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A Week On The Wrist IWC パイロット・ウォッチ・クロノグラフ ・スピットファイアを1週間レビュー(動画解説付き)

次世代のスピットファイアがIWCパイロットシリーズにもたらす、スタイル、個性、そして魅力を考えた。

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まったく、時計という趣味に深くのめり込むのが大変な時代になったものだ。ここ10年、スティール製ヴィンテージウォッチの価格がオークションや中古市場で急激に高騰し、一部のブランドの新品スティール時計に対する需要も高まっている。そして、おそらく皆さんの多くがご存知の通り、この「急激な」という言葉の裏には、空っぽのショーケース、ウェイティングリスト、そしてそのリストを飛び越えさせてくれる(定価を大きく上回る予算があれば)二次市場にあふれる転売屋の存在が見え隠れする。

価格高騰・入手困難という状況に加え、今僕らがいるのは、あらゆる情報がインターネットを介して瞬時に手に入る時代でもある。真のコレクターのみが知る暗号だったリファレンスナンバーは、今や誰もが思い立ったその瞬間にiPhoneで調べることができる。流行りのスティール製スポーツ時計の探し方はその姿を変え、特定モデルの争奪戦の規模・欲求も、これまでのそれとは比べ物にならないものになっているわけだ。

では、普通の人々はどうすれば良いのだろう? 僕がこの世界に飛び込んだころ、サブマリーナーは新旧モデル共にいつでも購入できた。GMTマスターも巷にあふれており、スティールモデルを大体どこのショーウィンドウにも見つけることができただけではなく、5000ドルで手に入る個体も現在と大きく違うものだった。ありがたいことに、これら一部の超高需要モデルの外に目を向ければ、そこには非常に強力な選択肢がまだ存在している。


なぜ「スピットファイア」なのか

というわけで、IWC パイロット・ウォッチ・クロノグラフ ・スピットファイアの登場である。タフでありながら大げさではなく、実用時計然としつつもヴィンテージな雰囲気を併せ持つ、スピットファイア・コレクションが一新された。スティールとブロンズモデルをラインナップするこの新しいクロノグラフは、IWCお得意のフリーガー(パイロット)・スタイルをキープしつつ、このコレクション独自の懐古的な魅力を追求する姿勢を貫いている。

あなたが「パイロットウォッチ」をイメージする時、IWCが頭に浮かぶ可能性は高いのではないだろうか。このブランドは、戦時中のフリーガーデザインの現代的な解釈を体現する存在になったと言える。ビッグ・パイロットからトップガンや歴代の3針マーク・シリーズまで、あなたが求めるストイックさとケースサイズに合ったさまざまなIWC パイロット・ウォッチを探すことができる。ビッグ・パイロットは骨太で、トップガンはよりタクティカルともいえる雰囲気だ。では、スピットファイアの立ち位置はどうだろうか?

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IWCのマークXIの影響を受けたスピットファイアは、1948年に同社がRAF(ロイヤル・エアフォースことイギリス王立空軍)のために開発した軍用時計の無骨で実用主義的な魅力を捉えようとしている。下に掲載するマークXIは、クリーム色と白色が随所に配された文字盤と、ムーブメントを磁気から守る軟鉄製インナーケースに覆われたIWCキャリバー89を持つ、スティール製パイロットウォッチだ。

IWC マークXI。

1981年まで現役だったとされるマークXIは、前世紀中盤におけるIWCのパイロット時計のデザイン言語を確立したといえる。ブランドはその後、現代の名作であるパイロット・クロノグラフ Ref. 3717をはじめ、よりストイックな方向へと進化するわけだが、今回の新作スピットファイア・クロノグラフの仕上がりに、マークXIへのルーツを見つけることは容易だ。また、IWCパイロットウォッチの基本的構成要素である高い視認性と計器然としたレイアウトを保持しつつも、スピットファイアは少しだけリラックスした雰囲気を併せ持っている。例えばトップガンにフライトスーツが似合うとするならば、スピットファイアには使い古された革ジャンがしっくりくる。バイクも。ついでブラッドリー・クーパーの腕も(笑)。

現在、世界一周飛行に挑戦中のIWC シルバー・スピットファイア。

冗談はさておき、第二次世界大戦中の有名な戦闘機の名を借りたこのスピットファイアは、中には『真面目過ぎ』もしくは『骨太過ぎ』と形容できるリファレンスも存在するIWCのパイロットウォッチの中で、ブランドの歴史に敬意を払いつつ、クラシックな航空ロマンにあふれる雰囲気を併せ持っている。スーパーマリン スピットファイアは、間違いなく歴史上一番美しい航空機のひとつであり、数多くあるIWCのラインナップ中随一の温かさとクラシックな魅力を持つこのモデルに相応しいトリビュートだろう。


スピットファイア・クロノグラフという時計

スティールケースと黒文字盤仕様の新型スピットファイア・クロノグラフ(リファレンスIW387901)は、ケース径41mm、厚さ15.3mm、そしてラグを含めた全長51.5mmとなっている。IWC製自動巻きムーブメント搭載のこの時計は、ねじ込み式リューズ、反射防止加工を施したドーム型サファイアガラス、20mmのラグ幅、そして6気圧(60m・192ft)の防水性能を備えている。このリファレンスには高品位なグリーンの布製ストラップが付属するが、おそらくどんなストラップにも合わせられるデザインだと思う。

絶妙なケースサイズと高品質IWC製ムーブメントの組み合わせは、この時計が見た目重視のお飾りでも、『自分の腕よりもショーウィンドウで映える』代物でもないことを体現している。

スピットファイア・クロノグラフの魅力は分かりやすく、思慮深いその佇まいは、オーナーの時計に対する知識とこだわりを物語る。スタイリッシュでカジュアルかつ精巧なこのリファレンスは、無反射コーティングが施されたドーム型風防から高品位な文字盤の仕上げ、小気味良いクロノグラフのプッシャー動作まで、非常によくまとまっていると同時に、実にIWC然とした時計である。

39mmの3針モデル、41mmのブロンズ製UTC(セカンド・タイムゾーン)そしてスペシャルエディションとなるタイムゾーナー(上記、およびここにリンクするコールの記事で掘り下げている)を含むスピットファイア ライン全体に言えることだが、複数色使いの文字盤のマーキングは、好き嫌いが分かれる要素の一つだろう。
白色のインデックスとクリーム色の夜光塗料の組み合わせは、現在の『ネオヴィンテージ』トンレドに便乗していると片付けることもできるとは思うが、この色合いを混ぜた文字盤の仕様は、IWCのパイロットウォッチに長く使われてきたデザイン要素であると同時に、マークXIやその後継機種への回帰でもある。

僕自身、最初は白かクリームに統一したレイアウトの方が良いと感じたが、このミックスを次第に好きになっていった。明るいシルバーの文字盤がスピットファイア ラインから姿を消した今(のところは)、このデザイン要素はIWCの他のパイロットウォッチと一線を画す、スピットファイアの特徴といえると思う。

 今年の始めにSIHHで展示されたこの時計の文字盤には赤色で“SPITFIRE”と入っていたのだが、それは量産モデルに採用されないことを最後に書き加えておこう。もちろんそれが致命傷だとは思わないが、正直、僕はこの赤色のテキストが文字盤に与えた印象を気に入っており、この挿し色が量産型から消えるのは残念だと思っている。


ムーブメント

IWC キャリバー 69830。

今回のスピットファイア ラインのアップデートでは、41mmケースの採用に加え、IWCが69000シリーズのムーブメントをパイロット時計に初搭載したことも特筆すべき点だ。スピットファイア・クロノグラフには、耐磁性を高める軟鉄製のケージに囲まれた、IWC 69380キャリバーが搭載されている。

従来の日付表示に曜日が追加された、Cal.69370の進化版となるこのコラムホイール式クロノグラフ ムーブメントは、その基礎設計の一部をETA7750と共有してはいるもののIWCの完全自社製造であり、同社の長年培われてきたクロノグラフのノウハウが生かされている。

スピットファイア・クロノグラフは、その自動巻きムーブメントを覆う軟鉄製インナーケースの存在もあり、シースルーケースバックを採用していない。4HzのCal.69380は、46時間のパワーリザーブを備え、時間、曜日、日付表示、そしてセンターセコンド付きの12時間クロノグラフを搭載している。プッシャーの感触は非常にダイレクトで、その操作感は機械的でかっちりとしており、ETA7750と聞いて連想しがちな不鮮明な感触やノイズは全く感じられない。価格設定と装備を考えると(先にも書いた通り、スピットファイア・クロノグラフのドーム型風防を含めた厚さは15.3mmである)、IWCはこの秀逸なクロノグラフムーブメントを、装着感が高く絶妙なプロポーションを持つ時計にうまく詰め込んできたと思う。

競合する時計が全く存在しないわけではないが、本機特有の価値は明確であり、スピットファイア・クロノグラフはIWCがムーブメント開発において成熟の域に達したことを体現する時計のひとつだといえる。一般消費者向けの価格帯を(あくまでも高級時計として)キープしていることを考えればなおさらだ。


On The Wrist

実際に装着してみると、スピットファイア・クロノグラフの良さが瞬時に理解できる。サイズ感は絶妙で、個人的には、旧型や比較対象になるモデルによくある43mmケースよりも明らかにバランスが良いと感じた。スポーティさを感じる大きさを保ちつつ、僕の7インチ(約17.8cm)の腕周りで持てあます程巨大ではない。ミリタリー調の雰囲気を感じるデザインではあるが、迷彩柄のカーゴパンツやデパートで買ったドッグタッグとコーディネートする必要はない。

僕のこれまでのレビューでも書いた通り、時計のスタイルというのは定義しにくいものではあるが、スタイリッシュさと思慮深さを両立させつつゴテゴテ感のない一本をIWCは作り出したと思う。メタリックな仕上げの針は文字盤上にコントラストを生み出し、視認性は常に良好。革ストラップオプションもあるが(IW387903)、このグリーンの布製ストラップは完璧だと僕は感じる。1、2日間の使用でストラップは腕に馴染み、着け心地は文句なしだ。多分僕ならスエード革とNATOストラップを使い回すことになると思うが(僕は習慣を重視するタイプだ)、上にも書いた通り、この時計に合わないストラップを探す方が大変だろう。

興味深いことに、少なくとも今のところ、このモデルにはブレスレットオプションが存在しない。僕は基本的にブレスレット派ではないし、こういうタイプの時計には間違いなくストラップを使用するが、IWCはこのクロノグラフ 用のブレスレットを用意するべきだと思う(将来的には実現するだろう)。IWCがこれまでのパイロット・クロノグラフ向けに用意したような、スレンダーかつ高品位のスティール製マルチリンク・ブレスレットはこの時計に間違いなく似合うし、競合モデルの多くにはブレスレットオプションが存在しているのも事実である。


競合モデル

スピットファイア・クロノグラフの67万5000円(税抜)という値段設定は、この時計の立ち位置を面白いものにしている。現在市場には、ありとあらゆるサイズ、機能、そして価格帯のヴィンテージ風クロノグラフが存在している。その中で、サイズ、機能、そしてブランドの魅力性という点で競合していると僕が考えるスティール製の時計相手に、スピットファイアがどう対抗しうるか(簡単に)検証していこう。

オメガ スピードマスター プロフェッショナル

スピードマスター プロフェッショナルは、航空史を背景に持つスティール製クロノグラフの選択肢としておそらく定番中の定番であり、その地位を正当化できるだけの価値がある。なんといってもムーンウォッチなのだ。しかし、この時計はとても一般的で、手巻きムーブメントとヘサライト風防を使用しており、スピットファイアが持つ最大の特徴であるミリタリー調のスタイルも持たないる。本当に素晴らしいブランドのアイコニックなクロノグラフであることは間違いないが、少々退屈な(特に通常モデルに関して言えば)選択肢だと僕の目には映る。もちろんそれは、スピードマスターがいかに優れた時計であり、オメガがそのあり様を数十年も変える必要がなかった(有人宇宙飛行ミッション用の再認定を必要とする状況を作りたくなかったともいえるが)という事実の裏返しでもあるわけだが、やはり新鮮さ、興味深さ、そして楽しさという点ではスピットファイアに軍配が上がると思う。

 55万円(税抜) omegawatches.jp

ブレモン アロー 

ブレモンの新モデルであるアローは、同社のアームドフォース・コレクションの一部であり、英国軍の各部署向けにデザインされている。42mm径の硬質加工されたケースを持つアローは、セリタ製SW510 MPをベースにしたモノプッシャー仕様のムーブメントを搭載する、ハンサムな自動巻きクロノグラフだ。その価格設定はスピットファイアよりも約10万円安く、もちろんブレモンはより小規模で知名度も低いブランドではあるが、高品質でスポーティな、注目に値するパイロットクロノグラフとして十分な競争力を持っている。

4745ドル(約51万6000円) bremont.com

ゼニス パイロット クロノメトロ TIPO CP-2 フライバック

スピットファイアと近い気質を持つ、ゼニスのスティール製ヴィンテージ風クロノグラフは5Hzのフライバック機能付きエル・プリメロ クロノグラフムーブメントを搭載し、文句なしのルックスだ。ただ、スピットファイアの強みとなる要素を比べると、より大型の43mmケースを採用し、明らかに一段上の価格設定となっている(スピットファイア と同じくブロンズバージョンも有り)。デザインは素晴らしく、ロマンあふれるミリタリーテイストの魅力を持ち、素晴らしいムーブメントを搭載しているのは事実なのだが、僕ならスピットファイアを選ぶだろう。スピットファイアが一般市場向けの魅力を重視しているのに対し、この独特の雰囲気を持ったゼニスは、何らかの特別なこだわりを持つ層をターゲットに作られているといえる。例えば、ハイビートとフライバック・クロノグラフ搭載ムーブメントという付加価値を重視するユーザーには最適だろう。

91万円(税抜) zenith-watches.com

タグ・ホイヤー オータヴィア ヘリテージ キャリバー ホイヤー02

スピットファイアと非常に近い価格帯に位置し、同じくヴィンテージデザインからインスピレーションを受けた新型オータヴィアは、スティール製42mmケースとより優れた防水性を持ち、スピットファイアにはない12時間の回転式ベゼルを搭載している。明らかにスピットファイアとは異なるデザインではあるが、オータヴィアのキャリバー02もコラムホイール方式のムーブメントであり、より長い75時間のパワーリザーブを備えている。僕の腕にしっくりくるのはスピットファイアだったが、誰かがこの2モデルから次の時計を選ぼうとすることに何の不思議もないだろう。ただ、僕が自腹で購入するのであれば、それはスタイルの好みの問題であり、スピットファイアの圧勝である。

56万円(税抜) tagheuer.com

ブライトリング ナビタイマーB01 クロノグラフ 43

ナビタイマー抜きに航空系クロノグラフを語ることはできない。スピードマスターが飛行認定される以前に宇宙飛行士達によって使用された時計であるナビタイマーは、その伝統と特徴的なミッドセンチュリー・デザインを持ち合わせており、間違いなくスピットファイアと真っ向勝負できるだろう。しかし、両者の価格設定を考慮すると、この2つの時計が同じ土俵に立つのは難しいかもしれない。43mmケースのB01は非常に魅力的な仕上がりだが、その予算は大きく跳ね上がる。Ref. 806 1959 リ・エディション(ゴージャスな上に41mmケースだ)は特に素晴らしいが、このモデルは手巻きムーブメント仕様で普及版よりさらに高額な点を考えると、スピットファイアがいかに真剣な挑戦者か分かるだろう。ただし、ナビタイマーには、アイコニックなデザインに加え、秀逸な自社製B01自動巻きクロノグラフ・ムーブメントという強みもあるわけで、もしあなたがそれらの要素を重要視し、より大きめで骨太なアイコニック・デザインが欲しければ、予算をアップしてナビタイマーを選択する価値があるかもしれない。

87万円(税抜) breitling.co.jp

ロンジン ビッグアイ クロノグラフ

これは実に興味深い一本だ。ヴィンテージミリタリースタイル、41mmケース、そしてコラムホイール式クロノグラフ・ムーブメント搭載で、スピットファイアを約35万円下回る価格設定である。厚さ14.45mm、ラグを含めた全長50mmのこのロンジンは、なかなかの好敵手といえるだろう。IWCとロンジンの間で比較検討する人がどれだけいるかは正直分からないが、ビッグアイがかなりお買い得かつ魅力的なチョイスであると同時に、スピットファイアがよりアイコニックなデザイン、曜日・日付表示、アップグレードされた風防を持ち、そしてさらに精巧な作りと仕上げを手に取って実感できる時計であることもまた事実だ(価格差を考慮すれば当然とも言えるが)。

31万6000円(税抜) longines.jp


最後に

これが、IWCの新型パイロット・ウォッチ・クロノグラフ ・スピットファイアという時計だ。汎用性が高く、悠々としたスタイリッシュさでどんなシーンでも浮かず、精巧な作りを魅力的な価格帯で実現したスティール製スポーツウォッチである。抜群の視認性と実用性、文句なしの着け心地、そしてインスタグラムやオフ会で僕らがよく見かける、ありふれたスティール製スポーツウォッチとはひと味違う面白さがそこにはある。王道の名作はもちろんいつでもすばらしいが(名作が名作たるゆえんである)、新しく、他と異なる特別な一本を試してみて損はないと思う。

ラグ穴とブレスレットオプションの追加があれば言うことなしなのも事実だが、この新型スピットファイア・クロノグラフは、個性に溢れた一流のブランドの時計を約60万円でまだ手に入れることが可能だと証明する、IWCの意欲作だ。そして、ウェイティングリストも要らず、グレーマーケットに頼る必要もないのだ。

より詳しい情報は、IWC公式サイトへ。