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Technical Perspective 超薄型とは何か、なぜそれが重要なのか、そしてどのブランドがそれを最も得意としているのか(後編)

基準の変遷をたどる。

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このシリーズの前編と中編では、極薄時計の歴史を取り上げた。それがどのように次第に進化していったか、そして時計づくりの技術が進歩するにつれて、時計があまりに薄くなったため特定の物理的限界に達し始めたことを見てきた。この後編では、オーデマ ピゲとピアジェのムーブメントを取り上げ、時計メーカーがミクロンレベルの戦いを繰り広げる中での極薄時計の今後を見ていく。

 まずは過去に遡って、1986年の時計を見てみよう。これはオーデマ ピゲのRef.25643BA、Cal.2870で、極薄時計の歴史で最も重要な時計の一つである。このシリーズの中編で極薄時計の技術の進化を見た。伝統的な素材で作られた地板と受けが事実上限界まで薄くなり、1970年代と80年代にJean Lassale社が次の必然的なステップに進んだこと、つまり伝統的な地板と受けでできたムーブメントの構造自体をなくして、香箱、歯車と脱進機が全て地板に直接はめ込まれたシステムを作った歴史を見てきた。より伝統的な極薄ムーブメントのいわゆる「フライング・バレル」、これはフライング・トゥールビヨンと同様、片側のみから支持されているのでそういう名前なのだが、それは同様にいわゆる「空中」にある歯車で連結されている(テンプ軸の受けだけが伝統的なムーブメント構造への譲歩となっている)。

 これらのムーブメントはピアジェやヴァシュロン・コンスタンタンなど少数の会社で使われたが、それは繊細であり、修理するには古いムーブメントを捨てて新品と取り替えるしかなかったために、最終的に成功には至らなかった。しかし、伝統的な受け板をなくして、構造を変えることで時計をより薄くするという考え方は生き残った。1986年、オーデマ ピゲは、時計のケースを地板として機能させるという、以前にも増して過激なアイデアを提案したのだ。 

 上記の写真はRef.25643BAの初期の試作品だ。「ハンマー」スタイルの振動する重りと、極小のトゥールビヨン(7.2×2.5mmでチタン製)など、その最も重要な特徴をみることができる。しかしながらこの時計がかなり革命的なデザインであった本当に紛れもない印は、時計を裏返すと現れる。

 これがRef.25643BAの裏側である。小さく平らなリューズはゼンマイを巻くことには使えない。それはただ時計の針を合わせるためだけのものなのだ。時計を巻くには、チクタク音が始まるまでそっと前後に揺するのである。そこに見えている小さな赤い丸は実際はルビーでできた輪列の軸であり、その結果として時計全体の厚さたった4.8mmという世界最薄の自動巻きトゥールビヨンとなっている。この記録は、オーデマ ピゲのCal.2120が今も世界最薄のフル・ローター式自動巻きムーブメントであるのと同様、現在も破られていない。

 Ref.25643BAについて最も面白い事実の一つは、ケースを地板に使うというアイデアが無から生まれたわけではないところだ。Ref.25643BAは2人の技術者が開発した。モーリス・グリム(Maurice Grimm)とアンドレ・ベイナー(André Beyner)だ。モーリスは以前に、あまり有名にはならなかったもののかなり驚くべき極薄のクォーツ時計を1980年にオメガのために開発した。クォーツのCal.1355を搭載したいわゆる「Dinosaure」である。 Dinosaureは厚さたった1.42mmだった。ムーブメントだけではなく時計全体がである。そして時計の裏蓋が針の駆動歯車の支持に利用されていた。

オメガ「Dinosaure」1981(画像はAntiquorumの厚意による)

 よりエキゾチックなことに、本機では針が透明のディスクに印刷されており、Dinosaureを謎の時計に仕立てている。モーリスとアンドレはその後オーデマ ピゲでRef.25643BAと、1994年にはオメガ セントラル・トゥールビヨンを開発する。このコンセプトの進化はそこで止まることはなかった。

 上記の写真は、現在世界で最も薄い時計の一つ、ピアジェ アルティプラノ 900Pである。900Pは2013年に、全体の厚さ3.65mmという薄さの新記録を樹立した(2015年に発表されたそれよりほんの少し薄い時計が、ジャガー・ルクルトのマスター・ウルトラスリム・スケルトンだ)。この時計は1980年にDinoaureが切り開き、1986年にオーデマ ピゲのRef.25643BAのために洗練された、時計の裏蓋を地板に使うという基本的なコンセプトを使って記録を達成した。しかしながらピアジェは、下部の回転軸を完全に時計内に収め(裏蓋に回転軸の石が見えていない状態)、文字盤を輪列と同じ高さにしてリューズで時計を巻くと同時に、合わせることもできるようにしてそのコンセプトをより先へと押し進めた。この技術的成果はいくら誇張しても足りないくらいである。900Pはほとんどの時計のムーブメントより薄いが、それにも関わらずピアジェは、そこに48時間パワーリザーブを詰め込まむことに成功している。防水は20mだ。

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 次は何を目指せば良いのだろう。極薄の機械式時計製作術の進化の次のステージとは興味深いものだ。なぜなら、それは時計業界のゆっくりとした基準からしても、ここしばらくの間、極めてゆっくりとしか進んでいないからだ。20世紀初頭の数十年には厚さたった1.38mmのジャガー・ルクルトのCal.145など(1907年のことだ)、既に世界最薄の時計の一部が作られ始めていたことを忘れてはいけない。伝統的な時計づくりにおける素材の利用は、遅かれ早かれ物理の法則に阻まれるだろう。SS製のケースを作り、真鍮とスティールの地板を作るなら、問題は時計に常に日常生活の中でかかる圧力がどの時点で素材を変形させ止めてしまうかであり、1.5mmくらいの時点から、機械式の時間だけを示す時計に関しては、骨折り損のくたびれ儲けになってしまうゾーンに差し掛かるようだ。また、どんなに精密に作られていても、極端に平らな主ゼンマイで得られるエネルギーをもとに、十分低い摩耗損失で動き続ける薄型ムーブメントはどうしても作れないという段階に達してしまう。

 しかしもし私が推量するなら、Dinosaure、オーデマ ピゲ 25643BAのような時計、或いはLassaleキャリバーなどにさえ使われた戦略、つまりケースを地板の一部として使うこと、文字盤を輪列と同じ高さに下げること、フライング・ギアや香箱にボールベアリングを使うことが、少なくとも最先端の極薄時計ではより至る所で利用され始めるだろう。マイクロローターとペリフェラルローターも極薄時計のレパートリーの基本的な構成要素であり、これからも使われ続ける可能性が非常に高いだろう。

 最後に、上記の写真の時計とそのムーブメントを少し見てみよう。これはNOMOSのテトラ ネオマティックである。ムーブメントであるDUW 3001は、厚さ3.2mmだ。比較対象として例を挙げると、最も薄いフルローターの自動巻きムーブメント、APキャリバー2120の厚さは(2本目の針と日付なしで)2.45mmだ。現在生産されている最も薄い自動巻きの時間表示のみの時計はヴァシェロン・コンスタンタンのヒストリーク エクストラ フラット 1968である。この時計の全体の厚さは5.4mmで、NOMOSはそれより少し厚く、7.2mmとなる。

 NOMOSはテトラを特に極薄時計として宣伝していない。にも関わらずそのムーブメントと時計は、正真正銘の極薄時計と呼んで誰しも異存はないであろう十分な競争力を備えている。3.2mmのDUW3002はETA 2892(3.6mm)より薄く、ETA 2824(4.6mm)よりずっと薄く、厚さ6.40mmのロレックスのCal.3186の半分以下の厚さしかない。これらのムーブメントは全てわずかに異なる優先順位をもってデザインされているが、極薄について一般的な定義がないことを考えると(以前にも触れたとおり、バーナー時計学辞典はエクストラ・フラットウォッチについて、簡潔に「非常に薄い」ものとだけ記載するに留めている)、今日の極薄は、記録を破れるかどうかが重要ではないことは明らかのようだ。

 機械式時計製作術の限界に興味をもつ向き(私もその1人だ)は間違いなく存在しており、そのような人々にとっては、記録もある程度興味深い。だが多くの人々、もしかすると極薄時計に関心のあるほとんどの人々にとっては、それは決定的な記録というよりはそのジャンルを面白くする特定の経験、特定の非常に巧みで古典的な優雅さであり、それはおそらく数字よりもデザインの優秀さに関わることなのだろう。

シリーズ前編

シリーズ中編

NOMOS  テトラ ネオマティック 

オーデマ ピゲ Ref.25643BA

ピアジェ アルティプラノ 900P

1910年の驚くべきジャガー・ルクルトの極薄かつ複雑ムーブメント

ジャガー・ルクルト マスター・ウルトラスリム・スケルトン