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In-Depth ルイ・ヴィトン タンブール カルペ・ディエムは執着しすぎないように注意するためのアイテムだ

「どこかのご婦人の部屋へ行け、そしてこの顔に1インチも厚化粧をしてもらえ、それでご婦人を笑わせたらどうだ」– ハムレットより


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「哀れなヨーリック、私は彼のことをよく知っていた」- しかし、シェイクスピアが思い描いていたのは、このようなスカル(頭蓋骨)ではなかったに違いない。ダイヤルには髑髏と、尻尾がレトログラードセコンド表示になった蛇が高浮き彫りで彫刻され、側面のレバーを操作するとミニッツリピーターが作動し、蛇が飛び出してくるというもの。尾は前方に移動し、時間経過後の分を示す。頭蓋骨の顎が開き、“その日を摘め”を意味するラテン語“Carpe Diem(カルペ ディエム)” の文字が現れる。また、花の周りを囲む格子模様はルイ・ヴィトンのシグネチャーであるモノグラム・フラワーの形に変化する。この時計では多くのことが起こり、かなり多くのことを解明しなければならない。標準的な時計用語で言えば、これはジャックマール(英語では“ストライキングジャック”と表現されることもあるからくり仕掛け)付きの、オンデマンドで時間を示すのミニッツリピーターウォッチであり、ジャンピングアワー表示を備えている、ということだ。

 「一枚の絵は千の言葉に値する」とはよく言ったもので、それが真実であるならば(そしてしばしばそれは真実である)、1000枚の絵とまではいかないかもしれないが、この時計が実際に動いているところを見る価値はあると思う。

 最初に断っておくが、この時計は、デザイン、意図、製作の全てにおいて、日常的に使用し、袖を通すような控えめな時計を目指したものではない。しかし、その華やかでバロック的な仕上がりにもかかわらず、少なくともウォッチデザインの観点からは、このモデルはかなり長い系譜に属しているのだ。これは、“メメント・モリ(memento mori =「死を忘るなかれ」という意味の警句)”と呼ばれる哲学的なメッセージを送るために作られた、美術品やオブジェの流れを汲むものなのだ。

 文学では、数え切れないほどの例がある(「おとめたちへ、時間を大切に」など)。また、そういった意味はそれ以前にもあったが“carpe diem(カルペ・ディエム)”は、ローマの詩人ホラティウス のオデッセイに由来している。この意味は通常、“その日を掴かめ”と訳されているが、ラテン語での実際の意味は“熟した果物のようにその日を摘み取れ”という意味に近いと私は読んでいる。ビジュアルアートやデザインでメメント・モリとして使われる最も一般的なシンボルの1つは、骸骨やスカルだ。それらはまるで世界が特異なものを犠牲にした一般大衆のジョークでという悟りを笑うかのように、永遠に笑い続けている。

ロンドン科学博物館のスカルウォッチ

 時計製造においては歴史的に、ミニチュアの頭蓋骨をケースにした時計がしばしば作られてきた。数多くの例があるが、最もよく知られているのはロンドン科学博物館に収蔵されている時計工名誉組合 (Worshipful Company Of Clockmakers)のコレクションの一つだ(このコレクションは、時計製造や時計学に純粋に興味をもっている人なら必ず見るべきだ。コーアクシャル脱進機を搭載した最初の時計から、信じられないかもしれないが、初期の原子爆弾の信管まで、あらゆるものが含まれている)。その時計には精巧な彫刻が施されており、その出所は不明だが(おそらくフランス、19世紀初頭)、メッセージははっきりと伝わってくる。

 最近では多くのメーカーがこのジャンルに挑戦しているが、概してスカルウォッチのスカルに多くの人が動くことを期待しないように、純粋に装飾的なものだ。今回のモデルはありふれたスカルウォッチ(そんなものがあるとすればだが)とは全く別物だ。

 時計のチャイムが鳴るたびに登場するからくりの仕掛けには、かなり長い歴史がある。ストライキングジャックは、中世の塔時計において、毎正時に鐘やゴングを叩いて時間を知らせる人形として誕生した。時計や腕時計では通常、より純粋に装飾的な役割を果たしているが、それでもまだ鐘や銅鑼を叩く姿をしていることが多い(いわゆるエロティックなジャクマールもあるが、ここでそれらに言及して狩りの楽しみを損なうようなことはしない。ただ、 一度も見たことのない方には警告しておくが、多くの場合、交通事故と同じくらいエロティックなものだ。“メカニカル”は必ずしも美徳ではないのだ) 。ミニッツリピーターはよく知られた複雑機構だが、最近ではうまく作るのが難しくなっている。しかし、タイム・オンデマンドとチャイム・オンデマンドの表示を組み合わせるのは、かなり珍しいことだ。時計界では、本当の意味での初の試みは数多くないが、私の頭の中では他に例を見出すことができない。

 ここで展開されている工芸のレベルは非常に高いものだ。蛇の体にエナメルを施しているのは、おそらくスイスで最も有名なエナメル職人であるアニタ・ポルシェだ。ポルシェは、知らない人のために説明すると、クォーツ危機後の時代に、エナメル細工やエナメルの細密画の技術を存続させた、極めて少数の職人達の1人だ。立体的な面に半透明のエナメルを施すのは、平面よりもかなり難しい(平面に描くのも簡単ではないが)。エングレービングは、少し前にニューヨーク・タイムズ紙が紹介したジュネーブの職人、ディック・スティーンマンによるものだ。この時計を実際に見ることができるとしたら、もっと多くのことを語れるだろう。エナメルとエングレービングだけで、視覚的にも間違いなく顎を撃ち抜かれるような衝撃だろう。

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 このムーブメントは、ルイ・ヴィトンが既製品をもってきたものでないことは明らかだ。ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングアトリエ「ラ・ファブリック・デュ・タン ルイ・ヴィトン」で製作されたもので、これは2012年にルイ・ヴィトンが買収した、高名な複雑機構のスペシャリストだ 。純粋に技術的な観点から見ると、これは非常に大変な作業だ。時計を作動させる際には、蛇のダンスとゴングのチャイムがちょうど16秒で終わるように、これら全ての可動要素が完璧に同期して動作しなければならず、それには多くのエネルギーが必要だ。プレスリリースでは完全には明らかになっていないが、蛇を動かす輪列と、ミニッツリピーター用に、それぞれ別の主ゼンマイが使用されているのではないだろうか(ミニッツリピーターとソヌリは常に別の主ゼンマイで駆動しており、ケース内のスライドやプッシャーを作動させると巻き上げられる)。このムーブメントは、同アトリエで開発され、いつも鋭いSJXによると、ローラン・フェリエがガレ ミニッツリピーターに採用したリピーター機構をベースにしているそうだ。

 子供の頃、存在しないということがどういうことか夜な夜な想像していた者として(それは、考えるなといわれてもピンクの象のことを考えてしまうのと同じくらいあり得ることで、同じくらい時間の無駄でもある)、メメント・モリについてはいつも様々な思いがある。自分がやがて死ぬことを思い出させてくれるものは必要としなかったが、ほとんど全ての時計はちょっとしたメメント・モリかもしれない。実際、私にとってはそれが魅力のひとつであり、それは瑕疵ではなく機能なのだ。しかし、好むと好まざるとにかかわらず、この死のコイルは遅かれ早かれ振り落とされるものであり、与えられた時間を最大限に活用することが我々には必要であると思い出すことは、時には救いとなるだろう。

 今では誰も読んでいないと思うが、カルロス・カスタネダ の言葉で、長年にわたって私の心に残っているものがある。彼は、師事したヤキ族のシャーマン、ドン・ファン・マトゥス から「死は常にあなたの左側に手の長さのところにある」と説明されたと書いている。そして、何かに腹を立てたときはそこに向かって「本当に重要なことなのか」と問うべきだと。死はあなたに「いや、それは重要ではない。重要なのは私がまだあなたに触れていないということだ」と言うだろうと。さて、皆が同じ運命を辿ることに気づかせるために5000万円以上(多かれ少なかれ)もする超複雑な時計を必要とする人がいるかどうかは分からないが、ドイツ語でtodesangst(=死の恐怖)と呼ばれるものの裏返しとして、死という現実があるからこそ生きていることに喜びを感じるという認識はある。実はそれこそがホラティウス (この時計の中で彼の“カルペ・ディエム=その日を掴かめ”は無言で語られている)が考えていたことなのだ。これは本当に楽しい時計だ。さて、私はこれから何か酔えるものを水差しに入れて「Gaudeamus Igitur」を1、2小節、口ずさみたいと思うが、皆さんはいかがだろうか? 結局のところ、スカルはスコール(乾杯)と韻を踏んでいるじゃないか。

ルイ・ヴィトン タンブール カルペ・ディエム: 18Kピンクゴールド製ケース、2個のルビーがセットされたピンクゴールド製の手彫りのプッシャー・ピース。46.8mm×14.42mm、30m防水。

ムーブメント: 手巻きキャリバーLV 525、 ラ・ファブリック・デュ・タン ルイ・ヴィトン が開発と組み立てを担当、4つのムーブメントを備えたジャックマール機構。ジャンピングアワー、レトログラードミニッツ、パワーリザーブインジケーター。部品点数426個、パワーリザーブ100時間、48石、2万1600振動/時で動作。

エナメル加工(ダイヤル、蛇、スカルの歯): アニタ・ポルシェ、エングレービング: ディック・スティーンマン 。

価格: 5550万円(税込み参考価格) 。ルイ・ヴィトンの時計についての詳細は、ルイ・ヴィトン公式サイトを。