ビクトリノックス・スイスアーミーがヘリテージコレクションに、クラシックでシンプルなフィールドウォッチの新コレクションを発表した。クォーツ式で、可能な限り手に取りやすいように設計されたスポーティなフィールドウォッチには数種類のカラーバリエーションが用意されており、ブランドの特徴であるミリタリーインスピレーションをタクティクールな要素やその他の不要な装飾なしに表現している。
少し背景を説明すると、ビクトリノックスは僕の子供時代に大きな影響を与えた。僕がまだ8歳か9歳のころ、ドイツのシュヴァルツヴァルト地方で働いていた祖母がカナダに戻ってきて、僕と弟たちに、それぞれの名前が刻まれた赤いプラスチック製の立派なスイスアーミーナイフをくれたのだ。これは僕が初めて手にした高品質な持ち物と言っても過言ではなく、とても気に入っていた。
頑丈で使い勝手がよく、両親の目の届く範囲でポケットに入れてもいいとされるギリギリのところにあった(両親は僕が何かひねくれた性格だということを早くから見抜いていたようだ)。これは多くのナイフに言えることだが、ビクトリノックスはデザイン性が高く、象徴的なアイテムだった。大人に見せても真っ赤な紋章を見ただけでそれが何であるかがわかり、友人も羨望の眼差しで同じように見ていた。
そして、僕は多くの男の子がポケットナイフでやったことをして、のちに森で遊んでいる間に失くしてしまったが、ビクトリノックスは常に僕の心の中にあり、特にナイフ、そして数年後には時計に関しても僕のなかでは常に好意的なイメージを持つブランドになった。
ナイフと同じように、このブランドは優れた品質と適正な価格、そして時計としての役割を十分に果たす繊細な時計を作ることに長けている。近年ではその技術力をよりマニアックな分野にまで拡大した。例えば、完璧に動き、ほとんど壊れることのないI.N.O.Xコレクションなどがあるが、ヘリテージコレクションは彼らのルーツに戻ったように感じられる。
発売当初は10種類のバージョンが用意される予定だが、ヘリテージコレクションの基本スタイルは40mmのスティール製ケース、Ronda 715のクォーツムーブメント、100m防水(ねじ込み式リューズではない)、反射防止加工を施したサファイアクリスタル風防となっている。ケースバックは無垢のSS製(刻印するスペースがある)で、ヘリテージ時計の厚さは9mm、ラグからラグまでの長さは49mmだ。
カラーリングは写真のブラックダイヤルのほか、ブルー、グリーン、ホワイトの各バージョンがあり、4つのダイヤルカラーすべてにブラックPVD仕上げが施されたものもある。またカラーやバージョンによって、ストラップはNATO、レザー、ソリッドスティール(ブラックとブルーのダイヤルバージョン)から選ぶことができる。すべてのバージョンで針とマーカーにスーパールミノバを採用し、6時位置には白地に黒の日付表示、秒針と12時位置のビクトリノックスの盾には赤のアクセントが施されている。
僕の7インチ(約18cm)の手首にフィットするRef.241968は重さが119gで、ブラックのダイヤルとフルスティールのブレスレットを備えている。20mmのラグを持つブレスレットは、プッシュボタン式バタフライクラスプ(安全装置付き)のところで17mmに細くなっている。ブレスレットには、しっかりとしたエンドリンクと一定方向で取り付けられた割りピンが使用されている。ありがたいことにブレスレットの公差は非常に細かく、シンプルなピンプッシャーツールで簡単にサイズを調整することができた(このようなツールはそうあるべきだが、そうでないこともよくある)。
幅広でサテン仕上げの無骨なベゼルと長めのラグが特徴のヘリテージの装着感は良好だが、40mmの割には見た目が大きく見える。この点についてはケースとブレスレットの薄さが大きく貢献している。またフラットな風防は、ビクトリノックスの初期の時計スタイルに戻ったかのような伝特的でモダンな雰囲気を醸し出している。
フィールドウォッチであるため視認性は抜群で、内側の24時間目盛りはダイヤル上のネガティブスペースをコントロールし、日付の配置とのバランスをとるのに役立っている。スパルタンでシンプル、一般的とも言えるが、確かによくできている。実際、この言葉はヘリテージのほとんどすべての要素にも当てはまる。
デザイン的には画期的なものではないがそれぞれの要素がよくできていて、この価格帯では期待以上のものだ。ケースはきれいなサテン仕上げでシャープなエッジを持っている。リューズは滑らかに進化しているが、非常に頑丈な感じだ。また、夜光は明るく、特に針はしばらく光り続ける。
正直に言って、このブレスレットには驚かされた。僕はほとんどのブレスレットが好きではないが、ビクトリノックスはこのデザインでそれ以上のものを実現している(最近のレビューで酷評したボストークのブレスレットとは間違いなく真逆だ)。エンドリンクはしっかりとしたSS製で、ケースとの接続はしっかりとした設計になっている。そのしっかりとした構造はブレスレット全体に見られ、前述のように許容範囲がちょうどいいためサイズ調整はまったく苦にならず、ペンチを使う必要もない。
最後になるが、クラスプはしっかりしていて、この価格帯(あるいはそれに近い価格帯)でよく見られるものよりもはるかに頑丈、シグネチャー入りの安全部品の高品質な感触にまで及んでいる。ヘリテージのブラックまたはブルーのサテン仕上げのSSバージョンに75ドル(約8600円)のプレミアムがつくことを考えれば、このブレスレットは当然のことで、この時計に絶対的な輝きを与えている。ブレスレットを愛用している方は、ぜひ試して欲しい。
ヘリテージコレクションの価格は、サテン仕上げのSS製モデルがNATOまたはレザーで300ドル(約3万4300円)、PVD処理を施したモデルが350ドル(約4万円)、ブレスレット付きモデルが375ドル(約4万3000円)となっている。僕の目には、基本的にクォーツタイプのフィールドウォッチにしては高いと感じたが、ビクトリノックスが品質の面で手を抜いているとは言えない。
また、これらの製品がショッピングモールやオンラインショップで販売されるようになれば、市場での競争を反映した価格で販売されるようになると確信している。ビクトリノックスの広告にあるように、「週末のハイキングからオフィスでの一日まで」使える、手間のかからない実用的な時計を作るという目標を考えると、彼らは素晴らしい仕事をしたと思う。もし僕が提案するとしたら、PVD以外のバージョン(特にコレクションのなかでお気に入りであるホワイトダイヤル)のすべてにブレスレットが用意されているといいと思うし、機械式バージョンがコレクションに加わってもいいと思う。
派手さはないが、ほかのデパートブランドでは考えられないほどの個性と血統があり、非常に軽やかなタッチですべてをこなしている。ヴィンテージ風でもミリタリー風でもなく、多すぎず万能だ。これをつけて1日を過ごしてみて欲しい。
ビクトリノックスのナイフと同様、ヘリテージは見返りを求めずにあなたのために働くことを目的とした、考え抜かれたツールのように感じられる。作りがしっかりしていて価格もそれほど高くなく、種類も豊富で柔軟性と実用性に富んでいる。これは同社のナイフと同じ方式であり、この時計にも当てはまると思う。
これは三ツ星レストランの8コース料理ではなく、寒い日の美味しくて心のこもったスープのようなものだ。それは必要なものをすべて提供し、それ以上のものを提供しない。控えめで洗練されたスポーツウォッチのひとつなのだ。
ビクトリノックス・スイスアーミー ヘリテージコレクションの詳細はこちら。※日本未発売。
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