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Hands-On カルティエの「タンク アメリカン」を実機レビュー

小さな変化ながらより薄く、よりスリムになった「タンク アメリカン」が登場した。

カルティエは、1917年に誕生した同社の代表的な時計をよりモダンに、さらに斬新にアレンジさせた「タンク アメリカン」を、1988年に発表している。そして2023年、カルティエは「タンク アメリカン」にさらにアップデートを加え、少し薄く、よりスリムで曲線的なデザインとした。カルティエの多くのデザインアップデートと同様、これらの小さな変更はクラシカルなデザインに若干の、そして際立った改良をもたらすものだ。 それが「タンク」を「タンク」たらしめているのであり、1世紀以上も同じ姿であり続けている理由なのだ。

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 新しい「タンク アメリカン」は、ミニ、スモール、ラージの3サイズ、素材はピンクゴールドとスティール、ダイヤモンドをあしらったホワイトゴールドの3つの金属で展開する。お好みであれば、ミニとスモールのPG製「タンク アメリカン」には、ダイヤモンド入りやブレスレットタイプもある。なお同僚のマライカがすでに取材した、ブレスレットとたくさんのダイヤモンドをあしらったミニのWGもある。

カルティエ「タンク アメリカン」のRGモデルとSSモデル

 私は44.4×24.4mm(ほかのサイズはスモールが35.4×19.4mm、ミニが28×15.2mmだ)という大きさの、SS製とPG製の「タンク アメリカン」にたくさんの時間を費やした。スモールとミニの小振りサイズはクォーツとなるが、カルティエはラージモデルに自動巻きムーブメントを搭載している。従来のアメリカンと比較した際、最も異なる違いは厚みである。新しいラージモデルの厚みは8.6mmと、先代モデルから1mm以上薄くなっている。80年代に登場したアメリカンは「タンク サントレ」を参考にしており、新しいアメリカンを薄くすることで、この歴史的なリファレンスにより寄せているのだ(たとえ100周年記念のサントレが厚さわずか6.4mmだったとしても)。

 カルティエが「タンク アメリカン」のラージモデルに自動巻きムーブメントを搭載しているのは素晴らしいことだが(そしてターゲットとなる消費者は、おそらく自動巻きの実用性を重視しているだろう)、私は手巻きの「タンク」についロマンを感じてしまうため、「実用性なんて二の次でいいからラージとスモールどちらのアメリカンにも手巻きムーブメントを搭載しよう」とカルティエに言われたら最高だっただろう。これが実現したらケースもさらに薄くなったかもしれないが、今となっては「タンク アメリカン」の服を着た「タンク サントレ」を求めるだけになってしまうかもしれない。

 そのほか、ケースやブランカード(フランス語で“担架”を意味し、タンクのケース側面が担架のハンドルに似ていることからその名がついた)の変更により、新しい「タンク アメリカン」のすべてがわずかにスリムで薄く、洗練されたものとなっている。そしてこれにより、「タンク アメリカン」は「タンク サントレ」にほんの少し近づきつつも、独自のアイデンティティを保っているのだ。以前のラージモデルは私の手首には少し大きかったのだが、今回ケースが変更されたことでより着用しやすくなった。スモールも手首にフィットしたが、ラージで「タンク アメリカン」があるべき付け方、すなわち、大き目でフィットしつつも手首もたれかかるような付け方しか考えられなかったのだ。

カルティエ「タンク アメリカン」のRGモデル
カルティエ「タンク アメリカン」のケースサイド
カルティエ「タンク アメリカン」のバックル

 新しいラージ「タンク アメリカン」のもうひとつの特筆すべき変更点は、縦にブラッシュ仕上げされた文字盤だ。スモールバージョンにはサンレイ仕上げを施しているのだが、カルティエはラージバージョンに別の文字盤処理を選んでいる。これはカルティエが今年アップデートした「タンク フランセーズ」にも取り入れたものなのだが、アメリカンの大きく長い面のほうがより効果的に表れている。時計のフォルムを際立たせる仕上げは、ここ数年のカルティエ限定モデル(例えばシンガポール ウォッチ クラブのためのコレクションのように)を彷彿とさせるようなとても素敵なデザインだ。

2019年に登場した、カルティエ「タンク サントレ」

「タンク アメリカン」のフラットな裏蓋に対し、2019年の「タンク サントレ」のケースサイドはラグが裏蓋からはみ出るように薄く、曲線的になっている

 奇しくもカルティエは今回、2017年の発売当時にA Week on the Wristの記事でも取り上げた、ミディアムモデルを展開から外している。ミディアムの縦サイズは41.6mmで、現在は35.4mm(スモール)から44mm(ラージ)までの差があり、多くの人にとってのゴルディロックス(黄金比)に当たる時計に、ちょっとした穴が空いてしまったのだ。少なくとも私はそのあいだに、少し引っかかるような感覚が残った。私の場合スモールのほうが快適で、ラージは少し手首に大きすぎるものの、「タンク アメリカン」のイメージにはぴったりだったのだ。とはいえケースがスリムになったことで、ラージサイズの「タンク アメリカン」は、従来のものよりもずっと身につけやすくなっている。それでもその中間的なサイズが欲しいという思いが残っていた。しかし多くの人にとって、ラージサイズはとても素晴らしいものであることには違いない。

 またサイジングに歴史的な正当性がないとも言い切れない。「タンク アメリカン」のラージサイズは、同じくラージのヴィンテージ「タンク サントレ」に相当し、小振りなスモールはミディアムのヴィンテージモデルとほぼ同じ大きさである。もし「タンク アメリカン」がヴィンテージの「タンク サントレ」を意識しているのであれば、カルティエのサイジングも文字どおりの意味を持たせているようで、その点についてはあまり非難はできない。

カルティエ「タンク アメリカン」のリストショット

 1921年、カルティエは「タンク」初のカーブしたケースとなる「タンク サントレ」(フランス語で曲がったという意)を発表。これは1920年代らしい時計で、その後このスタイルはすぐに廃れるもののやがて復活し、それ以来カルティエのカタログの主役として君臨し続けている。現在では記念モデル限定モデルといった、入手困難なほどに美しいモデルとして登場を果たしており、「タンク」コレクションの最高級品のような存在になっている。その大きさゆえに、現代の嗜好に最も適切な「タンク」でもあるのだ。

カルティエ「タンク アメリカン」のRGモデルのイメージ

 しかし「タンク サントレ」は、我々がInstagramを通じて垂涎するようなコレクションとしてほぼ限定しており、そのほかの人たちにとって、湾曲した「タンク」は「タンク アメリカン」なのだ。1988年にYGのみで登場したが、2017年にSS製が発表されると、“入門用”タンクとしてのベストセラーのひとつとなった。SS製ラージ「タンク アメリカン」は90万7500円(税込予価)で販売される。ロレックス オイスターパーペチュアル 36と基本的に同じ価格のため、すぐにわかるデザインでありながら素敵でスタイリッシュな時計が欲しい、また毎日でも身につけられる時計が欲しいという人は、自然と買いに赴くかもしれない(なお「タンク アメリカン」は30m防水仕様)。「タンク アメリカン」はアリゲーターストラップがセットになっているが、もっとカジュアルなタイプでも違和感はないと思う。

 今年行われた「タンク アメリカン」のアップデートは、そのすべてがカルティエらしくなった。ほんの少しスリムかつエレガントであり、そしてつけやすくなったが、多くの人にとってその変化はほとんど感じられないだろう。そしてそれこそが重要なポイントなのだ。

カルティエ 「タンク アメリカン」は、2023年秋より販売開始予定。価格はSSミニが49万5000円、RGミニが112万2000円、SSスモールが58万3000円、RGスモールが168万9600円、SSラージが90万7500円、RGラージが244万2000円(すべて税込予価)。詳しくは、カルティエ公式ウェブサイトか、「タンク アメリカン」のIntroducing記事にて。