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Photos by Atom Moore
我々が知っていること
フェルディナント・ベルトゥーは、道なき道を歩む時計メーカーである。
18世紀の伝説的な時計職人の名を冠し、ショパールグループによって2015年に再興された同社は、妥協のない真のハンドメイド時計製造の模範となるべく復活を遂げた。再生後、フェルディナント・ベルトゥーは、FB1(2015年GPHGで最高賞“金の針”賞を受賞)とFB2(GPHGで2019年、2020年の2年連続“クロノメトリー”賞を受賞)がふたつの賞を受賞した時計を発表し、世界でも有数の高級時計製造業のポールポジションに急浮上した。
そして先週より、フェルディナント・ベルトゥーの現代的な3作目、クロノメーター FB3 SPCが話題になっているのだ。
フェルディナント・ベルトゥーの新作クロノメーター FB3 SPCは、42.30mm×9.43mmの貴金属ケース(18KWGまたはPG)と4桁万円台の価格にもかかわらず、同社の時計のなかで最も身につけやすく、手に入れやすい価格の新モデルである。その名のとおり、ISO 3159準拠のCOSC認定の本格的なクロノメーターだが、今回の新作の注目点は、時計の調速機構にある。
時計の左側に見える円筒形のヒゲゼンマイは、同心円状の3次元ヒゲゼンマイで、精度を高めると同時に、フェルディナント・ベルトゥーのブランドにとって重要な歴史的意義を持つものだ。これは18世紀後半、フェルディナントの甥であるルイ・ベルトゥーが製作した特徴的な円筒形ヒゲゼンマイに加え、10進法表示の懐中時計に直接インスパイアされたものだ。
FB3 SPCに搭載された円筒形ヒゲゼンマイは、フルリエに拠点を置くフェルディナント・ベルトゥーのチームが膨大な研究開発を行い、完全自社製として完成させたものだ。この調速機構を本格的なトゥールビヨンにしなかったのには、理由がある。最も一般的な様式では、円筒形特有の垂直に伸縮するコイル構造により、ムーブメントを水平に置いたときにヒゲゼンマイの精度が変化する可能性がある。しかし、円筒形ヒゲゼンマイをトゥールビヨンに搭載すれば、キャリッジの回転によってその偏差が自然に補正される。そのため、トゥールビヨンを持たない腕時計で円筒形ヒゲゼンマイを使用する場合、時計メーカーにとって精度を維持することがはるかに困難であるのだが、フェルディナント・ベルトゥーの開発陣はあえてこの課題を選択したのである。
フェルディナント・ベルトゥーのチームが何とかして見つけ出した方法、それはヒゲゼンマイがテンプに取り付けられる部分と、テンプ受けのピンと接する部分の2カ所を、投影機を用いて手作業でカーブさせることだった。フェルディナント・ベルトゥーの時計職人たちは、円筒形ヒゲゼンマイのデザインを完成させ、COSCの精度基準を満たすために合計で2年の歳月を費やしたのである。このように、クロノメーターFB3 SPCの製造には複雑な工程が必要なため、毎年25本しか製造できないという制約がある。
フェルディナント・ベルトゥー クロノメーター FB3 SPCは、18KWGまたはPG(いずれもエシカルゴールド)、金メッキまたはブラックロジウムメッキのムーブメントから選択可能だ。価格はどちらも14万スイスフラン(約2065万円)だ。
我々が思うこと
フェルディナント・ベルトゥーの最新作は、精度にこだわった時計づくりとスチームパンクの要素を取り入れた魅力的な作品だ。前回、私たちはWatches & Wonders 2022で発表されたH.モーザー シリンドリカル・トゥールビヨンで、円筒型テンプ(ヘリカルまたは球形ヒゲゼンマイとも呼ばれる)が採用されていることを知った。
たった1年のあいだに、円筒型調速機構のまったく異なるふたつのモデルを見ることになったのは、むしろ興味深いことだ。実はこの10年ほどのあいだに、モンブラン/ミネルバ、ジャガー・ルクルト、ヴァシュロン・コンスタンタンや、ミキ・エレタのクロックなど、他社が試みた例は片手で数えられるほどしかないのだ。
しかし、フェルディナント・ベルトゥーの新作FB3 SPCがクロノメーター規格に準拠し、1本ずつ調整・テストされていることをひとつとっても、H.モーザーや最近の円筒型ヒゲゼンマイを採用した時計と比べるまでもないと思うのだ。
新作FB3 SPC は、18世紀半ばにベルトゥーによって製作されたマリンクロノメーターの伝統的なビジュアルを踏襲したモデルだ。この超高精度な計時装置は、当時の時計製造の最高峰であり、それを腕時計の形に置き換えることは至難の業であったと思われる。
FB3 SPCの“ダイヤル”は、実質ムーブメントの地板を形成する6つのニッケルシルバーのブリッジで構成されており、ムーブメントの反対側にある10本のブリッジと対応して、サファイアクリスタル製のシースルーバック越しに眺めることができる。実際の時刻表示は、ダイヤル外周に配置されたミニッツトラックのインナーリングと、6時位置のスモールセコンド、そして従来の2時位置付近にあるパワーリザーブ表示で構成されている。
230個の部品からなるムーブメントの装飾には、合計で100時間以上の作業が必要とされる。そのため、さまざまな仕上げ技術や要素が目に見えて理解できるのである。ブリッジの面取りは、電解メッキコーティングを施す前にすべて手作業で行われ、各ブリッジの平滑面は手作業で精密なサンドブラスト加工が施されマットな質感に仕上げられる。
ムーブメントの構造には、フェルディナント・ベルトゥーの歴史的なタイムキーパーへのオマージュが隠されている。例えば、テンプ受けはフェルディナントのNo.3天文時計のデザインを想起させ、12時位置の主ゼンマイを支えるブリッジは、ルイ・ベルトゥーが製作した120°の角度を持つ独特なブリッジのクォーターリピーターを想起させるものだ。また、ファセット加工とスケルトン加工が施された18Kゴールド製の針は、フルリエを拠点とする同社のアーカイブに所蔵される1785年製天文レギュレーター時計にインスパイアされている。
しかし、FB3 SPCのすべての側面が歴史に焦点を当てているわけではない。9時位置のミドルケースにはサファイアクリスタルの小窓があり、ヒゲゼンマイが伸縮している様子を横から眺めることができる。また、3時位置の大型リューズを引き抜いてルーペで見ると、休止状態の立体的なヒゲゼンマイの複雑なディテールを、その壮大な姿のまま見ることができるのだ。
フェルディナント・ベルトゥー FB3 SPCは全体として、まさに最高級のハンドメイド時計製造の典型例ではあるが、このショーの主役、そして真剣なコレクターがこの時計に興味を持つ理由は何と言っても、その催眠術のように鼓動する心臓なのである。
基本情報
ブランド: フェルディナント・ベルトゥー(Ferdinand Berthoud)
モデル: クロノメーター FB3 SPC
リファレンス: FB3SPC.1
直径: 42.3mm
厚さ: 9.43mm
ケース素材: 18KWGまたはPG、9時位置にサファイア製‘舷窓’
ダイヤルカラー: 6時位置にサンドブラスト加工の真鍮製インナーベゼルリングとスモールセコンド、Cal.FB-SPCのサンドブラスト加工され、2N金メッキまたはブラックロジウム処理された部品
夜光塗料: N/A
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: アリゲーターレザーストラップ、ケースと同素材のピンバックル
ムーブメント情報
キャリバー: FB-SPC
機能: 時、分、秒、パワーリザーブ、円筒形トゥールビヨン
直径: 37.3mm
厚さ: 6.83mm
パワーリザーブ: 72時間
巻上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時(3 Hz)
石数: 47
クロノメーター認定: COSC
その他の仕様詳細: 総部品点数230点、秒針停止機能付き
価格&販売情報
価格: 14万スイスフラン(約2065万円)
限定: 年間25本限定
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フェルディナント・ベルトゥーの詳細については公式サイトをご覧ください。
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