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Review ライカQ3は史上最高の時計愛好家向けカメラだろうか

より解像度が高くなったセンサーと可動式のチルト液晶が、今まで以上に腕時計の撮影にも最適なカメラに仕上がっている。

僕が初めて本格的なカメラを手に入れたきっかけは、腕時計でした。当時執筆していた時計ブログで、iPhoneではなくもっと高画質な写真で時計を紹介したいと思ったからです。そこでAPS-Cセンサーを搭載した富士フイルムのミラーレスカメラを購入しました。きっかけは時計でしたが、それからはカメラにもハマり、レンズを買い集めては風景写真やストリートフォトグラフィにも挑戦するようになりました。

 HODINKEEに入社してからは、仕事用にキヤノンのフルサイズ一眼レフカメラが支給されました。ただバッテリー含めた本体だけで890gで、ブツ撮りでよく使用する100mmマクロのレンズまで含めると約1.5kgとかなりのヘビー級。そのためしばらくは富士フイルムも併用していました(こちらは本体だけで337g)。ですが、普段から気軽に持ち出せるカメラでオンオフ問わず使うことができるカメラが欲しいと思うようになりました。HODINKEE Magazine Japan Editionの発行が決まり、自分が撮影する写真が印刷されるかもしれないことを考えたとき、ついにカメラをアップグレードすることにしたのです。

LEICA Q2・1/3200S - F1.7

LEICA Q2・1/60S - F2.5

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 そこで手に入れたのがライカQ2。実際に使ってみると、プライベートの撮影だけでなく、日々の仕事で腕時計の写真を大量に撮影するという僕のあまりに特殊なニーズに応えてくれる、まさにオールインワン・カメラと呼ぶに相応しいパワフルな一台でした。

 何気ない日常のスナップ、スイスの時計見本市Watches & Wondersの会場でブースからブースへ駆け回っているときはもちろん、出張でイタリア海軍への体験入隊プログラムに参加し、アサルトライフルと一緒に肩からぶら下げていたときだって完璧にワークしてくれました。

LEICA Q2・1/500S - F5.0

LEICA Q2・1/1600S - F6.3

  そして今年、僕がこれまで最も時間をともにしたライカQ2に後継機となるライカQ3がついに登場したのです。僕は幸運にも2週間ほどそれを試す機会を得ました。


ライカQシリーズとは

 ライカのフルサイズカメラは、大きく分けて3種類がラインナップされています。レンジファインダーカメラの「M型ライカ」、ミラーレス一眼カメラの「ライカSL」、そしてレンズ一体型のコンパクトデジタルカメラ「ライカQ」シリーズです。M型ライカは、レンズ交換式のマニュアルフォーカスのみ、ライカSLとライカQはどちらもオートフォーカスに対応していますが、ライカQのみレンズ交換ができない仕様となっています。

左が僕が愛用するライカQ2、右が今回ハンズオンした新作のライカQ3。

 そんなライカQは、2015年に初めて登場しました。デザインは、M型ライカに範を取ったミニマルでどこかクラシカルなスタイルです。アルミニウム無垢を削り出したトップカバー、グリップ力を高めるレザーが巻かれたマットブラックのマグネシウム合金製のボディには、明るいマーキングが施された「ライカ ズミルックス(Summilux) f1.7/28mm ASPH.」レンズが装着されています。

すべてをやってのけるキラーレンズ。

 実は2019年に第2世代として登場したライカQ2も2023年5月に第3世代として登場したライカQ3もすべて同じレンズが採用され続けています。ライカQシリーズ最大の特徴は、この28mm単焦点レンズとフルサイズセンサーを活かして、さまざまな焦点距離のレンズをシミュレートするデジタルズーム(クロップ機能)です。

 レンズ自体は最大f1.7の絞り値・焦点距離28mmのズミルックスですが、カメラ背面右上のボタンを押すことで、電子ビューファインダー(または背面液晶)にフレームラインが表示され、35mm、50mm、75mm…とまるで複数の焦点距離のレンズを交換しているような感覚で撮影することができるのです。

レンズのリングを“MACRO”にあわせれば、マクロ撮影にすぐに切り替えることができる。

 またこのレンズにはマクロ機能が搭載されており、レンズ根本のリングを回すことで切り替えることができます。最短撮影距離は17cm。つまり被写体にぐっと近寄って撮ることができるため、時計の物撮りにも最適な仕様となっているのです。写真を撮るというプロセスに没頭したいときは、マニュアルフォーカスに切り替えて楽しむこともできます。

 ライカQシリーズは、外観デザインも基本的に変わることはありません。世代を経るごとに与えられるアップデートは、有効画素数の向上、ビューファインダーの高精細化や防塵・防滴性能の付加などのスペックアップがほとんどです。ただし最新作のQ3には、これまでになかった機能もいくつか与えられています。ここからはライカQ3について詳しく見ていきましょう。


ライカQ3のスペック

ライカQ3

 ライカQ3は、すでに非常に優秀なカメラであったライカQ2の性能、機能、そして人間工学に基づいたカメラの構造に対して大幅なアップデートが施されたモデルです。先述の通り今回も多くのスペックアップが盛り込まれています。

 まず、センサーはライカQ2が47メガピクセルだったのに対して、Q3では60メガピクセルへとアップグレードされました。9520 ×6336ピクセルという非常に大きなサイズの画像処理を可能とするため、より高速なプロセッサーも搭載されています。

 センサーの高画素化は、さまざまな焦点距離のレンズをシミュレートするクロップ機能が強化されたことを意味します。ライカQ2では35mm、50mm、75mmまでだったのに対して、なんとライカQ3ではさらに90mm相当の画角にクロップ記録することができるようになりました。以下のスライドショーを見ていただければ、1枚の写真にどれだけのディテールが残っているのかがよくわかると思います(作例はマクロ撮影)。

ライカQ3のクロップ機能

28mm(クロップなし)

35mm相当

50mm相当

75mm相当

90mm相当

 この機能で特筆すべきは、Adobe社のLightroomなどの編集ソフト上では“トリミングされた”画像が表示されますが、マスターRAWファイルには28mmの全画素情報が保存されていること。あとからズームアウトして広角に戻すことも可能です。

 また、2022年発表のライカM11に登場したものと同じトリプルレゾリューションテクノロジーも取り入れられているため、必要に応じてファイルサイズを選択することも可能です(6000万画素、3600万画素、1800万画素の3種類)。高画素を選択すれば、Q3のスペックを最大限に引き出した高精細な撮影ができ、ファイルサイズを小さくすれば、動きの早い被写体や連写など迅速な撮影が可能になります。

ライカQ3から新たに搭載されたチルト式モニター。

 今回のアップデートの目玉は、チルト式背面モニターでしょう。これまでになかった初めての仕様です。カメラのポジションの制限が少なくなったことで、目線よりも高い位置にカメラを構えたり、ぐっとローアングルで撮影したりしやすくなりました。

 液晶の解像度は約184万ドットにアップしています。また、有機ELのEVF解像度も576万ドットにアップし、より視認性が向上しています。

レリーズボタンが装着できるようになり、カスタマイズ性もアップ。

 ハードのアップデートはこのほかにも、ボディの左手側面にUSB-C端子とHDMI端子の新たな追加、大容量化したバッテリー「BP-SCL6」の付属、ワイヤレス充電への対応(別売りハンドグリップが必要)などが挙げられます。

 ソフトウェア面では、Wi-Fi機能のアップデートによってスマートフォン・タブレット端末用の「Leica FOTOS」アプリとの接続の高速化によるワイヤレスでの画像転送が実用的になったり、動画の8K撮影にも対応するなど大幅に性能が強化されました。


ライカQ3を実際に使ってみて

 外出するときは必ずといっていいほど持ち歩くようにしているライカQ2は、僕にとってすでにほとんど完璧なカメラです。ライカQ3では、それが強化されているというのだから間違いはありません。ライカQ3を手に取った感触、重量の違いは分かりませんでした(実際はバッテリー含めて約10gだけQ3の方が重い)。

 物は試しとカメラを受け取ってすぐに日常でどのように機能するのかを確認するため、僕はQ3を連れてさまざまな場所を訪れることに。ひとことで言えば、かなりうまくいきました。

LEICA Q3・1/50S - F4.0

 素早く正確なオートフォーカス、よりクリアになったビューファインダー、マニュアルフォーカスも使い慣れたものです。背面ボタンの配置などいくつかの変化への多少の慣れは必要でしたが、基本的に戸惑うことは一切なく、撮影中に気づくような大きな変化もいい意味で多くはありませんでした。

LEICA Q3・1/1250S - F6.3

LEICA Q3・1/50S - F1.7

 チルト液晶は意識して使おうとしないと、つい普段Q2を使うように撮影してしまいます。これまでは、ローアングルのときはぐっと屈み、より高いところを撮影するときは手を大きく上にあげて撮影し、プレビューで確認しながら行っていましたが、チルト液晶を積極的に使い始めると撮影体験が変わります。横浜港 大さん橋の階段から停泊する客船を見上げるショットやSHIBUYA SKYからぐっとハイアングルで見下ろしたショットのような、いつもはあまり撮らない構図にも挑戦するようになりました。

LEICA Q3・1/80S - F3.1

LEICA Q3・1/50S - F1.7

LEICA Q3・1/500S - F4.0

 ライカQ3が真にその価値を発揮するのは、ポストプロダクション(撮影完了後の編集作業)のときだと感じました。Q3の14ストップのダイナミックレンジは、ハイライトとシャドウの両方に大量のディテールが含まれています。ビスポークシューメーカー福田 洋平さんのアトリエで撮影した写真は、外からの差し込む光と部屋の中の明暗差が激しかったのですが、白飛びや黒つぶれもなく情報が保たれています。

 道路の反対側に停まるセリカLB 2000GTを見つけてサクッと撮影して、あとからクロップした写真もボディの美しいグラデーションや車の細かな装飾など鮮明に写されているのがよくわかります。撮って出しの状態でも素晴らしいのですが、調整できる領域が大きいということは重要なことなのです。

 さて、いよいよライカQ3で時計の写真を撮影することについてのパートに入りますが、まずは僕がライカQ3で撮影した写真をいくつかご覧いただきたいと思います。

LEICA Q3・1/800S - F5.6

LEICA Q3・1/125S - F2.8

LEICA Q3・1/250S - F5.0

 自分で言うのもなんですが、かなりいい感じです。これはQ2を使っているときから感じていることですが、ズミルックスレンズで映し出された写真には歪みがほぼないという素晴らしい特性があります。通常28mmのレンズでこれだけ近づいて撮影すると多少の歪みが現れるのですが、まったく気になる部分がなく、とても正確に見えます。

LEICA Q3・1/800S - F5.6

 そして、時計の細部まで美しく写し出す描写力。僕は、Q3の高画素化によってクロップ耐性の向上という恩恵を時計の撮影で特に強く感じました。上は、パテック フィリップ Ref.5970Pの写真をさらにクロップしたもの。ここまで寄るとデジタルのスクリーン上でもサブダイヤルの細かな溝まではっきりと認識できますよね。腕時計というわずか5cm四方に満たない腕元の世界を切り取るツールとしては、これはかなりのアドバンテージです。

LEICA Q3・1/50S - F3.2

 では、リストショットはどうでしょうか? ここでチルト液晶の出番です。真上からのリストショットは、いつもなら自分が覆いかぶさるようにして撮影するのですが、その必要はなくしっかりポジションを決めて撮ることができるため、とても相性がいいのです。ライカQ3なら美しいリストショットをより簡単に楽しく撮ることができます。

LEICA Q3・1/50S - F5.6

LEICA Q3・1/50S - F5.6

 ライカQ3は、高級カメラです。価格は税込み90万2000円と決して安くはありません。それでもこの金額で得られる価値は、プライスタグ以上のものがあると思います。よくライカ好きたちが語ることですが、ライカ ズミルックス 28mmを手に入れようと思ったらレンズだけで100万円を超えるのです。ライカQシリーズは確かにレンズ交換はできませんが、Q3なら実質5つのレンズがあるかのように機能してくれます。もちろん擬似的なものであって、望遠レンズのような圧縮効果は生まれないことは理解しておく必要がありますが、それでもこれだけクロップできるのは表現の幅が広くあるということです。

 魅力的なのはレンズだけではありません。防塵防滴仕様のよくできたボディ、素晴らしいソフトウェア、そしてどこにでも持って行きたくなるようなパッケージがこれ一台ですべて手に入るのです。

LEICA Q3・1/160S - F3.4

LEICA Q3・1/50S - F4.0

 僕はライカQ2を所有してるので、Q3の発表を聞いたときはすっぱい葡萄のように思っていましたが、実際に使ってみて、これがライカQシリーズの正統進化であり、その魅力が間違いのないものであることを確信しました(あえてすっぱい部分を言うなら、ファイルサイズが大きくなったことでPLAYボタンを押してから写真が表示されるまでにもたつくことがあるのですが、おそらくソフトウェアアップデートでじきに解決されるでしょう)。正直なところライカQ3を試す最終日は、返却したくないくらいでした。


結論

 もし僕がライカQ3にアップグレードしたとして、今後その一台だけで十分なのかと聞かれれば、答えはノーです。確かにWatches & Wondersの会場など大量の機材を持ち歩きたくないとき、この一台だけで完結させることもありますが、HODINKEEの仕事ではほかのレンズを使用しなければならないシチュエーションも多くあるのです。仕事用に使っているキヤノンがなくていいわけではありません。

 ただこれは、HODINKEEという特殊な職業のなかで、非常にニッチなニーズ、そして好みがあるからであって、ほとんどの人にとってライカQ3は最高のオールインワンカメラだと言えます。家族や友人の写真を撮ったり、次の休暇に訪れる場所で素敵な風景を撮りながら、リストショットも綺麗に納めたい。それなら僕はライカQ3をおすすめします。なぜならライカQ2が僕にとってもそうしたカメラであるからです。

 実際、僕はライカQ2を手に入れてからというもの、ほとんど毎日肩からぶら下げて持ち歩いてきました。どんなに素晴らしいカメラであっても家にずっと置きっぱなしになっていては、まったく意味がありません。

 今、多くの人たちがいつも持ち歩いているカメラといえば、スマートフォンのカメラがあります。性能や機能が大幅に向上していることが話題になっています。でもスマートフォンの普及で誰もが手軽に高画質な写真が撮れるようになった時代だからこそ、わざわざカメラで写真を撮るという行為自体が特別なものであるように僕は感じるのです。それこそ時間を確認することだってスマートフォンでもいいのですから。でも僕たちはそうせずにあえて機械式時計を愛でている。カメラにも共通する魅力があるのです。

 今回のレビューではライカQ3を取り上げましたが、たとえほかのカメラであっても同じように喜びが得られ、撮影した写真に満足できるのであれば、それがあなたにとってのベストなカメラだと思います。時計趣味だって高価なものを買わなければ楽しめないというものでは決してありませんよね。

 結局のところ写真を撮って、それを楽しんでいる限り、それがすべてなのです。でももし、ライカが気になるのなら挑戦してみてはどうでしょう。素晴らしい写真が撮れる、使っていて最高に楽しいカメラが欲しいのなら、ライカQ3は間違いなくあなたにぴったりです。

ライカQ3 35 mmフルサイズ コンパクトデジタルカメラ、寸法(幅×高さ×奥行):約130×80×93mm、重量:約658g / 約743g(バッテリー無/有)、8GBバッファメモリー、8K動画撮影対応、価格:90万2000円(税込)

詳細はライカ公式サイトへ。

Portraits by Ulysses Aoki