Hands-On 新型アクアスター　モデル 60を実機レビュー

　この新しいアクアスター 60は、1960年までさかのぼる第3世代のモデル 60を忠実に再現することを意図しており、ダイビングの黎明期や、1960年にチャレンジャー海淵の海底で着用した時計のひとつであることなど、本当に素晴らしい歴史の一部を担う時計だ。

 2020年にアクアスターがディープスター クロノグラフを発表した際に、僕の友人であるジェイソン・ヒートン（Jason Heaton）がこの素晴らしいストーリーをうまくまとめてくれている。ヒートンのものに勝るものはないので、次の数段落はすべて彼が執筆したものである。

　アクアスターはあまり知られていない名前かもしれないがおそらく1960年代で唯一、最も革新的なダイバーズウォッチを手がけていて、ベゼルから水深計に至るまで12以上の特許を取得していたブランドである。当時スイスで最も古い時計ブランドだった、老舗のジャンリシャールブランドのなかに同社の起源がある。ジャンリシャールによる最初のダイバーズウォッチは1958年にデビューしたアクアスター 60である。それは長いアーチ型のストラップホーンのあいだにある平らなケース面、リューズガードはなく、薄くカーブした輪郭など、のちに“スキンダイバー”と呼ばれるようになったもので、以降10年間典型的な形のひとつとなるケースシェイプを持つ、控えめな時刻表示のみのダイバーズウォッチだった。その後数多くのブランドで採用されたケーススタイルであり、例えばセイコーが今年発売したSBDC10シリーズにも採用されていることからもわかるように、その人気は今日まで続いている。非常にシンプルで快適、そして60年代を彷彿とさせる原点のようなフォームファクタ（実寸規格）である。

　モデル 60は1960年にドン・ウォルシュ（Don Walsh）船長が、ジャック・ピカール（Jacques Piccard）とともに初めてマリアナ海溝の海底に降りた際、バチスカーフ トリエステ号のなかで着用していたものである。潜水艇の外に吊るしたロレックス　ディープシー・スペシャルは大変有名な話だが、バチスカーフのなかにいたのはアクアスターだったのだ。

　1962年、モデル 60で成功を収めたジャンリシャールはサブブランドとしてアクアスターを正式に立ち上げ、当時ブランドのオーナーであったジャン・ロバート（Jean Robert）の息子であるフレデリック・ロバート（Frédéric Robert）が統括することになった。フレデリックはスキューバダイビングや船乗りなど、今でいう“ウォーターマン（船頭）”であり、海面上、海中、海面下での使用を想定した時計や計器の開発に情熱を注いでいた。

　数年のうちにジャンリシャールの名前は完全になくなり、アクアスターは独立したブランドとなった。以降ダイバーズウォッチだけではなく、リストコンパス、温度計、水深計、レガッタの名として知られる革新的なセーリングタイマーなども製造するようになった。

[ここまでがヒートンの記事]

　そして現在、新たに発表されたモデル 60はそのルーツを忠実に再現し、直径37mm、厚さ12.6mm（風防を除くと11mm）、ラグからラグまでの長さが47.1mmのスティールケースを備えている。さらにケースにはドーム型サファイアクリスタル風防、夜光塗料を12時位置に塗布した双方向回転SSベゼル（実際、オリジナルも双方向回転式である）、19mmのノンドリル型ラグをセットする。僕が確認した限りでは、ケースは素敵なアクアスター　ディープスター IIで使用されているものと同じだった（それか非常に似ている）。

　裏蓋は無垢のSS、文字盤は非常にディープなブラックで、クリスタルの反射の効果もありややインクのようにも見える。インデックスと針はスーパールミノバを塗布しており、オリジナルと同様、文字盤の3時位置には白いカレンダーディスクを背景に黒文字が入ったデイト表示を配している。

　防水性もオリジナルと同じく200mで、2023年の新作モデル 60は自動巻きのラ・ジュー・ペレ社製G100を搭載、2万8800振動/時（4Hz）で作動し、約68時間のパワーリザーブを確保。そして4つのポジションで調整済みである。これは基本的にラ・ジュー・ペレがETA 2824や2892に対抗したもので、パワーリザーブが増えた点は純粋にうれしい。

　このムーブメントはねじ込み式リューズを介して制御されているが、今回の実機レビュー用に借りたものは装着したままでも十分に精度を出していて、僕の腕時計測定器では日差平均+6秒を記録した。

　僕はスキンダイバーのファンとしてちょっとだけ気を使っている。というのも、スキンダイバーが高価で技術的に高度な“プロフェッショナル”ダイバーズウォッチに代わるものとして、気取らない外観と、やや控えめな気風をいつも評価してきたからだ。僕はシルヴァーナのヴィンテージ（これについてはここで確認を）を長いあいだ所有していて、セイコーの“20MAS”についても非常によく似た雰囲気のモデルであることを散々伝えてきた。要するに新しいモデル 60は僕の得意分野であり、しかも以前再登場したディープスター（よく似たディープスター IIも含めて）が好きだったのと同じくらいモデル 60も好きなのだ。

　小ぶりなサイズだが、スポーツウォッチのなかでもしっかりとした塊のように感じる。文字盤は大きく視認性にも優れており、フォントからSSベゼル、そしてあの小さなアクアスターのヒトデのロゴに至るまで、この時計は初代モデル 60とスキンダイバーの両方が持つミッドセンチュリーのヴィンテージな雰囲気を見事に表現していると思う。

　美しくてつけやすく、手首へもよくなじんでいる。リューズは大きくて扱いやすくて日付は明瞭で読みやすい。120クリックあるベゼルはセラミック製ベアリングを採用していて、その結果ベゼルの動きは軽くてほどよいクリック感があり、3桁の時計で期待するよりもずっと洗練されているように感じる。

　付属のブラックNATOストラップの重さは82g。非常に滑らかで光沢感を放ち、手首の時計を目立たせるのに十分だ。僕はラバーではないブラックストラップは好まないが、これはあまり気にならなかった。そして薄いレザー製のNATOやヴィンテージトロピックのラバーストラップをセットしたほうがさらにモデル 60にマッチすると感じた。またスキンダイバーであるモデル 60は19mmのラグ幅にフィットするものであれば、どんなストラップでもよく似合うと思う。

　まだ自分用のモデル 60が必要かどうかは決めていないが、もし購入したら、アクアスターから出荷通知が来る前に19mm幅のシャークメッシュベルトを探すことになるだろう。

　この写真に写っているNATOを含め、アクアスター　モデル 60は990ドル（日本円で約13万8000円、予約注文後のレギュラー販売だと1290ドル/日本円で約18万円）で予約を受付ている。5月からの納品と考えると非常にフェアな価格だと思う。同モデルはオプションでトロピックラバーストラップ、またはSSブレスレットも用意している。さらに先着100本の注文には、この記事のトップにある写真の一部で見られるオイル封入式ストラップコンパスも含まれている（編集注記：こちらのストラップセットはすでに完売）。コンパスは時計以外の分野で活躍していたブランドレガシーを意識したもので、別途70ドル（日本円で約1万円）で販売される予定だという。

　セイコーの“20MAS”と非常によく似た価格帯（SBDC105はラバーストラップで販売価格は税込で13万7500円だ）と比較すると、アクアスターはスキンダイバーとしてのレベルがより高くムーブメントもハイグレードだ。セイコーの40.5mmに対して37mmのほうが好きな人にとっては、それは間違いないように感じる。

　最終的には、ヴィンテージデザインに対する堅実でモダンな見解に不満はないだろう？　しかしダイバーズウォッチの歴史に特別な興味を持っているダイバーズマニアなら、アクアスターは文字盤で見ることができる特別でノスタルジーを感じる名前だ。新しいモデル 60でブランドはヴィンテージスキンダイバーの幅を広げ、簡単につけられる魅力を備えながら、あらゆる種類のウォーターアクティビティに適するディテールにしっかりとこだわっているのだ。

　このモデルの詳細については、アクアスター公式ウェブサイトから。