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「Watch Of The Week」は、Hodinkeeのスタッフや友人に、なぜその時計が好きなのかを説明してもらうコーナー。今週のコラムニストは、作家でありエコノミストでもあるブレンダン・カニンガム氏(近著に『Selling the Crown: The Secret History of Marketing Rolex』)。今日は、チューダー ノースフラッグにまつわるエピソードを語っていただいた。
今から10年ほど前の2013年10月初旬、私は経済学の教授として勤務していた米国海軍兵学校のオフィスの円卓に座っていた。私と同僚は、学部を率いる際持ち回りで仕事をしており、その日は私の番だった。その日、私は民間人の同僚たちに、一時帰休を知らせる手紙を手渡すという不本意な仕事を任された。
それが終わると、私も一時帰休になった。
海軍兵学校の幹部たちは、概して政治的な混乱からキャンパスを守ることに長けていたが、3兆8000億ドルという連邦予算のかなりの部分が単純に消滅してしまうと、隠しようがない。最近、西に50マイルほど離れたところにある連邦議会ビルで、そのようなことが起こったのだ。政治家が予算の妥協点を見つけられず、その結果、私と同僚はしばらくのあいだ、給料をもらえなくなった。
その時は気がつかなかったが、これがやがて私がチューダー ノースフラッグを購入することになる道のりの登山口だったのである。
経済学部の教授になろうと決めたとき、一時帰休をすることが仕事の一部だとは思っていなかった。当時、私はアカデミーで働くことが好きだった。学生たちは聡明で、数学についてかなりしっかりした理解を持っていたから、その基礎は私の授業に特に役立ったものだ。アメリカ初のノーベル賞を受賞した、A.A.マイケルソンが光の速さを測る実験を行った場所の標識の前をいつも歩いていた。フィリップ・V・H・ウィームスも卒業生で、彼が開発した航海用の回転ベゼルは、今日までツールウォッチのデザインに影響を与え続けている。
ある日、学部長たちと会議をしていたら、テーブルの向かいに座っている人が、スペースシャトルで2回も宇宙へ行ったことがあることを知った。宇宙飛行士と頻繁に会議をすることに慣れるまで、しばらく時間がかかったものだった。
すべての物事には終わりがある。一時帰休や、その他いくつかの組織の方針転換により、私の役割や働く環境は、ますますストレスのたまる方向に変化していった。健康にも影響が出始め、残念なことに、私は在職期間を「金の手錠」のようなものにしていた。
もっと早く転職すべきだったかもしれないが、結局は次のステップに進むべきときが来たわけだ。そして、その手錠を外し、私は今の大学の教員になった。しかし、そのために、私はプロフェッショナルのはしごの一番下の段から、もう一度登らなければならなかった。それは、大きな、そしてリスクのある、信仰の跳躍のように感じられた。
パラレルな展開
私がこの新しい機会を得るための準備をしていたのと同じ頃、チューダーはノースフラッグというモデルによって、同じように大きな転換をした。バーゼルワールド2015で発表されたこの新しい時計には、チューダー初の「自社製」ムーブメント、COSC認定のCal.MT5621が搭載されていたのだ。
エキシビションケースバックから見えるムーブメントとその巻上げローターには、ほとんど装飾が施されていない一方で、文字盤はブラックを基調に、ホワイトのアプライドインデックスとイエローの秒針が大胆に配されている。さらに、9時位置のパワーリザーブインジケーターは、回転するディスクに白い矢印のポインターを組み合わせたもので、まるでレッセンスかのような雰囲気も持っている。香箱内のパワーリザーブは、文字盤に描かれた分割され湾曲した黄色い円錐で示される。そして、3時位置には日付表示。時針の先端は、先行して存在するチューダー レンジャーによく見られるアロー型で、分針はオベリスク型になっている。
ノースフラッグは、チューダーが自社製ムーブメントを広く採用するきっかけとなった過渡期のモデルだ。2015年以降、このムーブメントは、ブラックベイやペラゴスからなるダイバーズウォッチシリーズなどに搭載されるようになった。ノースフラッグのブレスレットも一体型とされ、このデザインはチューダーにとって初めてのものではないものの(チューダー オイスタープリンス Ref.9101などがある)、その後、ブランドのカタログに広く採用されるようになったものだ。
覚えている限りでは、ノースフラッグが発表されたときの記憶はない。リロケーションは、私の家族にとって困難なプロセスだったから、多くの友人とよいコミュニティを残して、私たちはかなり忙しくなった。それでも、長い目で見れば正しい決断だったと思う。子供たちは、いとこ、おじ、おば、祖父母、そして100歳を超えた曾祖父母とも親しくなった。そして、ありがたいことに、職場の新しい仲間も増えた。
正直なところ、Hodinkeeで私の人生について詳しく紹介することは、非常に重要なことだ。私は、かなり熱心な読者であるという自負があり、Hodinkeeを読み始めたのはいつ頃だったかというと、おそらく2010年代半ば頃だったと思う。2017年12月にポール・ニューマンの「ポール・ニューマン」ロレックス デイトナがフィリップスに登場しようとしていることを知ったのは、もう十分早い時期だったと記憶している。
このセールは、コレクターや時計業界全体にとって、ある種の分岐点となるものだと伝えられていた。最近コネチカット州に引っ越したことで、ニューヨーク市に近いという予想外の副次的な効果があったのだが、そこで私はフィリップス社に連絡を取り、セールに参加することを申し込んだ。大学の授業でオークションの勉強はしていたが、ハンマーが振り下ろされるあの記録的な瞬間に立ち会えたのは、並大抵のことではない。
ニューヨーク近郊に引っ越したことで、時計業界の様々なイベント(講習会や講演会など)に参加し続けることもできた。そのなかで、経済学を専攻していたことが、時計業界の力学にユニークな示唆を与えていることに私は気づいた。そこで、ブログ「Horolonomics」を立ち上げ、そのような考察やコメントを誰にでも発信するようにした。
ブログの執筆は楽しく、フォーラムやインスタグラムなど他のプラットフォームで読者と交流することもまた楽しかった。やがて、フリーランスとして時計業界に関する記事をいくつか発表するようになり、オークションやその他、私が面白いと思ったトピックをいくつか取り上げるように。この業界について書くことを指導してくれた人たち、そしてこのコミュニティの新参者である私を歓迎してくれた人たちに、私は永遠に感謝している。
大学の仕事はすべてが順調に推移していた。そして、2019年の春、私は2度目のテニュア(終身在職権)を獲得したのだ。個人的にも仕事的にも飛躍したことが、正式にうまくいったということで大きな安堵感があったのを覚えている。私は、そのお祝いと記念に腕時計を購入することにし、予算を決め、選択肢のリサーチを開始した。
このとき、チューダーのノースフラッグに出会ったのだ。その時期は、eBayで安価な時計を何本も買いその多くを転売していたので、このプラットフォームには安心感があったため、中古のノースフラッグの価格調査を始めた。自宅から近い場所に正規販売店がなく、オンラインで中古品を購入するのがベストな選択だと考えた。
取引は完璧ではなかった。私は売り手にメッセージを送り、ベゼルが研磨されているかどうかを尋ね、彼らはそれが元の状態であると答えた。しかし、時計が到着すると、それは間違いなく工場の仕様を満たしていない鏡面仕上げが見られた。特にブレスレットには他の摩耗の兆候が感じられたが、私は結果としてそのまま取引をした。
この買い物は間違いないと、自分自身に少しプレッシャーをかけていたのも事実だ。というのも、この時計は個人的にかなり重要な節目と関係があるため、絶対に売ることができない時計だったからだ。ノースフラッグを身につけるたびに、自分の選択が正しかったと実感している。
ノースフラッグを手にしてから、チューダーとロレックスに対する私の評価は大きく高まった。パンデミックの初期に、私はアーカイブ研究プロジェクトを開始し、最終的に拙著『Selling the Crown: the Secret History of Marketing Rolex』の出版に至ったのである。
この本を完成させるために行った作業は、ビジネス史において最も価値のあるブランドの一つを作り上げるために必要な、膨大な努力を理解するのに役立った。その過程は完璧ではなかったが、私たちのなかに完璧を求める人はいないだろう。ロレックスとチューダーは、何十年にもわたって、不確実な結果に直面しながらも成功を収めた人々の手首に装着されてきたのだ。だからこそ、私自身の大きな転機を祝うために、チューダーの過渡期に生まれた時計を選んだことは、非常に幸せなことなのだ。
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