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デイトジャストは1945年に機構が発明されて以来、ロレックスのスタンダードとなった。ロレックス、いや機械式時計としていちばん初めに手に取られることも多いこのコレクションだが、意外にも研究が進んでいない分野で製造・販売された時期も曖昧な謎の多い時計でもある。今回は、最も数が多く市場でも手に取りやすい1960年代に登場した4桁番台(16xx)のデイトジャストについて、ディテールの整理を試みたいと思う。
1960〜78年ごろにまでわたる4桁品番
デイトジャストはロレックスにおいてはいわゆるクラシックモデルに属し、年々高騰の一途をたどるスポーツモデルとは少し違う。その値上がり幅はまだ緩やかで程度のよい個体も多いため、自分好みのディテールを探して楽しむにはいまだに適したフィールドだ。まず、デイトジャストとは何か、だが、同社の創業40周年を機に発表された肝入りのモデルであり、ロレックスによる三大発明がすべてそろった時計である。すなわち、高い防水性を実現したオイスターケース(1926年)、現在広く一般化したセンターローターが全回転する自動巻きスタイルを確立したパーペチュアル機構(1931年)、デイトジャスト機構(1945年、当初は単に日付表示)のすべてを備え、さらにフルーテッドベゼルやジュビリーブレスレットといった、ザ・クラウンのアイコニックな意匠を専用に、しかも初めて与えられたのがデイトジャストという時計なのだ。初代モデルであるRef.4467はゴールドケースのいわゆる高級機で、後年の立ち位置とは少し異なっていた。1956年にデイデイトが発表されるとハイエンドモデルとしてのポジションを譲ることとなり、SS×YGのロレゾールやSSモデルが初めてバリエーションに加えられるようになった。僕らにとっては、それ以後の仕様がなじみあるデイトジャストのものだと感じられるだろう。
それ以降のデイトジャストは単に大衆化しただけではなく、普及モデルとしての信頼感も向上していくのが特徴だ。膨大なバリエーションがあるが、プライスと機械的・つくり的な信頼度のバランスという意味で、1960〜78年ごろまで製造されていた、いわゆる16xxリファレンスの「4桁」に勝るものはないため、今回はディーラーの方々や過去の文献を頼りに世代ごとの細かな違いを解き明かす先鞭をつけようと思う。ひと口に4桁といってもかなりのリファレンスが存在するため、今回は1600、1601、1603に大別されるメジャーなベゼルのバリエーションを軸に、特に珍しい個体の紹介も加えていく。また、4桁デイトジャストは大きく2つの世代に分けられる。前期は1960〜65年ごろで、アルファ針とくさび形インデックスを採用し、ムーブメントにはCal.1530や1560を搭載していたモデルだ。後期は1965〜78年で、キャリバーは1965年ごろから1570搭載のものが登場し、針が現行のデイトジャストを定義付けるバトンタイプのものに落ち着いた世代。1971年ごろにはCal.1570にハック機能の搭載がスタンダードとなる。かつてディーラーの人々が売買する際の値付けの参考にするため重宝したという『VINTAGEAMERICAN & EUROPEAN WRIST WATCH PRICE GUIDE』によれば、一部のロレゾールやゴールドモデルは1987年ごろまで16xx品番として作られたという記録があるが、デイトジャストとしても5桁品番に切り替わったあとの時期であり、現状、真相は不明だ。余っていたケースや文字盤を後年になって製品として仕上げた可能性はおおいにあるが、個体としての流通量を見ると1978年ごろまでが4桁品番の区切りとするのが正しい理解になりそうだ。なお、16xx/8のように表記される8の部分は素材を表している。0がSS(表記されない)、3がSS+14KYG&PG、4がSS+18KWG、7が14KYG&PG、8が18KYG&PG、9が18KWGだ。現代では金無垢モデルに関しては一貫して8と表記されることもあるが、当時の運用として参考までに。
最初期のデイトジャストは主にCal.1560を搭載しているが、先に挙げたバタフライローターを採用していることに加えロレックス製ムーブメントの特徴でもある、赤いリバーシングホイール(切り替え車)を搭載しない個体も多い。これは、常に動き続ける自動巻き上げによる摩耗を抑えるため、赤いアルマイト加工を施したもの(両方向巻き上げであるため、2つある)で、なんともロレックスらしいディテールだ。何しろ、ケースの防水性をより完全なものとするため、リューズによる巻き上げを必要としない自動巻き機構を生み出したというエピソードがあるほどだから、完璧主義者らしい哲学が息づき始めた時代といえる。
トリチウム夜光でもSWISS表記
ベゼルの種類でいえば、ステンレス製は刻みの入った1603とスムースベゼルを採用する1600がある。最も数が多いのは、冒頭で書いたようにデイトジャストのために作られた意匠である、ゴールド製のフルーテッドベゼルを備えた1601だ。このフルーテッドも初期型は刻みがより細かいという特徴がある。なお、生産数全体からすると、WGベゼル×ステンレスケースの仕様が最も多く、現在も流通している数が多いとされる。
一方で文字盤上での明確な違いとして、アルファハンド(針)とくさび形インデックスが見られる。現行デイトジャストといえば、バーインデックスとバトン針、それに夜光が特徴だが、この時代はその限りにあらず。後期以降はだんだんと現代の意匠への移行が見られるため、よりヴィンテージライクなデザインを求めるならば前期型は満足度が高いだろう。また、この世代のロレックスを探す場合、かなりの人がトリチウム夜光か否かをひとつの判断基準にすると思う。ここまで掲載しているモデルはすべて「SWISS」表記になっているが、デイトジャストの場合、いわゆる「T SWISS T」表記が採用されるのは1965年以降の個体がメインであり、1960~63年ごろの初期型に関してはSWISS表記であってもトリチウムが用いられている。デザインによっては、夜光自体が配されていないモデルもあるが、実際リダンなどでもなくそういう個体は存在していると複数のディーラーが証言してくれたため、その点は安心してよさそうだ。
なお、1953年に誕生し4桁品番で見られるRef.1625、通称「サンダーバード」は、もともとRef.6309と呼ばれていたモデル。上のロレックスカタログ(1963年)にも掲載されているが、モデル名は「DATEJUSTTURN-O-GRAPH」となっている。そう、回転ベゼルを搭載したモデルは当時ターノグラフとも呼ばれ、サンダーバードの前身でデイトジャストの一部とされていたのだ。ベゼルに機能を付加し時計をツールとした出色の存在で、ロレックスのツールウォッチ化を促したクラシックとスポーツの狭間にいる時計だ。
文字盤が多彩になる後期型
後期型はタマ数も多く遭遇する可能性の高い世代だ。前述のとおり、5.5振動でよりモダンなCal.1570の搭載(後年はハック機能も搭載)へと舵が切られ、バータイプの針とインデックスがデザイン言語として確立された。1945年の初代モデルより引き継がれていたアルファハンドやくさび形インデックスのディテールが、よりインダストリアルなデザインへと変化し、時間を確認する道具としてユニバーサルな方向に進化を遂げたといえるだろう。何より、初期型ではほとんどシルバーと黒しかなかった文字盤色にカラーが加わったのが大きな特徴だ。これがバリエーションの豊富さに拍車をかけ、さらに経年変化による退色の具合でもその個体の呼び名が変化したりする(これはスポーツモデルとも同様の流れだ)。たくさんのなかから好みの色や状態をセレクトする楽しみは、ヴィンテージのタンク マストと共通するような面白さがある。
ダイヤルの色やパティーナの状態によって価値が変わるのはヴィンテージウォッチの醍醐味だが、特にロレックスのデイトジャストやデイデイトの一部に「ゴースト」と呼ばれるものがある。上に掲載したRef.1600は素晴らしい経年変化を遂げたと思われるが、一見、文字盤上のロゴや文字が消えているように見える。アプライドインデックスと王冠マークだけが象徴的で、初見であればニセモノだと疑う人もいると思うが、このゴーストダイヤルはコレクターのあいだでも珍重されるモデルで、人気が高い。ロレックスの文字盤はラッカーで着色されているのが一般的だが、パティーナする場合はラッカーの表面に施されたクリアが剥がれたり、ベースのラッカーが退色したりすることで発生するようだ。下のグレー文字盤が最も有名だが、シャンパンカラーやブラウンなどほかの色でも同じような「ゴースト」文字盤が確認されている。
大衆化したからこそ希少な金無垢モデル
後期になって登場する白文字盤はマットに仕上げられているのが特徴で、非常に数が少ない。前述のグレーダイヤルなども同様だが、経年変化が多く見られたためかメンテナンスの際にロレックスによって交換されている例も珍しくないという。だからこそ近年、注目が高まっている要因でもあるが、ヴィンテージウォッチを手にしたなら安易にメーカーメンテナンスに出すと思わぬ後悔をすることもありそうだ。
さて、4桁デイトジャストが持つバリエーションのなかでもう少し希少性が高いものをここではご紹介したい。後期世代に入って製造が安定してくると、新しいコレクションにもだんだんと珍しいバリエーションを加える手法は現在のロレックスとも共通している。まずはそのなかでも比較的ポピュラーな、通称「ワイド(ファット)ボーイ」。ベーシックなモデルよりも幅広かつ中央に溝のある針とインデックスを採用しているのが特徴だ。このディテールはデイトジャストのみならず、デイデイトでも見られたもので、1967年ごろからこのような個体が確認されている(過渡期だったのか、インデックスの一部だけが太い個体などもある)。本格的に生産数が増えたのが1970年以降なのか、初期のものはメンテナンスなどで交換されてしまい現在まで残っているものが少ないのか、4桁品番のなかでは比較的新しいものが多い。ただし、デイトジャスト全体の数と比べれば当然希少性は高いため、ベーシックなモデルよりも少しプライスは張ることになる。
一方、この時代のデイトジャストで最大級に希少性が高いのは18金ケースを備えたリファレンスであることは間違いないだろう。ディテールを見ると、金無垢モデルはケースからラグのシェイプが異なり、ラグ自体も穴なしの形状となる(SSはドリルラグ)。1960年以降の4桁デイトジャストは、初めてコレクションにSSモデルが追加されて大衆化したということは既に述べた。このことから、現在ゴールドモデル、それもブレスレットまで同時期のもので揃った個体というのは探すのがほぼ不可能なほどにハードルが高くなっている。4桁世代の金無垢ロレックスといえば、基本的にはデイデイトのことを指すほど生産数に差があるため、そちらを探すのが予算的にも難易度的にも利口な判断だ。それでもゴールド・デイトジャストの希少性に引かれるなら、多少年代のズレがあっても好みの仕様で探し出すか、時計のヘッドとブレスレット部分を別々に入手し理想とする1本に仕立て上げるかが現在のスタンダードである。
今回掲載している2本は奇跡的にブレスレットも揃った品である。WGモデルはギルトダイヤルが見事な状態を保っており、たとえこれがSSモデルであっても大変貴重なものだといえる。取材を受けてくれた江口時計店の江口大介オーナーによれば、SSモデルに対してWGモデルを扱う頻度は100分の1程度だということで、これはそのまま当時の生産数にも反映されるような指標になるだろう。なお、ゴールドといってもYGとWGではその希少性にかなりの差があり、プライスにするとWGの方が3〜4倍程度高価になるようだ。当時、ロレックスのゴールドといえばYGだったのである。
1970年半ばごろから数年間だけ生産されたものに、オニキスやステラダイヤルと呼ばれるものがある。これは、基本的にはデイデイトに見られるバリエーションで、一部金無垢のデイトジャストにも採用されて主に中東向けに製造されていたものだ。ステラダイヤルはエナメルに近しい質感のラッカーを厚く塗り、天然石のような深みのある色表現を実現したものだ。一方で深い黒のオニキスは天然石が用いられ、インデックスも王冠マーク以外の一切が排除されたミニマルなルックスが特徴となっている。当時の加工技術では天然石にインデックスをセッティングするのが困難だったことも想像されるが、このバリエーションだけがほかと特に異なるデザインになっていて、デイデイト、デイトジャストともに羨望の的である。現在、デイデイトでも年間2、3本が市場に流通する程度だが、デイトジャストのオニキスダイヤルはほとんど見かけなくなってしまった。
サンダーバードという過渡期の存在に夢を見る
ここまで希少なものを中心にデイトジャストの系譜を俯瞰してきたが、収集の指標として役立つ可能性のあるものをもう少し整理したい。これまで、この年代にはこのディテールが見られる、という整理をしてきたが、それに該当しない場合はいずれかの修理が行われている可能性が否定できない。ケース交換をされている場合はシリアルが新しくなるし、最悪の場合は、ロレックスによる修理ですらない場合もあるため、基本の知識は抑えたい(信頼できるお店で購入することが最もよい保険なのだが、彼らと話題を共有するために勉強してみるのも一興だ)。
ロレックスは今では年産100万本ともいわれる(非公表)わけだが、製造した時計のシリアルナンバーは1927年以降、しっかりと記録されている。4桁デイトジャストは、ケース6時位置、ブレスレットで隠れる位置に刻印されていて、当時は通し番号が用いられていたため、おおよその製造年を割り出すことができる。これは、メーカーが公にしているわけではなく、長年二次流通の市場で研究されてきた結果、リスト化されたものだ。小売店によってズレはあり、たとえば1970年のシリアルであれば2240000〜とするところもあれば、2952600〜とするところもある。当時の年産本数が25〜30万本ほどだったことと、各店で確認できたギャランティとの照合でおおよその番号が想定されているとのことだ。つまり、店によっては最大で1〜3年程度の誤差は出てくる計算になるがムーブメントの切り替えやオニキスダイヤルのような登場年がある程度明確なものについては、そのディテールによる判断が優先されている。なお、ブレスレットは年代がマッチするものを見つけることが難しいとすでに述べたが、そもそもあまり意味がないという点もあるようだ。というのもブレスレットは当時、出荷された国で装着されていたため、製造から時間が経ったものが合わせられていたことも多く、そもそもケースの製造年と合致しないことが間々ある。ちなみに、ブレスレットの製造年はクラスプ部分に2桁の数字で西暦の下二桁が刻印されている。
さて結びに再登場するのは、4桁デイトジャストの世代でほぼ全期間にわたって製造されたRef.1625「サンダーバード」だ。米軍のアクロバットチーム「サンダーバーズ」のために、1956年に製造されたことからその愛称がついたデイトジャストの派生型である。クラシックモデルでありながら一貫して回転するカウントダウンベゼルを備えているのがユニークだ。ただ、このバリエーションも謎が多く、1625以前のリファレンスを辿ると前述した「ターノグラフ」ベゼルを備えたRef.6309という18KYGモデルが1950年以降に製造された記録が『WRIST WATCH PRICE GUIDE』に残されている。記事執筆時点で「Chrono 24」に4点の出品が確認できるが、これはサブマリーナーやエクスプローラーが登場する以前の年代であり、スポーツモデル前夜から存在していたリファレンスとなる(1956年以前は、このモデルを「サンダーバード」と呼称していたわけではないのだが、後年は一括りにする文献も見られる)。
厳密には、ターノグラフこそがスポーツモデルの源流にあるわけだが、この時代のデイトジャストにラインナップされたサンダーバードという不思議な存在は個人としては収集対象として楽しく映る。ベーシックなデイトジャストと比べれば高価だがスポーツモデルほどではまったくなく、あくまでクラシックモデルとしての位置づけになっている。でありながら、ロレックスが初めてベゼルに機能を加えた回転ベゼルを備え、アクティブなシーンでの計時も可能とした意外性にあふれるモデルなのだ。このターノグラフベゼルはすべてゴールドで製造されており、その点もスポーツとドレスの中間的な個性を強調する。なお、文字盤や針などの移り変わりはその他のデイトジャストと共通なので、手に入れやすさや年代ごとの特徴なども合わせて検討すると自分の希望に合う1本が見つけ出せるはずだ。世代を経るごとに明確な変化のある4桁デイトジャストは、ディテールを理解して比較でき、入手できる十分な数があるという意味で、時計収集の根源的な魅力にあふれているのだ。
Photographs by Yoshinori Eto, Courtesy One Minute Gallery, Courtesy Eguchi Watches & Clothes
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