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In-Depth ジャケ・ドロー ラブィング・バタフライ・オートマトン 命が吹き込まれた腕時計

数百年前のロボットにインスパイアされたオートマトン・ウォッチ。


ヌーシャテル州にある同名の湖の北岸に位置するヌーシャテルを訪れたならば、青く深い湖の対岸を見渡せるホテルに宿泊し、湖の背後にある坂道を登って有名な城を訪れてみよう。時計好きの方には見逃せないのが美術・歴史博物館「Musée d'Art et de Histoire」だ。館内には、モネやピサロなど驚くほど豊富なコレクションがある。スイスのジュラ地方にある美術館としては意外ではないが、時計の展示もある。しかし、できれば時間を作ってでも見て欲しいのが、18世紀半ばにジャケ・ドロー家が製作した3つのオートマトン(からくり時計)だ。

 3つのオートマタ(=からくり)はそれぞれ「作家」「音楽家」「画家」と呼ばれ、20世紀初頭に博物館が入手して以来、常に駆動できる状態に保たれている。現代のコンピュータの遠い祖先であるこれらのオートマタは、互換性のある一連のカムを介してさまざまな動作をプログラムすることができる。特に「作家」はさまざまな文字が書けるように、そして「画家」は数種類の絵が描けるようにプログラムされている。

 見ているとちょっと気味が悪い。この博物館では毎日実演が行われており(少なくとも私が最後に行った3年ほど前は毎日行われていたが、現在はすべて休止されている)、そこでそれらのパフォーマンスを見ることができ、開いた背中(そう、彼らはシースルーバックなのだ)から、レバーと連動する回転カムの機構などを覗くこともできる。彼らの固まった陶器人形のような表情は動作の生き生きとした動作とは対照的で、機械のなかにある種の精神があり、それが彼らを動かしていると想像してしまうのだ。ピエール-ジャケ・ドローが魔術師として非難されそうになったことも合点がいくだろう。

「画家」のオートマトンが描いたキューピッドと蝶。

 「画家」が描く絵の一つに、蝶が引く馬車に乗ったキューピッドのロマンチックなスケッチがある。このモチーフは象徴的だ。ラテン語で書かれた古典小説のなかで唯一完全な形で現在に伝わるアプレイウスの『黄金のロバ』で、愛の矢を射るキューピッドと魂を象徴するプシュケとのロマンスが描かれている(精神科医という言葉は、魂を意味する"psuke"と医者を意味する"iatros"を組み合わせたもので、精神科医とは文字通り魂の医者ということ)。ここでは蝶はプシュケを象徴しているが、芸術や文学においては一般的に蝶は魂の象徴とされている。

 オートマトンが描く絵自体より、技術的・芸術的な観点から、その製造過程により魅力を感じる。サミュエル・ジョンソン(18世紀の英国の文学者)がかつて別の文献で言ったように、「上手くできてはいないが、それを見ることだけでも驚きに値する」だろう。

 ジャケ・ドロー家の名を受け継いだ現代の会社は、他の多くのブランドと同様に、元々その名を有名にした時計師たちとは直接関係ない。しかし、スウォッチ・グループは、その名に恥じないように多くの努力を重ねてきた。1993年に設立され、2000年にスウォッチ・グループに買収されてからも、オートマトン(ニッチで非常に高価な特殊技術)とオートマトン・ウォッチの両方を製造してきた。そのなかの「チャーミング・バード」は、鳥がさえずるオルゴールのからくりを腕時計にしたものだ(アンティーク時計師のブリタニー・コックスは、オートマトンの修復と修理の専門家)。最近のジャケ・ドローのオートマトン・ウォッチには「ラブィング・バタフライ」がある。「画家」はキューピッドとプシュケの絵を描き、ラブィング・バタフライは絵に生命を吹き込んだ。

 この時計には、珪化木、オニキス、アベンチュリン、メテオライトなど、さまざまな素材の文字盤を使ったバージョンがある。しかし、オーストラリアン・オパールの文字盤(ホワイトゴールドまたはレッドゴールド)を使用した2つのモデルが、個人的には今に伝わるスピリットを忠実に再現していると思う。

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 「オパール色」という言葉は、宝石の光沢あるシルクのような色調を表すために作られた。宝石は、その光沢、透明度、そして多くの場合、その硬度で評価される。オパールは、モース硬度6程度とダイヤモンドよりも柔らかい宝石だが、都市伝説的に言われているほどダメージを受けやすくデリケートな宝石ではない(例えば、オパールは水に濡れても大丈夫だ)。貴重な素材の中で、虹色の輝きがオパールに匹敵するのはマザーオブパールだけであり、本当の意味でこれと並ぶものはないように思う。

 この時計の操作は簡単だ。Cal.JD2653 AT1はシリコン製のヒゲゼンマイとレバー脱進機を採用した自動巻きムーブメントで、非常に古風な複雑機構を支える、技術的には非常に現代的なムーブメントだ。リューズを一方向に回すと、時を刻むゼンマイを動かす香箱が巻き上げられる。リューズを反対方向に回すと、オートマトンを動かす小さなゼンマイが巻き上げられる。これは、チャイム機構付きの腕時計に見られる基本的な仕組みに共通する。オートマタやリピーター、ソヌリなどの複雑機構のために独立したゼンマイを搭載することの利点は、複雑機構が計時歯車列の動力の流れから外れていることである。

 リューズを巻いてオートマトン用の香箱にパワーを入れれば準備OK。リューズの中央にあるボタンを押すと馬車の車輪が回り始め、蝶が悠々と羽ばたきだす。

 この時計を見ていると、19世紀の偉大な舞台魔術師たちの手の込んだイリュージョンを思い出す。特に、マジシャンであるロベール=ウーダンの「不思議なオレンジの木」では、観客のハンカチを卵のなかに入れると、それがレモンやオレンジになり、最後に観客の目の前でオレンジの木になった果実のひとつから再び現れるというものだ(ハンカチは2匹の機械仕掛けの蝶によって現れる)。

 このマジックの裏には、非常に複雑なメカニズムがある。プロであれば、その仕組みに興味をもつのは当然のことだろう。マジシャン達は、1845年にロベール=ウーダンが初演した「不思議なオレンジの木」を研究している。しかし、それ以外の者にとっては、マジックは未知のものではないにしても、信じること、つまりマジシャンの芸術性―この場合は時計職人の芸術性―を信じることにあるようだ。

ジャケ・ドロー ラブィング・バタフライ・オートマトン:写真の通り、ケースはレッドゴールド、43mm x 16.63mm。文字盤はブルーオパールとホワイトマザーオブパール、レッドゴールドの装飾、蝶で表現されたキューピッドとプシュケのオートマトン。ムーブメントはCal.JD2653 AT1、自動巻き、レッドゴールド製ローター、シリコン製レバー、ヒゲゼンマイ、2つのゼンマイ香箱。オートマトン用の独立した香箱、スピードレギュレーター付き。68時間のパワーリザーブ。ストラップはダークブルーのアリゲーター、レッドゴールド製フォールディングクラスプ。2385万9000円(税込)。詳しくはジャケ・ドロー公式サイトへ。

All photos, Tiffany Wade. Video, David Aujero.