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グランドセイコー SBGW259 ブリリアントハードチタンの60周年記念モデルには時計と同じくらい美しい名前が必要だ

このグランドセイコーは絵に描いたような完璧な時計ではないかもしれないが、ある意味、完璧な時計であり得るのだ。

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2020年3月、グランドセイコーは、初代グランドセイコー(グランドセイコーの製品名は概してやや簡潔なアプローチをとっているため、単に“初代”と呼ばれている)誕生60周年を記念して3つの時計を発売した。いずれも手巻きのグランドセイコー Cal.9S64を搭載している。

 プラチナとゴールドの2種類があったが、その中でも特に私の心に響いたのがSBGW259だった。ケースのデザインは“初代”ゴールドやプラチナと同一だが、素材は(グランドセイコーの“初代”と比べれば)非常に先進的なものだ。その素材とは、グランドセイコーがブリリアントハードチタンと呼ぶもので、従来のステンレススティールの2倍の硬度をもつ。

 チタンは時計のケースに広く使われているが、多くの場合、何らかの表面硬化処理を施す必要がある。チタンは非常に強い金属で、多くのスティールよりも強く、質量は約半分であるため、航空機に多く使われている。しかし、傷がつきやすいのも事実だ。ブリリアントハードチタンは、一般的に時計ケースに使用されているグレード5のTIよりもはるかに傷がつきにくいだけでなく、非常に高度な研磨が可能だ。このためSBGW259は、グランドセイコーの愛好家が高く評価するきらびやかな表面とシャープな平面を実現している。スティール製の他のグランドセイコーと並べてみても、SBGW259はそれらに勝るとも劣らない輝きを放っている。

 グランドセイコーはここ数年、新しいムーブメントや新しいモデル、そして多くの場合、より大胆なデザインを導入することで、驚きの要素を強く打ち出してきた。SBGW259は、正確には原点回帰とは言えない。なぜなら、グランドセイコーはある意味、原点から離れることがなかったからだ。高額な限定モデルが印象に残りがちだが、グランドセイコーには5000ドル(約55万円)以下で販売されている約40のモデルを含めて、クラシックなモデルが数多くラインナップされている。しかし、このブランドが非常に秀でていながら忘れられがちだった分野を体現したのは、この新しいグランドセイコーなのだ。

 簡潔に言うと、パッと見て目を引かれるような時計ではないのだ。だが実際に見てみると、ダイヤルは非常に深いウルトラマリンカラーで、ダイヤモンド研磨の針やインデックスが燐光性の海の生き物のように光っている。私は普段、日付表示について頑なな考えはもっていない。第一に、日付表示は時計の販売に役立つだろうし、第二に、私のように日付はおろか曜日も思い出せないことがある人間には便利なものだ。この“初代”限定版では、明らかな理由から、それが一様に省略されている。

 特にSBGW259は日付表示窓に反対するいい論拠となっている。たとえ素敵な日付表示窓であっても、DB-5(アストンマーティンのクラシックスポーツカー)にスノータイヤを履かせるような悲劇的な違和感があっただろう。

 そして、それは夢のような装着感なのだ。日常使いの時計に必要な特性のひとつは、腕の上でほぼ消えてしまうような装着感だと思っている。これは普段あまり意識しないことだが、過去20年間、1日から数カ月、レビューのために何百もの時計を身に着けてきた私は、必要なときにそこにあり、必要でないときには目立たない腕時計の実用的な価値を本当に高く評価している。

 日常的な使用においては、シンプルさが最大の美点になる。リューズはつまみやすく、Cal.9S64の巻き上げを、本来あるべき私的で感覚的な喜びにしてくれる。そしてケースと針の輝きは、時間を見るたびに小気味よく、しかし確実に喜びを再発見させてくれる。38mmのチタンケースは、バランスのとれたシェフズナイフや、1950年代のクラシックフィルムのライカIIIF(史上最も美しいカメラのひとつ)のように、手首や手にジャストフィットする。

 演劇・映画評論家のジョン・サイモン(彼の批評は、かつてブロードウェイの人々を恐怖に陥れた)は、エドモンド・ロスタンの戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』について面白いことを言っていた。「これは偉大な劇ではなく、単に完璧な劇である」と。この言葉はさまざまな意味に解釈できるが、非常に興味深い問題を提起している。完璧なものが偉大なものになるのはどんなときか? 完璧でなくても偉大な芸術作品は確かにある。匠の品と呼べてもアート作品ではない腕時計に、そのようなレベルの偉大さを期待するのは違うような気がする。

 しかし、SBGW259はそれに非常に近いものがある。「長い鼻と長い剣を持つ男」の戯曲のように、パーツとパーツの見事な調和がとれていて、飽きがこないのだ。ただ、もっとキャッチーな名前が必要かもしれない。“ブルーエンジェル”なんかはどうだろう?

グランドセイコー   エレガンスコレクション 初代グランドセイコーデザイン復刻モデル  SBGW259:ケースはザラツ研磨加工されたブリリアントハードチタン製、38mm×10.9mm。防水性はGS規格の“日常生活用防水 ”。ムーブメントはCal.9S64、72時間パワーリザーブ、手巻き、24石、 2万8800振動/時 、ストップセコンド機能付き。日差+5/-3秒の精度 。詳細Grand-Seiko.comまで。

All photos, Tiffany Wade