この業界で半世紀を経た今も、ジャン-クロード・ビバー氏は注目を浴び続けている。彼が話すと、人々は耳を傾ける。そして、それが問題となることもある。
ビバー氏は非常に話し好きで、熱くなりやすく、つい大げさに語ってしまうことがある。また、ときに自身の展望について先走ってしまうことも。たとえば、2022年のRTS(Radio Télévision Suisse)のインタビューで、彼は自分の名前で新しいブランドを立ち上げると発表した(私たちはそのニュースを翻訳してお伝えした)。しかしその1時間半後、ジュネーブの弁護士が商標を登録。ビバー氏がその時点でまだ商標登録をしていなかったため、どうやら人質に取られてしまったようだ。
注目を浴びるジャン-クロード・ビバー氏。
それから1年あまりが経ったWatches & Wonders 2023の前日。ビバー氏は彼の壮言大語をドライにファクトチェックするべく同席した22歳の息子・ピエール氏とともに、ジュネーブから30分の距離にある小さな町、ジヴランにある農家のアトリエで自らの名を冠した初の時計を発表した。
フォアグラが運ばれ、花火で飾られたケーキが振る舞われ、雨に濡れた牧場の芝生で泥に埋もれたポルシェが並ぶなど、豪華絢爛なイベントとなった。そして、150人のコレクターと業界の著名人を前に、ついに1本の時計が姿を現したのだ。
カリヨン トゥールビヨン ビバー。
その時計は、“カリヨン トゥールビヨン ビバー ”と名づけられた。トゥールビヨン、カリヨン ミニッツリピーター、マイクロローターを搭載し、石の文字盤には複数のオプションが用意されている。ご覧の時計は、JCビバーがフィリップスでオークションに出品する予定の、1点限りのプロトタイプだ。
9月には、チタン、ローズゴールド、またはその両方を取り入れたツートンカラーで、あなただけのカリヨン トゥールビヨン ビバーを購入することができるようになる……、52万スイスフラン(約7425万円)の余裕があればだが。壇上でビバー氏は、「価格のことが気にならなくなるくらいに品質は維持していきます」と主張した。
カリヨン トゥールビヨンのトゥールビヨンケージと、ストーンダイヤル。
ビバー氏は今後、ブランドとしてさまざまな複雑機構を搭載した腕時計をリリースし、価格のレンジを広げることを約束した。ただひとつだけ変わらないことがあるといい、家長たるビバー氏曰くそれは“仕上げへの誇り”であるという。そしてこれこそが、この時計に魂を与える要素なのだ。「魂が時計のなかにとどまるような仕上げは絶対にしない。魂は自由でなければならないのです」
このリリースの詳細について、また、J.C.ビバーが自らの意向に叶う時計に必要な条件をまとめた4ページにも及ぶ“封書”については、希少なコレクションを実際に手に取りながらそのうち紹介しようと思う。今は、当日の様子を楽しんで欲しい。
ジヴランの、ビバー氏の工房がある農家。
ビバー氏は、日本の経営哲学である“カイゼン(改善)”を信奉している。工房の入り口には日本の甲冑があり、HODINKEE Japanの同僚によると「大鎧(おおよろい、あるいは“ビッグアーマー”とでも読むのか)」と書かれてあるそうだ。これは……、この甲冑を表すのにとても適切な表現だと思う。
降り続く豪雨に見舞われながらも運よく持ちこたえたテントのなかから、牧歌的な風景を眺める。
ピエール・ジャック氏(ドゥ・ベトゥーン社CEO)、エドゥアルド・メイラン氏(H. モーザー社、左)、Abdul Hamied Seddiqi氏(Ahmed Seddiqi & Sons社)と。
メイラン氏とピエール・ビバー氏は、業界のリーダーとして若い世代を代表する存在だ。しかし、ビバー家の家長もまだまだ活動を続けている。
H.モーザーのベンタブラックを着用したエドワード・メイラン氏。
2022年のWatches & Wondersで発表されたレフティのロレックスGMTを、(信じられないことに)左手に装着!
ジャン-クロード・ビバー氏は、フィリップスでオークションにかけられる、稼働中の希少なプロトタイプを着用していた。
ダヴィデ・パルメジャーニ氏(私は世界で最も重要なヴィンテージウォッチディーラーだと思っている)は、約300ページにも及ぶプレスキットに手を入れた。
私たちの親友で元同僚のローガン・ベイカーは、ブランパンをつけて現れた。
ピエール・ビバー氏は同社において主要な役割を担っており、最初に登壇した。自由奔放な父とのステージでは、彼はゲーム感覚でツッコミ役を演じ切った。
父親の大げさな話をリアルタイムで即座に訂正するピエール・ビバー氏。
大いなる試練として、試作したリピーターをステージで演奏……。
...…して、その写真を投稿した。
ガラスの向こうに厳重に保管されていない、数少ないビバーウォッチ。
業界歴50年を記念し、ピエール氏は父にケーキをサプライズプレゼントした。
そして、時計を見られる時間がやってきた……、もし、時計までたどりつけたなら。
近づいてみよう。
これがその栄光を示す時計であり、少なくともスケルトンモデルだ。
まだ生産数が極めて少ないため、ブランドはケース展示に踏み切った。
拡大鏡で見たムーブメント。
GPHGの審査員でありフィリップ・デュフォー氏の娘でもある若く才能ある時計師、ダニエラ・デュフォー氏が、彼女自ら時計を撮影していた。
カリ・ヴティライネン氏(左)とアーサー・トショット氏も合流。
ビーツ by ビバー。プレゼンテーションが終わると、パーティが再開した。
もう少し時計にスポットを当てておこう。このツートンカラーのノーチラスは、いまだにパテックが打ち破ることが困難な存在であることを証明している。
アンドレア・パルミジャーニ氏の腕にあった、ロス・ポヴェイ氏が所有するワイルドなジェムセッティングのデイトナを紹介。ひとつの時計に、ふたりの偉大な人物。
うーん、これは一体誰のものなんだろう?
マックス・ブッサー! 今回のパーティで最も注目を浴びていたゲストのひとりだ。
プロトタイプの“グレイルウォッチ”、ルドヴィック・バルアーを装着するウェイ・コー氏。
挨拶回りをするオーレル・バックス氏(右)。
お菓子もある……。
……ドリンクもだ。
ノモス ヴェルトツァイトに始まり……。
……古きよきロイヤル オークまで
さて、帰る時間だ。
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