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Technical Perspective 超薄型とは何か、なぜそれが重要なのか、そしてどのブランドがそれを最も得意としているのか(中編)

極薄時計製造の何がそんなに難しいのか?

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※本記事は2016年5月に執筆された本国版の翻訳です。

(上の写真は、ピアジェ 20P / ラサール Cal.1200。これまでで最も薄い手巻きムーブメント)

本記事のパート1では、極薄時計製造の歴史について見てきた。初期の腕時計が分厚かった理由、そして腕時計のムーブメントのデザインが進歩し、同時に現代ファンションのスタイルも進化したことで、薄型時計開発に拍車がかかった経緯について考察した。また、極薄時計がファッション性だけでなく、時計製造における最高水準の技術の証明と見なされるようになった理由や経緯についても探った。今回は、極薄時計製造の難しさや、現代の高級時計メーカーがその技巧を進化させ続ける方法についてつぶさに見ていこうと思う。

 上の写真はジャガー・ルクルトのCal.849だ。20世紀を代表する古典的な超薄型ムーブメントの1つで、厚さは1.85mm。薄型時計の製作がいかに困難かを示すという意味では、考察するのにうってつけの例である。分厚い時計を作ることよりも、極薄の時計を製作し、それを適切に動作させることの方が難しいのには、いくつかの理由がある。まず、第一に動力の問題だ。時計を正確に作動させるには、輪列からテンプまでの全体に行き渡る適切な動力が不可欠だ。この動力によって、各部品が十分に大きな振り角で振動(振り角とはテンプが揺れる大きさを意味し、一般的に角度で示される)し、時計のパワーリザーブの有効な時間内における正確性を維持することができる。主ゼンマイ(動力ゼンマイとも)から得られる動力の大きさは通常、ゼンマイの幅(または高さ)に左右される。当然ながら、超薄型ムーブメントでは、ゼンマイの幅はかなり低くなってしまう。このため、そのムーブメントは、摩擦による動力の損失を避けるべく、極めて注意深く、しかも正確に作り、そして組み立てなければならない。

 超薄型ムーブメント製造の難しさのもう1つの理由は、原則として、ムーブメントの構造そのものに大きな変更を加えなければならない点にある。例えば、たいていの時計のムーブメントにおいては、主ゼンマイが収納されている香箱に2つの軸がある。1つは本体(地板)内のベアリングの中で、もう1つは香箱受け内のベアリングの中でそれぞれ作動する。ジャガー・ルクルトのCal.849では、いわゆる“ハンギング(吊り下げ式)”バレル(片持ち支持式の香箱。もともとは、本記事のパート1に出てきたレピーヌによって発明された)が採用されている。吊り下げ式香箱にはアッパーブリッジ(香箱上部の受け板)がなく、その代わり1つの軸、つまり地板の中の軸でのみ作動する。その構造は本質的に不安定になり、しかもうまく機能させるためには、製造や設計の段階で多大な注意を要する。香箱上部の受け板を外せば貴重な数mmを稼ぐことができるが、それはCal.849においては、2mm未満の高さにする上で必須なのである。

 では、現代的な自動巻きの超薄型ムーブメントを見てみよう。上の写真は、オーデマ ピゲのCal.2121だ。(このムーブメントの最もシンプルなバージョンは、日回し車(日付用の車)を省いたCal.2120で、厚さは2.45mm。日回し車を追加するとわずかに厚くなり、3.05mmとなる)。このムーブメントは1967年に初めて製造され、デビューした当時は、世界最薄のフルローター式ムーブメントだった。ジャガー・ルクルトのCal.849と同様、吊り下げ式(オーデマ ピゲが言うところの“サスペンデッド”)の主ゼンマイ香箱の採用を含め、従来の自動巻きムーブメントとは多くの点で大きく異なっている。Cal.2120とそのバリエーションの最も興味深い特徴の1つは、質量の大部分を周辺に移動させることにより、回転錘(自動巻きローター)の厚さを抑えていることだ。この方法の問題点はローターが非常に不安定であることだが、2120においては、巧妙な解決策が講じられている。つまり、回転錘の下部が、ムーブメントの縁にある円形のレール内で作動するルビーローラーによって支えられているのだ。

 Cal.2120とそのバリエーションが面白いのは、そのスリムな外観にも関わらず、パーペチュアカレンダーのような複雑機構に対応している点である。下の写真はCal.2120/2802、ジュール オーデマ パーペチュアルカレンダーに見られるパーペチュアルカレンダームーブメントのダイヤル側のものだ。

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 さて、Cal.2120(現在、ヴァシュロン・コンスタンタンではCal.1120として使用されている)は、世界最薄のフルローター自動巻きムーブメントだが、さらに厚さを抑える方法がある。それはマイクロローターを採用することだ。マイクロローターの利点は明らかだ。つまり、巻上げ錘(回転錘)がムーブメントの上ではなく、内部に収納されているのだ。問題は、巻上げ錘の直径が、フルロータームーブメントにおける直径よりもかなり小さくなるため、動力の点では非常に不利になる点である。そのため、許容できる性能を引き出す上で、やはり設計、製造、組み立て、調整時には細かい配慮が求められる。超薄型ムーブメントにマイクロローターを採用したことによる最も目覚ましい成果の1つは、1960年にピアジェ(超薄型時計の代名詞のようなブランドである)が、Cal.12Pにそれを導入したということだ。

 Cal.12Pの厚さは2.3mmしかなく、今日でさえも印象深い技術的偉業といえるだろう。1960年には信じられないような成果であり、いくつかの点で、ピアジェが超薄型時計メーカーとしての高い評価を確立する上で大きな役割を果たした。しかも、当時は“薄くて、金色で、自動巻きである”という3つの要素を有するということが、“エレガントな時計”のほぼ普遍的な条件として合意されていたような時代だったのだ。

 ジャガー・ルクルトのCal.849、ピアジェのCal.12P、そしてオーデマ ピゲのCal.2120/ヴァシュロン・コンスタンタンのCal.1120のようなムーブメントは、従来からある素材を用いた超薄型時計製造をどこまで押し進めることができるのかに関して、ある意味現実的な限界を示しているのだろう。これ以上の試みは、一般的にはうまくいかなかったのだ。

 上の写真は(ほとんど惜しまれてはいないが)、1976年に発表された今はなき厚さ1.2mmのジャン・ラサール Cal.1200だ。当時、このキャリバーは技術的な奇跡だったが、不運なことに、クォーツ技術の出現のおかげで機械的な技術の奇跡となったものであり、あらゆる最新の機械式ムーブメントにとって、ましてや、小型で驚くほど薄く、問題を抱えたキャリバーにとってはなおさら厳しく、不運な時代に生産された。1979年までに(創業者ジャン・ブシェ・ラサールからその名をとったブシェ・ラサール社による)生産が中止された。ラサールの名はセイコーに買収され、セイコーはその名を薄型クォーツドレスウォッチのダイヤルにあしらった。ヌーベル・レマニアはラサールの親会社を買収し、手巻きのCal.1200(と超薄型のラサール自動巻きCal.2000)の生産を、さらに数年間継続した後に中止した。ピアジェはこのラサールCal.1200をピアジェ Cal.20Pとして使用したが、ここで見ることができるのがそれである。ヴァシュロン・コンスタンタンもこのキャリバーをヴァシュロンのCal.1160として使用したが、彼らがどうやってその表面にジュネーブストライプをあしらったのか不思議なほど見事だった。取り除ける余分な金属部分はもう残っていないだろうと思わせるほどだ。

 悲しいかな、ジャン・ラサールにとっての問題は、タイミングの悪さだけではなかった。このムーブメントは、単純にあまりに薄すぎて信頼に足らなかったのだ。実際、ケースを開けただけで修復不能なダメージを受けてしまうほどの薄さであり、ヴァシュロンもピアジェも共に、修理に出しても廃棄せざるを得ず、新しいムーブメントに入れ替えるしかないということがしばしばあった。極端な薄さは、一連の歯車を全て地板そのものに取り付けることで実現されていた。ブリッジ(受け)がないため、主ゼンマイの香箱だけでなく、全ての歯車が“ハンギング(吊り下げ)”状態になっており、ボールベアリングで支える必要があった。これは一般的に、ベアリングが動力の流れの好ましくない変化を引き起こす可能性があるため、時計のムーブメントにとっては悪手である。それでも、最終的に失敗に終わったとはいえ、冒険的なデザインではあった。

 このシリーズの次回は、ラサールのアイデアや他の巧みなコンセプトがどのようにして実を結んだのかについて、また、現代の時計メーカーがどのようにして最先端の製造方法を用いて、当初は失敗したアイデアを際立った成功へと導いのかについて探っていく。

パート1はここでチェック。パート3はこちら