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Auctions フィリップス 香港時計オークション: XVIに登場の日本から出品される時計たち

歴史的なものからちょっと変わった出自を持つものまで。

今週の5月24日と25日にフィリップスが開催する香港時計オークション: XVI。本オークションのプレビューに招待された僕たちHODINKEE Japanメンバーは、日本から出品される時計を数多く見ることができました。

 今回はそのなかから重要なリファレンスや僕が個人的に気になったものをご紹介します。


オメガ スペースウォッチのトリオ
月面を史上3人目に歩いた人物に贈られたオメガ スピードマスター アポロ11号記念限定モデル 18Kイエローゴールド(ロット899)

 この時計が日本から出品されたということからも、いかに日本人が人とは違う希少なものが好きな性質を持っているかを感じられるような気がします。これはスピードマスター アポロ11号記念限定モデルと呼ばれるものです。

 1969年7月20日、史上初めて人類が月面に降り立ったアポロ11号計画。オメガはこの偉業を記念して、ゴールド製スピードマスターを1014本製造し、最初の26本がスピードマスター アポロ11号記念限定モデルとして月面着陸を実現した宇宙飛行士たちに贈られました(詳細はスティーブンの記事「オメガにとって初めてのゴールド製スピードマスター」をご覧ください)。

ケースバックには、中央に“to mark man's conquest of space with time, through time, on time”(時間とともに、時間を通して、時間通りに達成された人類の宇宙進出を記念して)、外周にはチャールズ・コンラッドの名前と彼が関わったジェミニ5号&11号、そしてアポロ12号の刻印が施されている。

 今回フィリップスに出品されたのは、宇宙飛行士チャールズ・ピート・コンラッド・ジュニアに贈られたものです。アポロ12号で船長を務めたチャールズ・コンラッドは、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンに続いて、人類史上3人目に月面を歩いた人物として知られています。

 先日のアンソニーの記事「宇宙飛行士のスピードマスターが1週間で3本も落札された理由について」で、このスピードマスター アポロ11号記念限定モデルがわずか1年足らずのあいだに7本も出品されていることをご紹介しましたが、月面に降り立った人類が所有していたスピーディが販売されるのは今回が初めてです。

 その事実がオークション結果にどれだけ影響を及ぼすのかはわかりませんが、知っておくべきポイントではあると思います。日本の時計コレクターが何かの機会にチャールズ・コンラッドに直接譲って欲しいと相談したのでしょうか。詳細は明かされていませんが、偉大な歴史を秘めた時計が何十年にもわたって日本にあったというのはとても興味深いですね。

 エスティメートは55万〜100万香港ドル(約972万〜1770万円)です。ロット899の詳細はこちらから。

オメガ フライトマスター X-33 プロトタイプ(ロット904)

 これはマーズウォッチとも呼ばれるフライトマスター X-33のプロトタイプです。実はプロトタイプは2種類作られていて、ひとつめはシングルケースバックで低デシベルのアラームを発するもので100本が作られました。もうひとつはアラーム音量が80デシベルまで大きなったもの。

 X−33は、1995年にアメリカ、ヨーロッパ、ロシアの宇宙飛行士やプロのパイロット(ブルーエンジェルスやサンダーバード)と共同開発されました。5年の年月を経て誕生したX−33は、アイコニックなデジアナウォッチで、時刻、日付、アラーム、ミッションタイマー、ミッションタイムのアラーム、ユニバーサルタイム(2タイムゾーン)ユニバーサルタイムアラーム、カウントダウン、クロノグラフ、防水性を有しており、宇宙でのミッションに必要なものが詰まっています。本ロットは22本作られたうちの10本目で、1966年に製造されました。

 過去のオークションカタログを見てみると2007年のアンティコルムのオメガマニアに掲載されていることが確認できます。その時の個体は、今回登場したものよりひとつ前の9番。1万6520スイスフランで日本人のコレクターが落札していました。将来その個体もオークションに再登場するかもしれません。

 エスティメートは、6万3000〜13万香港ドル(約115万〜230万円)。ロット904の詳細はこちらから。

オメガ スピードマスター アラスカプロジェクト Ref. ST 145.022-69(ロット949)

 アポロ11号が月面着陸した1969年より以前からオメガはNASAに完璧なスペースウォッチを供給するべく極秘プロジェクトを進めていました。産業スパイに狙われないようアラスカというコードネームを与えられた4回にわたるプロジェクトです。

 1969年には温度差の激しい宇宙環境で使用できるスペックを持つモデルとしてアラスカ プロジェクトIが誕生。そのときのモデルはスピードマスター プロフェッショナルと同じCal.861を搭載していましたが、文字盤にはスピードマスターの名はありませんでした。

 1972年に同社はアラスカ プロジェクトII Ref. ST 145.022を発表。より伝統的なスピードマスターの形式に戻りました。今回フィリップスで販売されるのがまさにこのアラスカ プロジェクト IIです。

 宇宙空間での明るい反射を抑えるためケースはサンドブラスト仕上げでマットな質感を持ち、針はアラスカIから受け継がれた宇宙船のシルエットをそのままにブラックに変更したものが採用されています。ベゼルは宇宙空間でより実用的だった60分目盛りつきの回転ベゼルのバリエーションもありますが、本機にはタキメーターが配されています。アーカイブによれば1972年、試験のためにヒューストンに納入された個体であることもわかっています。

 結局NASAによるアラスカ プロジェクトの正式な調達がなかったため、プロトタイプウォッチの域を出ることはありませんでしたが、4つあるアラスカ プロジェクトウォッチのなかでも特に象徴的なモデルであると思います。

 エスティメートは25万〜40万香港ドル(約440万〜700万円)。ロット901の詳細はこちらから。

トルネク・レイヴィル Ref. TR-900(ロット869)

 米国陸軍特殊部隊や陸軍レンジャー部隊をはじめ世界中の精鋭部隊で採用されたトルネク・レイヴィルのRef. TR-900。ミリタリーウォッチのなかでも特に希少な存在で知られています。

 ブランパンのフィフティ ファゾムスをベースにしたこのダイバーズウォッチが、なぜトルネク・レイヴィル銘で作成されたのか。それは1960年代の政治的な事情にあります。アメリカ海軍は、最大深度400ft(約122m)で動作可能、日差30秒以内の精度、磁気帯びしないダイバーズウォッチの条件を入札仕様書『MIL-W-2276A』に定めていました。1933年のバイ・アメリカン法(政府による製品の購入の際に原則として米国製品を優先する)により、アメリカの大手時計メーカーであるエルジンとハミルトン、ウォルサムに依頼されることになりますが、高すぎる要求のためどのメーカーも達成することができませんでした。

ケースバックには放射性物質の警告表示や耐磁のテストマーク、シリアルナンバーの刻印が確認できる。

 そこに目をつけたのがニューヨークのダイヤモンドディーラーで時計輸入業者だったアレン・V・トルネクです。同氏はすでに世界最古のダイバーズウォッチを完成させていたブランパンを説得し、文字盤に“Tornek-Rayville U.S.”と記し(レイヴィル[Rayville]はブランパンの故郷ヴィルレ[Villeret]のアナグラム)た時計を自分の会社を通しての販売を実現。また、ブランパンの時計をアメリカ国内でテスト・認証できるように小さなテストラボも設立しました。そうしてトルネクとブランパンはアメリカ軍とのサプライヤー契約を結ぶことになります。1964年に最初の780本が納入され、その後1966年に300本が追加で製造されました。しかし、Ref. TR-900は高価であったため、ほどなくして提携が打ち切られました。

 これらの時計は、軍への納入品であったため民間人が手に入れることはできず、また文字盤の塗料に放射性物質のプロメチウム147が使用されていたこともあり、役目を終えた後は大部分が1970年代前半にコンクリートで固められた箱に入れられて海底に廃棄されました。そのため、現存する個体は非常に希少なものとなっているのです。

 これは回収・廃棄されなかったうちの1本です。HODINKEE Magazine Japan Edition, Volume 5に掲載した、日本で初めてアメリカに買い付けに赴いたディーラーのひとりである益井俊雄氏を取り上げた特集にも登場するTR-900。同氏はアリゾナ州フェニックスに買い付けにいった際に退役軍人の時計ディーラーから手に入れたそうですが、この個体が日本に来た時にもそういった裏話があったのかもしれませんね。

 エスティメートは12万〜20万香港ドル(約212万〜350万円)。ロット869の詳細は、こちらから。

箱違いのオーデマ ピゲ ロイヤル オーク Ref. 5402(ロット873)

 ラグジュアリースポーツウォッチカテゴリは、少し落ち着いてきたとはいえまだまだ高い人気を誇り、とりわけオーデマ ピゲのロイヤル オーク Ref.5402はその筆頭格です。Ref.5402は25年にわたって、A〜Dの4つのロットで合計6050本が生産されました。それぞれがわずかに異なるディテールを持ち、それらを収集するコレクターも多く存在します。

 この個体は、1972年から1974年までのあいだに約2000本が製造されたAシリーズのもので、1973年に神戸の大丸で販売されました。面白いのは付属品の箱です。

この化粧箱は通常、ドレスラインの時計に付属するもの。

外箱も付属する。

 当時のロイヤル オークの箱は、新しいコンセプトのスポーティウォッチということもあり、メタリックのプレゼンテーションボックスに収められていました。ですが、なぜかこの時計はドレスラインの時計用の箱が付属しているのです。おそらく日本の店頭スタッフがしっかりと把握していないまま、間違った箱で販売されたのではないかと考えられています。

Aシリーズ、初期のロイヤル オーク。

当時のブレスレットはゲイフレアー社製。クラスプの右端にある1.72の刻印が1972年第1四半期のものであることを示す。

 初期のロイヤル オークであるため、ビスもホワイトゴールドではなくステンレススティール製。ブレスレットもゲイフレアー社の刻印の入ったものが付属し、素晴らしいコンディションを保った最初期の個体と言えるでしょう。

 エスティメートは、40万〜63万香港ドル(約700万〜1100万円)。ロット873の詳細はこちらから。

ティファニーダブルネームのパテックフィリップ ワールドタイム 5110P-001(ロット917)

 僕が2022年に最もつけた腕時計に挙げたプラチナ製のパテック フィリップ ワールドタイム 5110P。自分のコレクションのなかにあるお気に入りの一本だからこのリストに入れたのではと思われるかも知れませんが、そうではありません(まぁ少しもその気持がないと言ったら嘘になりますが…)。

 このワールドタイムは、真正面から見るとスタンダードな5110Pとまったく同じもののようですが、9時位置のケースサイドを見た時に特別であることが明らかになります。

プラチナ製のケースサイドには“TIFFANY & Co.”のエングレービングが確認できる。

 そう、これはティファニーで販売された5110Pなのです。

パテックとティファニーのダブルネームといえば、文字盤上のどこかにそのサインが入っているのが普通です。でもこのモデルについては、美しいブルーのギヨシェを遮らないようにするためかケースサイドにエングレービングが施されているのです。おそらく数十本程度しか作られなかったのではないかと考えられており、このようにケースサイドにティファニーロゴが入るのは、同時期に発売されていたアクアノートだけ。

 このようにケースサイドにダブルネームのサインが入ったものは、それ以降作られておらず、パテック フィリップが、ケースの側面に刻印を入れることで耐久性が落ちてしまうということを懸念して廃止されたのではないかと考えられています。

ジュネーブ・シールを取得したCal.240HU。

 ティファニーの刻印がオリジナルであることを示すパテック フィリップの書類、取扱説明書などの紙資料と化粧箱、そしてティファニーの外箱が付属する本機のエスティメートは、24万〜40万香港ドル(約420万〜700万円)です。ロット917の詳細はこちらから。

フィリップス 香港時計オークション: XVIの詳細は、フィリップス公式サイトをご覧ください。