グッドウッド・リバイバルで面白い時計が登場する理由は、お金だけではない。もちろん、たくさんのお金が飛び交ってはいるが、レースには費用がかかる。まして、50年以上も前に製造され、軽く100万ドル以上の価値があり、大掛かりなメンテナンスが必要な希少な車をレースに出場させるには、特別に高額となる。 ヘリコプター（もちろん私のものではない）で到着した私は、ハイライフを送っているかように感じたが、ふと近くの着陸場を見ると、シコルスキー S-9（2700万ドルのヘリコプター）が停まっていた。後からわかったのだが、カナダの大富豪ローレンス・ストロール氏がそれに乗って飛んできたという。
とはいえ、古いものや過ぎ去った時代を評価することは、グッドウッド・リバイバルでは民主的なことなのだ。誰でも参加できる。チチェスターにあるサーキットが全盛期だった1948年から1966年までを再現したようなやり方で週末の3日間、レースが行われるのだ。このフェスティバルの創設者であるリッチモンド公爵家のマーチ卿は、過去に敬意を払うことの重要性を理解している。年に一度のクラシックモータースポーツの祭典では、細部に至るまで細心の注意が払われる。事故が起きてレースカー（48年から66年までに生産されたものに限る）が動けなくなれば、60年代のランドローバーのレッカー車が出動して車両を回収する。参加者は、戦時中の制服から、モッズ、ロッカー、ヒッピーのスタイルまで、さまざまな服装をしている。残念ながらスマートフォン使用者が多いことが、これが2021年であることを示す唯一の手がかりだ。
もちろん、クラシックなモータースポーツの祭典には、その期待通りの時計が登場する。たしかに最近では、どこに行っても“ホット”な定番時計を目にする。しかし、グッドウッド・リバイバルの核心に迫るような、ストーリー性のある時計にも出会った。父親から息子に譲られた時計、70年代にプレゼントされて今も身につけられている時計、そして何十年も前からメカニックが身につけていた時計……などなど、枚挙にいとまがない。
イギリス人の物の保存に関する哲学は、「保存するための最良の方法は、それを使うことである」ということのようだ。第二次世界大戦後の復興期、ドイツ軍の空爆を受けたイギリスの人々は、手に入るものは何でも使って国と文化を再建した。グッドウッドではクルマと一緒にそれを称えている。
クルマの撮影を本業とする時計愛好家のマイケル・シェイファー氏と一緒に会場を周り、面白いストーリーのある時計を集めてみた。以下に挙げた解説と写真を楽しんでほしい。
膨大な量の情報がそこにある。ユーザーエクスペリエンスのデザインは、この1世紀の間に長い長い道のりを歩んできた。
アーティストのダニエル・アーシャム氏。ポルシェのレースの伝説的存在である生沢徹氏が実際に着用したメカニックスーツを着ている。
そしてアーシャム氏の手首には、バンフォードがカスタムした初期のオーデマ ピゲ ロイヤルオークが巻かれている。
スターリング・モス卿が駆った2台のフェラーリ 250GT SWBを眺めている男性。
シルバー・スピットファイアがHODINKEEに登場するのは今回が初めてではない。2019年8月には、その世界一周飛行の記事を書くためグッドウッドの飛行場から離陸する様子を見ていた。飛行は成功し、無事帰還している。
このジャガーDタイプを運転しているのは、上の写真のシルバー・スピットファイアで世界一周飛行をしたスティーブ・ブルックス氏だ。
史上最高の "頼れる"時計のひとつ。セイコーのSKX007。
BMW イセッタ 600をサーキットで見ることができるとは思わなかったが、グッドウッド・リバイバルではそういうこともあるのだ。
遠くから見ただけではこの時計が何かわからなかったので、身につけていた男性に尋ねた。面白い話も聞けたので、尋ねてよかった。1973年、ドイツに駐留していたその男性の友人が帰国したという。最近、階級が上がったことを祝うために、2人はダーズリーにある地元の宝石店に行き、軍人である友人はオメガを購入した。そこで友人は、すでに身につけていた時計を腕から外し、男性にプレゼントしてから、新しいオメガを身につけた。その時計とは？ それが彼がドイツに滞在していたときに購入した「パラット」という時計だ。
AC コブラは、大西洋を越えた素晴らしいエンジニアリングの成果だ。イギリスのAC社が製造したクルマに、アメリカのフォードV8を搭載している。アメリカではキャロル・シェルビーが製作し、このプラットフォームを普及させた。
プッシュロッド V8を搭載し、ドライバーズシートには多くの引き出しがあった。60年代のコルベットはサーキットでも大活躍した。
ベビーカー（プラムともいう）までその時代に合わせたものになっている。
ジョニー・リバーマン氏の時計をチェックしている。彼は「Motor Trend」の編集者で、時計好きとクルマ好きという点で気が合った。
ジンの103 Ti DIAPAL。素晴らしい時計だ。自動車に相当するものは何だろう？ そのうちジョニーから話が聞けるかもしれない。
ドアを開けたときの“ガルウィング”の形を見て欲しい。
家ごとに違ったルールがある。私が育った家では「家具に足を乗せてはいけない」というルールがあった。
このドイツの芸術作品にダメなアングルを見つけるのは不可能。
最高の選択だよ、君。
ジープ ウィリーズを操作する2人の兵士。1941年9月。イギリス空軍ミルデンホール。
…冗談だ。これは2021年に撮影されたもの。
自然の中のブレモン。
これは「ザ・リバイバル」の駐車場だが、ほかの地域で芝生の広場に停められたクルマを大金を払って見るショーよりも面白い。これは無料なのだ！
私のずっと好きなクルマのひとつ。アルファロメオ ジュリエッタ スプリント スペチアーレ。
サーブよ、安らかに。あなたはあまりにも時代を先取りしていた。
このオメガの176.0014は、今回の写真の大半を撮影したマイケル・シェーファー氏のもの。
アトムパンクとは、45年から65年にかけて流行した、デジタル化される前の未来の世界像のことで、アートやエンジニアリング、カルチャーに影響を与えた。サンダーバードは、私にとってこの文化の一端を象徴したものだ。このラインを見てほしい。そして、アトムパンクのアートを見てみよう。
これはインファンテ氏のロレックスで、南フロリダの高級住宅地で育った彼を見事に表現している。
これはただの“オレンジボーイ”ではない。Ref.1563 “エキゾチック”だ。
この時代のアストンマーチン（'50年代、'60年代）は、とにかく、とてもセクシーだ。
30年代後半のヨーロッパ車（およびアメリカ車）を見れば、H.モーザーがストリームライナーをデザインする際に、どこからインスピレーションを得たかは一目瞭然だ。
ライカとヴィンテージのオータヴィア？ HODINKEEの大人気コンテンツはここにある。撮らずにいられない。
右はスイスでエディ・ワイス エンジニアリングを設立したトーマス・シュニッツラー氏。彼はフェラーリの250GTO SWBを競技用に準備する合間にHODINKEEを読んでいることがわかった。さて、彼の時計は？
…GMTマスターⅡの素敵な1本だった。
この時計は@Mr_Radonor氏のもので、1973年の彼の21歳の誕生日に父親からプレゼントされたもの。
常にケースバックを見よう。
チームのクリップボードに貼られた機械式ストップウオッチ。かっこよさがにじみ出ている。
ベスト・オブ・ベントレー。
翼か車輪か、どちらを取るか？
貴重なマシンが、雨に負けずにサーキットを駆け抜けていく。
この時計を見てあなたはこう思うかもしれない「ああ、やめてくれ！スイスの軍用クォーツウォッチの出番じゃないよ」。しかし、よく見てほしい。6時の位置にあるエンブレムが見えるだろう？ これにはきちんとしたストーリーがある。この時計は、90年代の有名なブラジル人ドライバー、マウリシオ・グーゲルマンがメカニックに贈ったもので、彼は今でも毎日身につけているのだ。
このアルファ ロメオと、それに対抗するフォードのサンダーバードは、2つの自動車技術思想の比較として興味深い。このクルマは、スモールボアモーター搭載でショートホイールベース、そして控えめなパワーだ。そのため、コーナーは得意でも、ストレートでは苦戦する。
一方、こちらは大排気量のV8とロングホイールベース搭載の重量級のプラットフォーム。動き回るには重いがストレートではとことん走れる。この2台は、レース中、一進一退の攻防を繰り返していた。ベストなフォーミュラは存在しない。
誰にも聞かれなかったので、グッドウッド・リバイバルで着用した時計を自分自身で紹介しよう。
グランドセイコーのSBGK007だ。私のtwo-watch collectionの片割れである素晴らしい時計だ。特にホールデン・コーフィールドのような雰囲気にはぴったりだと思う。
Photography: Michael Shaffer, aka @capitolsunset
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