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Auctions 超レアなロレックスのディープシー・スペシャルが2本オークションに登場

水のなかには何かがある。

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もしあなたが家のなかで山のような現金に囲まれ、ロレックスの博物館級のレア時計が手に入る次のチャンスはいつだろうと思っているなら、あなたのためのオークション出品がある。それも、2本。

 そう、ここ数週間のうちに、フィリップスとクリスティーズの両社は、11月のオークションでロレックス・コレクターにとっての聖杯ともいえるディープシー・スペシャルを出品することを発表した。

クリスティーズに出品されるロレックス  ディープシー ・スペシャル ナンバーワン。

 ダイバーズウォッチマニアのあいだで、海の底でも耐えられる時計として知られるディープシー・スペシャルは、ロレックスが極限の圧力に耐えられる時計を作るための実験台だった。このプロジェクトは1953年に開始され、水深を増していくなかでどのように時計が機能するかを考慮し、一連のプロトタイプを開発していった。生産規模については意見が分かれるところだが、一般的には5~8個のプロトタイプが作られたというのが定説で、ロレックスは後に35個の記念モデルを製作した。これらは本来、販売目的ではなく、ブティックや美術館での展示を意図されたものだった。

 初期の試作品はこれまでに3本(No.1、No.3、No.5)しか世に出ていないが、当初の目的は単純なものだった。それは、「海の底にまで行ける時計を作る」ということだ。とはいえ、人間がそこまで深く潜ることはできないし、それに近いことも無理だ(水深1万900m以上、つまり3万5000ft以上)。

ベイヤー時計博物館に展示されていた、ロレックスのディープシースペシャル。

 ちょっと考えてみて欲しい。もし、あなたが海底に立つことができたとしたら、水面までの距離は巡航中の民間ジェット機の高さに近い。もっと知りたい? 6.7マイル(約10.7km)以上の距離だ。垂直に。

 ロレックスは、潜水艦バチスカーフ トリエステ号を見つけ、この時計を潜水艦の観測塔の外側に取り付けて、2人の乗組員に「よい旅を」と声をかけたのだ。海底を単に目指しただけにとどまらず、潜水プロファイルの開発は(ディープシー・スペシャルの開発とともに)、1953年から1960年までの期間にいくつかの異なる深さの下でも行われた。

 トリエステ号の最も有名なダイビングは、1960年1月23日にアメリカ海軍のドン・ウォルシュ中尉とスイスの海洋学者ジャック・ピカール氏が乗船した最大深度1万908mに到達したものだが、これは第3回めで、実際にダイビングが始まったのは1953年のことだった。

ロレックス  ディープシー・スペシャル ナンバーワンのケースバック。

 まず、カプリ島の沖合で1080mまで潜り、1953年9月30日にはトリエステ号で3150mまで到達した(これを記憶しておこう)。その後、1956年10月にポンザ島の南側で潜った際には3700mまで到達した。1960年、ピカール氏とウォルシュ氏はさらに2回、7300mまでの潜水を行い、その後、チャレンジャー・ディープ(グアム沖にある世界の海で最も深い場所)で水深1万908mの記録的な潜水を行った。

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 前述した潜水では、トリエステの外側にロレックスが取り付けられていたが、すべて今回のダイバーズと同じ時計が取り付けられていたのではない。そこで、クリスティーズのセールの出番となるのだが…。


クリスティーズが出品するロレックス ディープシー・スペシャル ナンバーワン

 型番などが混乱を招くことは承知しているが、「No.1」はかなり明確だと思う。2021年11月8日にジュネーブで開催されるクリスティーズのセールでは、ディープシー・スペシャルの最初のモデルが出品される。このモデルは、1953年にトリエステ号が行った1080mと3150mの潜水に同行した時計なのだ。つまり実際に使われた時計だ。1953年の最深部への潜水後、ピカール氏はジュネーブのロレックスに次のような電報を打った。「時計は完璧に作動した。深度3150m、ピカール」

クリスティーズが出品するロレックス  ディープシー・ スペシャル ナンバーワン。

 最近の例を出すと、これは僕たち(とクリスティーズ)がよく知る、レザ・アリ・ラシディアン氏が「Talking Watches」で紹介したディープシー・スペシャルであり、彼が2005年にクリスティーズから32万2400ドル(約3800万円)という当時驚くような値段で購入した時計なのだ。記録されている他の時計と同様に、これはロレックスの自動巻きCal.1000を採用しており、動作確認済みで、ケースバックには「Rolex Oyster No.1 Deep Sea Special」と誇らしげに記されている。

 ジョン・ゴールドバーガー氏の著書『A Journey Into The Deep』のなかでラシディアン氏のコレクションの一部として紹介されたロレックス ディープシー・スペシャル ナンバーワンは、「ローグラス」仕様のクリスタルを搭載しているため、いわゆる「MKI」と呼ばれるモデルだ。写真を見ると冗談のようだが、ナンバーワンは実質的にディープシー・スペシャルの超薄型バージョンなのだ(リューズとリューズリングのデザインが違う)。

クリスティーズが出品するロレックス ディープシー スペシャル ナンバーワン。

 ナンバーワンが実際にウェアラブルであることについては疑問を感じていた。しかし、最近の電話で、レザ・アリ・ラシディアン氏は、17年近くこの時計を所有しているが、頻繁に着用し、ランチにつけていくこともあると言っていた。彼は、現代の多くの大型時計と比べ、手首に負担がかからないとも言った。

 その後のモデル - MKII - では、ロレックスが初期の潜水で得た知識を活かして、圧力に対応するためにクリスタルをより厚くした(「ハイグラス」と呼ばれる)ものが登場した。チャレンジャー号の記録的な深海潜水で実際に使用され、現在スミソニアン博物館に保管されているディープシー ・スペシャル ナンバースリーは、「ハイグラス」と白文字盤を採用し、MKIとはまったく異なる外観を持つ。

 好奇心を抑えきれず、レザになぜこのような特別な時計を売ろうと思ったのかを尋ねると、彼はパテック フィリップの有名な広告を引用して、こう言って笑った。「ディープシー・スペシャルを本当に所有することはできまんせん。でも、私は約17年間、その管理人を務めてきたので、そろそろ他の人が管理してもいいのではないでしょうか」。

 このモデルがスタートであり、実際使われ、ロレックスのハイエンド・コレクターの世界では有名な存在になった。以上の事から、2005年の価格に近い値段でナンバーワンを手に入れるチャンスがあると思っているなら、それはどうかしている。

ロレックス  ディープシー・スペシャル ナンバーワンのケースバック。

 時計の収集という点では、2005年はまったく別の時代だった。同じように色々なものがあったが、注目度と流動的な富のレベルがまったく違っていたのだ。ヒントが必要なら、クリスティーズはディープシー・スペシャル ナンバーワンのエスティメートを記載していないが、2009年(時計のインターネットが盛り上がり始めた頃)に展示品のNo.31は約43万5000ドル(約4785万円、インフレを考慮した現在の米ドルでは約55万5000ドル)という値段で落札された。

 入札があなたに有利になればいいが、そうでない場合、フィリップスはクリスティーズがナンバーワンを販売する数日前に、ジュネーブで開催されるセールに独自のディープシー・スペシャルを出品する。しかし、名前はさておき、それはむしろ別物だ。


フィリップスが出品するロレックス ディープシー・スペシャル No.35

 ロレックスがディープシー・スペシャルのディスプレイモデルを35本作ったと言ったことを覚えているだろうか? フィリップスは、そのうちの35番めを入手したようだ。よいコンディションのように見える。

フィリップスが出品するロレックス ディープシー No.35。

 オークション前の予想価格は120万~240万スイスフラン(1億4400万円から2億8800万円)だったが、このようなガイド価格を参考にしても予測するのは非常に難しいと考えた方がよい。この時計は、一般に販売されることは非常に稀であり、そもそも非常に希少な時計だ(最大でも35本の可能性とされ、近年になって出てきたものはかなり少ない)。

 No.35は1965年に製造されたとされ、ドイツの博物館に一時保管されていたほか、2002年にアンティコルムから販売されたこともある。この1本は、前述のナンバーワンの「ローグラス」よりもさらに厚い「ハイグラス」仕様である。この厚さのおかげで、水深10kmという、現代のロレックス サブマリーナーの約33倍の耐水能力が確保されているのだ。また、フィリップスが提供してくれた情報によると、No.35にはロレックスのCal.1570が搭載されているが、その巻上げローターは取り外されている(装着性のためと思われる)。また、裏蓋はデザインも刻印もナンバーワンとは異なり、日付と記録水深、製造番号は表示されているが「Deep Sea Special」や「Rolex coronet」の文字はない。

ロレックス ディープシー・スペシャル ナンバーワン(左)と、「ハイグラス」のディープシー・スペシャル N0. 35(右)

 まるで海の底のように、ディープシー・スペシャルのバックストーリーは深遠で見通せない。そしてこれらの時計 -ナンバーワンとNo.35- は、似てはいても同じでないと理解することが重要だ。オリジナルのプロトタイプであるディープシー・スペシャルとは、記録的な深海に潜る能力を備えた本物の時計のことなのだ。

 逆にディスプレイモデルは、極めて特別で希少性が高くコレクション性が高いにもかかわらず、ディープシー・スペシャルの成功を祝うトロフィーのようなものだ。ムーブメントなしで納品されたものもあれば、ロレックスのCal.1030や1570(No.35はこれ)のような後期の自動巻きムーブメントを搭載したものもあるという。ディープシー・スペシャルの話をさらに深く知りたい方は、「The Rolex Passion Report」の素晴らしい記事から読み始めることをお勧めする。

フィリップスが出品するロレックス ディープシー No.35。

 参考までに、オメガのスピードマスターとの比較をしてみよう。ディープシー・スペシャル ナンバーワンは、アポロミッションの実績があるスピードマスターのようなものだ。No.3は、スミソニアンに所蔵されているが、実際に月面で着用されたスピードマスターのようなものなのだ。一方、No. 35は、VIPやNASAの宇宙飛行士のために作られた1014本の特別版である金無垢のスピードマスターBA145.022のようなものだろう。確かに非常に希少で重要なモデルではあるが、ディープシー・スペシャル No.35は、そのオリジナル時計を地球上で最も深い場所に連れていったプログラムの成功を祝う記念モデルなのだ。

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 フィリップスは、11月5日から7日まで開催されるジュネーブ・ウォッチ・オークションXIVにNo.35を出品する。驚異的な価値のあるコレクターズウォッチに興味のある方は、ぜひカレンダーに登録を。


ディープシー・スペシャルの魅力とは?

 ロレックスの歴史の一部として、またオイスターケース開発の初期のタッチポイントとして、ディープシー・スペシャルは非常に特殊な目的を持ち、それを達成して持ち帰るためにデザインされた時計である。ミッドセンチュリーの技術的進歩と戦後の可能性への輝かしい賛辞であり、ロレックスのスポーティなDNAの要であり、その魅力は尽きることがないが、それはたぶん、今日ほどではないだろう。

クリスティーズが出品するロレックス ディープシー ・スペシャル ナンバーワン。

 フィリップスによると、ディープシー・スペシャルはこれまでに5本以上公の場で売りに出されたことはないという。したがって、この秋のオークションは、世界で最も広く知られ尊敬されている企業の一つを創り上げたサブマリーナー(最も深く、カッコいい上に懐かしく、最も深く潜れる、限りなく厚い時計の一つ)の原型を所有する貴重なクラブに参加できる機会なのだ。そして、それはたった2名(彼らが意地悪なら1人かも)に限られる。

 ディープシー・スペシャルはすべてを備えているが、実際にはダイバーズウォッチではない。ベゼルも、防水マーカーも、持続する夜光も、スキューバや高度な技術を要するダイビングに必要とされるようなケースも備えていない。大声で言いたいのは、"ハイクリスタル "のディープシー・スペシャルを腕につけるどころか、つけて水中で楽しい時間を過ごすこともできないのだ。

クリスティーズが出品するロレックス ディープシー ・スペシャル ナンバーワン。

 今回のセールのプレスリリースにおいて、オークションハウスはディープシー・スペシャルをF1カーに例えていた。それは、何年もかけて消費者向けの製品(ロレックスのサブマリーナーや、オイスターケースを用いた他もの)に浸透していく技術の開発原点であったという意味だ。その通りだと思うが、今後の売り出し状況を見ると、ディープシー・スペシャルは彼らの想像以上にF1カーに近いかもしれない。

 人類と技術の発展の頂点として、今日、ディープシー・スペシャルを所有することは、スポーツの歴史とともに歩んだF1マシンを所有することとよく似ている。それは、今の時代には使われなくなったかつての業績のアイコンでもあるのだ。多くのオーナーは車を運転せず、それらを究極の記念品のように保管している。

今秋クリスティーズに出品されるロレックス ディープシー・スペシャルナンバーワンを横から見る。ディープシー・スペシャルでは最も薄いモデル。

 マニュアルギアボックスやアルミニウム製のスペースフレーム、唸るようなV10エンジンへの嗜好が失われたように、世界は概して、海中3万5000ftにあるものへの関心を失っている。クストー、ピカール、ギンベルの時代は、モス、プロスト、セナの時代と同じように消えていった。

 まだ走れるヴィンテージのF1カー(ディープシー・スペシャル ナンバーワンのような)であれば、イベントに参加してパレードをしたり、モナコ・ヒストリック・グランプリのような特別なイベントで披露したりすることができるが、それに匹敵するような時計コレクションは何なのだろうか? 毎晩の入浴時にディープシー・スペシャルを身につけてみるか。

2019年にレザ・アリ・ラシディアン氏の手首に装着されていたロレックス  ディープシー ・スペシャル ナンバーワン。

 ありがたいことに、興味のある人(ここまで読んでくれた人)には、ツールのようなプロトタイプも、トロフィーのようなディスプレイモデルも、そのどちらも用意されている。そしてそれらは、過去の栄光と、「やってみよう」という姿勢、そして少なからぬ勇気から得た達成感を思い出させてくれる。

 これらの時計は、伝統的な意味で所有したいと願うよりも、展示会で見たいと思うものだ。これは博物館レベルの時計収集であり、忠実に製造され、細心の注意を払って手入れされたものだけがこのレベルを維持し、その価格がそれを物語るのだ。