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In-Depth オメガ シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ プロフェショナル

議論の余地のない深さの王者の全貌。

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 「私は登山用のピッケルを潜水艇に縛り付けました。つまり、地球上で最も高い所と最も深い所に行ったということです」- ヴィクター・ヴェスコヴォ

ヴェスコヴォ氏は、海軍情報部での勤務経験があるジェットパイロット(第7艦隊の司令船USSブルーリッジでの任務を含む)であり、七大陸の最高峰に登頂したこともある、世界で最も興味をそそる男性であるか、そうでなければ、その穏やかな笑顔と“紳士的な探検家”の顔の裏で世界征服を企む、ボンドの宿敵かどちらかだろう。そのどちらか私は分からないが、いずれにしても、オメガは彼がプラネットオーシャンを購入したことを喜んでいるに違いない。

ヴィクター・ヴェスコヴォ氏、地球最深部への探索を語る。

 ヴェスコヴォ氏はダラスに拠点を置く投資会社の創業者で、最近は深海探検家としても活躍している。自身で資金調達して行った「ファイブ・ディープス」の探査では、世界の5つの海のうち4つの海の最深部に到達し、今年の8月に北極海の征服を残すのみとなった。彼は、これらの深海探検のために特別に設計された潜水艦「リミティング・ファクター」を入手するため、フロリダに拠点を置くトリトン・サブマリンズ社と提携した。そして、地球上で最も深いポイントを複数回訪問した唯一の人物として、また、1960年に米海軍のバチスカーフ・トリエステ号が達成した最深潜水記録を更新した人物として、記録を打ち立てた。では、なぜそんなことをするのか? 私は先週、ロンドンで行われたオメガ主催の記者会見でヴェスコヴォ氏に尋ねた。3本のシーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ プロフェッショナルが潜水艇の外にお目見えした。

 「七大陸の最高地点に登った後、次は何をしようかと周囲を見回してみたところ、五大洋の最深部すべてに行った人間がいないことを発見しました」と、彼は次の休暇を計画している人のように、ややカジュアルな言い方で語った。この冒険を記念して時計を購入することにしたヴェスコヴォ氏は、ダラスのオメガの販売店を訪れ、シーマスター プラネットオーシャン クロノグラフを手に入れた。昨年12月、彼が大西洋のプエルトリコ海溝で初の潜水を行った後、オメガは絶好のマーケティング機会を逃さなかった。これは歴史に名を残すチャンスだったのだ。しかし、彼らは急がなければならなかった。

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 通常、ブランドにとって何年もかかるプロジェクトである、3万6000ft(約11km)近くまでの水深と1平方インチあたり8トンの水圧に耐えられる時計の製作を、オメガは6ヵ月強で成し遂げた。精密さと革新的な複雑機構の追求に加えて、防水性はメーカーが選択したチャレンジのようで、「Full Ocean Depth」(深海最深部:潜水界ではFODと略される)をマークする以上の栄誉はない。もちろん、何十年にもわたって深海の底を支配してきた名前がある。ロレックスだ。1960年にトリエステ号に搭載された「ディープシー・スペシャル」が記録を更新し、2012年にジェームズ・キャメロン氏が海底に行った際は後継モデルの「ディープシー・チャレンジ」が使用された。ヴェスコヴォ氏のサポーターでもあるキャメロン氏は、潜水艇の機械的な問題でマリアナ海溝に一度しか行かなかったため、浅い場所を探検することしかできず、トリエステの記録を更新することはなかった。

探検隊に残された海は北極海。

 シーマスター プラネットオーシャン "ウルトラディープ"のデザインにおいて、オメガは単に海底での探索に耐えられる時計を求めていたのではない。オメガのダイバーズウォッチとしての外観も維持しなければならなかった。ケースはグレード5チタン(リミティング・ファクター号の圧力船体に使用される合金から採取)から鍛造され、サンドブラスト仕上げでマットグレーに仕上げられ、1960年代以降のシーマスターに見られるお馴染みのツイストしたボンベラグを備えている。回転ベゼルと文字盤もチタン製で、ベゼルのトップリングにはセラミック製のリキッドメタルマーカーが付いている。これまでのところ、横幅55mm、厚さ28mmであることは別として、それはかなり見慣れたシーマスターのものに近い。しかし、類似点はそこで終わりだ。

このシーマスターは浅いプールには行かない。

 ケースの穴を一つ減らすために、オメガはトレードマークのヘリウムリリースバルブを付けなかった(サブパイロットや時計を減圧する必要はない)。また、ストラップバーも全くない。底までの荒い道程と、水圧が従来のストラップ取り付けシステムに与える影響を考慮して、オメガは内側にカールするほぼ一続きのラグを設計。これが最強のデザインであり、保持バーのわずかな隙間が多少のフレックスを可能にしている。この形状は、マンタの角のような頭頂部フィンにインスパイアされたと聞いているが、美的な選択というよりは、機能を追求した形状だったのではないだろうか。

最大限のセキュリティのために設計された革新的な "マンタレイ "ラグ。

 サファイアクリスタルはポリマーガスケットを使用せずに圧着されている。従来のダイバーズウォッチでも、比較的安価なゴム製のOリングに多くを頼っていると私はよく考えていた。この点はオメガも同意しているようで、ここではリスクをとらなかった。ウルトラディープのガスケットはリキッドメタル製だ。ケース、サファイア、リキッドメタルを摂氏280度(華氏540度)に加熱し、その溶融したガスケット材料は機械の溝に流し込まれる。その後、リキッドメタルが冷えてシールを形成するまで、クリスタルは所定の位置に組み込まれ5トンの圧力で圧縮される。このプロセスは、オメガがウルトラディープのために持っている出願中の3つの特許のうちの1つだ(他の2つはリューズと裏蓋に関するもの)。この時計にはキャリバー8912が搭載され、デイト表示のないコーアクシャル自動巻き機能と、精度と耐磁性がMETAS規格に認定された3本の針をもつ。

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 オメガは3本のウルトラディープを製作し、それぞれをFOD-X 1、2、3(Full Ocean Depth=深海最深部、 Experimental=実験 )と命名した。全ての試験は、安全マージンとして最深部より25%深い水深1万5000mで行われた( チャレンジャー海淵 の最深部は1万1000m弱)。3本ともヴェスコヴォと共に海底に到達し、2本はロボットアームに、1本は遠隔操作の切り離し可能なランダー 車両に固定された。3本とも無事に探索を終え、先週ロンドンの大英博物館で展示された。触ることはできなかったが、動いていたようだ。しかし、そのうちの1本は他の2本より長い試練に耐えたのだ。

ウルトラディープの構造の分解表示、リキッドメタルのクリスタルガスケットが見える。

 スカフの愛称で親しまれているランダー車両は、海底の泥の中で動けなくなり、ヴェスコヴォが回収することができなくなった。そこで彼と副操縦士はそれを残したまま浮上した。彼らは、誰かが見つけなければ海底で消失してしまうと考え(「何年も探すのに苦労させたことでしょう」とヴェスコヴォは冗談を言った)、最終的に史上最も深い深海での探査活動を開始し、スカフを見つけることにした。54時間後、それは発見され、リミティング・ファクターを使ってスカフを動かし、回収に成功。彼らがランダー車両を水面まで運んだ時、ヴェスコヴォはウルトラディープがまだ動いているのを見た。地球上で最も深い海底で2日間を過ごしたにもかかわらず、ほぼ完璧な時間を保っていたのだ。ぜひそれをMETAS認証カードに記してほしいものだ。

 オメガのファイブ・ディープス探査への関与を考えるとき、2つの疑問が浮かぶ。オメガは市販用のウルトラディープを造るのだろうか?

リミティング・ファクター、トリトン社製の潜水艇。

 まず第一に、オメガのCEOである レイナルド・アッシェリマンによると、ウルトラディープの小型バージョンがすぐに近くの小売店に登場するとは思わないでほしいとのことだ。「今年はスピードマスターの年です」と彼はウィンクしながら、月面着陸50周年の重要性を示唆した。しかし、絶対にないとは言えないと私は思う。オメガがこの記念すべき偉業のスピンオフ版を作らないなんて、正気の沙汰ではないだろう。ついでに言うと、デイト表示のない文字盤やヘリウムリリースバルブのないクリーンなケース、マット仕上げ、ブルーのアクセントが特徴のこのウルトラディープについて、多くの人が賞賛の声を寄せている。このモデルに搭載された技術は言うまでもないだろう。これをよりスリムにしたモデルを、リキッドメタルクリスタルガスケットを使用した「市販で最も深い」潜水が可能なダイバーズウォッチとして売り出せるかもしれない。これはいいアイディアだ。

小型化して売れないか?

 最後に、なぜオメガは、そして我々は、時計を海の底に連れていきたいのだろうか? 超深海の評価は、長い間時計ブランドによって追及され、支持されてきた。スイスのブランド、ジェニーは、1960年代に最初の1000m級の時計を作ったとし、オメガは1972年に"グランド"として知られているシーマスター1000でそれに続いた。我々は、ベル&ロスのオイルを充填したクォーツ時計が耐水1万1000mの評価を得るのを見てきたし、機械式のダイバーズウォッチでも最近は定期的に2000mから3000mの認定を受けている。しかし、プラネットオーシャン ウルトラディープの記録は1960年以来のものであり、破られることは無い。それ自体が意義深いのだ。

 はっきりさせておくが、このような超耐水腕時計を身につけて、"押しつぶされるくらいの深さ "まで潜る人はいないだろう。スキューバダイバーは一般的に30m以上深くは潜らないし、最近では腕時計を身につけるダイバーも少ない。時計製造は、純粋に実用性だけの問題ではない。人間の創意、工夫、課題解決の力が試される。だからこそ、私たちはトゥールビヨンやデッドセコンド、イクエーションオブタイムの複雑機構を高く評価するのだ。水深100ftで自分の手首を見ると、正確に調和した歯車とゼンマイがそこで静かに時を刻んでいる。これが好きなのだ。同じ理由から、オメガの時計が2日間、1万928メートルで完璧な時間を刻んだことを感動的だと思っている。

詳細については、オメガのオンラインサイトを。