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Reference Points ロレックス デイトナ歴代モデルを徹底解説(ポール・ニューマンモデルを除く)

ロレックスの代表的なモデルであるデイトナ。本稿では、ロレックスのクロノグラフについて知っておくべきことを詳説した。

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Photos by Ryan Jenq and Greyson Korhonen

ロレックス デイトナは、時計史における最も有名なモデルのひとつでありながら、いまだに頑固なまでに誤解されてもいる。このモデルは、ツールウォッチの歴史に遅れて登場した。その後、紆余曲折を経てスーパースターとなり、ある有名人(ほかに表現のしようがなかった)の影響により頂点に立つ。アフターマーケットの価格は数十年にわたり高騰し、2022年初めには急落するなど、市場の変動も激しくなっている。デイトナは、オークションで落札されたロレックスのなかで最も高価であると同時に、過剰露出と過大評価と見なす目利きたちから最も注目されるモデルでもある。

 あまりに人気があるため、基本的に小売店では購入ことはできない。そして、アンチからはなぜ買おうと思うのかと訝しむほど悪名高い。

 そのロレックス デイトナが2023年、誕生60周年を迎える。この機会に、特に一部のモデルが再び手ごろな価格になった今、我々はこのモデルを全面的に再評価したい。デイトナは、かつて現在のような化物のような存在ではなかった。何年も、何世代にもわたって日陰の存在にあったからこそ、現在の地位はより印象的なものとなっているのだ。このあと、モータースポーツで活用されたのを起源とするこのクロノグラフについて、ひとつひとつのリファレンスを年代ごとに解説していきたい。しかし、デイトナを理解するためには、まずロレックスという会社を理解しなければならない。神話を製造するこの会社を。


ロレックス クロノグラフのはじまり

ロレックスの創業者ハンス・ウィルスドルフは、物語の持つ力を理解していた。そのため、彼はストーリーテリングをブランドの礎とした。ロレックスの社名にまつわる物語も、完璧なまでに夢物語である。ロレックスの公式発表によると、この社名は、ウィルスドルフが乗合馬車に乗っているときに(全知全能の神の声が彼の耳元に囁くように)ふと浮かんだという。

A Rolex ref. 3330

ロレックス Ref.3330 “アンチ・マグネティック(耐磁)”クロノグラフ。 Image: Courtesy of Phillips

 ウィルスドルフの自動巻きローター(パーペチュアル)と防水ケース(オイスター)へのこだわりは、ロレックスの伝説を築き上げることになった。1927年、メルセデス・グライツ女史が英仏海峡を泳いで渡ったとき、ロレックスのオイスターを腕にした彼女の、伝説的な広告キャンペーンが展開された。その数年後、ロレックスはエドモンド・ヒラリー卿とテンジン・ノルゲイのエベレスト遠征のスポンサーとなり、未来の探検家用腕時計の研究開発を推進することになった。デイトナには、あまり知られていないものの、独自のストーリーがあり、それはロレックスがクロノグラフウォッチの製作に着手した初期の時代から始まっている。

 ロレックスには1920年代のRef.2303のような初期のモノプッシャースポーツクロノグラフが存在し、ロレックスは世界最小のクロノグラフとして宣伝していた。しかし、グライツやヒラリーと同じように、ロレックスはクロノグラフの実験を進めるために、あるスポーツ選手とのパートナーシップを結ぶことになった。その人物とは、フロリダのデイトナビーチでロレックスのオイスターを装着してレースに勝利していたマルコム・キャンベル卿である(これは物語の伏線なのだろうか?)。この功績を讃える当時の広告が数多く残されている。彼はまた、1935年にユタ州のボンネビル・ソルトフラッツで記録した、自動車で時速300マイル(482.80km/h)を走行した最初の人物でもある。オークションのアーカイブによると、ロレックスは彼に敬意を表して、タキメーターとテレメーターのふたつの計測目盛りをダイヤルに配したクロノグラフを製作したそうだ。このロレックス初期の耐磁クロノグラフは、レーシングアイコンへの賛辞と彼の成功への反応であったのだ。

4113

 1940年、ロレックスは12本のスプリットセコンドクロノグラフ Ref.4113を製造した。この時計は量産されなかったため、時計界の超希少品として殿堂入りしている。実際、初期のロレックスのクロノグラフはどれも量産されたものではない。オークションの記録から、Ref.4113の12本すべてが当時どこで販売されたかを特定することが可能だ。それによると、購入者が自動車レースと何らかの関係があることがわかった。この時代のロレックスのクロノグラフの製造は、ほとんどがユニークピース(1点もの)の少量生産であった。そして、そのような試みのなかで、ロレックスはオイスターケースを用いた、より認知度の高い3レジスタークロノグラフのフォーマットを採用し、その規模を拡大していくことになる。

 この新しいクロノグラフの波は、1950年代初頭にRef.6034/6234の生産で本格化した。この2モデルは“プレデイトナ”と呼ばれる3レジスターモデルで、現在に続くデイトナのデザインテンプレートとなった。このプレデイトナの誕生により、60年にわたりこの基本的なデザイン言語が徐々に進化することになったのだ。

Daytona

プレ・デイトナ
Ref.6034
6034

 デイトナ以前のリファレンスは、現在のロレックスのツールウォッチを先取りしていた。ロレックスは1950年にオイスター クロノグラフ Ref.6034を発表した。これは最初のサブマリーナーとエクスプローラーの3年前、そしてGMTマスターの4年前である。この時計は、美的観点から見ると、視認性重視というよりも、技術重視のモデルであった。現在でも、この時計を見て、使い方を理解するには、ひと呼吸置かなければならない。この時計で目にするのは、テレメーターとタキメーターという、物体の距離と速度をそれぞれ計測するスケールにオーバーラップした3つのサブダイヤルだ。

Ref.6234
6234

 1955年、ロレックスはRef.6234を発表した。本モデルは1961年までロレックスコレクションの主力クロノグラフとして活躍することになる。この時計は多くの点で実質的に同じであるが、計算尺とオーバーラップするインダイヤルを持つ先代に対し、本モデルはインナーダイヤルの枠のなかに収められた小さなインダイヤルが特徴である。

Ref.6238
6238

 プレデイトナのタイムラインにおける基軸となるリファレンスを紹介しよう。Ref.6238である。この60年代初期のリファレンスで、ロレックスは新しい10年の幕開けを告げるクロノグラフのリ・デザインに大きく舵を切った。このモデルはRef.6234のデザインを踏襲したものである。ベゼルにポンププッシャー、内側にタキメータースケールを備え、ダイヤルはホワイト、シルバー、ブラックから選ぶことができた(ただしブラックは極めて希少)。シルバーとブラックのダイヤルには、テレメータースケールがない。しかし、ホワイトダイヤルのRef.6238には、Ref.6234と同様のダイヤルを持つモデルが存在する。潜水用(サブ)、飛行用(GMT)、探検用(エクスプローラー)、そして今回のモータースポーツと、ロレックスのコレクションはどれも明確な目的を持っていたのだ。

 Ref.6238は非常に当時らしい外観を持ち、ある種コントラストのないダイヤルデザイン(インダイヤルがダイヤルそのものと同色という意味)は、オリジナルのホイヤー カレラにも見ることができ、長年にわたってデイトナそのものと同様に収集されるようになった。特にブラックダイヤルのモデルは人気が高い。

 1963年から1966年にかけて、このコレクションには3つの新しいリファレンスが投入されたが、Ref.6238はそれらと併売されていた。デイトナ(とそのクロノグラフシリーズ全体)は、多くの点で実験的な試みの温床となっていた。いずれも大ヒット商品ではなく、クロノグラフという複雑機構のため、ツールウォッチよりも高価だった。そこで適者生存の観点から、これらのバリエーションが併売されることになったのだ。

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デイトナの誕生 - ベゼルの力

 ロレックス初の本格的なコスモグラフの発売年については、少し曖昧である。1963年の広告には“ル・マン(デイトナの名称が考案される前)”と書かれていることから、このことがわかる。この年は、クロノグラフが単なる時計からツールウォッチになった重要な年であり、タキメータースケールをダイヤルからベゼルに移動させるというひとつの決断がなされた年である。この変更により、時計の視認性が限りなく向上し、ベゼルに明確な目的が与えられた。

Ref.6239
6239

 すべての始まり、Ref.6239は、Ref.6238からのひとつ違いで、まったく新しい時計となった。

 これはもはやロレックスのクロノグラフではない。ダイヤルのどこにもデイトナ(DAYTONA)の表記がないが、正真正銘のデイトナである。まだわからない?

 デイトナという名前は、ロレックスがデイトナ24時間レース(現Rolex 24 at Daytona)のスポンサーを務めていることに由来している。ロレックスは60年代半ばからこのイベントのスポンサーとなり、コスモグラフモデルに断続的にデイトナブランドを名乗らせていた。

A Rolex advertisement for the Daytona

Image: Courtesy of Ad Patina

 20年間、これらのモデルにはふたつのダイヤルバリエーションが存在した。ダイヤルの上部の“Cosmograph”表記の直下に“Daytona”表記があるか、6時位置のインダイヤルを囲むように“Daytona”表記があるか、あるいはまったくないかの2種類であった。デイトナの表記があってもなくても、仕様としてはすべてコスモグラフであり、現代のコレクションではコスモグラフをすべてデイトナと呼んでいる。

6239

 37mm径のRef.6239は、Ref.6238と同じロレックスの手巻きムーブメント Cal.722を搭載していた。バルジュー72をベースにしたムーブメントである。初期のモデルは、デザイナーが“Cosmograph”の文字の下に細い白線を入れていたため、“ダブルスイス・アンダーライン”デイトナとして知られる。このアンダーラインは、夜光材料がラジウムからトリチウムに移行していることを意味するもので、おそらくその両方を含んでいたのだろう(そして、下部のインダイヤルの直下にある“Swiss”表記は、外周部のさらに下、目にはほとんど見えないが、もうひとつのスイスの証である)。Ref.6239は、マットブラック、マットホワイト、またはサンバーストシルバーのダイヤルバリエーションが提供されていた。それはポンププッシャーと同素材のメタルベゼルと、ステンレススティールまたはイエローゴールドで登場した。

 Ref.6239のダイヤルバリエーションには、6時位置のインダイヤルの上部に“DAYTONA”表記をそれぞれライトブルーとライトレッドのカラーリングで施した“ベビーブルー”、“チェリーレッド”などが存在する。また、12時位置の“Cosmograph”表記の下には、“DAYTONA”表記のフォントサイズに応じて名付けられた“ビッグデイトナ”と“スモールデイトナ”のバリエーションがあり、デイトナのブランドロゴが見える。

Ref.6240
6240

 Ref.6240は先代のデイトナからわずか2年後の1965年に発表され、ロレックスと近代クロノグラフの未来にとって、当時の誰もが思っていた以上に重要なモデルであることが証明された。

 その理由は、ねじ込み式プッシャーにある。この時代のスポーツウォッチを考えるとき、ロレックスのオイスターケースの重要性を思い出すことが重要だ。時計に完全防水(現在では“防水性能”と呼ぶ)を持たせるという概念があったのだ。サブマリーナー、GMTマスター、エクスプローラーなどのモデルは、いずれも最大100mの防水性能を備えていた。ポンププッシャーを備えたデイトナ Ref.6239は、コレクターがクロノグラフに期待する防水性能の代表格、つまり50m防水であった。そして、それはちょうどよかった。それが十分でないとされるまでは。そして、Ref.6240はデイトナに未来をもたらした。プッシュボタンとリューズをねじ込み式にすることで、100m防水を実現し、ツールウォッチを中心としたほかのコレクションと肩を並べることができるようになったのだ。

6239

 Ref.6240の多くは、“Cosmograph”表記のすぐ下に小さな文字でデイトナ表記が見られる。しかし、同じ場所にフォントサイズのより大きい“ビッグデイトナ”というバリエーションも存在する。ほとんどの場合、デイトナ表記のフォントカラーはホワイトかシルバーブルーだ。Ref.6239と6240が並行して生産されたことを考えると、Ref.6239の後期モデルには、6時位置のインダイヤルの上に薄紅色のデイトナ表記が入った“チェリーレッド”というモデルがあることを知っておく必要がある。我々はRef.6239と6241のケースに“チェリーレッド”ダイヤルのバリエーションを見つけることができても、Ref.6240には存在しない野田。

 Ref.6240はまた、ブラックアクリルの高いコントラストのベゼルを持つ最初のデイトナとなった。この素材は、アルミニウムとは異なり、ベゼルにより艶感を与えた。ムーブメントはRef.6239と同様、ロレックス Cal.722を搭載する。

Ref.6241
6241

 Ref.6240の発表から1年後の1966年、ロレックスはベゼルをスティールからブラックアクリルに変更したRef.6241を発表した。Ref.6239/6240に続く、ブラックアクリルベゼルのポンププッシャークロノグラフとして、新たな選択肢を提供したのだ。Ref.6241のダイヤルは、黒に近いダークシルバーのフォントのデイトナ表記が一般的だが、このリファレンスには“チェリーレッド”バリエーションも存在する。Ref.6241ではそのダイヤルバリエーションのほうが一般的であるが、インダイヤルがトロピカルに褪色している個体は数が少なく、コレクターにとってはたまらないディテールとなっている。

 1968年、ロレックスはRef.6238を引退させた。デイトナ以前の最後のモデルで、ダイヤルにスムーズベゼルとタキメータースケールを持つロレックスクロノの最後のモデルであった。翌年にはRef.6239、6240、6241が相次いで製造中止となった。


グルーヴィな70年代

 1970年代に入ると、Ref.6262と6264というふたつの新しいリファレンスが登場した。これはロレックスが新しいムーブメント(バルジューをベースにしたロレックス Cal.727)をケースに搭載するための移行期モデルである。

Ref.6262とRef.6264
6262

 Ref.6262は6239のアップデート版、つまりスティールベゼル、Ref.6264は6241のアップデート版で同じアクリルベゼルが採用されている。デイトナ表記は、“Cosmograph”の下から6時位置のインダイヤルの上に定位置化された。

 Ref.6240とそのねじ込み式プッシャーには、アップデートが行われなかった。しかし、この下位リファレンスに同情する必要はない。そのアップデートは、近い将来まさに行われようとしていたからだ。

6262

 Ref.6238、6239、6240、6241の4種類のリファレンスが同時期にロレックスから発売され、それぞれが異なるものであったことを思い出して欲しい。ブティックでショーケースに収められていたのは、このうちのどれか(場合によっては全部)だった可能性があるのだ。想像してほしい。ショーケースが空であることが多い現代において、ブランドの最も象徴的な時計となったこのモデルが当時潤沢だったことを想像すると、ある意味驚くべきことである。

Ref.6263とRef.6265
6263

 1971年、デイトナの歴史のなかで最も有名なふたつのモデル、Ref.6263と6265が発表され、歴史に名を刻んだ。このふたつのモデルにはCal.727が搭載され、過渡期のモデルは速やかに生産終了となり、ポンププッシャー時代の終焉とねじ込み式プッシャー定番化を告げた。ねじ込み式プッシャーは非常に斬新で、何十年ものあいだ、ほかのブランドで採用されることはなかった。Ref.6263と6265を象徴的で印象的なモデルにしているのは、このためだ。そして、このふたつのモデルが1988年まで製造され続けたという事実も、驚異的で印象的な17年間の歴史を物語っている。

 これらのふたつのリファレンスの基本的な設計原理は、それぞれの先代から引き継がれたが、唯一 “OYSTER(オイスター)”表記の追加だけが変更されたことに気づくだろう。これはRef.6240の個体でもごく少数採用されたダイヤルデザインだ。

 Ref.6263はアクリルブラックベゼルの採用により、Ref.6240/6241/6264の系譜を引き継いでいる(リファレンス番号上の識別は、先代よりひとつ前ではあるが)。逆にスティールベゼルのRef.6265は、それ以前のメタルタキメーターデイトナの遺産を受け継いでいる。1970年代にスティール製のロレックス クロノグラフを購入するならば、このペアが展開されていた。

6265

 デイトナのどのモデルにもいえることだが、コレクターが頭を悩ませるニュアンスの違いがある。些細な違いこそが、デイトナという時計の人気を左右するのだ。そして、この時代のデイトナほどその魅力に溢れた時計は稀有である。

 まず、プレシグマダイヤルについて紹介しよう。デイトナ Ref.6263/6265のダイヤルにデイトナ表記がなく、ダイヤル下に“T Swiss T”の文字があり、これは夜光塗料にトリチウムを使っていることを表している。一方でシグマダイヤルは、見るべきところを見ないと見逃してしまいそうな華やかさを備えている。

 シグマダイヤルの物語は、“金産業振興協会”を意味するAPIOR(L'Association pour la Promotion Industrielle de l'Or)から始まる。この団体にはロレックスを含む多くのスイスの時計メーカーが参加し、COSCを手本に、ゴールドを時計に使用することを推進することを目的としていた。ロレックスは、ダイヤルマーカーやダイヤルのパーツにホワイトゴールドを使用していることで知られている。そして、シグマダイヤルが誕生したのである。デイトナ シグマダイヤルの底面を見ると、トリチウム表示の両側にギリシャ語のシグマ(σ)マークがあり、ダイヤルにゴールドが使われていることがわかる。

6265 Sigma

 6時位置のサブダイヤルの上に、大きく太い赤のフォントのデイトナ表記がカーブしていることに着目して命名された“ビッグレッド”がある。ビッグレッド(Ref.6263/6265)モデルは、特にシルバーではなくブラックダイヤル仕様で、圧倒的にコレクターが多く、人気が高い。

 ポール・ニューマン デイトナ、通称“PND”は、ロレックスのクロノグラフのダイヤルをシンガー社というダイヤルメーカーがデザインしたものだ。PNDの特徴は、ホワイトまたはブラックのフラットダイヤルに、外側のトラックと内側のサブダイヤルが対照的であることである。ほとんどのポール・ニューマン デイトナには、ダイヤルの外側に赤いアクセントがあり、6時上に大きなデイトナ表記がある個体もある。Ref.6239、6241、6262、6264、6263、6265にポール・ニューマン ダイヤルを見つけることができる。より詳しい情報を知りたい読者は、HODINKEEの2014年のアーカイブから、Reference Point記事をご覧いただける。

6263

 ところで、ニューマンはブラックダイヤルのRef.6263ビッグレッド デイトナを所有していたが、オークションで550万ドル弱で落札され、彼のPND Ref.6239よりもかなり低い値段で落札された。Ref.6239は2017年のフィリップスのオークションで、1700万ドル以上(20.3億以上)という史上最高額の腕時計の記録(当時)を樹立し、大きな話題となった。

 この時代に流通したモデルは、何らかの順序をもって生産されていたわけではなく、すべて別個のものであることはいうまでもない。Ref.6263/6265の範囲では、プレシグマ、ビッグレッド、シグマがすべて重なり合っている。実際、レッド表記とシグママークの両方が入った“ビッグレッド シグマ”ダイヤルも存在する。それぞれの意味の核心をつかむのは簡単ではない。シグマダイヤルにはσ表記があるが、デイトナ表記がないことを意味する一方で、ビッグレッド シグマはビッグレッドと呼ばれることもあった。

6263 gold

 先代までのデイトナと同様、Ref.6263と6265には金無垢モデルが存在する。これらのモデルは、ベゼルがケースやブレスレットに合わせてアクリルまたは金無垢で作られたという点で、スティールの同等モデルと同じデザイン方針に従った。1980年代には、スティールモデルにはないクロノメーター認定表記がダイヤルに入った金無垢のデイトナを見かけるようになった。スティール製デイトナには緑のロレックス社ギャランティカードが付属していたが、それらのデイトナにはダイヤル表記のほかにロレックス社のクロノメーター証明書が付属していたため、現在ではこのことは広く知られている。COSC証明書類が箱に入ったスティール製デイトナは知られておらず、もちろんダイヤルにも表記されていない。

Ref.6269とRef.6270
6269

 手巻きデイトナ時代の終盤に、ロレックスはふたつの新リファレンスを発表した。1984年に発表されたRef.6269はブリリアントカットダイヤモンド、Ref.6270はバゲットダイヤモンドをあしらった金無垢モデルである。これらのモデルは生産数が非常に少ないことが知られており、非常に希少で、現在ではそれぞれ100万ドル(約1億4000万円)ほどで取引されている。

6270

 手巻きデイトナ時代の最終章がこれらのモデルから始まった。デイトナの名を冠した時計が、その名をダイヤルに配す際に、デザインに一貫性がない点は興味深い(タキメーターベゼルも約30年のあいだに数種類のバリエーションが存在した)。手巻きデイトナに関しては、どのリファレンスが最初にデイトナの名を冠したのか、時計コレクターのあいだでも激しい議論が交わされている。同時に、どのリファレンスが最初に“デイトナ”の名をダイヤルに刻んだのか、その確証を得る方法はほとんどない。実際、1963年から1987年まで、すべての生産モデルで表記あり、または表記なしのダイヤルが採用されていた。

 そして今日、我々はこの象徴的なクロノグラフの手巻き時代について考えるとき、シグマやビッグレッドという名に時計の価値を見出すが、実際には70年代や80年代に店に入って「やぁ、ビッグレッドを探しているんですが」などという客はいなかった。むしろ、Ref.6263や6265など、ベゼルに関心がある人が選んだ個体に、たまたまシグマダイヤルがあれば、それを手に入れたのに過ぎなかった。

6263

 さらに皮肉なことに、これらの時計は売れ行きが芳しくなかった。例えば、1982年に生産されたビッグレッドのなかには、1988年まで売れなかったモデルもあることが販売記録から判明している。ちょっと想像してみてほしい、特に1980年代に、マーケットに新作のクロノグラフが登場することを。ロレックスが提供するのは、ねじ込み式リューズとねじ込み式プッシャーを備えた手巻き式の時計である。リューズを外し、ムーブメントを巻き上げ、プッシュボタンを外してクロノグラフを作動させるというのは、あまりに手間がかかったのだ。

 しかし、その瞬間に失ったものこそ、将来の収集価値につながるのである。デイトナの手巻きモデルは、最もコレクターの多いモデルとなっている。


自動巻きムーブメント時代の進化

 1980年代後半になると、ロレックスのデザインは大きく変化した。サブマリーナーは、アプライドマーカーの型枠をWG製に改め、光沢のあるブラックダイヤルを採用し、真のツールウォッチからラグジュアリーダイバーズウォッチへと変貌を遂げた。1989年にRef.1016が製造中止となり、ロレックスのエクスプローラーに同じデザイン理念が適用され、Ref.14270に移行した。このリファレンスでは、光沢のあるダイヤルと数字インデックスが採用され、よりモダンな印象となった。1988年、ロレックスはまったく新しい自動巻きのロレックス デイトナ Ref.16520を発表した。このデザインの基本要素は、今日まで受け継がれている。それまでの手巻きモデルと異なり、Ref.16520はすぐに成功を収め、時計収集のブームと重なった(あるいはブームを起こしたきっかけとなったのかもしれない)。

Ref.16520

Ref.16520

 純粋に外観だけでいえば、直径37mmから40mmへと大幅にサイズアップした。サファイアクリスタル風防の内側のダイヤルはラッカー塗装が施され、より男性的な雰囲気となった。マーカーはベーシックなスティック状からアロー型に、インダイヤルは外側に反転カラーを採用し、より保守的なデザインに一新された。インダイヤルの色はダイヤルと同じだが、少し対照的なメタルの縁取りが施されている。また、ダイヤル上部に5行、下部に1行と、テキスト表記が増え、この時計について知るべき基本的なことを伝えるキャンバスにもなっている。

 1987年という早い時期に登場した初期のダイヤルバリエーションは、“逆6”、“フローティング(浮遊する)”コスモグラフダイヤルと呼ばれた。前者は、6時位置のインダイヤルの数字の6が逆さまに見え、ほとんど9に見えることから、この表現が定着した。さらに、後者はこれらのダイヤルに“Cosmograph”表記がほかのダイヤルよりもかなり低い位置に配置されていたことを指す。ロレックスも表記がくどいと感じたのだろう、“Cosmograph”表記をオフセットすることで、モデル名を強調し、かつ余裕を持たせたのだ。1988年からは、12時位置に“Officially Certified(公式認定)”表記がなく、“Cosmograph”表記が浮いたような“4行”ダイヤルが見られるようになった。このモデルは生産期間が短かったため、コレクターズアイテムとなっている。

 Ref.16520のダイヤルバリエーションはブラックとホワイトの2種類のみだが、最初のモデルはその2色に加え、さらにポーセリンダイヤルと呼ばれる3つのバリエーションでリリースされた。ポーセリンとはいえ、実際は磁器ではなく、真っ白なラッカーダイヤルの上に文字がプリントされているのではなく、文字が浮き出ているのだ。ホワイトダイヤルとポーセリンダイヤルは同時に発売され、プロモーション上も直接の区別はなかった。どちらもただのホワイトダイヤルとされていたのだ。

16520 porcelain

 1994年、95年、96年には、ブラックダイヤルのデイトナも生産され、以後“パトリッツィ”ダイヤルと呼ばれるようになった(これはアンティコルム創業者のオズワルド・パトリッツィが、インダイヤルが茶色く変色していることに注目したことに由来する)。ポーセリンやフローティングのコスモグラフと同様、デイトナのコレクターズアイテムとして、60年代のミラーダイヤルのスポーツモデルに匹敵する存在となっている。この1種のパティーナは、光沢仕上げの際にダイヤル全体に塗布される有機ニスが原因だ。ブラックダイヤルのデイトナでは、それがインダイヤルの金属と反応して茶色く変色したのだ。

 Ref.16520が製造された最初の数年間は、ブレスレットは全面がサテン仕上げされていたが、その後は改められた。センターリンクのみをポリッシュ仕上げにしたのは、この時計が真のスポーツクロノグラフではなく、ラグジュアリーアイテムとして扱われることを明示したのだった。この一部ポリッシュ仕上げが、オイスターブレスレットに装着される多くのスポーツウォッチに採用される運命にあることを、ほとんどの人は知るよしもなかった。また、この時代にロレックスのクラスプが誕生している。このクラスプは、大きな円形の突起が同じく大きな円形の穴にカチッとはまるファンキーなエンクロージャーシステムを備えた、現世代の比類なきクラスプに先行する形態である。

 Ref.16520とその貴金属モデルは、すべて金属製ベゼルを備えている。ロレックスは手巻きムーブメントの終了に伴い、アクリルベゼルの使用を廃止した。これは、区別が必要なベゼルの違いがなくなったため、両方のスティールモデルが同じリファレンスを採番した理由だ。

16520

 より重要なのは、Ref.16520がデイトナ初の自動巻きモデルということである。また、ダイヤルに“Oyster Perpetual”表記のある最初のモデルでもある。それまでのモデルは、内部にバルジュー社製手巻きムーブメントを搭載していたため、“Oyster”の文字があっただけだった。“Perpetual”表記は自動巻きであることの証だったのだ。もう手巻きする必要がなくなったのだ。

16520

 時計の内部ではロレックス Cal.4030が駆動しているが、それは物語の半分に過ぎない。というのも、Cal.4030を搭載するために、ロレックスはもうひとつの名門に手を借りる必要があったのだ。ゼニスである。1980年代、ロレックスがこの新デイトナの基礎を作っていた頃、ゼニスのエル・プリメロは、当時最も優れたスイス製自動巻きクロノグラフムーブメントとして供給されていたはずである。ロレックスにとって自社製クロノグラフムーブメントの開発はまだ何年も先になると見越し、そのため最高のムーブメントを採用した。ただ、ロレックスはエル・プリメロのキャリバーをそのまま時計ケースに収めるのをよしとしなかった。

 部品の半分を交換し、フリースプラングテンプの追加など、200カ所もの変更を加えてからクロノメーター認定を受けたのだ。最終的に、Cal.4030はロレックスがゼロから作るよりもいいものになった。こうした作業の結果、コレクターはこれらを“ゼニスデイトナ”と呼ぶようになった。

ゴールドとのクロスオーバー
16523

 ゼニス デイトナシリーズで初めてコンビカラーを採用したのがRef.16523である。また、金無垢のデイトナも初めて独自のリファレンスナンバーで登場した。Ref.16528(ブレスレット仕様、YG)、Ref.16518(ストラップ、YG)、Ref.16519(ストラップ、WG)である。このストラップは、現在ではデイトナで一般的な、ケースに固定されたエンドリンクが初めて採用された仕様だ。実際のところ、これはエンドリンクではないが、ミドルケースの延長線上にあるため、エンドリンクと呼ばれることが多いようだ。1990年代には、YGやWGにダイヤモンドや“ビーチ”ダイヤルをあしらったエキゾチックなバリエーションが発表された。

16518

 ゼニス デイトナシリーズは、スティール、金無垢、コンビ、宝石などの豪華版を含め、12年の長寿モデルとなり、ミレニアムを迎えた。コレクターズアイテムとして、ゼニスモデルはより人気が高まっている。それは、ゼニスのダイヤルバリエーションが無数に存在することが認識されたからだ。バリエーションが豊富ということは、4桁やフローティングコスモグラフのようなレアモデルが存在ということになる。現在のマーケットでは、ゼニス デイトナは3万5000ドル以上で取引されている。コスモグラフのフローティングポーセリンダイヤルは10万ドル以上になることもあり、いかに希少価値が高いかがわかる。90年代末にゼニスとの蜜月は幕を閉じたが、ロレックスのパーペチュアルへの挑戦はまだ始まったばかりだった。2000年には、初の完全自社製自動巻きムーブメントを搭載したデイトナに、リファレンスナンバーの頭に1桁多いRef.116520という画期的なモデルが発表された。

A Zenith Daytona advertisement

Image: Courtesy of Ad Patina


内製化への道のり
Ref.116520

 この年、ロレックスは5年の歳月をかけ、従来の4030よりも部品点数を20%削減した垂直クラッチを搭載する新型のクロノグラフムーブメント、Cal.4130を発表した。Ref.116520は、見た目上はRef.16520とほぼ同じであったが、もちろん違う点もある。ひとつは、この時計は夜光塗料にトリチウムを使用しないことだ。ロレックスでは1998年ごろから軒並みその慣習が終了していたからだ。さらに、内部に新しい機構を搭載していることを示唆するために、ダイヤルにわずかな変更を加えた。インダイヤルはより正三角形を描くように配置され、スモールセコンドは6時位置に移動されたのだ。

 ゼニス デイトナ同様、Ref.116523(コンビ)、Ref.116528(YG)、116519(WG)など、コンビや金無垢、そしてエキゾチックな自社製自動巻きデイトナ、別名“ビーチ”デイトナなど、あらゆる種類のデイトナがあった。このシリーズでは、イエローとピンクの2種類のMOP(マザー・オブ・パール)ダイヤル、グリーンのハードストーンダイヤル、ブルーのラッカーダイヤルなどカラフルな4種類のモデルが登場した。

116523
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 プレセラミックベゼルの自社製ムーブメントのスティール製デイトナは、ゼニスモデルのような知名度やコレクターズアイテムには至っていない。その理由は、ダイヤルデザインのバリエーションが少ないからである。多くのコレクターは、それらの時計をゼニスのシリーズに劣るものとして考えており、価格もそれを反映している。自社製プレセラミックモデルが2万ドルで手に入る。これは、今日においてもデイトナ市場で価値を見出すことができる唯一の場所のひとつである。これらは生産終了モデルであり、価格はここから上がる一方だろう。

セラミック時代の幕開け
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 2011年、ロレックスはセラクロムベゼル(ロレックス用語でセラミック製ベゼルのこと)を採用した金無垢のデイトナを発表し、世界に衝撃を与えた。1988年以来、23年ぶりに非金属ベゼルを採用したデイトナである。セラミック加工がスティール製モデルに採用されるのは時間の問題だろうというのが大方の見方だった。さらに、それが実現すれば、時計製造の世界に火をつけることになると見られていた。そのような人たちは、デイトナ誕生50周年にあたる2013年春のバーゼルワールドを、セラミック誕生の祝日としてカレンダーに書き込んだことだろう。

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 その春、まったく別のモデルが登場した。Ref.116506、通称 “プラトナ”である。プラチナブレスレットを含む総プラチナモデルで、ダイヤルはアイスブルー、ベゼルはブラウンのセラミックである。私たちが求めていた時計ではなかったが、我々が手に入れることのできたモデルであった。

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 そして2016年、ロレックスは誰もが欲しがっていたものを与えた。

 同じ直径40mmのケース、ねじ込み式プッシャー、同じCal.4130を搭載するロレックス デイトナ Ref.116500LNの登場である。ホワイトとブラックの2種類のダイヤルが用意され、ブラックのセラクロムベゼルが採用されている。ブラックダイヤルのデイトナ Ref.6263の現代版、そしてパンダダイヤルのポール・ニューマン デイトナのホワイトバリエーションに限りなく近い風貌である。セラミックは、かつてのアクリルベゼルを彷彿とさせるものだった。アクリルとセラミックは輝きが似ているが、セラミックは傷がつきにくいという点で優れた素材だ。

 このRef.116500LNは、近代ロレックスの歴史に“忘れられない”瞬間の始まりをもたらした。これ以前のデイトナにもすでに数年待ちのウェイティングリストがあったが、この後、数年は永遠になったからだ。

 発売から6年が経過した現在も、ほかのスティール製ロレックススポーツウォッチのなかで、文句なしに最も人気があり、最も憧れられ、二次市場でも最も高額で取引されているモデルである。2022年初頭には、中古品が5万ドル以上で取引されていたが、その後その価格は3万ドル前後まで劇的に下落した。

 現代のデイトナシリーズは、貴金属製とコンビの両方のバリエーションで展開されている。最初のセラミックベゼルモデルにはレザーストラップが装着されていたが、現在のモデルはロレックス独自のオイスターフレックスブレスレット(ストラップと呼ばないで)で提供されている。もちろん、ゴールド無垢の金属ベゼルのコンビモデル(Ref.116503)も存在する。

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 今日、スティールセラミック製のデイトナを街中で見かけることは、神秘的体験に近いものがある。運よく友人がつけていたら、試着を懇願しているように見えないようにお願いするのが手だ。


デイトナの文脈上の考察
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 実験的なモータースポーツクロノグラフとして誕生したデイトナは、今や間違いなく地球上で最も憧れの的となったロレックスである。それだけに、デイトナは時計製造の歴史上最も偉大な負け犬となった。

 サブマリーナーやGMTマスターなど、ロレックスのほかのツールウォッチに比べて25%も高い価格設定(クロノグラフなので当然だが)でありながら、常に購買意欲をそそるわけではなかったのである。ヴィンテージロレックスを求めるバイヤーが新聞に“デイトナお断り”の広告を出したという話や、70年代、80年代には大幅な値引きが行われたという伝説もあり、現在この時計を取り巻く環境は信じがたいものがある。

 このデイトナの軌跡を追う旅では、ポール・ニューマンのデイトナダイヤルは意図的に除外しているが、この名優がこの時計の復活にいかに重要であったかを語らないわけにはいかない。彼がいなければ、このモデルはゼファーやターノグラフのようなロレックスの過去の遺物となり、無名の存在になっていたかもしれないと考えるのは、決しておかしなことではないだろう。

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 1980年代のイタリアの雑誌に掲載されたデイトナをつけたニューマンの写真の記事がきっかけで、時計コレクターが急増し、デイトナは誤解された特殊な時計からオークションの寵児となり、ロレックスという枕言葉がなくても認識される時計となったのだ。

 ロレックスは現在もロレックス デイトナ24時間耐久レースのタイトルスポンサーであり、レースの勝者には賞品としてデイトナが贈られるが、たとえダイヤルに赤い文字でその名が記されていても、この時計はコースアウトしてしまったのである。


時計コレクターから見たデイトナ
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 ロレックス デイトナの歴史や、時計コレクターの世界におけるその意義について、時計学的文脈で語ることは問題ないが、やはりソースに直接触れることに勝るものはないだろう。そこで、ロレックス デイトナをより深く理解するために、著名な時計コレクターたちの声を集めてみた。そのなかには、HODINKEEの過去の動画でおなじみの人物もある。以下は、彼ら自身の言葉だ(私に言わせれば、最高の金言である)。

モーガン・キング(Instagram:@morgan0714)

 私がなぜロレックス デイトナ コスモグラフを集めているのか、手短に回答しましょう。

 ロレックス デイトナは、最も純粋な形で完璧さを表しています。ダイヤルに対して3つのサブダイヤルが完璧なバランスで調和している時計はほかにはありません。あなたの目は、彼女の顔にまるで見つめられているようで、すぐに催眠術にかかってしまうでしょう! 1963年以降、デイトナはロレックスのラインナップのなかで唯一クロノグラフ機能を搭載した時計でもあります……だから、そこには多くの物語があるのです! ロレックスは自分たちが何を作ったのか、そして彼女を汚してはいけないということを知っています。そして、この時計にデイト表示を付けることは絶対にしないでしょう……絶対に! 現代のデイトナとヴィンテージのデイトナを見比べると、過去から現在に至るDNAの系譜を、簡単に見て取ることができるのです。

Big Red advertisement

Image: Courtesy of Ad Patina

 私は特にヴィンテージデイトナのオールドスクールな外観が好きなので、より堅牢なスポーティさを演出するためにねじ込み式プッシャーを備えたRef.6263と6265ビッグレッドに引かれています。ロレックスが現行モデルに耐傷性の高いセラミックベゼルを追加することを決めたとき、私は完全に失笑しました。つまり、それを望まない人なんているの!?

アルフレッド・パラミコ(Instagram:@alfredoparamico)

 ロレックス デイトナについて語るのは、とても簡単なようで、同時にとても難しいことです。私の時計への情熱が生まれたときから、デイトナは私の決断、好み、リサーチにおいて常に重要かつ決定的な役割を担ってきました…デイトナは時計の真髄であり、真のマイルストーンであり、象徴的な時計であり、多くの人々にとって時計の代名詞であると断言するのはあまりにも簡単なことでしょう。

 80年代後半、ヨーロッパから初めてアメリカを訪問したとき、マイアミでデイトナを探してヨーロッパに持ち帰ろうとしている人たちに出くわしました。当時、ヨーロッパではもう手に入りませんでしたからね! 僕は、彼らの頭はオカシイんじゃないかと思いましたよ!

 ロレックス デイトナは、世界中の最も重要で優れた時計コレクターの興味を引きつけてきましたし、それは今も変わらないと個人的に思います。パテック フィリップのヴィンテージウォッチが非常に重要なトレンドだった時代でさえ、ロレックス デイトナは愛好家や著名なコレクターのウィッシュリストに載っていましたから。PGのふたつのリューズのワールドタイム エナメルダイヤルに近い壮麗なゴールドニューマンを見ることは珍しいことではなかったのです。その最大の理由は、ロレックス デイトナがスポーツウォッチとモダンウォッチという概念を象徴しているからです。ケースの完璧なプロポーション、ベゼル(ブラックエナメル、スティール、ゴールド)、プッシャーの完璧な形状(丸いプッシャー、ねじ込み式プッシャー)、ダイヤルの完璧な美しさ…まさにマスターピースといえるでしょう。

 私の理想的な好みのリストは、リファレンスごとに次のとおりです。

1) 18K Ref.6264 リモンチーノ。私の考えでは、史上最もクールなデイトナです…。ブラックベゼル、ブラックインダイヤル、レモンカラーのダイヤル、そしてインダイヤル内のホワイトグラフィックの色のコントラストはまさにパーフェクトです。この時計に勝るものはないでしょう。この時計は、最も重要な時計コレクションに位置づけられる時計ですね。

A Rolex Daytona

Image: Courtesy of Phillips

2)18KのRef.6263ブラックダイヤル。すべてが完璧な時計をほかにご存じ?

3)ステンレススティール製 Ref.6263ブラックダイヤルのグリーン ハンジャールです。アラビアの伝説の豪華さ、エレガンス、ミステリーを思い起こさせますね…グリーンのハンジャール紋章が、ブラックダイヤルにとても映えますよね…それに、とてもレアなんです!

A vintage Daytona
A vintage Daytona

 ポール・ニューマンダイヤルは、まさに芸術品だと思います。3層構造、インダイヤルのディテール、各層のコントラスト…希少性ではなく、美しさとディテールが重要なのです…そしてディテールがあるからこそ、時計は美しいのです

ロブ・ステイキー (Instagram:@bazamu)

 ロレックス以外の幅広い時計コレクターコミュニティのなかで、デイトナの初期リファレンスはちょっとした避雷針のような存在です。Ref.6239は、バルジュー72、シンガー(Singer)社製ダイヤル、ほぼ同じサイズ、逆向きのインダイヤルなど、当時の同型モデルと仕様の上ではそれほど大きな違いはないように見えます。しかし、実物を見ると、デイトナがほかより少し優れていることは否定できないと思います。オイスターケースとブレスレットは業界標準ですし、シンガーダイヤルのデザイン要素はロレックスらしく、精度を追い込んだムーブメントは純正のバルジュー72を上回る質感を備えています。そして、12時位置の小さな王冠のロゴ。数十年にわたる生産期間中に、無限のデザインバリエーションを世に送り出してきたデイトナが、長年にわたってコレクターを魅了し続ける理由は、私にも容易に理解できます。

A Rolex Daytona

Image: Courtesy of Rob Staky

 私にとって最も興味深いリファレンスは、その始祖にあたるRef.6239です。ポンププッシャーと、その後のねじ込み式のリファレンスよりもわずかに小さなケースを持つRef.6239は、よりシンプルな美しさと腕の上での洗練された存在感を備えていました。私の好きなデイトナは、1963年にのみ生産された初期のマットホワイトダイヤルのRef.6239で、おそらく“知れば知るほど”を完璧に凝縮したようなモデルです。

 このマットホワイトのRef.6239の希少性から、いざ自分のデイトナを探すときは、より手に入りやすい“ベビーブルー”のRef.6239にシフトしました。このデザインは、逆パンダダイヤル、シルバー表記、そして下部インダイヤル上のデイトナ表記にわずかに青みがかった色合いが特徴で、最もレアで最もエキゾチックなデイトナではないものの、50年以上親しまれたデザインで、50年後も同様に美しく見えるはずです。私のデイトナへの愛にさらなる重厚さが必要であるのと同様、私のRef.6239は第一子の誕生を記念して購入したもので、手に取るたびに人生の特別な時間を思い起こさせてくれるのです。

フィル・トレダノ(Instagram:@misterenthusiast)

 私がロレックス デイトナを敬遠してきたのは、自分が美しいと思わないからではなく、誰もが美しいと思うからです。しかし、ロレックス デイトナのコレクションに熱中しているうちに、私の内なる俗物根性に火がつき、その前に何が存在したのかと考えるようになりました。うれしいことに、私はプレデイトナを発見するに至りました(Ref.6238などではなく、実に珍しいRef.6034や6234のことを話しているのです)。私にとってのロレックス クロノグラフの真髄、プレ・プレデイトナを忘れてはいけません。1940年代のRef.3525、4500(ロレックス初のオイスターケースのクロノ)、そしてもちろん私の至宝、Ref.4768です。

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 このリファレンスナンバーのごった返しに共通するのは何でしょうか? 1940年代の繊細な美意識に満ち溢れた、華やかで賑やかなダイヤルが、頑丈なスティールケースに収められ、見事なコントラストを生み出している点なのです。


最終的な考え

 ロレックスは、エクスプローラー、GMTマスター、サブマリーナーなど、あらゆるブランドのなかで最も多くのアイコニックな時計を製造しているが、デイトナほど物語に沿った時計はない。そして、デイトナほど、ブランドの革新と改良のプロセスをゆっくりと、整然と表現している時計はないだろう。通常のスティールモデルがレインボーダイヤモンドベゼルの金無垢モデル(“レインボー”デイトナ Ref.116598RBOW)と同じくらい人々を興奮させるモデルがほかにあるだろうか? 答えは、“ほかにはない”のである。

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 多くの意味で、ロレックス イトナの物語は、時計収集の物語である。この趣味をおもしろくしているのは、ニュアンスの差異を発掘する能力、わずかなデザインバリエーションやダイヤルの微調整を見抜く能力、ケースサイズの変更に気づく能力、そして内部に収まるムーブメントの技術革新を理解する能力である。すべての時計が、そのようなことを可能にしてくれるわけではないが、デイトナはあらゆる面でそれを実現している。それが60年近く前に特別な存在であった理由であり、現在も特別な存在であり続けている理由でもあるのだ。現代のスティール製デイトナを簡単に購入することはできないかもしれないが、だからといって時計史におけるその重要性を理解できないわけではない。そして、あなたの名前がウェイティングリストの上位に上り詰めるあいだ、多くのことを評価することができるのだ。

編集部注:Hodinkeeのヴィンテージ・スペシャリスト、リッチ・フォードンの協力なくしては、このReference Pointの公開は実現しなかった。また、AdPatina.comのニック・フェデロウィッチ(Nick Federowicz)、モーガン・キング(Morgan King)、アルフレッド・パラミコ(Alfredo Paramico)、ロブ・ステイキー(Rob Staky)、フィル・トレダーノ(Phil Toledano)、リーフ・ピルグリム(Reef Pilgrim)、マーク・チョー(Mark Cho)、ジャスティン・グリュエンバーグ(Justin Gruenberg)、ジョージ・カラス(George Karas)、クリフトン。リップル(Clifton Lipple)、ベン・クライマー(Ben Clymer)、エリック・ボネタ社(Erik Boneta Inc)、ヘイサム・セッド( Haitham Said)並びにアダム・ゴールデン(Adam Golden)にも深く感謝の意を表したい。HODINKEE マガジンアメリカ版 Vol.11の写真撮影はライアン・ジェンク(Ryan Jenq)、プロップスタイリング(小道具デザイン)はジョセリン・ケイブラル(Jocelyn Cabral)が担当した。

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