何をもってホリデームービーとするかは、いつも微妙な問題である。昨年は『ダイ・ハード』(1988年)について書いた。クリスマスパーティーが舞台で、サンタに関連したキャッチフレーズがあるからだ(ご存知の通りだ)。そのときも言ったし、今回も言う……これはクリスマス映画だ。というわけで、2022年のWatching Moviesの幕を閉じる前に、年内最後のピックアップを考えてみた(WMもこれで2年目が終わるなんて、まだ信じられない)。
その結果、いくつかの作品が選ばれた。最終的に、あからさまにホリデームービーというわけではないが、ホリデーがプロットを動かす上で重要な役割を果たすという作品にたどり着いたのだ。主演のライアン・ゴズリングは、このWatching Movieに3回目の登場となる。その作品とは、デイミアン・チャゼル監督のミュージカル『ラ・ラ・ランド』(2016)であり、そのなかでゴズリングは、象徴的なブランドの小さなヴィンテージウォッチを身につけている。それが彼流なのだ。
注目する理由
ホリデーシーズンだから観ているのだ。ホリデーシーズン定番のマライア・キャリーのあの曲がかかり……そしてまたホリデームービーを観ることになるのだ。『ラ・ラ・ランド』はクリスマス映画の歴史のなかでは定番ではないかもしれないが、2016年のホリデーシーズンにデビューした映画だ。それにゴズリング演じるセバスチャン(セブ)がクリスマスの時期にレストランで雇われミュージシャンとして活躍するシーンが素晴らしく、見事なオーケストレーションも特徴的だった。彼はピアノの鍵盤に手を置き、袖の下から時計を覗かせ、ホリデーシーズンのスタンダードを弾き始める。突然この音楽映画のメインテーマであるオリジナル曲を奏でるのだ。この曲は、エマ・ストーン演じるミアとの出会いを象徴するもので、この映画の音楽的なバックボーンとなっている。この曲は、『ラ・ラ・ランド』のすべての音楽とともに、ジャスティン・ハーウィッツが作曲したもので、彼はこの曲でオスカーを受賞した(映画そのものは受賞しなかったことは有名な話である)。
映画『シェルブールの雨傘』(1964年)などの古典的なフランス映画や、アメリカのジーン・ケリーの古写真をもとにした現代的なミュージカルだ。そのオールド・ハリウッドやクラシック映画の美学は、テクニカラー撮影や衣装、ゴズリングの時計に至るまで、映画の制作に滲み出ている。
彼が身につけているのは、一見するとゴールドに見える、34mmの小ぶりなオメガで、アプライドの12、3、6、9マーカーが特徴的。彼はそれをレザーストラップでつけている。私は過去に1940年代や50年代の古いオメガの時計について書いたことがあるが、それらの時計について私が知っていることのひとつは、特段珍しい時計ではなかったということ。多くの人は、これを初期のシーマスター(当時もたくさんあった)と混同しているが、実はゴズリングの時計は、オメガのロゴと時間表示のみのシンプルなものだ。もちろん、実際に見てみないことには、このヴィンテージピースが何であるかを正確に推し量ることはできない。とはいえ、全体的な美的要素から、ミッドセンチュリーのオメガ トレゾアのようなものだと納得することは十分にできる。
ゴズリング演じるセブは、映画のなかでこの時計を身につけ、何度か対話をしている(つまり時間を確認するという意味)。カジュアルな服装に合わせ、ヴィンテージのジャケット、スラックス、スキニータイの組み合わせにさえ、この時計を身につけている。右利きでもあるのだ。また、この時計は映画のスローバックな雰囲気にぴったりだが、ゴズリングのオフスクリーンでの性格にも合っている。彼は(少なくともゴズリングがタグ・ホイヤーのアンバサダーになる前は)小さなヴィンテージウォッチを愛用していたことで知られている。よく知られている時計のひとつは、オイスターブレスレットの34mmヴィンテージロレックスで、有名な2017年のアカデミー賞で着用...…ほかにもまぁ基本的にどこでも着用していた。つまり、『ラ・ラ・ランド』のオメガは、ゴズリングが演じるセブをより一層信じられるように銀幕を貫く、超越的な時計のような役割を担っていたのだ。
見るべきシーン
『ラ・ラ・ランド』は、ミアとセバスチャンの慌ただしいラブストーリーを描いている。そして、どんなラブストーリーにも初デートがある。彼らの場合、『理由なき反抗』(1955年)の上映会だ。セバスチャンがブレザーにヴィンテージのスラックスという出で立ちで登場するのはこのシーン。ミアは映画館に到着するのが遅く、セブは心配そうに座席に座り、オメガの腕時計で時間を確認する。やがて彼女はドラマチックな演出で到着するのだ。ふたりは映画を楽しみ、キスをしようとする。そのとき、フィルムが燃えて、劇場に明かりが灯った。皆さん、ショーは終わり。その時、セブが手を顔に当て、右手首の小さなオメガがチラリと見える。
そんな恋の行方が気になり始めた頃、ミアは実家に帰ってしまう。ミアがロサンゼルスに戻り、女優になるという夢を叶えるために、セブが追いかけてくる。後半、セバスチャンはミアが幼少期を過ごした街に停めたヴィンテージのオープンカーに座り、天使の街へ戻るドライブに参加するミアを待つ。ここでも、彼はこの時計を見て時間を確認[01:35:54]。今回は、この強力でアイコニックな34mmのクローズアップという、ヒーローショットが登場するのだ。ミアが来ないと思い、彼は車を走らせ始める。しかし、彼女はちょうどコーヒーを飲んでいるところだった。彼女はやがて到着し、ふたりは一緒に走り出し、映画の第3幕が動き出す。
『ラ・ラ・ランド』(ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン主演)は、デイミアン・チャゼル監督、小道具はマシュー・カヴァリエロ担当。iTunesやAmazonでレンタルや購入が可能です。
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