trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth A.ランゲ&ゾーネ カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”

カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”は、A.ランゲ&ゾーネの最も特異な美しさをもつ時計の一つが復活したことを意味する。


ADVERTISEMENT

手巻きムーブメント、特にオートオルロジュリーの手巻きムーブメントは、今では絶滅の危機に瀕している。A.ランゲ&ゾーネが1994年に4本の時計で構成される最初のコレクションを発表したとき、そのうちの1本である「アーケード」には、Cal.L911という手巻きムーブメントが搭載されていた。アーケードは26mm x 22mm x 6.4mmというサイジングで、当時発表された4モデルで最も小さいモデルだったが、ランゲを象徴する複雑機構であるビッグデイトを搭載していた。

 1997年、ランゲはより大きな長方形の時計を発表した。それが「カバレット」である。カバレットには、Cal.L911とよく似たムーブメントが使われていた。搭載されていたのは、Cal.L931で、基本的にはL911と同じだが、上側のブリッジと地板がわずかに大きくなり、形状もよりスクエアになっている(L911は明らかに角が丸みを帯びていたが、L931はストレートな長方形だった)。

A.ランゲ&ゾーネの新しいカバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”。

 複雑なファセットが施された長方形のケースを持つこのモデルは、ランゲの他のコレクションに見られる丸いケースとは異なり、少々奇抜なデザインであることを「カバレット」という名前が示唆しているようだ。サイズは36.3mm x 25.9mm x 9.1mmのベーシックモデル(タイム&ビッグデイト)の他に、非常に魅力的なムーンフェイズモデルなど、様々なバージョンがあった。

 このコレクションのコンプリケーションの頂点は、カバレット・トゥールビヨンだった。2008年に発売され、2013年に生産終了となった同モデルは、ランゲにとっても、そしてトゥールビヨンウォッチの世界にとっても新しいものだった。革新的なストップセコンド機構を搭載していたのだ。

2008年に発売されたカバレット・トゥールビヨンのオリジナルモデル。

 精度向上のためにブレゲによって発明されたトゥールビヨンには、針を止め時間を正確に合わせることができるストップセコンド機構は必須だと目されていた。しかし、そこには大きな技術的障害がある。ストップセコンド機能を備えた通常の時計では、時刻を合わせるためにリューズを引くとテンプが停止するが、その仕組みは通常、薄くて平らなレバーがテンプを軽く押すことで実現している。しかし、トゥールビヨンのテンプは回転するケージのなかに入っており、ケージの部品がストップセコンドのレバーがテンプの上に触れるのを妨げてしまうのだ。ランゲはこの問題を解決するために、ストップセコンドレバーをY字型にしてピボットに取り付けるという独創的な機構を開発した。ストップセコンドレバーの片方の腕がケージの部品に阻まれると、レバーはピボット上を移動し、もう片方の腕がテンプにタッチするようになっている。

カバレット・トゥールビヨンのストップセコンド機構。

 エレガントなデザイン、美しく作られたケース、そしてもちろん美しいムーブメント、さらにトゥールビヨンの場合は興味深い技術的特徴も備えており、トゥールビヨンモデルを含むカバレット・コレクション全体が、ランゲの最も美しい時計のひとつだと私はいつも思っていた。ランゲが同コレクションを停止したことに対して、私は残念に思っていたが、今日、同社はカバレットの復活、少なくともカバレット・トゥールビヨンの復活を発表した。最新作はカバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”(この言葉は通常、クラフツマンシップと訳される)で、ベーシックな(この文脈でこの言葉を使うことができるならば)カバレット・トゥールビヨンをベースに、エングレーバーの技術力とエナメル職人の芸術性の両方を表現している。

ADVERTISEMENT

 ハンドヴェルクスクンストの時計は、2011年から不定期に発表されており、カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”は7番めのモデルとなる(これまでのモデルは、リヒャルト・ランゲ・トゥールビヨン、ツァイトヴェルク、ランゲ1・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー、ランゲ1・トゥールビヨン、1815トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー、1815ラトラパンテ・パーペチュアルカレンダー)。様々な装飾技法が用いられてきたが、頻繁に使用される彫金技法の一つに、ビュランと呼ばれる先の尖った道具を使って金属の表面にピンポイントで何度も刻み込むトレンブラージュというものがある。カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”には、このトレンブラージュとグラン・フー エナメルの両方が、他のエングレービング技法とともに用いられている。

 カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”の文字盤は非常に複雑だ。ランゲはまずホワイトゴールドの土台を作り、そこにビッグデイト表示、ランニングセコンド、パワーリザーブ表示、時分針、そしてトゥールビヨンのための穴を開ける。文字盤は2つのセクションに分かれている。内側の部分は、ブラックロジウムメッキを施したのち、規則的なダイヤモンド模様のエングレービングが施されており、パターンの異なる要素がシャープなコントラストを生み出している。そして、内側のセクションの外周に沿って、ごく薄い帯状のトレンブラージュ仕上げが施されている。

 文字盤の外側の濃いグレーの部分にはグレインが施されているが、これは繊細な効果を生み出し、文字盤の内側の形状を強調するために用いられているトレブラージュとは対照的だ。

 その工程のあと、文字盤全体に半透明のグレーの焼成エナメルを塗布する(そうしないと文字盤が歪んでしまうため、文字盤の裏にもエナメルを塗る必要がある)。焼成は、通常のグラン・フー エナメルと同様に、約800℃の窯のなかで行われる。

 ここが難しいところだ(エングレービングがそうでないというわけではない)。エナメルは、様々な開口部とインデックスを除いて、文字盤のすべての部分を均一に覆わなければならない。技術的に大きな問題となるのは、インダイヤルとトゥールビヨンの開口部が交差する部分で、エナメルは円が重なる非常に鋭く尖った金属の領域を覆うことになる。この交差部分のエナメルにはひびが入りやすく、文字盤を焼いたあとに初めてひびが入ることもあるため、エナメル職人にとって頭痛の種なのだ。同社の製品開発責任者であるアントニー・デ・ハス氏によると、焼成の過程で文字盤とエナメルにストレスが加わり、文字盤が冷えてから応力破壊が発生することがあるという。

ADVERTISEMENT

 カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”の文字盤は、落ち着いたグレーとブラックの光の美しさを表現しており、エングレービングとエナメルの組み合わせにより、素晴らしい奥行き感が生まれている。

 文字盤のもう一つの興味深い特徴は、A.ランゲ&ゾーネのロゴだ。このロゴは、シリコンパッドを使って通常の方法で転写プリントされている。しかし、ガラス加工されたエナメルの表面にプリントするため、通常の塗料ではエナメルの表面にうまく接着できない。代わりにランゲは、エナメルパウダーを混ぜた塗料を使用している。ロゴを印刷したあと、最後にもう一度低温で焼成し、塗料に含まれるエナメル粒子と文字盤のエナメル面が密着するようにしている。これでロゴが固定されるのだ。

 ムーブメントは、オリジナルのカバレット・トゥールビヨンに使用されているものと基本的に同じだ。しかし、Cal.L042.1には、自社製ヒゲゼンマイとタイミングウエイト付きのフリースプリングテンプを採用するなど、いくつかの改良が加えられている(オリジナルのカバレット・トゥールビヨンでは、従来の緩急針付きテンプを採用していた)。トゥールビヨンのコックと中間車には、ブラックロジウムメッキとエングレービング(文字盤のエングレービングと同様)が施されており、2つの主ゼンマイ香箱で120時間のパワーリザーブを確保している。

 26.5mm x 39.2mm x 10.3mmのプラチナケースに精巧なファセットが施されたこの時計の価格が31万5000ユーロであることを聞いても、驚くことはないだろう。しかし、ランゲの通常の緻密な時計作りに加えて、このハンドヴェルクスクンストには多くの手仕事が盛り込まれている。カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”は、世界で30本の限定生産(当然のことながら)だ。

追伸:このモデルが限定的に復活したことは素晴らしいことだが、残念ながら「カバレット」が通常の生産モデルとして復活する予定はない。アントニー・デ・ハス氏によると、カバレットは会社の情熱的なプロジェクトであったにもかかわらず、商業的にはそれほどうまくいかなかったという問題があるそうだ。ランゲは、時計の製造本数からすると、まだまだ小さな会社である。カバレットを復活させるためにリソースを割くということは、カバレットの最後の幕が下りてから何年もかけて得た知識に沿ってアップデートしたいということであり、必然的に他のプロジェクトをやらないということでもある。しかし、デ・ハス氏はその可能性を明確に否定したわけではない。私は、いつの日か、時が満ちて、再びカバレットの幕開けを見ることができることを強く願っている。

A.ランゲ&ゾーネ カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”: ケース、プラチナ、26.5mm x 39.2mm x 10.3mm。文字盤に装飾が施されたグラン・フー エナメル、手仕上げの彫金。ムーブメント、Cal.L042.1、手巻き1分トゥールビヨン、アウトサイズデイト表示、サブセコンド表示、パワーリザーブ表示、トゥールビヨンにストップセコンド機構を搭載。サイズ 22.3mm x 32.6mm x 6.4mm、トゥールビヨンと中間車のコックには彫刻が施され、プレートとブリッジには無垢のジャーマンシルバーを使用。5姿勢で調整済。120時間パワーリザーブ(2つの香箱を使用)。世界限定30本。

カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”については、A.ランゲ&ゾーネ公式サイトへ。

Shop This Story

カバレット・トゥールビヨン“ハンドヴェルクスクンスト”は、A.ランゲ&ゾーネ公式サイトへ。