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One to Watch フレミング “シリーズ1”のためにふたりの若いコレクター、ひとりのテニススター、そしてスイス時計業界の巨匠らが集結

米国を拠点に、スイスで製造されるフレミングは、創業者の長年の情熱による集大成であり、長期的な視野でこの業界に参入することを計画している。

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Photos by Mark Kauzlarich

時計の世界はとても狭く、“秘密”という概念は曖昧に守られているだけであり、もしかしたらこの話の一部をご存じかもしれない。しかし本日(3月11日)、米国に拠点を置く新しい独立ブランド、フレミング(Fleming)の最初の時計、“シリーズ1 ローンチエディション”がついに登場した。スイスのパートナーと協力して製作された時刻表示のみのドレスウォッチは、すでにさまざまな計画段階に入っている3つの時計コレクションのファーストシリーズだ。“フレミング”という名前は知らなくとも、この新しいブランドの背後にいる人物の何人かは知っているかもしれない。

Fleming Series 1

 フレミングのシリーズ1は、パンデミックの最中に自身のブランドを立ち上げることを夢見たコレクターである、アメリカの若き創業者トーマス・フレミング(Thomas Fleming)氏の脳内から生まれた。その夢を実現するために、彼はスイス時計業界にいる巨匠たちに協力を仰いだ。彼はまた、Instagramのハンドルネーム@waitlistedで知られるジェームズ・コン(James Kong)氏ともつながりがあった。彼はニューヨークで11年間弁護士としてキャリアを積んだあと、2023年初頭にCOO兼アートディレクターとしてフレミングに加わった。

James Kong and Thomas Fleming

ジェームズ・コン氏(左)と、トーマス・フレミング氏(右)。Photo: Mark Kauzlarich

Fleming Tantalum

Photo: courtesy Alex Teuscher for Fleming

 「情熱があってこそのプロジェクトです」とフレミング氏は言う。「過去50年間のうち、本格的な大規模事業を開始してから、数年以上存続しているブランドはほとんどありません。このような事業に取り組むには、情熱が必要なのです。そして私は時計への大きな情熱があったので、自分の時計をつくるのは楽しいだろうと思いました。しかし時計に対する独自のコンセプトや時計製造のアプローチなど、ほかのブランドとは異なるものを作りたいという思いもあったのです」

 実はコン氏はフリーランスのフォトグラファーとしてHODINKEEで働いていたことがあり、私がHODINKEEに入社するずっと前から、ニューヨークの時計イベントで何度か会っていた友人である。フレミング氏とはInstagramで同じようにつながり、数年前にやり取りを始めている。しかし友人になった当初から両者には、今回の発売に関するいかなる報道についても、話題にする価値のある製品であることが前提だと伝えていた。そして彼らは結果を残したと思う。

Fleming Series 1 Launch Edition

 フレミング シリーズ1 ローンチエディションは、現代的なドレスウォッチとして最適なサイズである。直径38.5mm、厚さ9mm(うち1mmはドーム型風防)、ラグからラグまでは46.5mmで、ケースは3種類の素材で展開している。トーマス・フレミング氏は、“何百ものケース”を3Dプリントして縦横比を計算し、実際に装着してサイズ感を調整した。ミドルケースはサテン仕上げの上下面、ポリッシュ仕上げのケース側面、開口部が設けられたホーン型ラグの3つのパーツから成る。素材はタンタル(25本)、ローズゴールド(7本)、プラチナ(9本)が用意され、価格は4万5500スイスフランから5万1500スイスフラン(日本円で約765万~865万円)となっている。

Jean-François Mojon

ジャン-フランソワ・モジョン(Jean-François Mojon)氏。Photo: courtesy Fleming

 ケース内部には、有名な独立時計師ジャン-フランソワ・モジョン氏とクロノードのチームが開発したCal.FM-01を搭載する。ムーブメントは伝統的な手作業によって仕上げられた、セミスケルトンのブリッジと香箱が特徴だ。これにより約7日間のパワーリザーブを実現するツインバレルに供給された巻き上げ量を確認することができる(なおムーブメントの裏側にもパワーリザーブ表示がある)。

 モジョン氏が加わったことは、プロジェクトにとって大きな恩恵をもたらした。彼の仕事は、彼自身の影響力と比べるとやや控えめだが、伝説的だ。カリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏と組んだMB&FのLM01とMB&F LM02のムーブメントから、ハリー・ウィンストンのオーパスX、エルメスのアルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ、チャペックのケ・デ・ベルクまで、数え始めるときりがない。

FM-01

 同プロジェクトと同様に恩恵を受けているのが、名匠カリ・ヴティライネン氏が所有するコンブレマインで作られる、手作業で装飾された文字盤だ。同チームの技術は一目瞭然である。RGのモデル(シリアルナンバー入り7本)は、インナーダイヤルとランニングセコンドのインダイヤルに手打ちで模様を入れ、アウターリングには手作業によるギヨシェ彫りが施されている。プラチナモデルの文字盤は手作業によるギヨシェのみで仕上げている。最後に、タンタルモデルの文字盤には、フロストプラチナとダークブルーのアベンチュリンをミックスしている。

Tantalum Fleming

Photo courtesy Alex Teuscher for Fleming.

Fleming Series 1 Plat Dial

プラチナモデルの文字盤。

Fleming Series 1 Rose Gold Dial

RGモデルの文字盤。

 これらのサプライヤーに加えて、ブランドはラ・ショー・ド・フォンのTMH(Traditional Mechanical Horological)社から追加部品を調達し、さらにル・ロックルのデザインスタジオ、ネオデシスと共同でデザイン設計している。またスイス・バスクールにあるエフェトールは、タンタルを含むこれらのケースに取り組んだ。ラグがスケルトンになっているため、ほかのケースメーカーはタンタルでそれを実現するのは不可能だと考えていたと、フレミング氏は教えてくれた。

 最後に、新進ブランドを手に入れる際に安心できる付加価値として、フレミング氏は保険会社と提携し、購入者が加入や承認をせずとも、販売時に1年間の無料補償をつけることを実現した。

Fleming Cases

 Instagramでフォローしている人たちがつくったものよりも見覚えがあると感じるなら、それには理由がある。昨年、3度のグランドスラムのファイナリストに残った、熱心な時計愛好家であるキャスパー・ルード(Casper Ruud)選手が、2023年6月の全仏オープンでブランドを“本格的に立ち上げ”たとき、どこからともなく現れたのだ。フレミングにとってもルード氏にとっても、それは大胆な行動であった。

Casper Ruud

Photo: courtesy Alex Teuscher for Fleming

 フレミング氏にとって、技術的には存在すらしていないブランド(広義であっても)について他者に話すことは賭けであった。さらに大手ブランドでさえしばしば直面する、生産と部品の遅れの泥沼に陥らないと確約する前から話してしまうことは、ブランドの正式発表を数カ月遅らせることになった。この発表はテニス界で報道されたほか、Instagramでも大きな反響を呼び、ルード氏がフレミングとシェアした投稿は、2万8000近くのいいねが付いた。

 テニス(それとルード氏)ファンにとっては衝撃だったようだ。2023年にフレミングとのコラボレーションが始まったとき、ルード氏は世界ランキング2位の男子テニス選手であり、グランドスラム決勝に進出し、ATPファイナルズで準優勝したシーズンの直後だった。この瞬間、間違いなく時計ブランドの注目を集め、ルード氏の手首を飾るチャンスとして喜んでスポンサーになったことだろうし、彼にとっても賢明な選択だっただろう。さらに彼は、時計が1本も完成していない完全なプロトタイプのうちからフレミングに参加することを決め、ブランドの株式まで取得している。

 「私たちには何もなかったのです」と、フレミング氏はルード氏に接触したときのことを話してくれた。「私が持っていたのは、自分で作った本当に粗雑なレンダリングだけでした。でも、やってみるしかなかった。私が初めて時計を見て注目したのは、子どもの頃でした。私はラファ(ラファエル・ナダル)の大ファンで、彼のリシャール・ミルを見て、クレイジーだと思いました。価格はもちろんですが、軽量で先進的な時計を、すでにある技術でつくろうというアイデアに対してです。テニスとゴルフの大ファンだった私は、同じことをやりたいと思い、夢のようなシチュエーションでパートナーになりたい人を考えるようになりました」

 「私は両方のスポーツを調査して、パートナーに合いそうな人が現れたらメモを取りました」と彼は続けた。「ロレックスはパートナーシップの面で、素晴らしいことをしてきました。彼らは自分たちの時計の背後にある、多くの物語とつながる人々と手を組んでいたのです。それを踏まえて、キャスパー氏は最高のパートナーだとすぐに思いました。また私はノルウェー人とのハーフなので、それも彼と一緒に仕事をしたいと思った理由です。ただそれ以降彼はたくさん勝利をおさめ、いずれパートナーを見つけるだろうと思っていたので、今しかないと思いました。挑戦しなかったと言えないように、彼のウェブサイトのコンタクトページにメールを送りました。最終的に彼のマネージャーから連絡があり、彼と彼の家族と話をして、彼が時計好きであることを知りました。それがすべての始まりでした」

 フレミングはまた、ルード氏のためにシリーズ1の超軽量バージョンである“シリーズ1 ゴースト”と言う時計を開発している。これはシリーズ1が持つエレガントさを保ちながら、コート上で目立たず着用できるように、いくつかの“美的なひねり”を加えているそうだ。またその時計は、ブランドがシリーズ3で作り上げたいと考えている、高い耐衝撃性と軽量性を備えたテクニカルモデルのベースとなる構想の役割を果たす。ラファエル・ナダル(Rafael Nadal)がしばらくのあいだリシャール・ミルを愛用しているのを見てきたし、最近ではドゥ・ベトゥーンもテニス界に進出し、トミー・ポール(Tommy Paul)選手とジェシカ・ペグラ(Jessica Pegula)選手のスポンサーになっている。

Photo courtesy Alex Teuscher for Fleming.

Photo: courtesy Alex Teuscher for Fleming

 一方、シリーズ2の開発は順調に進んでいる。シリーズ1はクラシックなドレスウォッチとして計画を進めていたが、シリーズ2はエマニュエル・ギュエ(Emmanuel Gueit)氏と共同でデザインした、一体型ブレスレットスポーツウォッチとなる。ギュエ氏を知らない人のために説明すると、彼は当時物議を醸したオーデマ ピゲのロイヤル オーク オフショアを手がけた天才である…計画は順調に進んでいるようだ。

Fleming Dial
Fleming Movement

 シリーズ1 ローンチエディションの価格は以下のとおり。タンタルモデルは4万5500スイスフラン(日本円で約765万円)、RGは4万8500スイスフラン(日本円で約815万円)、プラチナは5万1500スイスフラン(日本円で約865万円)だ。同ブランドは、月に5本から10本程度の生産を見込んでおり、最初の納品は4月を予定している。現時点ではすべて直販制で、購入者は14日以内に25%のデポジットと残りの残金を支払うことで、時計を手に入れることができる。

 厳しい言い方をすれば、この価格帯で市場に参入するのは難しいかもしれない。独立時計ブランドにとって価格は興味深いテーマであり、多くの新興独立ブランドはスタートアップ時に顧客を引きつけようとするあまり、(仮にあったとしても)ほとんど利益を上げず、あとから価格を引き上げてしまうのだ。もうひとつの要因は、ここ数年でサプライヤーの需要が大幅に増加していることである。これは価格の上昇を意味し、結果それが必ずしも顧客に還元されないのだ。

 昨年、サイモン・ブレットのクロノメーター アルティザンが、この価格帯のインディペンデントウォッチの基準を設定したと言えるだろう。デザインと仕上げにおいて、よく見かける5万ドル(日本円で約740万円)前後の時計以上の価値を提供していると思う。フレミング氏はその時計を見たことがないわけではない。コン氏自身も、早い時期にスースクリプションシリーズに参加してブレット氏を支援したひとりである。しかしブレット氏のウェイティングリストは、レジェップ・レジェピ(Rexhep Rexhepi)氏やロジャー・スミス(Roger Smith)氏、カリ・ヴティライネン氏といった独立時計師で見られるような、入手不可能な長さにまで伸びている。貴金属製の時計の価格も2倍近くに跳ね上がった。フレミング氏は、デザインやケースなどの研究開発に多額の資金を投入しているが、長期的に見てもこの価格が期待できると述べている。つまり、この時計が成功したとしても、“驚くほど”の値上げは行わないということだ。

 確かに5万ドルはどの角度から見ても大金ではあるが、初の製品はFM-01ムーブメントと、コンブレマインが手がけた高級な仕上げ、文字盤加工を中心に据えたことで、すでに市場に出回っている選択肢と直接対決するのではなく何か異なるものを提供している。さらに業界の著名人を多く起用したことは、迷っている購入者を安心させるのに大いに役立つはずだ。

 2年以上前から同プロジェクトの話を聞いていたので、完成品を実際に見てみたいと思っていた。期待が裏切られることはよくあるが、この時計は私の期待を超えていた。

Fleming Series 1 Front and Back

 正面から見ると、文字盤の素材と質感がよりモダンなケース形状とミックスされていて、ほかのインディペンデントウォッチではあまり見られない組み合わせになっていた。私が見たふたつのバージョン(あいにくタンタルはスイスにあって入手困難だった)のなかだと、文字盤が見事にケースとマッチしていたRGのほうが断然好きだった。ある意味ではクラシックでありながら目を引くデザインであり、またある意味ではモダンでありながら過度な演出をしていない。この時計は、カリ・ヴティライネンの28 スポーツを少し思い出させるが(ダイヤルがどこで製造されているかを考えれば驚くにはあたらない)、ハイポリッシュされたインデックスと夜光の排除、そしてより洗練されたケース形状によって、それより少しドレスアップしている。またスケルトンになったホーン型ラグは、デザイン要素として優れているだけでなく、ミドルケースにエレガントに溶け込んでいる。

Fleming Series 1
Fleming Series 1 Case

 多くの独立ブランドのムーブメントデザインは、特定の仕上げスタイルを優位にするよう設計されているように見える。また一部のブランドは、外注ムーブメントの付加価値として面取りをアピールするために、ムーブメントを極限までスケルトン化している。またあるブランドは、自社でムーブメントを設計し、美しいコート・ド・ジュネーブ仕上げを全面にして深く面取りをしている(今、クロノメーター コンテンポランのことを考えている)。フレミングのシリーズ1では、ツインバレルの設計が彼らの選択肢を制限していることがすぐにわかる。FM-01ムーブメントには深い面取りはないが、手作業による仕上げと技術的な時計製造の見事なバランスがとれており、見た目にもおもしろく比較的モダンなデザインとなっている。

Fleming Series 1 Movement
Fleming Series 1
Fleming Series 1

 最後にシリーズ1は、私が最近記憶にあるなかで、なぜか最もつけ心地のいい時計のひとつだった。おそらくラグを少し長くすることで、38.5mmのケースとのバランスが取れているのかもしれない。私の唯一の希望は、シリーズ1が最終的にもっと手頃なケース素材(ステンレススティール、あるいはゴーストの場合は、チタンで見られるかもしれない)で製造されることだ。それがフレミングが、私に似た多くのユーザーに周知できる鍵になるかもしれない。

 フレミング氏は、さまざまな価格帯で計画している、将来のプロジェクトをいくつか紹介してくれた。これらのプロジェクトが実現すれば、多くの購入者に商品を提供できる、バランスのとれたブランドになるはずだ。しかしそれまでは、フレミングが最初から歩んでいる道を責めることはできない。夢の時計をつくるなら、大きな夢を持って欲しいのだ。

詳しくはフレミング公式ウェブサイトをご覧ください。