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In-Depth ポルシェデザインの40年間を鮮明に振り返る

絶大な支持を得ているクロノグラフと、伝説的なファミリーブランドとの関係を振り返る。

本稿は2014年1月に執筆された本国版の翻訳です。

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クルマにインスパイアされた時計や、自動車メーカーとパートナーシップを結ぶ時計ブランドは数多くある。しかしながら、ポルシェデザインほど名高く、クルマと時計の両業界から確かな評価を得ているブランドもないだろう。同ブランドの時計は単なるメーカー間の提携という試みにとどまらず、創設者であるフェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェ(Ferdinand Alexander Porsche)のデザインDNAと哲学を受け継いでいる。その40年の歴史のなかで、革新的でコレクターの心をくすぐる重要な時計を数多く生み出してきたことは疑いようがない事実だ。

ポルシェデザイン クロノグラフI(1972年)

 ポルシェデザインの時計を理解するためには、多くの事柄と同様にその始まりまでさかのぼる必要がある。1963年、ポルシェはフランクフルトモーターショー(ドイツ国際モーターショー)で当時の最新モデルであった911を発表した。このクルマはブランドの人気モデルでありながら旧式となってしまった356の後継車であり、会社創設者の息子であるフェルディナンド・アレクサンダー・“ブッツィ”・ポルシェ(Ferdinand Alexander “Butzi” Porsche)が考案した、より新しく、ミニマルなデザイン言語を特徴としていた。もちろん911の成功については改めて説明するまでもないだろう。ジェームズ・ボンドの映画、ライカのレンジファインダー、そしてロレックスのサブマリーナーと並んで、その原型を保ちながら進化してきた真の文化的アイコンとなっている。

フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェ

 形態はすべてのデザイナーにとって重要な概念である。バウハウスの哲学を信奉するドイツのデザイナーにとって、物の形態はその機能と密接に結びついている。この形態と機能の結びつきが、フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェによる911のデザインを導いたのであり、過去50年間の人気はその成功を証明している。F.A.ポルシェはその栄誉に甘んじることなく、また一発屋で終わることにも飽き足らず、彼は一族経営の企業を離れて独自のデザイン眼をクルマ以外の製品に向けるという大胆な決断をした。1972年にポルシェデザインを設立した彼の、その最初の製品が腕時計であった。

 PVD、DLC、セラミック製の時計がいたるところにある今日、1972年以前にブラックの時計がなかったという事実はなかなかに信じがたい。ポルシェデザインが黒いスティールケースと黒いブレスレットを持つストイックなクロノグラフを発表したとき、時計界にセンセーションを巻き起こした。その時計は“クロノグラフ1”と呼ばれ、そのデザインのインスピレーションについてフェルディナンド・ポルシェは、航空機やクルマの計器で証明された、黒地に白のダイヤルマーカーと針の機能的優位性から得たと述べている。それから40年経った今でも、その時計は実用性の高いレイアウトにより驚くほどに現代的な印象を与えている。唯一、スイープセコンド針で赤を差しているが、これはレマニア製の自動巻きクロノグラフのセンター分針と区別するためであった。

ポルシェデザイン 限定サングラス(1978年)

 先にも述べたようにポルシェデザインは常にデザインを主体としてきたブランドであり、時計だけでなく多くの象徴的な製品を生み出してきた。例えば1978年のサングラスは、一般のファッション愛好者に向けて初めて交換可能なレンズを提供した(軍用では、レイバンが1950年代に交換可能なレンズのアビエーターを製造していた)。そのほかにも、革新的なインクペン、靴、カバン、電子機器なども手がけてきた。最近では(それを好むか好まざるかにかかわらず)ブラックベリーと提携して新しいスマートフォンも発表している(記事執筆当時)。一見バラバラに見える製品群には、そのすべてに共通する独自のデザイン言語が潜む。それは先進的かつ機能的で、非常にポルシェらしいものだ。

 時計製造の専門知識を持たないデザイン会社ゆえに、ポルシェデザインは時計を製造するためにほかの企業と提携を続けてきた。1972年の創業以来、最初はオルフィナ、その後はIWC、そして1998年以降はエテルナである。そのなかでもっとも実り多かった提携は、1978年から1997年までのIWCとの時代であったことは間違いない。スイス時計業界が厳しい時代であったにもかかわらず、ポルシェデザインとIWCは驚異的な時計を数多く生み出した。その大半は新しい素材の使用で新境地を開拓し、ドイツ的な機能美を強調したデザインを備えていた。

ポルシェデザイン コンパスウォッチ(1978年)

 IWCとの協業による注目すべき最初の製品は“コンパスウォッチ”である。その名のとおり、時計のダイヤルとムーブメントの下に液体で満たされたコンパスを組み込んだものだった。一般的な腕時計のように装着すれば時間を通常どおりに読み取ることができるが、時計をヒンジで持ち上げるとその下にあるコンパスが現れる仕組みだ。同モデルのケースは、コンパスへの金属干渉を少なくするためにすべてアルミニウムで作られており、非常に軽量であった。この時計はフェルディナンド・ポルシェのデザイン哲学に完璧に合致したもので、非常に使いやすく、装着しやすく、読み取りやすかった。そしてポルシェデザインを特徴づける厳格なスタイリングを体現していた。

 1980年には、ケースとブレスレットまでチタンで製作した世界初となる腕時計が登場した。ブラックのクロノグラフIと同様、今日ではチタン製の時計が多数存在するため、チタニウム・クロノグラフがいかに重要な時計であったかを見失いがちである。しかし、1970年代から80年代にかけてはまだチタンは珍しく、非常に高価で加工が難しい素材であり、その使用は航空宇宙産業に限られていた。しかしIWCはポルシェデザインのミニマルなラインに見合うよう、時計ケースに求められる厳密な公差でチタンを加工するための新しいツールと方法を開発し、ケース一体型のブレスレットと“見えない”プッシャーを備えたスリムなクロノグラフを誕生させたのだ。これはポルシェデザインのもっとも象徴的な作品のひとつであると同時に時計製造におけるマイルストーンであり、優れたケースビルダーとしてのIWCの地位を確固たるものとした。

ポルシェデザイン チタニウム・クロノグラフ

 ポルシェデザインとIWCはチタニウム・クロノグラフで学んだことを活かし、伝説的なダイバーズウォッチ“オーシャン”を製作した。ドイツ軍の一部に向けて設計されたオーシャンにはいくつかのバリエーションがあり、そのなかには、機雷除去ダイバーが金属の近接に敏感な水中機雷を作動させる危険を冒さないように、完全非磁性に設計されたものもあった。同モデル独自のムーブメントに関する詳細は、今日に至るまで秘密とされている。オーシャン 2000は当時最高の耐圧性能である2000m防水を備え、女性ダイバー用により小型のオーシャン 500も製作された。すべてのバージョンには、ポルシェデザインにおいて特徴的な隠しクラスプ付きの一体型ブレスレットと、ウェットスーツの袖の上から着用するためのベルクロ式ダイブストラップが付属していた。

 IWCとポルシェデザインのコラボレーションは、二者によって開発された革新的な時計だけでなく、その他の点においても重要な意味を持っていた。1970年代後半、IWCはポルシェを含む多くのドイツ製自動車の文字盤や計器類を製造していたドイツのVDO社の傘下にあった。このVDOとポルシェのシナジーこそが、IWCがポルシェデザインの時計を製造し始めた理由の一部であったのだ。その当時、IWCを率いていたVDOの責任者はギュンター・ブリュームライン(Günter Blumlein)であり、彼の決定によってスイス時計業界全体が苦しんでいた時代にIWCが生き残ることができたとされている(もしかしたら、ブラックベリーもそうなるかもしれない)。もちろんブリュームラインはジャガー・ルクルトの指揮もとっており、A.ランゲ&ゾーネを復活させた人物でもあるが、それはまた別の話である。そしてIWCとポルシェデザインは、1997年に提携を解消した。

ポルシェデザイン オーシャン 2000

 エテルナ時代において、ポルシェデザインはオルフィナおよびIWC時代につくり上げたデザイン思想を継続していた。すなわちミニマルなダイヤル、一体型のブレスレット、計器的美学、そしてカーボンファイバー素材の導入などである。この数年前にエテルナが開発した“コンセプトダイバー”が市場に登場しており、ダイバーズウォッチ愛好者に高い人気を博していた。デザイン面での実験から始まったこのモデルは、Ref.P'6780としてポルシェデザインのレーベルから正式に発売されることになる。この時計のスティール製ケースは、スケルトン化されたチタンケージから前方にヒンジで開閉することで12時位置にあるロック機構のない巻き上げリューズにアクセスできるようになっている。タイミングベゼルはサファイアクリスタルの下にあり、第2のリューズを使用せずに外付けのベゼルリングで回転させる機構を採用。多くの魅力的な機能を持ちながらもこの時計はエレガントかつ控えめで、ポルシェデザインのポートフォリオにうまく調和している。

 2012年はポルシェデザインの40周年であった。それを祝してブランドは、3つの“ヘリテージ”エディションをリリースした。クロノグラフ1を再解釈したRef.P'6510、チタニウム・クロノグラフをアップデートしたRef.P'6530、そしてコンパスウォッチの新バージョンであるRef.P'6520である。これらはすべてオリジナルに忠実なアップデートであり、ムーブメントや素材に現代において必要な改善が施されていた。

ポルシェデザイン Ref.P'6780

 フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェは2014年の4月に亡くなっている。その際、彼が手がけたポルシェ911というデザインアイコンが果たした役割に対して、多くの人々から惜しみない賛辞が贈られた。しかし彼の遺志は、彼が創設したブランドにおいて“形態は機能に従う”というデザイン哲学の継続へとつながり、時計やその他の製品において生き続けている。長い歴史がある時計業界のなかでわずか40歳という若いブランドであるが、その功績には驚くべきものがある。スイス時計業界にとって困難な時期に登場したブランドながら、過去に囚われていた時計業界に新しくより現代的なデザイン言語をもたらしたのだ。ポルシェデザインは時計職人と同様に時計デザイナーの重要性を正当化し、フェルディナンド・ポルシェは偉大な時計デザイナーの殿堂に名を連ねる存在となった。創設者が去った今、次の40年でブランドがどのように進化するか非常に興味深いところである。