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In-Depth 歴代スピードマスターをパッケージ化したオメガ スピードマスター クロノスコープに迫る

これはダイヤルに文字が埋め尽くされたパワーアップ版スピーディだ。ダイヤル表記の読み方を知りたいと思っていた人は、もう迷うことはないだろう。


時計業界では、ブランド名を出さずに語れる有名モデルは数えるほどしかない。時計界におけるセレブレティのような存在、言い換えれば時計界のマドンナである。私にとって、とりわけ目立つモデルが2本ある。その筆頭がサブマリーナーとスピードマスターである。スピードマスターは、時計マニアのあいだに浸透し、のちに広く一般に知られるようになった。その理由の大部分は、このクロノグラフがNASAの宇宙開発計画と関係があることがよく知られているからである。そしてオメガはスピードマスターが同社にとっていかに重要であるかを明確に知っている。ジェームズ・ステイシーと私は最近、スピードマスターは、それ自体がブランドと考えることができるという話をしたところだ。

 そのステータス性は結果として、オメガにスピードマスターのバリエーションを数多く生産させることになった。ヴィンテージの復刻版、あらゆる種類のケース素材、そして豊富なケースサイズなどだ。しかしほとんどの場合、そのデザインは昔のオリジナルのスピードマスターに忠実であり続けている。すなわちシンプルなダイヤルレイアウトとタキメーターベゼルである。その範疇において、思いのままにスピードマスターのバリエーションを作ることができるわけだ。オメガがこの型から逸脱することを目にすることはほとんどないが、あるとすれば、スヌーピーがロケットに乗って、スピードマスターのスタンダードなデザインの裏蓋をクリスタル越しに横切って飛ぶくらいである。

Chronoscope

 ところが、ある変化が生じた。昨年末、オメガは新しいスピードマスターを発表したのだ。それはまったく別のスピードマスターだった。特定のスピードマスターではなく、歴代すべてのスピードマスターをひとつにまとめたものだったのだ。それがまさにオメガ スピードマスター クロノスコープである。そしてこの時計が何をしているのかを完全に理解するためには、記憶をたどりながら、いくつかの珍しいベゼルを調べる必要がある。そう、ベゼルの時間だ。

 その前にメリアム・ウェブスター社の協力のもと編集した下記の用語集をご覧いただきたい。


用語集が嫌いな人はいまい

テレメーター(Telemeter): 観測者から物体の距離を測定するための装置。

パルソメーター(脈拍計, Pulsometer)またはスフィグモグラフ(血圧計, Sphygmograph): 医師が脈拍を測定するために使用する特殊なダイヤル(編集部注:またはベゼル)の付いた時計。

タキメーター(Tachymeter): 測量で遠くの物体の距離、方位、高度をすばやく測定するための器具、または速度表示計。

 さて、このような用語の定義にはそれなりのワケがある。これらの用語を定義しておきたい理由はオメガ スピードマスター クロノスコープという機械の一部において、これらの用語が基本的な役割を担っているからだ。これらのコンセプトや用語はユーザーがあらゆる方法で時間を測ることができるように、この時計に描かれているのである。その方法は無限といっていいだろう。

Chronoscope

 一見複雑そうに見える(いや、文字どおり複雑な)クロノスコープが、このような計測機能を表示するのには理由がある。その理由は、歴史の教科書に載っている“スネイル(カタツムリ)”と呼ばれるダイヤル表示にある。これは、ひとつのクロノグラフであらゆる時間の計測を可能にする方法だったのだ。クロノスコープが目指しているのがそれである。スピードマスターのベゼルという既知のデザイン言語を、ダイヤル表面に再現しているところが最もクールなポイントといえよう。

 スピードマスターのタイムカプセルを覗きながら、新型クロノスコープに搭載された各タイミング表示の歴史的背景を見てみよう。


圧巻の3連スケール
Scales

左よりタキメーター、テレメーター、パルソメーター

 スピードマスターのベゼル(スティール製またはブラックアルマイト加工されたアルミニウム製固定ベゼル)にはタキメータースケールが搭載されているものが多く存在する。Ref.105.003-65 “エド・ホワイト”のような有名なヴィンテージスピードマスターには、まさにこのベゼルが使われており、フランス語でTachymètreと表記されている。これは現代のムーンウォッチに受け継がれているバージョンである。

Ed White

タキメーターベゼルのオメガ スピードマスター“エド・ホワイト”。

 では、タキメータースケールとは何だろう? HODINKEE Magazine Vol.8で、私がベゼルについて書いた記事をまだ読んでいただいていない方のために噛み砕いて説明しよう。要するにタキメーターの目盛りが描かれた固定ベゼルのことだ。ご理解いただけただろうか? 冗談はさておき、その用途は経過時間と平均速度の照合で、平均速度はベゼルを使ってクロノグラフ秒針の指す位置から換算するのである。

 また、希に心拍数を計測できるモデルもあり、これはドクターズウォッチとして知られている。これはパルソメトリックスケールと呼ばれ、エド・ホワイトのヴィンテージモデルや、現代の限定モデルであるCK2998に搭載されている。これは脈動、つまり1分間の平均心拍数を測定するためのスケールだ。

Pulsometer

オメガ スピードマスター Ref.CK2998、パルセーションベゼル。

 実際に使用する場合(念のため言っておくが、医者がスピードマスターを使って心拍数を測定することはない。もしそうであれば、セカンドオピニオンを検討して欲しい)、患者の脈拍に指を当て、クロノグラフを作動させてベゼルに表示された脈拍数(スピードマスターでは15または30)を数え、その時点でクロノ機能を停止させる。そうして得られた数値が1分あたりの平均心拍数(bpm)となる。

 しかし、それだけではない。テレメーター仕様のスピードマスターは、さらに希少な存在だ。Ref.145022-69 STではタキメーターをテレメーター(物体の距離を測るために開発された尺度)に置き換えた個体が見られる。テレメータースケールの最も実用的な使用例は、兵士が砲弾の発射タイミングを計るためにスケールを使用して敵との距離を識別することだった。実際には砲弾が発射されたらクロノグラフを作動させ、着弾したら停止させるというものであったのだ。現代では実用上極めて用途が限られるものだ(オメガは雷の時間を計るために使用することを提案しているものの…)現在ではヴィンテージのスピードマスターでのみ、ベゼルにこのスケールがあるものを見つけることができる。

Telemeter

オメガ スピードマスター Ref.145022-69 ST テレメーターベゼル。


クロノスコープ – スピーディの折衷機
Chronoscope

 さて、話の時間軸をクロノスコープが発表された2021年9月に戻そう。このモデルは竪琴のようなラグ、リューズ/プッシャーガード、ヴィンテージ風にテーパリングされた3リンクブレスレットなど、非常にわかりやすいケース形状を持つ43mmのスピードマスターだ。タキメーターベゼルさえある。しかしダイヤルを見ると、まったく新しい時計に見えるだろう。まるで1940年代からそのまま引っ張り出してきて、現代的に変身させたかのような佇まいである。

 用語集に“クロノスコープ(Chronoscope)”という単語を入れなかったことにお気づきだろうか。実はこの論考のために取っておいたのだ。クロノスコープとは、短い時間間隔を正確に計測するための機器と定義されている。この時計にぴったりな言葉だと私は思う。また、オメガがこのネーミングを採用したのは今回が初めてではないことも特筆すべき点だ。数年前、デ・ヴィル クロノスコープがまったく異なる方法で短い時間間隔を表示していた(それについては別の機会に)。

 一方、この時計はスピードマスター初のクロノスコープであると同時に、デザイン上の重要なアップグレードである。私はこの時計をほかのすべてのスピードマスターのための『指輪物語』におけるリングと考えるとおもしろい。ひとつの時計がすべてを支配し、すべてを束ね、すべてをもたらし、そして暗闇のなかで…その…時間を測るのだ。

 クロノスコープは、デザイン会議が最悪の形で間違った方向に傾いた失敗作のように感じられる。まるで“新しいヴィンテージ風スピードマスター”という1点だけが決まっているだけで、ベゼルやダイヤルにどのスケールを使うか、誰も決められなかったかのようである。その結果、現在の姿になったのだ。タキメーターベゼル、ダイヤルにテレメーター、パルスメーター、そしてもうひとつタキメーターを配した時計である。

Chronoscope
Chronoscope
Chronoscope

 このダイヤルをひと目見ると、アーカイブから長いあいだ失われていたオメガのクロノグラフからインスピレーションを得たと思うかもしれないが、それは間違いでもあり正しいことでもある。クロノスコープは、1940年代にオメガやティソといったブランド(ときには両社が同時に)が作り出した複雑なダイヤル装飾の流れを汲んでいるが、これらの時計には“スネイル”と呼ばれる計測スケールが同様の方法でプリントされていたのだ。しかし当時の時計にはタキメーターベゼルがなかったという意味で、やや異なる。つまりヴィンテージ風デザインを採用しながら、まったく新しいデザインでもあるのだ。

Snail design

1940年代の“スネイル”デザインのオメガ クロノグラフの一例。

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 ダイヤルのいたる所に、このような計測表記があるのは混乱をもたらすだろうか? たしかに見づらいかもしれない。しかし、決して紛らわしいわけではない。 実はタキメータースケール(あるいはその他のスケール)は、もともとベゼルに付いていたものではない。歴史的には、時計のダイヤルに直接プリントされていたのだ。それを初めてベゼルに移したのがオメガのスピードマスターである。

Chronoscope

 クロノスコープではタキメーターベゼルを歴代スピードマスターから踏襲しつつも、ほかのすべてのスケールはダイヤルに戻し、短い時間間隔測定ツールを交差させたことから、この名が付けられた。ムーブメントに関してはこの時計はほかのクロノグラフと何ら変わりはないが、いくつかの点で複雑である。このデザインが大きいものにならないよう、オメガは手巻きムーブメント、コーアクシャルCal.9908を採用した。手巻きであるがゆえに、厚みを最小限に抑えることができるためだ。また、さらに楽しい工夫が施されている。この時計は一見2レジスタークロノグラフに見えるが、実際には3レジスターだ。3時位置には、クロノグラフの分針と時針の2本の針が配されている。3つ目のインダイヤルがあったら、この時計はまったく使い物にならないと思うので、オメガのこの発想には脱帽である。

Movement

 しかし、この時計はダイヤルに“ベゼル”がてんこ盛りであることに疑問の余地はないだろう。ベゼルを除けば、まるでオメガがほかのすべてのベゼルのデザイン画を持ち出して、それをダイヤルにプリントし、同時に使用できるようにしたかのようなビジュアルだ。いかがだろう? 私個人は好感を抱いている。混沌としており、混乱を呼ぶ。まさに時計製造そのものである。そして、そのどれもが見せかけではないのだ。たしかにこれらの計時機構は現代では時代遅れかもしれないが、この時計は時計製造の本質とは何であったか、その可能性、さらにはあらゆる種類の機械式計時装置の創造における未来を思い起こさせてくれる。間違いなくこの時計には、あらゆるものが揃っているのだ。

 まずモーターファンのためにベゼルに配されたタキメーター(またはタキメートル)から始めよう。そして軍用マニアのためのkm単位のテレメーター(またはテレメートル)、そして最後に“どなたかお医者さんはいませんか?”と誰かが叫ぶ瞬間に救助に来るヒーロー志願者のための30脈拍単位のパルスメーター(またはグラデュ・プール・30パルセシオン)を見ていこう。

Tachy
Tely
Pulse

 しかし、さらにひとつ触れていない点がある。Base 1000の表記のことだ。一体これは何だろう? そう、これはタキメータースケールをさらに拡張したものだ。実は1957年に誕生した初期スピードマスターには、ベゼルに“Tachymètre Base 1000”と表示されていた。現代の新しいスピードマスター '57モデルでも、この伝統は受け継がれている。Base 1000という表記はベゼルと内側のスケールの数字がすべて1000倍であることを示すもので、とてもシンプルだ。

Chronoscope

 ダイヤルの文字やスケールから離れたところにあるのは、アラビア数字のアプライドインデックスだ。この数字が、1940年代の古い時計(通常はプリントされた数字)に見られるようなヴィンテージの強烈な印象を与えている。またリーフ針を採用することで、ほかのスピードマスターとは一線を画し、ツールウォッチらしさを感じさせないデザインに仕上がっている。直径43mmという必ずしも“小洒落た”とは言えないサイズのケースに、このような美的センスが感じられるのはおもしろいポイントだ。しかし、これ以上小さいと、このダイヤルの意味を理解するのに大変な時間がかかるだろう。


まとめ
Chronoscope

 私は既存の常識に挑戦する時計を高く評価したい。オメガが同じスピードマスターを何度も焼き直して作り続けるのは簡単なことだ。でも、たまには新しい試みに挑戦するのも健全なことだと思う。そして、このような時計がどのように作られたのか、アーカイブを調べてみたくなるような時計に出会えるのもうれしいことだ。クロノスコープは、まるで眠れる巨人のような存在だ。今のところ、時計界に軽い興味と議論を与えている。実物を見てみないとわからない、しかし実物を見ると見方が変わる、そんな時計だ。120万円ほどで時計の歴史と有用性をひとつのパッケージに凝縮した時計は、そう多くはないだろう。クロノスコープは、まさにそのような時計かもしれない。

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