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A Week On The Wrist IWC ビッグ・パイロット・ウォッチ 43を1週間レビュー

ダウンサイズされた新ケースは、もはやビッグサイズではない。ケースサイズのわずかな変化は、思想(そして着用感)に大きな変化をもたらした。

腕時計を理解する最良の方法は、その時計がどのような環境での使用を想定して作られたかについて思いを巡らすことだ。IWCのビッグ・パイロット・オートマテックの場合、それは航空機のコックピット内である。

 プレスリリースのスペックシートを読むだけなら誰にでもできる。しかし、私の仕事はそれだけでは成り立たない。もしあるブランドが航空機に乗るために作られた時計だと語るのであれば、それを理解し判断する唯一の方法は実際に着用して航空機に乗ってみることだ。

 とはいえ、この種の時計のほとんどがコックピットのなかにすら入ることはないことは承知している。アメリカは航空機の操縦免許を取得するのに世界で最も人気のある国のひとつだが、人口3億2900万人に対して航空機パイロットの人口はおよそ66万5000人だ。もしIWCがこの時計をパイロット向けにのみ位置づけていたら、非常にニッチな市場にしかリーチできないだろう。

 だからこそ、IWCのビッグ・パイロットがコックピットから飛び出し、日常使いできる現代のスポーツウォッチの定番となったことは朗報といえる。本稿では43mm径の新モデル“リトル”ビッグ・パイロットの進化の過程を紹介したい。もちろん、地上と大空の両方でその活躍を追う。

ファースト・インプレッション

 ビッグ・パイロットは、最近までのほぼすべてのモデルが直径46mmのケースサイズで製造されてきたが、昨年IWCは43mm径のモデルを発表した。3mmという数字は大したことがないように思えるが、ケースサイズのわずかな変化は、思想(そして着用感)に大きな変化をもたらした。

 かつて、IWCは自社のオーバーサイズモデルを、堂々とした男らしさを表現する選択肢として位置づけていた。読者も広告をご覧になったことがあるかもしれないが、2000年代初頭のIWCはまさに威厳に満ちたものだった。2002年に発売されたビッグ・パイロットの46mmモデルは、そうした時代背景に密接に結びついていたのだ。

 しかし、この43mmモデルは現代の時計愛好家の好みのトレンドを完璧に捉えている:すばらしい時計にふさわしいすばらしいサイズ感だ。このモデルの登場によって、かつてIWC“ビッグ・パイロット”がディナープレート(皿)を腕の上に載せているようだと揶揄されたのも今は昔となった。しかし、ビッグ・パイロットのデザインのヒントとなったオリジナルモデルに比べれば、46mmですら小型といえる。ビッグ・パイロットがデザインを受け継いだオリジナルモデルは、なんと55mmもあったからだ。

 IWCは、ルフトヴァッフェ(第二次世界大戦期のドイツ空軍)のパイロットウォッチという物議を醸すルーツからビッグ・パイロットを脱却させるために、これまでに何百万ドルもの投資を行ってきた。トム・ブレイディ、ルイス・ハミルトン、ブラッドリー・クーパーといったブランドアンバサダーたちはビッグ・パイロットを高級時計として昇華させ、ツールウォッチとしての起源から遠ざけただけでなく、より多くの人々にこの時計を開放し、魅力的なものにしたのだ。フリーガー(パイロットのドイツ語)にインスパイアされた時計を製造しているマイクロブランドやあまり知られていないブランドは数多くあるが、IWCのように広く知られたブランドでは希有だ。

 また、IWCのイメージ回復の努力はまったく空回りしていないどころか、IWCは現在、社会貢献活動においても時計業界のリーダー的存在にまでなっている。ローレウス財団への直接的な資金援助やアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ青少年基金への協力は前向きな変化を求めるIWCの姿勢を雄弁に物語っている。また、ブランドアンバサダーであるルイス・ハミルトンの社会貢献活動を支援するために、1点モノのオーダー品を受注生産している。

 本稿では、フリーガーウォッチの誕生秘話やドイツ空軍時代のルーツから脱却して一般的なスポーツウォッチになった経緯については触れないが、少なくとも第二次世界大戦中のフリーガーウォッチが歴史上の暗黒時代に生まれた時計であることを認めずして、ブランドの進化を語ることはできない。しかし、IWCは長年にわたりマーケティングキャンペーンや著名人の起用に巨額の投資を行うことで、このデザインを現代のスポーツウォッチの定番に変化させることに成功した。今日の“ビッグ・パイロット”の評価は20世紀半ばの戦乱よりもこのページに登場するスターたちに負うところが大きい。

 そうは言っても、私は現代の有名人の起用には若干抵抗を覚える。俳優やミュージシャン、スポーツ選手がどんな時計を着用していようとさほど興味がないからだ。それよりもIWCの製品を知り尽くしているクルト・クラウス氏のポジティブな証言の方がよっぽど好感が持てる。彼はIWCの製品を知り尽くしているし、本物のパイロットのことも熟知している。そして43mmのビッグ・パイロットを1週間着用し、飛行機に乗ってみたところ、サイズダウンしたことに納得した。これはすばらしい試みだった。

 それでは、43mmのビッグ・パイロットの装着感を紹介しよう。

オン・ザ・リスト

 43mmのビッグ・パイロットの話題はもちろんケースサイズに尽きる。しかし、この新作で最も目を引くのはIWCが日付ウインドゥとパワーリザーブインジケーターを廃止した結果、ダイヤルデザインが非常にすっきりしたものになったということだ。初代ビッグ・パイロットのRef.5002は、3時位置に7日間のパワーリザーブインジケーター、6時位置に日付表示を備えていた。つまり43mmの新型ビッグ・パイロットでは2、3、4、6のアラビア数字が復活したことになる。全体的な効果として調和の取れたダイヤルになった。視認性を重視した1940年代に開発された観測用腕時計の原型もこのようなすっきりとしたダイヤルデザインを採用していた。私はこの純粋性への回帰を素直に歓迎したい。余形な表示はダイヤルを乱し、簡潔なデザインの絶妙なバランスを崩してしまうからだ。

 46mmのビッグ・パイロットとは異なり、私の19cmの腕周りでは43mmのビッグ・パイロットのラグがはみ出してしまうこともなく違和感もない。この3mmの違いが非常に効果的だと実際に判るまで私は懐疑的だった。ロレックスのサブマリーナーが1mm大きくなっても誰もその違いがわからなかったのとは対照的だ。3mmのダウンサイジングは物理的にも手首に大きな違いをもたらすが、それだけではない。

サイズこそが重要

 1週間着けるうちに、私は新しいビッグ・パイロットにすっかり惚れ込んでしまった。マニアはケースサイズを小さくしてほしいと要望するのが常だが、ブランド側が耳を傾ける必要がないことは常識となりつつある。なぜなら彼らが耳を傾けるべき相手はマニアではなく、顧客の大半を占め、大きいケースを好む一般消費者であるからだ。私を含むマニア層は一般的な消費者といかにかけ離れているかをつい忘れがちだ。

 そう、ほとんどの購買層はいまだに大きな時計を好むため、ほとんどのメーカーはごく少数のマニアがケースサイズの縮小を求めているのはお構いなく、いまだに40mm超の時計を製造している。大手ブランドは新モデルを発表する前にフォーカスグループ(訳注:商品開発のためのグループ討論)やマーケティング調査に多額の資金を投じており、それが時計の大型化につながっていることが多い。逆説的にIWCのような巨大ブランドが純粋主義者に向けたようなダウンサイジングを敢行することは大きな意味を持つ。最後に手首がハムホック(豚のスネ肉の燻製)のように太くない人こそビッグ・パイロットを試してほしい。より多くの人々にとって、この時計とブランドがより開かれた存在となるだろう。

コストパフォーマンスについて

 本稿の取材のため、ワイオミング州の山間飛行専門パイロットであり親友でもあるジョーダン・アーバック氏と私は、この時計とティートン山脈周辺で飛行し、パイロットの立場通してこの時計をレビューした。しかし、初めに私がはっきりさせておきたいのはこの時計は紛れもなく“ラグジュアリー”の世界に属する時計だということだ。確かに古いツールウォッチのデザインをベースにしているし、酷使に耐えられるように作られているが、ビッグ・パイロットの典型的な購入者はフリーガーにインスパイアされたデザインを製作しているマイクロブランドを渡り歩いているわけではないことを忘れてはならない。

 HODINKEEでは、時計を分析する際に時計の細かな部分や歴史的な背景に目を向けることが多いのだが、非常にシンプルなことを見失いがちだ。時計を買う人の大半は自分のために“良い時計”を買いたいと思っているだけという事実だ。なぜなら、それは高級品であり、自分がお金を出して贅沢なものを楽しめるようになって、ようやく手が出るものだからだ。このような人々は必ずしも時計オタクとは限らない。

 IWCが販売する時計の多くはこのような顧客が対象となっている。ソーシャルメディアやインターネットのフォーラムで繰り返しよく見かけるコメントはこの層が必ずしも細部にこだわったり、自社製キャリバーの詳細を理解できるほどの知識を持っているわけではないため、IWCはこうした状況を利用してビッグ・パイロットのような時計を高額で売りつけるというものだ。

 私も時計に熱中したての頃はそのような人々の一人だったかもしれない。ジンやダマスコ(彼らはある種自社製ムーブメントを製造しているといえる)がIWCと同じことをもっと手頃な価格で提供することをみなに知らせていた。しかし、何年もかけて私は単に異なる購買層がいて、異なる動機で異なるセグメントで購入しているのだと理解するようになった。

 この時計を1週間着用してみて、購入者が単なるフリーガーウォッチではなくIWCのビッグ・パイロットを求める理由が完全に理解できた。彼らはビッグ・パイロットのデザインを購入するのと同様に、IWCが築き上げた世界観を購入しているのだ。

 43mmのビッグ・パイロットは、レザーストラップで106万1500円、ブレスレットで118万2500円(ともに税込)だ。高額ではあるものの、内部に搭載されているIWC Cal.82100や確かな製造品質(言いたくはないが言おう)、そして何十年もかけて評判を高めてきたブランドの家宝級の作品であることを考えてみてほしい。また、IWCのなかではビッグ・パイロットはよく知られた存在だ。これらの要素がすべてが重なったとき、高いコストパフォーマンスが際立つのである。

競合モデル
ストーヴァ フリーガー ≈ 約17万8000円

 オリジナルのフリーガーウォッチを製造しているのは5ブランドだ。IWCはもちろんのこと、ヴェンペ、ラコ、A.ランゲ&ゾーネ、そしてストーヴァだ。これらの会社は現在も存続している。そして、ランゲを除くすべての会社がフリーガーにインスパイアされた時計を製作している。

 ストーヴァのモデルは、その作りの良さと価値で群を抜いている。私は限られた予算でフリーガーを手に入れるにはこのモデルが最適だと考えている。もしIWCが少し高価ならストーヴァは素晴らしい選択肢だ。36mm、40mm、41mm、43mmでサイズ展開されており、フリーガーの特徴的なデザインをすべて網羅している。

IWC パイロット・ウォッチ・オートマティック ・スピットファイア 62万1500円

 この時計のデザインはフリーガーに由来するものではない。その代わり、RAF(英王立空軍)向けに納品された時計からインスピレーションを得ており、そこに戦闘機スピットファイアとの絆を前面に押し出している。IWCは2019年に、修復したスピットファイアを世界各地で飛行させるという信じられないようなプロジェクトを実現した。英王立空軍とIWCの間には由緒正しい歴史があり、私は史上最も美しく優雅な戦闘機に所縁のあるものは何でも好きだ。

 このモデルは39mm径と完璧なサイズで価格は62万1500円(税込)だ。43mmのビッグ・パイロットはレザーストラップ仕様で106万1500円(税込)だから随分と開きがある。これは実に悩ましい問題だ。見た目はよく似ているが、目指す姿はまったく異なる。日付窓をなくせばわかりやすいだろう。私にとってはスピットファイアが一番だが、ビッグ・パイロットとしても最も優れたモデルだろう。この完璧なIWCは同ブランドの中間価格帯で手に入る。

パテック フィリップ カラトラバ パイロット トラベルタイム Ref. 5524G 618万2000円

 高価で派手なパイロットウォッチが欲しいと思っても、選択肢はそう多くはない。46mm径のビッグ・パイロットの評判は上々だが、とにかく派手なパイロットウォッチが欲しいという読者には、Ref.5524Gをすすめたい。あまり知られていないことだが、パテックは1930年代に初期のアワーアングル・ナビゲーション・ウォッチを製造していた。






ブレモン SOLO 43mm 約45万7000円

 ブレモンにはIWCのような歴史的な影響力は必ずしも強くないものの、積極的なマーケティング活動と航空機にインスパイアされた時計のラインアップの拡大により、素早く巻き返しを図っている。SOLOは、フリーガーにインスパイアされた時計と同じ要素を備えており、価格は43mmのIWCビッグ・パイロットの半値だ。この2本のモデルのどちらかを選ぶとしたら、それは過去と未来のどちらかを選ぶことに等しい。IWCはすでにその地位を確立しているが、ブレモンは未来に向けて大金を投じ、自らの地位を確立しようと躍起になっている。





まとめ

 ビッグ・パイロットは、さまざまな意味で現代のIWCを象徴している。かつての46mmのビッグ・パイロットは2000年代初頭のイメージが強く、IWCはそのイメージを必要以上に引きずっていた。しかし、IWCがすっきりとしたダイヤルを備えた43mmのケースを持つ本モデルをリリースしたとき、それは飛行機がシルクのように滑らかな着地を披露したときのような印象を受けたことを覚えている。