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The Value Proposition ブローバ コンピュートロンはアナクロニズムの愉しみである

「未来の世界じゃ何でもクロームなんだ!」–スポンジ・ボブ/スクエアパンツ


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1960年代後期から1970年初期にかけて成人したことは、時にそわそわするような、ウキウキするような、そして妙ちきりんでキッチュな経験だった。それは様式でいえば、60年代の慣習に逆らう活気に溢れた精神が、政治的スタンスよりもスタイルの話になり始めた時期であり、「サマー・オブ・ラブ」の底抜けのオプティミズムが、あからさまに利己的な快楽主義とまではいかなくとも、よりシニカルなものに変わっていった時期といえるだろう(知っている人に聞いてみるといい)。
この時代は腕時計業界に特に緊張感があった時期でもあった。1969年は人類が月面を歩いた年だが、もう一つ別の小さな革命が起きた年でもある。現在「クォーツショック」と呼ばれている革命だ。最初の数年は極めて高額なアナログのクォーツ時計が主体だったが、技術が急速に一般化したため、優れた技術だけが強みである製品は売れなくなった。さらに、機械式に比べクォーツムーブメントは品質がはるかに均質とみられたことで、それ以前にも増して目新しさとデザインで売る必要性が強調されていったのだ。もちろん、機械式時計の世界でも長年こうしたことは行われていた。高級マニュファクチュールムーブメントは例外として、業界は外注の汎用ムーブメントにますます依存度を深めていった。汎用ムーブメントは、大体においてどれも大差がなく、見た目といった細かな部分がわずかに異なるだけだった。しかしクォーツにより、その後は実体よりも雰囲気がますます重要になるであろうことが明確になると、最新の素敵なものを提供しようと各メーカーがデジタル腕時計というゲームにこぞって参加し始めた。(HODINKEEのジョー・トンプソンが優れた年表を作っている)。 

外観上の最大の革命を挙げるなら、発光ダイオード腕時計の誕生がそれにあたるだろう。発光ダイオード、別名LEDは優れた機能を持つ半導体機器で、それ以前に使われていた真空管ベースの(とてもかさばる)ニキシー管に取って代わった(ニキシー管にも独自の魅力があり、今もデジタル時計の一部ではニッチではあるが、ディスプレイに採用されている)。当初は赤外線しか発することができずディスプレイとしての用途には使えなかったものの、1962年には最初の可視光LEDが生産された。選べる色は赤だけだったが、ディスプレイにLEDを採用した腕時計の第一号であるハミルトン パルサーは1972年当時、とびきり前衛的かつ未来的だった。そして1976年、アキュトロンの音叉ムーブメントで技術面の絶対的首位を十年以上維持してきたブローバが、同社初のLED腕時計を発表した。それが「コンピュートロン」だ。パルサー同様、時刻は常時表示ではない。傾斜した斬新なケースの側面にあるボタンを押すと、赤く光る数字が時刻を表示する。 

初代 ブローバ コンピュートロン 1976年。

ボタンを押してデジタルで時刻を確かめる- 1970年代初頭、それがどれだけ技術革新を感じさせるものだったか、今となっては想像するのも難しいだろう。もちろん当時も一般向けの電気機器が既に数多く存在していたが、プッシュボタンを押して起動する電子機器はまだ市場に現れたばかりだった。特に腕時計では極めて目新しく極めてジョージ・ジェットソン(テレビアニメ宇宙家族ジェットソンのキャラクター)的だったのだ。それは月面着陸そのもののような、言葉にならない明るい希望であり、未来の世界が目の前で展開しているような、技術と科学の進展からなるユートピアが今ここで実現しているような、そんな思いを抱かせた。

今年、ブローバはバーゼルワールドでコンピュートロンの新バージョンを発表した。オリジナルが持つ技術的ユートピアニズムと同等とはいかないものの、オリジナルと同じく驚きのある楽しさを備えたモデルだ。ゴールド、ブラック、クロームで展開する新しいコンピュートロンの外観は、レジャースーツやディスコ、「ジョイ・オブ・セックス」と同じぐらい、この上なく70年代を象徴している。ちなみにこれは褒め言葉だ。オリジナルと同じくボタンを押さないと時刻は表示されない。ボタンを押すたびにストップウォッチ、日付と別の表示に切り替わる。別のタイムゾーンの時刻も見ることができる。 

オリジナルと同様、新バージョンにもLEDディスプレイを採用しており、これが非常に明るい。標準的な7セグメントディスプレイはオリジナル版では赤だけだったが、現代版の2モデルではオリジナル通りの赤いLED、そしてクロームバージョンでは鮮やかなブルーとなっている。

この腕時計が、ドライバーズウォッチとして売られている理由は今ひとつ分からない。確かにディスプレイ面が傾斜していて、少なくとも理論上では、ばかばかしくも愛すべき1974年製ムスタングIIの新車のハンドルに両手を置いていても、手首を捻らずに時刻を見られる。しかし私に言わせれば、この理論上の優位性よりも片手をハンドルから離してボタンを押さなくては時刻が分からないという事実の方がかなり大きい。注意がそれるし、当然ながらクルマの運転中には厄介だ-特に渋滞する街中では。もしかしたらこの腕時計が想定しているのは、LAのフリーウェイをオープンカーでクルージングする場面なのか。そういう状況ならプッシュボタンの操作もそこまで危険はないかもしれない。

上の画像はディスプレイの面白い特徴を捉えたものだ。この写真は、ディスプレイを写したこの記事の他の写真よりも速めの1/320秒というシャッタースピードで撮影した。ご覧の通り、LEDのセグメント全部が一度に光ってはいない。こういうディスプレイ技術で一般的なのどうかはか分からないが、あえて推測するなら、おそらく節電機能ではないかと思う。セグメントを一度に点灯するのではなく、電気回路が回ってセグメントを点灯させたら、ディスプレイに要する電力がかなり抑えられるのかもしれない。

新コンピュートロンのもう一つの魅力は、コインで開閉するバッテリーハッチだ。これはブローバが他に先駆けアキュトロンで採用したものではないかと思う。初期のハミルトン エレクトリックにはユーザーが開閉できるバッテリーハッチはなく、電池交換は時計メーカーの仕事だった。これは現在のクォーツ時計の多くでもそうだ。ユーザーが開閉できるバッテリーハッチは今ならスウォッチのクォーツ時計や(1セント硬貨で開けられる)Qタイメックスでも見られる。大抵の人は電池交換は誰かにやってもらいたいと思うだろうが、コインで開閉するバッテリーハッチがある腕時計には自立心に富むDIYのいい雰囲気が漂っている。

もちろん1970年代は遠い過去になった(さまざまな意味で悪いことではないが、個人的には、少なくとも時々はかなり楽しい時間を過ごしたことを覚えている)。だが、70年代が最高に盛り上がっていた頃の、能天気でリラックスした、カジュアルでご機嫌な楽しさを、新しいアキュトロン コンピュートロンで体験することはできる。この記事を書くにあたり、最年少の同僚からシリコンバレーのソフトウェア界の大御所まで、いろいろな人にこの腕時計を手渡したが、いつだってこの時計は最大の存在意義を発揮した。誰もが笑顔になったのだ。
さて、楽しくない請求書の話だが、ゴールド(色)のリミテッドエディションが欲しいなら大好きなお金・3万8000円を手放さなければならないのは事実だ。しかしここで紹介したバージョンは3万3000円だし、もしあなたがヴィンテージ好きなら、初めて使ったテキサス・インスツルメンツ計算機を思わせるようなスマートな黒のコンピュートロンがわずか2万8000円で手に入る。今のようにユーモアもなく緊張感だらけの時代、ちょっとした洒落た楽しさは間違いなく"Value Proposition"すなわち「価値提案」である。

更新:本記事の前のバージョンで、誤って現代版コンピュートロンのディスプレイをバックライトLCDと記載していました。正しくは、7セグメントLEDディスプレイです(ご指摘くださった観察力ある読者にお礼を申し上げます)。 

驚異のブローバ (Bulova)コンピュートロン:ボタンを押すと時刻を表示!ケース31mm、角形アップトップ、底面31mm x 41.50mmに拡大、厚さ13.80mm(ケース背面からケースの頂点まで)。7セグメントLEDディスプレイ ブルー(クロームモデル)または赤(ゴールドイオンプレートまたは黒イオンプレートモデル)ミネラルクリスタル;防水30mm。シルバー調、ゴールド調、黒のケースでいずれのモデルもステンレススティール。詳細はBulova.comまで。