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Hands-On ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ・トゥールビヨン

日常使いに適した一本に、トゥールビヨンが登場した。

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ヴァシュロン・コンスタンタンは、スイスの偉大な時計メーカーの中でも、最も伝統に縛られているメーカーのひとつかもしれない。時計作りという点においては、同社は古典的製法を踏襲する傾向があり、多くの製品はジュネーブシールに従って仕上げられその品質を保証している。同社には、特注専門のレ・キャビノティエという部門も存在し、コレクターが時計師に最高の仕事を求める高級な特注時計作りに専念している。彼らの仕事は、記録破りな程複雑である懐中時計の最盛期を強く連想させるものである。


 その一方で、ヴァシュロンは若年層向けの腕時計販売を積極的に模索するモダンな企業でもある。近ごろ発表された、同社では手頃な価格のフィフティーシックスコレクションや1996年に発表された主力ラグジュアリー・スポーツ・ライン「オーヴァーシーズ」がその象徴といえる。今回は、1977年の「222」から着想を得て誕生したオーヴァーシーズの新作にスポットを当てたい。

 ヴァシュロンがラインナップにさらに多くのコンプリケーションを追加したことで、オーヴァーシーズコレクションはここ数年で目にする機会が多くなった。現在では、1970年代を彷彿とさせるケースを用いて、ワールドタイム、クロノグラフ、 デュアルタイム、さらには極薄のパーペチュアルカレンダーのモデルがラインナップされている。しかし、これらすべての中でも、私が最も驚き、注目したのは、「オーヴァーシーズ」のSS製のトゥールビヨンだ。
 印象的なブルー文字盤を備えたこのSSの腕時計は、2019年のSIHHでデビューし、今でもSSのみのラインナップとなっている。SIHHのブースで初めて見たとき、トゥールビヨンが普段使いの腕時計にもなり得るのだと、本機から強い説得力を感じたのを覚えている。最近、この時計と数日過ごして、その魅力をより理解しはじめた。 

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事実を述べる

 ヴァシュロン・コンスタンタンのオーヴァーシーズ・トゥールビヨンは、本コレクションに加わった最新のハイコンプリケーションモデルであり、初めてトゥールビヨンが採用されたモデルだ。最近までオーヴァーシーズは、デュアルタイム、クロノグラフなど、主に旅行やスポーツ向けのコンプリケーションに重点をおいており、直近ではワールドタイムの搭載が記憶に新しい。新作のオーヴァーシーズ・トゥールビヨンにおいては、ムーブメントはヴァシュロンのレパートリーの中でも、かなり新しいものになっている。
 2018年のトラディショナル・トゥールビヨンでデビューした「cal. 2160」は、ヴァシュロン・コンスタンタンが発表した初めての自動巻きトゥールビヨンムーブメントでもある。(もちろん、この誉れ高きマニュファクチュールから発表されたトゥールビヨンには、14デイズトゥールビヨンなどの素晴らしいモデルが他にもあるが、それらは手巻き式だった)。オーヴァーシーズ・トゥールビヨンでは、このムーブメントが初めてSSケースに搭載され、さらに興味深いのは、オーヴァーシーズコレクションで現在発売されているもうひとつのハイコンプリケーション「エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー」は、ゴールドのみであるという点だ。このSSケースとブルー文字盤によって、このオーヴァーシーズ・トゥールビヨンは、1996年のオリジナル・オーヴァーシーズに敬意を表している。 

 2019年発表のこのオーヴァーシーズ・トゥールビヨンは、まさにオーヴァーシーズ第3世代に当てはまり、その最初のモデルは、2016年のSIHHでデビューした。このオーヴァーシーズコレクションには、特筆すべき点がいくつかある。まず、サファイアケースバックを採用し、中のムーブメントが鑑賞できる点。これは、耐水性のために密閉式のケースバックを採用した第1世代(1996~2004年)、耐磁製と耐水性のために第1世代と同じ仕様であった第2世代(2004~2016年)とは異なる。さらに、現行のオーヴァーシーズはコンプリケーションの数、特にこのトゥールビヨンなどのハイコンプリケーションが増加。そして最も特筆すべきことは、この第3世代のオーヴァーシーズで、優れたストラップのインターチェンジャブルシステムが初採用され、昼と夜とで、時計をカジュアルからフォーマルへ切り替えることが簡単にできるようになった。このTPOを選ばない時計は、針の夜光が控えめなためより使いやすい。

 ヴァシュロン・コンスタンタン・トゥールビヨンのケース直径は42.5mmで、厚さは10.39mmとなっており、数字で見る限り決して控えめなサイズとはいえないが、これを身に着けることを私自身がとても楽しんでいることは少し驚きである。素材はSS製のみで、対応するSSブレスレット、ブルーのラバーストラップ、ブルーのアリゲーターストラップが付属し、これらはすべてツールを使用することなく、素早く簡単に付け替えが可能となっている。


レビュー

 オーヴァーシーズは、現在のヴァシュロンで最もロングセラーの時計コレクションのひとつで、それはヨハン・ルパート(Johann Rupert)氏と現在のリシュモンの前身であるヴァンドームが、1996年にこの時計メーカーを買収したときにまで遡る。しかしもちろん、その血脈はそれよりもさらに昔まで遡る。
 この時計は、ヴァシュロン・コンスタンタンが初めて作ったSS製のスポーツウォッチであり、1977年にヨルグ・イゼック(Jorg Hysek)が手掛けた『222』のデザインを受け継いでいる。当時、ヴァシュロンは何といっても貴金属腕時計のメーカーとして知られていたが、222は同社がよりカジュアルな場面での腕時計を模索する新たな道を切り拓いた。我々は、オーヴァーシーズコレクションがパーペチュアルカレンダーやトゥールビヨンといったハイコンプリケーションを備え、一周して元の場所に戻る瞬間を目撃しているのである。 

 2019年の初めに、SIHHのヴァシュロンブースでこの腕時計を見た瞬間から、これを自分の手に巻いて、展示会ブースではできないような、もっと詳しいレビューを行いたいと思ってきた。昨年のトラディショナル・トゥールビヨンのレビューで 、「cal. 2160」については既に詳細を把握していたが、この腕時計とオーヴァーシーズ・トゥールビヨンは根本的に異なり、互いに共通する自動巻きトゥールビヨン・ムーブメントとヴァシュロン・コンスタンタンという名前のみが、それぞれをつなげる要素となっている。

 オーヴァーシーズ・トゥールビヨンは矛盾した腕時計である。それは、実際のところ日常使いを想定した「オーヴァーシーズ」という腕時計である。この腕時計には、オーヴァーシーズと他の高級スポーツウォッチが持つ強みの両方があると、少なくとも私は思っている。カジュアルな環境に適していながら、フォーマルな環境にも対応できる、エレガント(そしてとても頑丈)な時計というのがその本領である。
 また、このトゥールビヨンのように、懐中時計時代に由来するコンプリケーションは、少なくとも腕時計に搭載される際には、元々の存在理由の主張を諦めていると思う。それは機械的アートであり繊細なアートであって、GMTやクロノグラフといった「普段使い」のコンプリケーションとはまさしく正反対であるからだ。 

 「オーヴァーシーズ」を身に着ける際、私は主に付属のアリゲーターとラバーのストラップを交互に使い、たまにオフィスでブレスレットを着用した。私は、第2世代「オーヴァーシーズ」のブレスレットで見られた半マルタ十字リンクにインターチェンジャブルシステムが加わった、本機のブレスレットの見た目と快適性をとても気に入っている。
 システムとして、ヴァシュロンのクイックチェンジ技術は素晴らしい。おそらくほんの少し練習すれば、タッチだけでブレスレットやストラップをウォッチヘッドから取り外すことができる。元に戻すのもほぼ同様に簡単であるが、時計を傷つけてしまう恐れがあるので、やみくもにやるべきではない。このシステムを初めて見たとき、とても頑丈であるようには思えなかったことを思い出す。当初、私の目には2本の付属ストラップをクラスプひとつで切り替えるこのシステムは脆いように見えた。しかし、使っていくうちに、私の考えが誤りだったと証明された。これは、現在市場にあるインターチェンジャブルシステムでも、間違いなく最高なシステムのひとつである。

 オーヴァーシーズ・トゥールビヨンは、実際に着用するよりも、数字上は大きく見える腕時計である。この腕時計が私の元に届いて着用した際、かつての記事を確認すると直径が42.5mmであると思い出した。実際の着け心地はというと、スペックよりずっと小さく感じられる一方、時計の表面が手首にしっかりと安定する。厚さは10.39mmと比較的薄く、オーヴァーシーズ・トゥールビヨンが幅広い用途に対応することを効果的に後押ししている。この腕時計は、シャツの下にスムーズに収まりスーツとの相性も申し分ないが、私自身が使う中では、ラバーストラップでもブレスレットでも、カジュアルな着こなしにも文句なく合うことを発見した。夏にブレスレットで着用すれば、素敵な見栄えになるのではないかと思う。

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考慮すべきポイント

 普段使いが可能な汎用性を有するオーヴァーシーズは、新しい「cal. 2160」自動巻きトゥールビヨンムーブメントの予想外の形に思えるかもしれないが、例えばオーデマ ピゲが長いことトゥールビヨンを備えたロイヤル オークを作っていたことを考えると、それは理にかなっているといえる。 「Cal. 2160」は、非常に優れた新しいモダン・トゥールビヨン・キャリバーであり、ロイヤル オーク・トゥールビヨン・エクストラシンの手巻きムーブメントに対する競合だろう。
 Cal. 2160は、ペリフェラル・ワインディングシステムを備え、80時間のパワーリザーブを実現する一方で、通常よりも低い1万8000振動 / 時である。前述のオーデマ ピゲは、この腕時計の最もはっきりした競合モデルであるが、同社はロイヤル オーク・トゥールビヨンをさまざまな素材で提供している。本機は約1080万円(本記事執筆時。価格要確認)と決して安価ではないが、オーデマ ピゲのロイヤル オーク・エクストラシンよりも安い設定ではある。


結論

 ヴァシュロン・コンスタンタンのオーヴァーシーズ・トゥールビヨンは、2つの異なる世界に足を踏み入れた腕時計である:保守的なジュネーブの時計メーカーが作った非常に複雑な時計であり、そうでありながら魅力的なSS製スポーツウォッチでもある。その魅力の中心となるのは、美しさやエンジニアリングへの称賛に比べて、今日では時計の精度向上という歴史的役割への評価が低くなっているトゥールビヨン・メカニズムである。 ヴァシュロン・コンスタンタンのオーヴァーシーズ・トゥールビヨンは、 普段使いの腕時計として説得力のある主張をするハイコンプリケーションである。


基本情報

ブランド:ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)
モデル名:オーヴァーシーズ・トゥールビヨン(Overseas Tourbillon)
型番:6000V/110A-B544
直径:42.5mm
厚さ:10.39mm
ケース素材:ステンレススティール
防水性能:50m
ストラップ/ブレスレット:交換可能なSSブレスレット、ブルーのラバーストラップ、ブルーのアリゲーターストラップが付属


ムーブメント情報

キャリバー:Cal. 2160
機構:トゥールビヨン・ムーブメント、ペリフェラル・ワインディングシステム、時、分表示、トゥールビヨン・ケージによる秒の表示
直径:31mm
厚さ:5.65mm
パワーリザーブ:80時間
巻き上げ方式:自動巻き
振動数:1万8000振動/時
石数:30
追加情報:部品数188、ジュネーブシールの刻印

詳細についてはヴァシュロン・コンスタンタン公式サイトへ