2022年の時計業界については、一度や二度ならず100回ほど触れたことがあるかもしれないが、本当に狂気の1年だった。今年は、そのような “狂気”が"熱狂"へエスカレートすることを願っている。
まだ1月の半分がすぎたばかりだが、すでにのど飴のような色のウブロ、ダイヤルのないゼニス、ゴッホの絵画を彷彿とさせる奇妙なタグ・ホイヤー モンツァ、あらゆる種類の宝石を散りばめたブルガリ セルペンティなどを目にすることができた。
オメガ、ロレックス、パテック、チューダー、オーデマ ピゲはどんな動きを見せてくれるのか? まったく予想もつかない。しかし、それでも我々は推測し、願い、期待し、夢見ることを止めることはない。
本記事では、いくつかの予想を紹介したい。下のコメント欄で自分の予想を自由にシェアして欲しい。
ロレックスはチタンの採用を継続するだろう
数年前、有名な元オリンピック選手のセーラー、ベン・エインズリー卿がチタン製のヨットマスターを着用して水上を航行する写真が公開された。これはプロトタイプの一種であると考えられ、ウェブ上の時計コミュニティはこれを受けて大炎上した。我々は考えを巡らし、予測し、フォーラムに活発に投稿したが、その後、チタン製ヨットマスターを目にすることも耳にすることもなかった。しかし、そのことは決して我々の頭から離れることはなく、ザ・クラウン(ロレックス)がこの超軽量素材に取り組んでいるという事実を我々に印象づけた。それどころかすでに(チューダーを通して)実装していることを知っていたが、それでもまだ固執していたのである。
しかし、どのモデルが対象となるのだろうか?
ロレックスの記念日カレンダーをベッドの脇に置いていない人のために説明すると、2023年はデイトナが60周年、エクスプローラーとサブマリーナーがそれぞれ70周年にあたる。ロレックスが必ずしも各モデルの誕生日を祝うわけではないことは、特筆に値する。しかし、例えば2013年にプラチナデイトナを発表したように、ときには祝うこともある。
我々が最近、エクスプローラー(36mmへの回帰とコンビカラーの導入)とサブマリーナー(41mmへの拡大と新しいグリーンベゼル/ブラックダイヤルオプション)のアップデートを目にしていることを考えると、私はそれらのリリースが華々しい記念イベントを念頭に置いたものであると推測するつもりだ。そして、ロレックスはデイトナのために誕生日ケーキを焼く意欲を示しているようなので、この話題に注目してみよう。
正直、ステンレススティール製でセラミックベゼルのデイトナモデルの発売から7年ほど経っている。そろそろ更改の時期なのだろうか? 7年は長いと言いたいところだが、もう10年以上カタログに掲載されているかわいそうなミルガウスを引き合いに出すと、そうとも言い切れない。
いずれにせよ、私の予想は60周年記念のチタン製ロレックス デイトナだが、必ずしも予想どおりというわけにはいかないだろう。もしかしたら、イエローゴールドやホワイトゴールドの総プレシャスメタルベゼルと同じような総チタンベゼルのモデルが登場するかもしれない。もしくは、全面サテン仕上げのブレスレットが登場するかもしれない(ポリッシュ仕上げのチタンは奇妙な感じがする)。おそらく、誰も想像もしなかったダイヤルカラーが採用されるだろう。
デイトナがこのような特別な扱いを受けるかどうかは別として、私は今年のロレックスのラインナップにおいてチタンは非常に重要な位置を占めると考えている。もしかしたらロレックスは、カタログに載っているすべてのスポーツウォッチにチタンモデルを追加するかもしれない。だとしたら衝撃的ではあるが、楽しみでもある。
結局、50mm径のディープシーが唯一のチタン製ロレックスの量産モデルになるかもしれない。しかし、そうでないことを祈るばかりだ。
チューダーは今年もヒット作を連発するだろう
その3モデルがそれほど早く、さらに大きな変化を遂げるとは考えにくい。つまり、AppleがiPhoneで繰り返してきたような、(小さな進化を伴う)ロードマップが予想される。一方、“チューダー ロイヤル”、“1926”、“スタイル”といった、時計コレクターの評価が必ずしも高くないモデルには大きな変化があるかもしれない。これらのモデルが完全に生まれ変われば、彼らに愛される可能性がある。チューダーはまだロレックスにおけるデイトジャストのような存在を生み出せていないが、もしかしたら今年はそれが叶うかもしれない。
我々はというと、ブラックベイ フィフィティ-エイト ペプシGMTを夢見ている。ザック・スナイダー監督の『ジャスティス・リーグ(Justice League)』のように、要望の書簡を送るキャンペーンを始めるのもいいかもしれない。
チューダーの新モデルは2023年3月下旬から4月上旬にかけてウォッチズ & ワンダーズで発表される。何が発表されようとも、我々はそのすべてをお伝えするつもりだ。乞うご期待!
ムーンスウォッチはムーン“サムシング”へバトンを渡すだろう
時計マニアと一般人双方を魅了する時計イベントは10年に一度、いや、一世代に一度、そうそうあるものではないし、どのブランドにおいてもそのハードルは高いものだ。だから、ファンが一晩中列をなし、警察が治安を守るために動員されるようなことはないだろう。
それでもスウォッチグループは、傘下内のコラボレーションをさらに強化すると思う。ムーンスウォッチへの関心は、依然として非常に高い。発売から1年近く経つのに、まだ手に入らないという人がたくさん存在している。一方、HODINKEEには、11本のコレクションをコンプリートしようとしている同僚がいるが……、そんなことをするのは彼女ひとりではないと我々は確信している。
さて、次は何だろう? ムーンジン? ムーンパン? ムーニルトン? 絶対にないとは言い切れない。
オメガとスウォッチのコラボレーションで、もうひとつのアイコンであるシーマスターを探ってみるのはどうだろう。もっとも、防水性能を追求するのは大仕事かもしれないが。シースウォッチ、あるいはスウォッチマスターとでも呼ぶことになるのだろうか。まあ、今回はこの辺で。
冗談はさておき、2022年のムーンスウォッチのエネルギーに匹敵するような、もうひとつのブランドを思いついた。タグ・ホイヤーである。ムーンスウォッチのようなコラボレーションではなく、クラシックな時計を手ごろな価格で復活させるのだ。タグ・ホイヤーには、プラスチック製のフォーミュラ1シリーズ(90年代に大人気を博した)を大胆にも36mm径のサイズで復活させ、無限の色の組み合わせを実現して欲しい。
我々はeBayでいつでも見つけることができる(程度にはかなりの差があるが)モデルでもある、この時計への関心の高まりを実感している。復活すれば、ムーンスウォッチと同じような大衆文化的な人気が得られ、時計文化とポップカルチャーがより接近する可能性がある。さあ、タグよ、やってみてくれ。
世界3大ブランドのSSモデルに再注目
2022年、ヴァシュロン・コンスタンタンはイエローゴールド(最高級のゴールド)を使用した6万2500ドル(約814万5000円)の完璧なRef.222の復刻モデルをリリースして我々を驚かせた。この時計を実際に見て、その重厚感に触れた我々は、一貫したある感想を抱いた。「いいねぇ、でも高いなぁ」。しかし、SSは比較的安価であり、パテック、AP、ヴァシュロンの世界3大ブランドが得意とする金属素材である。
また2022年は、APがブランド創立50周年記念の一環として新しいロイヤル オーク ジャンボを再登板させたのを目にした。また、パテックは製造中止となったSS製のノーチラスRef.5711を、後日ホワイトゴールド製のRef.5811として復活させ、41mm径のSSモデルの空席をラインナップに残している。
今、私はあなたが何を考えているのか読めている。「SS製のRef.5811とRef.222は、両方の時計が発表された瞬間にアンオブタニウム(訳注:手に入らないモノの俗語)になる。誰が本気にする?」と。そして私の答えは、「多くの人が気にするだろう」だ。確かに我々はそういったモデルを買うことができないかもしれないが、そもそも最近出回っている時計のほとんどを買うことはないだろうし、買えない。だからといって、その存在に興奮することができないわけでない。文字どおり購入できる時計だけでなく、さまざまな時計を楽しむことが、時計界隈の楽しみ方なのだ。
2023年はブルーダイヤルの当たり年になるだろう
ロイヤル オークやノーチラスのようなアイコニックな時計がブルーダイヤルでデビューしたのには理由がある。そして、ショパール、ゼニス、ティソなどのブランドがブルーダイヤルのバリエーションを持つブレスレット一体型時計を発表し、成功を収めたのにも理由がある。ブルーは誰もが好む色だからだ。世界で最も人気のある色であることに、疑いの余地はない。
さて、ブルーダイヤルが安全な選択であるのと同じように(我々のスタイルエディターのマライカ・クロフォードが最近私に「ブルーは新たにホワイトに取って代わった」と言ったように)、私の予測もまた然り。ゼニスは今年、スカイラインの新作を発表した際、ブルーのバリエーションを維持することを確約した。ティソはPRXのラインナップを充実し続けるだろうが、ブルーは永遠に主役であり続けるだろう。
私は割と本気で2023年にブルーダイヤルを廃版にするブランドはなく、まだブルーを採り入れていないモデルが参入すると予測している。もし、私の予想したSS製Ref.5811のブルーダイヤルのデビューが見送られたら、世界中で暴動が起きるだろう。
オメガはシーマスター ダイバー300Mのブレスレットに手を加えるだろう
遡ること2021年、オメガはスピードマスター(Cal.3861)に待望のアップデートを施し、クラシックウォッチにふさわしいクラスプを備えた非常にエレガントなテーパーブレスレットを完成させた。現在のシーマスターのブレスレットは非常に武骨に見え、無駄に重く感じられるだけだ。そこにメスが入るだろう。
そして、クラスプに、かつてあった表記を追加されたし。現行モデルでは、以前“Omega Seamaster Professional”と刻印されていたところに、ただ“Omega”と刻印しているだけである。今のままでは余白が多すぎるし、そのほうが大歓迎だと思うのだが。
“マイクロブランド”という呼び名も、そろそろ死語になるだろう
私が思うに、小規模な独立系時計メーカーは必ずしも“マイクロブランド”ではなく、単なる“ブランド”というべきだ。クォーツ革命以前は、さまざまな時計メーカーがワイルドでおもしろいデザインを生み出していた。フリーマーケットやヴィンテージショップに行けば、聞いたこともないようなブランド名の時計に出合うことができる。それらをマイクロブランドと呼ばないことはいうまでもない。クラフトマンシップに敬意を払い、かつてマイクロブランドと呼ばれたバルチックの台頭を評価しようではないか。このブランドは、2023年も耳目を集めるに違いない。
安価なGMTの勢いは衰えることはないだろう(必ずしも歓迎できないが)
最後に、今年はGMTの低価格化が進行すると考えている。ソプロッドのようなブランドからGMTムーブメントを調達できるようになったことで、時計の製造が容易になったことは確かだ。しかし、時針を独立して調整する機能を持つGMTや、2022年のセイコーのように1000ドル以下の“Caller”式GMT(GMT針を1時間単位で前方にジャンプさせることができる)を作れない限りは、少し立ち止まって欲しい。GMTの名を汚すことになるからである。
これらの予測はほとんど当たらないだろう
これらの予測はいずれも内部からのリーク情報によるものではない。時間が経過すれば明らかになるだろうし、ほとんど実現しないだろうと思っている。これらの推測は、純粋に私がこの業界を観察し、普通の人に許される以上の時間を時計業界で過ごした結果でもある。もし、このなかにひとつでも当てはまるものがあれば、私は圧倒的な達成感を感じるだろう。しかし、時計を愛することの大部分は、オーダーの順番が巡ってくることを願い、オンライン注文した時計が実際に腕にフィットすることを願い、特定のブランドが特定のモデルを作ることを願う、祈りだ。2023年を迎えるにあたり、希望に満ちた日々を過ごそう。あなたの願いがすべて叶いますように。
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