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Photos by Mark Kauzlarich
先週、ニューヨークにて3大オークションハウスがセールを開催し、ここ数年で最も波乱に満ち、物議を醸し、混乱に満ちたオークションの年を締めくくった。オークションをめぐる最近の言説を考慮すると、この結果は比較的堅調だったが、低迷する市場では何が引き続き好調で、何が下降傾向にあるのかを示すのにも役立った。この両方について話していこう。
アンディ・ウォーホルをフィーチャーしたクリスティーズ
オークションセールは、12月5日のクリスティーズから始まる。Only Watchの開催中止、ムハンマド・ザマン(Mohammed Zaman)氏の“Passion for Time”オークションをめぐる混乱とその後の民事訴訟(この件については近日中に詳細をお伝えする予定だ)、そして香港で開催された残念な“OAK Collection:Part I”は、予想最低額920万ドル(日本円で約13億230万円)のところわずか660万ドル(日本円で約9345万円)にとどまるなど、このハウスは数カ月のうちに大変なことになった。しかし、クリスティーズ・ニューヨークでのセールは驚くほど好調で、販売総額は1120万ドル(日本円で約15億8515万円)、販売ロットのうち96%が落札された(6月には30%のロットが流れたことを思い出して欲しい)。これは私が直接参加しなかった唯一のオークションだが、目玉商品のひとつはアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)が所有していたパテック 3448 パーペチュアルで、これは最低見積もり額(オールインは37万8000ドル、推定35万ドル~60万ドル)を下回る結果に。1、2シーズンごとに、ウォーホルの出自を持つ時計がオークションに出てくるようだが、その関連性にそれほどプレミアムが要求されるとは思えない。また今年の初めに、落札されたひとつであるウォーホルの2526を取り上げた(補足: オークションハウス側でもう少し調整してもらえないだろうか? 火曜日がクリスティーズ、木曜日がサザビーズ、土曜日と日曜日がフィリップスのオークションと、国外から来た人にとっては不便だ)。
(1)ロレックス スペースドゥエラーが19万500ドルで落札される
先週末に落札されたこのスペースドゥエラーは、1016の中で最も高価なモデルとなった。
“火曜日の西半球で販売された、最も高価なイエローゴールド製パテッククロノグラフ”というような、超特殊なレコードは嫌いだ。高度な野球分析のようなものだが、私は時計に関してWARやERA+、ERA++(リーグ平均防御率等いろいろな条件下のもと算出した防御率)について議論するのが好きで、ときにはケン・グリフィー・ジュニア(Ken Griffey Jr.)のスイングがいかに素晴らしかったかについても語りたい。
超特殊な最上級品の表現を軽蔑しているにもかかわらず、ロレックス 1016を合格させているのは、私がそれを愛しているからだと思う。それともこれを書いている今、私がつけているからだろうか? とにかく、スペースドゥエラー(Ref.1016)は、失われた都市アトランティスと同じくらい多くの神話を持つヴィンテージロレックスのひとつである。それは通常の1016(通常はエクスプローラー)で見慣れた一行のテキストが、より神秘的なものへと入れ替わっているだけに過ぎない。おそらく、60年代にロレックスが日本市場向けにスペースドゥエラーを数本製造したのだろう。これはマーキュリー宇宙飛行士の日本ツアーを記念してつくられたと言われているが、この起源説の本当の証拠があるかどうかはわからない。
その起源については神話があるが、実際にスペースドウェラーの由来についてはあまり知られていない。
本当のところはどうであれ、スペースドゥエラー 1016はフィリップスにて19万500ドル(日本円で約2700万円)で販売され、これまでで最も高価な1016となった。オークションに出品された最後のスペースドゥエラー(2020年に106万2500香港ドル、当時の相場で約1465万円で落札)と、アルビノの1016(2023年5月に10万1600スイスフラン、日本円で約1660万円で落札)を追い抜いたのだ。先ほど書いたアルビノ文字盤と同じように、ヴィンテージロレックスのなかでもいちばん興味深く、危険な領域である。
スペースドゥエラーがこの価格に達したのは、単にその1行のテキストのためだ。これほどまでに美しいギルト文字盤がどれだけ存在するのかはわからないし、実際、15年前にオークションで落札されたルース・ダイヤルのなかには、特定のケースに収められていたかどうかさえわからないものもあった(フィリップスのこの例は、スペースドゥエラーで一般的に認められているシリアル範囲と一致していたが)。またこの例には、日本ロレックスのサービスペーパーが付属しているが、残念ながらモデル名は記載されていない。ただこれは、スペースドゥエラーの起源の可能性を示すもうひとつの証拠だ。私はこの時計の落札者を知っており(聡明なコレクターであることだけ付け加えておこう)、またそのペーパーからスペースドゥエラーの起源について何か手がかりが得られたら、私たちに知らせてくれると約束した。期待していて欲しい。
(2)パテック1518と1463が150万ドルと59万6900ドルで落札(ケースコンディションによる転用も含む)
150万ドル(日本円で約2億1230万円)で落札された、オリジナルファミリーの1518R。
時計市場のトレンドが下降しているコーナーに行く前に、どこにも行かず、そして決して行かない分野についての話をしよう。ヴィンテージパテック、特にヴィンテージのコンプリパテックは、すべてのオークションシーズンの要であり続けている。ライブセールの全422ロットのうち28%がパテックであり、そして上位の時計も好調だった。いくつかのハイライトをピックアップしよう。
- サザビーズ/パテック 1518R: 150万ドル(日本円で約2億1230万円)
- サザビーズ/ティファニーのサイン入りブレゲ数字パテック 1463J: 59万6900ドル(日本円で約8450万円)
- フィリップス/パテック 1518R: 180万ドル(日本円で約2億5485万円)
- フィリップス/“ピンク オン ピンク”のパテック 1463: 56万5150ドル(日本円で約8000万円)
- フィリップス/パテック 3974J: 63万5000ドル(日本円で約8990万円)
これらは優良株中の優良株であり、確実な結果は、ジョン・リアドンが最近のベン(・クライマー)とのチャットで、スポーツモデルが劇的に冷え込んでいるにもかかわらずコンプリケーションパテックの強さについて語った、いくつかの指摘を証明するものである。
サザビーズの1518R。
対してサザビーズの1518Rは完璧ではなかった。多くの1518と同じように、文字盤はクリーニングされ、ケースもポリッシュされていた。しかし、それは元のオーナーから送られてきた、信頼できるコンディションであった。コンディションレポートは、時計の各コンポーネントを記録した業界標準と言えるレベルで詳細に書かれていた。1518についてもっと知りたい人には、絶好の学習機会である。よくやった、そしてありがとう、サザビーズ! 会場にいた著名コレクターがこの1518を落札したが、粗悪な1518を買って商売をするような人ではない。
リアドンが言ったように、コンプリケーションパテックへの興味は、これらの真のヴィンテージリファレンス以外にも広まっている。
特にファーストシリーズの3970と3940は、“今は天井を突き破るほど高騰しているが、コンディションがすべてである”とリアドンはベンに語っている。彼が言った一例を挙げると、サザビーズでは、ポリッシュ仕上げの3970ERが単体のまま展示されていた(3970はステップドラグが設けられているため、ポリッシュ仕上げの見分けは簡単なのだ。この例では、定義がないことに注意)。コレクターらは、ヴィンテージウォッチを見るのと同じレベルの目利きで、ネオヴィンテージトロフィーの可能性を評価している。
左右の3970のケースのシャープさを比較して欲しい。特に、段差のあるステップドラグあたりは顕著だ。左の3970はおそらくポリッシュされていないだろうが、右の個体は明らかにポリッシュされており、これらの3970ケースを非常にエレガントにするディテールの一部が失われている。このケースの状態が、先週のオークションで2番目の例が落札された一因となった。Images: Both Sotheby's
「トロフィーヴィンテージの永続的な強さは紛れもなく明白でした」と、サザビーズの時計部門責任者として初めてセールを成功させたジェフ・ヘス(Geoff Hess)氏は語った。また「新たに発見された価値のある時計に対する需要は顕著で、市場に出たばかりの腕時計に対する熱意が反映されています」と付け加えた。
コンプリケーションパテックへの関心は、ネオヴィンテージ時代にまで及んでいる。例えば1991年に発売された単体の3974J パーペチュアルカレンダー ミニッツ リピーター(つまり、箱やオリジナルペーパーの付属がない)は、63万5000ドル(日本円で約8990万円)で販売された。この例には、ハグマン社製のケースやドーレ(金メッキ)ダイヤルなど、多くの魅力が備わっていた。
ひと息: 40万ドルで落札されたG-SHOCK
これは見出しで記載した“5つのリザルト”には含まれないが、フィリップスにて40万ドル(日本円で約5663万4000円)で落札されたG-SHOCKに言及しないのはもったいない。私はこの時計が憎い。ただザ・ロック(The Rock)がゴールデン・コーラル(食べ放題のビュッフェスタイルのレストランチェーン)に行ったあとと同じくらいの重さの、ばかばかしいフルゴールドG-SHOCKを愛せないのなら、たぶん新しい道を探したほうがいい。これは今回限りのもので、収益はすべて自然保護団体に寄付される。基本的には、それよりも広い市場については何も言及されていない。
G-SHOCKの“ドリームプロジェクト #2”は、ジェネレーティブAI(人工知能)の助けを借りてデザインされた。AIはテクノロジーを駆使して技術的な難問を解決し、人間と協力して究極のG-SHOCKを完成させた。
見方を変えれば、このG-SHOCK1本で、2162本のエド・シーラン×G-SHOCKモデルを買うことができる。馬ほどの大きさのアヒルとアヒルほどの大きさの馬、どちらと戦いたいかについての質問のようなもので、正直なところ、どちらの馬鹿げた仮定のなかで暮らしていきたいのかわからない。
よし、現実に戻ろう。
(3)ダニエルズ/スミス&デュフォーは下降傾向
(ジョージ・)ダニエルズのアニバーサリーモデルは60万9600ドル(日本円で約8630万円)で落札され、昨年の最高値を下回った。
“トロフィー”ヴィンテージがニューヨークで好調だった一方、一部のインディーズウォッチは停滞している。香港でデュフォー シンプリシティが流れ、チャリティのためのデュフォーユニークピースが高額の期待(150万~300万ドル、日本円で約2億1240万~4億2475万円の見積もりに対して120万ドル、日本円で約4億2475万円だった)に応えられなかった1カ月後、フィリップスでは37mmのシンプリシティが55万8800ドル(日本円で約7915万円)で落札された。まず当たり前のことを言うと、3連続にしては高額だ。ただ少し前のことだが、ベンがオークションに出品された最初のシンプリシティについて、約25万ドル(日本円で約3540万円)で落札されたと記事にしたのはそれほど昔のことではない。しかし、すべてのシンプリシティと、おそらくすべてのスミスが100万ドルの命題になるかもしれないと感じたとき、それはパンデミックに煽られた高揚感からは確実に遠ざかっていた。
結局のところ、そのような高騰した価格で購入したのは数人だけだった。しかし、顧客が購入に慎重になるにつれて、これらのインディーズはちょっとした苦境に立たされている。多くの場合、彼らはここ数年で小売価格を大幅に引き上げており、流通市場の新常識を超えている可能性がある。これが悪いことなのかどうかもわからないが、インディーズウォッチを購入するとすぐに赤字になることを覚悟しなければならないという通常の状態に戻り、ここ数年が、本当にこの奇妙な小さな出来事だったのだと思い出させてくれる。
(4)本日のジョン・プレイヤー・スペシャル鑑賞パート
150万ドル(日本円で約2億1230万円)のデイトナ、正直なところそう感じた。
5月のオークションで、ロレックスが250万ドル(日本円で約3億5405万円)で美しいジョン・プレイヤー・スペシャル(JPS)を落札したとき、私は最高のJPSを見たと思った。しかし、サザビーズはニューヨークで別の素晴らしいJPSを見つけることに成功し、それは150万ドル(日本円で約2億1230万円)で落札された。この個体は銀行の金庫に50年間放置されていたもので、さらに本家アメリカのものである。ストラップ付きだったので、ケースにはブレスレットやエンドリンクの傷もなく、前回の例よりもさらにコンディションがよかったかもしれない。この時計の美しさを伝えるのは難しいので、数秒だけマークの写真を拡大して見て欲しい。
(左から)JPSの6241、パテック 1518、1463。選ぶのは難しい。
もうひとつクールなメモ。これは14Kの例であり、輸入税を軽減するために(一般的な18Kとは対照的に)通常アメリカでのみ見られる。これまでに製造された6241は推定3000本、そのうち金無垢モデルは約300本、JPSダイヤルを備えたものはそのうちのごく一部と言われている。
(5)撤退したウィームス
その魅力的な出自にもかかわらず、リチャード・バード(Richard Byrd)提督のウィームスは落札前に撤退した。
しかし、ヴィンテージウォッチにとっては輝かしいものではなかった。サザビーズセールの日の朝、ハウスはかつてリチャード・バード提督が所有していたロンジン ウィームスモデルの出品を取り下げたのだ。その理由は、10万ドルから20万ドル(日本円で約1415万~2835万円)という常に強気なエスティメートがあり、それに対してのこの価格への関心の低さであったようだ。一方で同じようなロンジン/ウィットナーのウィームスはクリスティーズで落札された。間違いなく、これらは素晴らしい時計である。特にバード提督のウィームスは、偉大な由来とストーリーがある。しかし、このふたつのロットに対する関心の低さは、文字盤に“パテック”や“ロレックス”と書かれていないヴィンテージウォッチにお金を費やすことへの恐れを物語っている。ヴィンテージロンジンのコレクターは最も情熱的な人たちの一部だが、市場が信じられないほど薄いので、コレクターが不安定だと感じたら待つのがいちばんである。
編集後記: 上昇を続けるカルティエ
チャーリー・チャップリン(Charlie Chaplin)が妻のウーナ・オニール(Oona O'Neill)に贈ったベニュワールは、3万2000ドル(日本円で約455万円)で落札された。
とはいえ、ヴィンテージカルティエは今でも人気を博している唯一のブランドのようだ。以下は、カルティエの過去数週間の結果の一部。大手オークションハウスのものもあれば、そうでないものもある。
- プラチナ タンク サントレ: アグットにて14万9000ユーロ(日本円で約2315万円)で落札。サービスダイヤル、針、ムーブメント…つまりヴィンテージのプラチナ製サントレケースだけで16万4000ドル(日本円で約2325万円)だ。クレイジーだね!
- チャップリンの出自を持つベニュワール: サザビーズにて3万2000ドル(日本円で約455万円)で落札。 ベニュワールは“今が旬”とNYタイムズ紙は報じた。
- カルティエ ロンドン タンク: クリスティーズにて4万7800ドル(日本円で約680万円)で落札。特にカルティエ ロンドンは大きな注目を集め続けている。
- マキシ オーバル: フィリップスにて12万650ドル(日本円で約1710万円)で落札。オーデマ ピゲ製ムーブメントを搭載した、あまり見かけないカルティエ ニューヨークの時計。なんともクールな時計である。
- 1920年代製タンク ノルマル: ボナムズ・ロンドンにて2万8160ポンド(日本円で約510万円)で落札。オリジナルで魅力的。ケースバックのエングレービングがクールだが、文字盤は非常にラフである。
カルティエ ニューヨークのために製作された、オーデマ ピゲムーブメントを搭載した希少なマキシ オーバル。ロンドンをくらえ!
鑑定書、コンディション、時代、どれも大した問題ではないようだ。文字盤に“カルティエ”と書いてあるだけで売れるし、どんなに高く見積もってもそれ以上の値段で売れる。私はカルティエをロレックスやパテックと並んで“優良株”のひとつだと思っている。1991年製のクラッシュが、5年前にわずか3万ドル(当時の相場で約330万円)で売られていたのは正しくなかったようだ。しかし、これらのバイヤーすべてが、私が先ほどロレックスとパテックで非常に重要だと話したのと同じレベルの目利きをしているかどうかはわからない。
とはいえ、カルティエのバイヤーは少し違うという説もある。彼らはサービスダイヤルやポリッシュ、オリジナリティにはそれほど関心がなく、ただ美しいデザインを求めているようだ。しかし、私にとってカルティエのデザインやケースの持つ美しさの多くは、シャープで独創的なラインから来ている。サントスやノルマルの面取り、タンク ルイの黄金のプロポーション。これらの本来の美しさへの感謝が失われないことを願っている。
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