスラサイトというやや単調な文字盤があちこちにあふれる中ではありがたい気晴らしといえる(ブルーも未だ新鮮なカラーとして受け止められているが、やり過ぎに気をつけて欲しいものだ)。

この特定のサーモンピンクの文字盤は、仕上がりの複雑さと、そして率直に言って外見のきらびやかさという両方の点でこの上なく確実に、ヴィンテージ版から進化を遂げた(ヴィンテージが何にも勝るという純粋主義者には異説だろうと思うが)。クロノグラフ積算計とスモールセコンドのわずかに窪んだサブダイヤル、そしてわずかにグレイン仕上げの質感をもって円を描くアワーマーカーのレリーフが、文字盤に視覚を引きつける。それは見た目に興味深いだけでなく、文字盤のさまざまな機能要素をかなり上手になじませる役割も果たし、実際に視認性へと貢献している。

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右側の分を表すサブダイヤルには、3分、6分、9分の位置に長いマーカーが配置されている。ヴィンテージおよびヴィンテージからインスパイアされたクロノグラフにおけるこの要素は、長距離電話の請求間隔に関連して設けられたもの、というのが通説だ。あるいは、公衆電話の使用時間を測る目的ともいわれている。硬貨ひとつで通話可能な時間が3分間、という間隔のイメージである。
モンブランによって挙げられている理由は後者だ。これが議論の余地なく確かな光景を、個人的に私は一度も見たことがない。とはいえ、それがどういった状態なのかも不明だ。この用途を記載した古い雑誌広告があれば、疑いなく確認できるだろう。しかしそのような情報を載せた広告は見たことがない。航空術のために、この用途に賛同するグループは存在する。6分は1時間の10分の1であることから、推測航法では1時間の10分の1がいつ過ぎたかを知るために、3分間隔を計ることは役立つというものだ。

また単純に、3分という時間を計れることで役立つ場面が数多くあるのかもしれない。公衆電話からエッグタイマーまで、ありとあらゆる可能性がある。しかし洞察力に優れた読者のどなたかがこれについて実用的な情報をお持ち合わせなら、是非お聞かせ願いたい。いずれにせよ、それらは楽しいレトロなディテールであるだけでなく、ちょっと気の利いた話のネタにもなるだろう。

ブルーの「パルスメーター」目盛りは、毎分ごとの心拍数を計算するのに使われる。

もうひとつの大変伝統的で古風な時計学的要素が、ブルーの「パルスメーター」目盛りだ。サーモンピンクの文字盤と同様に、最近(そしてこれまでかなりの期間)はよく目にするようになった。ミニトレンドと呼べる程なのだが未だありふれてはいないため、それ自体が興味をそそるものだ。この目盛りの印は、「脈拍数30回計測用」に付けられているものだ。1分間毎の脈拍数を計算するための設計で、それにより1分毎の心拍数を導き出すことができる。1分間にわたって正確に数えようとするのではなく(特に患者の心拍が速い場合にはこれは骨の折れる作業だ)左手で脈を触ってクロノグラフをスタートさせるだけでいい。脈を30回数え終わったらクロノグラフを止める。その時に秒針が止まった箇所の数値が、あなたの心拍数だ(ご覧の通り、脈拍数が9秒で30回だと心拍数は毎分200回となり、これは控えめに言って正常値の範囲外とされる数値だ)。

ミネルバ マニュファクチュールの内側

 ミネルバの伝統的時計作り。

3分マーカーのような目盛りはもう、意図されていた目的のためには特別便利なものではなくなった。心拍を計算するのに機械的なクロノグラフ腕時計を常用している内科医がいれば、米国医師会はおそらく何かしら忠告することだろう。しかしHODINKEEユーザーの方が度々(そして的を射て)指摘しているように、この目盛りはその他のことを数えるためにも使用できるのだ。
一定の間隔で起こる事なら何でも。30個を9秒間で数えると、それは毎分200回を意味する(例えば、生産ラインを流れていく製品だ)。それにもちろん、サブダイヤルの積算計に表示された3分の目盛りに関していえば、公衆電話がなくなってしまっても、3分間でゆであがる卵というものは変わることなく存在し続ける。

キャリバー 13.21のムーブメントもまた、過去の遺物である。そしてパルスメーター式目盛りや3分マーカーと並んで、この時計の魅力を構成するものだ。だがパルスメーター式目盛りや3分マーカーとは異なり、そこには表面的なものをはるかに超えた技巧が凝らされている。

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この瞬間に世界のどこかで製造されているあらゆるクロノグラフムーブメントの中でも、キャリバー MB 13.21は最も美しい構造を持ち、仕上げが施されている逸品だろう。そして間違いなく、その全歴史中、最も魅力的な腕時計のひとつだ。これは水平クラッチ式にコラムホイール制御を採用したモノプッシャーという、伝統的スタイルのクロノグラフムーブメントなのだ。
 

モノプッシャー式クロノグラフは、現代のツープッシャー(1934年にウィリー・ブライトリングが初めて特許を取得した)よりさらに時代を遡ったものだ。しかし機能面でツープッシャー式のクロノグラフに劣る部分は、時計全体の欠点のなさで十分過ぎるほど補われている。さらに、そのムーブメントが趣あるデザインと最高級仕上げという点において、他のどんなメーカーのどんな製品にも勝るとも劣らないことは言うまでもない。そこに見られる製鋼の技は賞賛すべきものであり、アングラージュ(面取り)と側面および皿穴の仕上げも同様だ。そして地板とブリッジにはロジウムメッキのジャーマンシルバーが用いられている(マユショル)。

この段階での消費者にとってのチャレンジは、おそらくモンブラン時計の文字盤に会社名が刻印されていることではない。それよりも、同社がハイエンド製品だけでなく、幅広い価格帯での時計作りをしていることだろう。パテック フィリップ、あるいはA.ランゲ&ゾーネのように求めやすい価格の時計を全く作っていなければ、最高級品に向けたモンブラン社の努力にはもう少し敬意が払われていたかもしれない(プライスポイントと異なった市場ポジションを持つグランドセイコーもまた、同様の偏見を乗り越えなければならない)。
しかしそれ自体の価値を純粋に評価するならば、1万8000振動/時のロービートでフィリップス型のヒゲゼンマイを持つ、この古典的かつ均整の取れた29.50mm x 6.40mmのキャリバーは、 ハイ・ヴァルドおよびジュネーブスタイルにおけるクロノグラフ芸術品として世界で最も優れた例のひとつとしての地位を得ることができる。また、そうあるべきだろう。

モンブランのロゴについて最後にひと言を添えよう。現代のMBロゴではないが、20世紀初期から中期に販売されたヴィンテージのモンブラン万年筆に見ることができるのと同じロゴである。ここでそれを責めることは、私にはできない(万年筆コレクターだったことのある私は、一時60本ほどのヴィンテージ万年筆を持っていたと思う。さすがにそれは、度を超え始めていたのだが。そのためロゴを見ると古い友人に再会したようで、実際のところ時計を見るのがもっと楽しくなる)。モンブランはこのロゴを、ヘリテイジシリーズの万年筆にも使用している。これは現在手に入れることができるものの中で最も臆面なく、しかし最高に良い意味で時代錯誤な腕時計のひとつだ。
 

オリジナル製品と比べて、デザインは議論の余地なく改良されていると私は思う。そしてそこにあるヴィンテージの要素は、伝統的な腕時計作りの最も素晴らしい部分を表しており、それはムーブメントに特に当てはまる。もしあなたが、「かつてのような製法で作られていない」という意見へ、物理的に反論する伝統的時計作りの現代的解釈に興味があるなら、私は今のところであるがより良い選択肢をいくつか提案できる。

基本情報

ブランド: モンブラン(Montblanc)
モデル名: ヘリテイジ スピリット パルソグラフ(Heritage Spirit Pulsograph)
型番:Ref. 119914
 

直径:40mm
厚さ:12.65mm
防水性能: 50m

ムーブメント情報

キャリバー:MB 13.21
機構:モノプッシャー式クロノグラフ
厚さ:11.4mm
巻き上げ方式:手巻き
振動数:1万8000振動/時
追加情報:ロジウムメッキのジャーマンシルバー製地板とブリッジ、フィリップス型ヒゲゼンマイ 

価格:326万円(税抜)
限定:世界100個限定