Four + One シェフのヒュー・アチソン氏は「チープな時計」ではなく「低価格の時計」を身につける、そこには違いがあるのだ

　アチソン氏は 「よいもの、よくできたもの 」を好む。時計に関して言えば、それは彼が容赦なくぶつけても心配ないようなものを意味する。しかも、ポークチョップ並みの値段で。

　朝食を食べながら銀行の明細を見ようと誘ってくれたわけではないが、500人の従業員を抱え、6冊の料理本を出版し、長年リアリティ料理番組『トップ・シェフ（Top Chef）』の審査員を務めたレストラン経営者ならもっと豪華なものを買うことができるはずと推測するのは妥当だろう。しかし、彼は言う「私は派手さを求めてはいません。本当に役に立つ、実用的なものが好きなのです」。

　現在50歳のアチソン氏は、カナダからジョージア州に移住した。まずアテネのレストラン「ファイブ・アンド・テン（Five and Ten）」で注目を集め、アトランタから1時間以上かけてやってきた食の巡礼者たちが、その騒動を見にやってくるほどだった（ウサギの煮込みとサワドゥの団子のような、新感覚の南部料理が話題となったのだ）。 その後、アトランタの「エンパイアステートサウス（Empire State South）」で地元のヒーローとしての地位を確立し、バックヘッドに「マウント・ロイヤル（Mount Royal）」という南部らしからぬレストランをオープンしたばかりだ。「おいしいラートカ（ユダヤ風パンケーキ）やスモークサーモン、自家製ベーグルを出す、古いユダヤ風ステーキハウスでしょうか。そして、大きな牛肉とザワークラウトが素晴らしい」と彼は説明する。屋上のバー「スペースマン（Spaceman）」は、元モントリオール・エクスポズの投手で伝説的なストーナーのビル・ "Spaceman" リーにちなんで名づけられた。

　以下では、アチソン氏お気に入りの低価格帯の時計4本と、これまでに集めたレコードコレクションからジャズアルバムを紹介する。しかし、Hi-Fiシステムに関しても、経済的に慎重だ。「私のステレオは、あまり派手なものではないんです。ティアックのターンテーブルとオルトフォンのスタイラス、マランツのアンプ、そしてオーディオエンジンのスピーカーです。優れた性能で素晴らしい音を出しますが、夢のようなセットアップではありません。マッキントッシュですが、子供たちが大学を卒業するまでは、今のセットアップを使うつもりです」

　アチソン氏の時計のなかで一番好きなのがこの時計だ。くすんだオリーブ色のNATOをつけたこんなデジタルのタイメックスなんて見たことがなかった。特に、ドーベルマンやゴミ処理機との戦いに敗れたようなストラップが素晴らしい。実は、このストラップは火に耐えたのだとアチソン氏は教えてくれた。「いつもストラップを切って燃やさなければならないんです。NATOのストラップはいつも長すぎるので。明らかに、NATO軍の人々は本当に大きくて、手首が太いのでしょうね」

　もうひとつのタイメックス、これはまったく違うもの。40mmのケースに夜光の針、そしてジョージア大学カラーの的のような文字盤は、アメリカのメンズウェアデザイナー、自身も時計愛好家であるトッド・スナイダーとのパートナーシップで作られたものだ。「これは大切な友人からのプレゼントなんです」とアチソン氏。「快適です。より重みのある時計です。私がTIMEX Qの時計を好きな理由のひとつは、たいていかなり軽くて比較的薄いということです。気にするほどではないですが、これはかなり大きいです。重さもあるので、私が持ちたい時計のなかではこのくらいの大きさまでです」

　シンプルなデジタルウォッチの原型がここにある。「超軽量・薄型です」とアチソン氏。「ベーシックでありながら、きちんとした機能を備えています。この手の時計のなかには、アラームが鳴ったときにどうやって止めるのかわからないものがあります。いつか、それを理解するつもりです」。HODINKEEの読者なら、この時計がかつてジャック（・フォースター）が某オンラインメガストアで最も安い時計としてレビューした3本針時計よりもさらに安い（失礼、高価ではない）ことがおわかりいただけると思う（記事「Amazonで最安のチプカシという時計」参照）。「Amazonで18ドルだったかな？」と彼は言う。実は11.99ドルだ（日本では税込1990円）。「しかも、ほとんど壊れない。そして正確な時間を刻んでくれます」。

 「これは素晴らしい時計です」とアチソン氏は言う。「でも、基本的にはさっきのカシオにプロテクションを追加したものなんですよ。並べてみるとわかるんですが、まったく同じなんです。機能もほとんど同じです。イルミネーターも搭載していますが、今はもうほとんど見えません。でも、いいものです。いい時計です」これは約70ドル（日本では税込1万2100円）で、あなたがダイバーである場合に備えて、200mの防水性を提供している。海底に長く潜っていれば、その分の小銭が見つかるかもしれない。

 「私はジャズに夢中なんです」と彼は言う。「あのレコードはトロントのお気に入りのジャズショップ、コスモス・レコードで買ったんです。クリフォード・ブラウンや日本のレコード、そしてトロントが好きなんです」。彼は仕事場ではかけないので（「レコードには忍耐とケアを与えるけど、レストランはそうとは限らない」）、家で聴くのだそうだ。

 「10年ほど前に景気のいい年があったこともあり、かなり多くのレコードをコレクションしています」とアチソン氏。「ミズーリ州オックスフォードにあるレコード店 、エンド・オブ・オール・ミュージック のオーナーである友人のデヴィッドにお金を送りました。5000ドルほどの小切手で、お金がなくなるまでしばらく毎月ランダムにレコードを送るように言ったんです。その結果、自分では買わなかったであろう素晴らしいレコードのコレクションを、あらゆる種類の音楽が本当に好きな人というプリズムを通して手に入れることができたんです。その後、ジャズの収集にのめり込み、今では人生の探求のようなものになっています」

Photos, Andrew Thomas Lee