In-Depth ウルバン・ヤーゲンセン、その過去と現在

　ヤーゲンセンは、私にとって常にタブーのように感じていた。

　過去10年間、eBayでヴィンテージウォッチのリストを検索するのに費やした時間は、このファミリーネームを冠した時計がなぜ…と思われるのか、その理解を阻んできた。“エレガント”、“洗練された”、そして“重要な”－オークションハウスがヤーゲンセンに連想しがちなキーワードだ。しかし私の記憶では、この名は、よく言えば1970年代のバルジュー搭載のクロノグラフや、悪く言えば“ゴールドメッキ”のクォーツムーブメント搭載のロレックス デイデイトの模造品のダイヤルに見られたものに過ぎなかった。

　しかし、私の元同僚で現フィリップス社員のローガン・ベイカーの強い要望で、ウルバン・ヤーゲンセンに捧げる特別展をサポートするためにフィリップスが制作した動画と付随記事を見直してみた。

　あらためて今、私はヤーゲンセンの名に関する私の最初の見解が間違っていたことをお伝えしておきたい。

　まず、そう、私はユール・ヤーゲンセンとウルバン・ヤーゲンセンを混同していたことを認めたい。それはこの記事の影響のためだけではない。歴史の大半において、ユールとウルバンはブランド名として結びついていたし、今日もまた結びついている。では、このふたつを混同するのは間違っていたのだろうか？　はっきりさせておきたいのは、時計製造において混同されるほかのいくつかのファミリーネーム（ピゲ、メイランなど）とは異なり、ユール・フレデリック・ヤーゲンセンはウルバン・ヤーゲンセンの息子のひとりで、同じデンマークのある家系から生まれたということである。

　ヤーゲンセン家の豊かな歴史と4世代以上にわたる時計製造の歴史は、非常に入り組んでいる。その歴史の一部、特に20世紀初頭から半ばにかけての企業構造は、なぜ長年にわたって、特にアメリカにおいてブランドアイデンティティが陳腐化したのかを理解する上で大いに役立つ。

　ヘルムート・クロット博士とのパートナーシップによるフィリップスのメディアコンテンツは、ジョン・M・R・クヌッドセン著『ヤーゲンセン王朝』と同様に、歴史的背景を十分に説明する第1級の資料である。ここでは、必要な背景を説明し、最終的には1980年代と1990年代にピーター・バウムバーガーとデレク・プラットの指揮の下で製造された最新世代のヤーゲンセンの作品に焦点を当てることにする。これらはますますコレクターズアイテムとして脚光を浴びつつあり、ウルバン・ヤーゲンセンの新CEOであり、ブランドを再び脚光を浴びることを任されたカリ・ヴティライネンにとって、インスピレーションを得る最大の機会となっている。

　物語は、1773年にデンマークの時計産業黎明期の時計職人であったヨルゲン・ヤーゲンセンから始まる。1700年代後半、コペンハーゲンには約20人の職人しか登録されていなかったという事実は、デンマークの時計製造がどのようなものであったかを知る助けになるだろう。1781年にヨルゲンが王室から事業の支援を受けるまでは、デンマークの時計の大半は輸入品で品質も低かった。彼は長年にわたり、政府の支援があれば本格的な国内産業を興すことができると訴え続けた。その結果、ヨルゲンはデンマーク時計製造の父と呼ばれるようになったのだ。彼は徒弟を育て、マニュファクチュールを経営する権利を与えられた。この権利は息子たちにも与えられた。「もし彼らがその仕事に必要な能力を備えていれば」という条件付きであったが。

　ヨルゲンの長男ウルバン・ヤーゲンセンは、必要以上の能力を持っていたことが証明された。1776年生まれのウルバンは驚くほど聡明で、祖国で学べることはすべて学んだとヨルゲンが判断したのち、21歳でコペンハーゲンを去った。ル・ロックルではジャック＝フレデリック・ウリエに師事し、パリではアブラアン＝ルイ・ブレゲとフェルディナント・ベルトゥーに師事、そしてロンドンではジョン・アーノルドとジョン・ブロックバンクに弟子入りした。

　ウルバン・ヤーゲンセンは、1801年にコペンハーゲンに戻る頃には、世界で最も経験を積んだ時計師のひとりとなっていた。1830年に亡くなるまでに、彼は45個のマリンクロノメーターを含む700個以上の時計を製作した。

　ウルバンは、旅先で出合ったさまざまな脱進機技術を実験し、さまざまなエボーシュを使用したが、クロノメーターやデテント脱進機を好んだことは間違いない。さらに彼はイギリスのトーマス・アーンショウとジョン・アーノルドの研究を改良し、晩年にはダブルホイールクロノメーター脱進機を開発した。

　ヨルゲンはデンマークの時計製造の理念を確立し、ウルバンはそれを受け継いだ。特にその科学的高精密さと正確さを。

　ヤーゲンセンの時計製造の最初の60年間、ヨルゲンとウルバンですべてがうまくいったとしたら、なぜ私はその名前をeBayの安っぽい時計の略称だと考えるようになったのだろうか？　その理由のひとつは、私がこのふたりの偉業をよく知らなかったからであり、もうひとつは、その後の150年間に起こった出来事のせいである。

　ウルバンの死後、ヤーゲンセン王朝は瓦解し始める。いくつかの特別な時計が製造されたものの、その後のヤーゲンセンの世代には、本物の画期的な時計師が欠けていた。デンマークの会社は1891年にはウルバン・ヤーゲンセン&ゾナー（Urban Jürgensen & Sønner）社となり、1886年にはウルバン・ヤーゲンセン＆ゾナー・エフトフ社となった。一方、ウルバンの息子のひとり、ユール・フレデリックはスイスに移り、子会社を設立した。ユール（1世）にはユール（2世）とジャック・アルフレッドというふたりの息子がおり、後者は1865年にジャック・アルフレッド・ヤーゲンセン・ロックルという自身のブランドを立ち上げ、家業からの完全な独立を果たした。

　そろそろこんがらがってきただろうか？

　1919年までに、エド・ホイヤー＆Co.（そう、あのホイヤーである）がスイスのヤーゲンセンを買収した。ホイヤーがヤーゲンセンを買収するというアイデアは、私の興味をそそった。卓越した専門家であり、時計コレクターであり、かつてこのブランドを所有していたヘルムート・クロット博士は、この動きを急成長するアメリカ市場に売り込もうとするホイヤーの初期の試みと位置づけている。ユール（たち）は20世紀初頭、より薄型のアール・デコ調の時計に的を絞り、大成功を収めた。

「ヤーゲンセンの名前は、特にアメリカではとても有名でした」とクロットは言う。アメリカ人がヨーロッパに来て、高級時計店に入ると、“ヤーゲンセンが欲しい”と言ったものです」。ヴィンテージスポーツウォッチが好きな私にとって、ホイヤーがヤーゲンセンの名前を使って高品質な時計を売り出したという史実は、衝撃的なことだ。1960年代、ジャック・ホイヤーのもとでホイヤーがアメリカでどれほどの成功を収めたか、そして今私たちが知っていることを考えると、それより40年も前に遡ったこの動きはより興味をそそる。

　ホイヤーは、パテック フィリップと同じサプライヤーであるルクルトとヴィクトラン・ピゲのエボーシュを使用して、ユール・ヤーゲンセンの時計の調整と組み立てを行っていた。具体的には、米国の販売代理店を利用することで、この買収は実りある事業であることが証明された。

　ヤーゲンセンのブランド名を、パテックよりもキャラベル（Caravelle）やワイラー（Wyler）と同義語だと思っていたアメリカ人は、どこで間違って忘れてしまったのだろうか？　だからなのか、ラッパーの2 Chainzが曲のなかでユール・ヤーゲンセンを名指ししたのを聞いたことがない。

　ホイヤーの所有権は結局、短命に終わった。第1次世界大戦と世界大恐慌によるマクロ経済の逆風により、ユール・ヤーゲンセンの名前は1936年にアメリカ企業に売却された。これがアメリカ人オーナー間におけるたらい回しの始まりであり、その結果、私が知っている多くの安価で低品質の時計が生まれたのである。

　偉大なブランド名を商品化し、死に至らしめるのはアメリカ人に任せたというわけだ。結局、1936年から2000年代にかけて、ユール・ヤーゲンセンは4度にわたってアメリカ国内で売却され、そのたびに安っぽい時計が製造された。そして完全に消滅したのだった。

　デンマークに戻ったウルバン・ヤーゲンセンは、スイス時計（ユールのものも含む）の小さな販売店、修理センター、そして博物館として20世紀の大半を過ごした。

　1976年、スイスの企業家であり時計職人であるピーター・バウムバーガーがコペンハーゲンに滞在していた。友人を訪ねていたバウムバーガーは、デンマークの偉大な時計師を称える展示会にふらりと立ち寄った。その展示を見て衝撃を受けた彼は、何年にもわたる説得の末、1979年にウルバン・ヤーゲンセンの権利を購入した。この説得の多くは、友人である著名なデレク・プラットの力を借りた。ヤーゲンセンの代表者に、プラットが5年間かけて製作した時計を見せたことで、バウムバーガーはついにブランドの買収を許されたのである。

　デレック・プラットについては多くのことが語られているが、ひと言でいえば、彼は昔気質の人物であり、今でこそ私たちが時計界の大物たちを賞賛するが、時計づくりがクールとみなされる前から完全に手作業で時計を製作していた。英国で生まれ、人生の大半をスイスで過ごしたプラットは、独自にムーブメントを開発し（ときにはネジに至るまですべての部品を手作りした）、ヤーゲンセンの現CEOとは似て非なる、手作業によるギヨシェ模様の文字盤を得意としたことで、時計業界ではよく知られていた。

　英国人であり、ハンドメイド時計に夢中だった彼が、ジョージ・ダニエルズと親しかったことは驚くにはあたらない。ふたりは毎週話をし、薄型のコーアクシャル脱進機を作るために必要な小さな歯車をプラットが加工したという噂もある。また、プラットはスイス・ドイツ語とフランス語を話し、スイスにおけるダニエルズのスポークスマンのような役割も果たしていた。コーアクシャル脱進機の技術をジュネーブで売り込んだのはプラットであり、最初はパテック、その後、オメガへの売り込みに成功した。

　バウムバーガーとプラットは、バウムバーガーがアンティークの懐中時計を集めていたおかげで関係を築き、その懐中時計は非常に複雑で、プラットはそれを修理できる世界でも数少ない人物のひとりだった。1982年、プラットはウルバン・ヤーゲンセンの技術ディレクターとして雇われ、ふたりはスタートを切ったのだ。

　1982年から2010年のあいだに、ウルバン・ヤーゲンセンはRef.1からRef.11まで腕時計を発表、製造した。私は彼らのストレートなネーミングが好きだ。通常生産されたものもあれば、そうでないもの（ダリ風のRef.7 Diaplagoなど）もあるが、今日最もコレクターが多いのはRef.1、2、3である。

　1982年にプラットが入社すると、Ref.1の製造が開始された。この頃、このブランドには傑作懐中時計の製作に専念する別の側面があり、その多くをプラットが担当していたが、本当に注目を集めるには腕時計が必要だった。私たちが今いる年代を、何の脈絡もなく通り過ぎてはいけない。ここでは“クォーツ危機”の最後尾の話をしているのだ。ウルバン・ヤーゲンセンは、決してスマートなビジネスプランとはいえない時代に、昔ながらのやり方で、極端ともいえるほど手作業で物事を進めていたのだ。

　もちろん、バウムバーガーとプラットにとっては、ほかに方法はなかったからといえよう。

　最初に大きな反響を呼んだのは、Ref.1 トリプルカレンダー、ムーンフェイズだ。クロノグラフを搭載したこの自動巻き時計は、段差のあるステップベゼルと小さなティアドロップ型のラグを持つユニークな外観を備えていた。このケースは19世紀の懐中時計をほうふつとさせ、リューズ、プッシャー、ラグはすべて視覚的に邪魔にならないように工夫されているように感じられる。ラグはメインケースに巧みにロウ付けされており、別体であることを感じさせない。

　手彫りギヨシェ加工は、ダイヤルのセンター部分とサブレジスターにふたつの異なる模様が施されている。これは、最初の3つのリファレンスのすべてのダイヤルと同様、プラットの直接の作品であると多くの人が推測しているが、ヤーゲンセンはこの時期、3つの工房を運営していた。仕上げは最高レベルであり、クロノグラフ針はブルー、時刻表示針はゴールドのブレゲ針、さらにはブルーの曜日・月ディスクなど、時計マニア垂涎のディテールは枚挙にいとまがない。

　内部のムーブメントはゼニスのエル・プリメロのエボーシュで、バウムバーガーが1978年と1979年に注文した60年代のオールドストックである。-エベルやロレックスよりも前の話である。

　186本限定のRef.1は1982年から1986年にかけて製造された。

　Ref.1が水面へ飛び込んだものだったとすれば、Ref.2では、バウムバーガーとプラットはさらに深みに潜り込んだことを象徴している。より商業的に実行可能で再現性の高い製品とは対照的に、新顔のウルバン・ヤーゲンセンは別の方向へと進んでいった。最初の腕時計に欠点があるとすれば、それは確かにやや“ポン乗せ的”なエボーシュムーブメントの採用である。Ref.2に搭載されているフレデリック・ピゲのCal.71はそうではなく、この時代にはブレゲ、ダニエル・ロート、ブランパンでも同じベースムーブメントが使われていた。最も明らかなのは、このブランドから発表された2番目の腕時計が、トリプルカレンダーを本格的な永久カレンダーにアップグレードする一方で、クロノグラフ機能を搭載していないことだ。ピゲの土台の上に置かれた永久カレンダーモジュールはレマニアが開発したもので、バウムバーガーはRef.2のためにこのモジュールの権利を確保したという。

　ケースの美しさはRef.1に似ているが、直径が小さく（38mm）、ステップベゼルが薄くなっているため、全体的に洗練された印象だ。特にベゼルは、Ref.2のほうがはるかにエレガントで、時計のほかの部分の優雅さと気品にマッチしている。ロウ付けされたティアドロップ型のラグはまだ小さいが、Ref.2と比較すると、パッケージに対してそれほど小さくはない。

　技術ディレクターのプラットは、手作業によるギヨシェ彫りが施された二重模様のダイヤル、さらには初のオブセルヴァトワール（observatoire）針を採用するなど、その腕前を再び誇示している。これはウルバン・ヤーゲンセンで定着した形であり、今後のウルバン・ヤーゲンセンでも見られるようになるだろう。独立したカルトゥーシュ（装飾用の楕円形の枠）にはブランド名とシリアルナンバーが、それぞれムーンフェイズとディスク上の月の曲率を模して、異なる角度の弧を描いて配置されている。この小さなディテールがダイヤル上部のバランスを取り、文脈上の建築を思い起こさせる。ムーンフェイズディスクといえば、手作りである。ポリッシュ仕上げとブルースティールの土台に月と星がひとつひとつ打ち抜かれ、金無垢がはめ込まれている。

　Ref.2は1986年から175本製造された。50本がプラチナ製で、残りはゴールド製とされている。

　Ref.2には明らかな“欠点”がひとつある。それは自動巻きでありながら、パワーリザーブ表示を備えていない永久カレンダーだということである。これはバウムバーガーとプラットがこのふたつのリファレンスで決定したように、うるう年表示をしないことを選択した永久カレンダーにとって特に重要なことである。つまり、Ref.3はその“欠陥”を解決し、12時位置にパワーリザーブ表示を追加した。これは簡単な修正ではなかった。この追加モジュールの開発は長く、過酷で、費用のかかるプロセスだった。クロット博士が、ふたりの友人が引き継いで以来初めて、ウルバン・ヤーゲンセンが“財政難”に陥ったと語るほどだ。

　パワーリザーブ針以外、Ref.3は美しく、ハンドメイドで、先代リファレンスとまったく同じである。些細な違いのように見えるかもしれないが、この追加によって、私の目にはダイヤルレイアウトがよりシンメトリーで完成度の高いものになった。その結果、バウムバーガーとプラットの時代に通常生産された究極のウルバン・ヤーゲンセンの腕時計が誕生した。

　Ref.2やRef.3のようなヤーゲンセンの永久カレンダーに対する批判のひとつは、うるう年表示がないことである。年に1度、煩わしく感じることがあるにせよ、時計が正しく設定されているかどうかがまったくわからないというのは、注目に値する。ヴティライネンは、バウムバーガーはうるう年表示がブランドの精巧に作られたダイヤルのスペースを占めることで美観を損なうという問題があったと考えている。ヤーゲンセンがこのディテールを懐中時計に表示することを選択した時でさえ、それはうるう年を拡大された月表示に紛れ込ませるという、非常に奇妙な方法で行われた。レジスターには4年分の月が表示され、うるう年を表す赤い1月がシンプルに配されている。

　ゴールドとプラチナの両方で1993年から生産されたRef.3の製造本数は100本に満たない。

　残念ながら、デレク・プラットは2009年に、ピーター・バウムバーガーは2010年に他界した。ウルバン・ヤーゲンセンとの関わりが終わりに近づいた頃、ふたりは特許を取得した新しいピボット・デテント・クロノメーター脱進機を搭載した腕時計の発表に取り組んでいた。その仕事はジャン・フランソワ・モジョンに引き継がれ、自社製キャリバーP8を搭載したRef.11C SCは、2011年のバーゼルワールドで発表され、2014年のGPHGでメンズウォッチ賞を受賞した。

　2021年11月、カリ・ヴティライネンは投資家グループを率いてウルバン・ヤーゲンセンを買収し、CEOに就任することを発表した。そのニュースの直後、我々は彼にインタビューしている。それ以来、時計界は当ブランドに注目してきた。

　ヴティライネンとウルバン・ヤーゲンセンの関与は2021年に始まったわけではなく、以前はバウムバーガー時代の1990年代に同ブランドのダイヤルの仕上げ、2006年にはデレク・プラットが製作したオーバル型懐中時計の仕上げも手がけた実績を重ねていた。バウムバーガー、プラット、そしてヤーゲンセン・ブランドでの仕事は、明らかにヴティライネンの時計づくりの美学に影響を与えた。

　2023年はウルバン・ヤーゲンセンの創立250周年にあたる。就任以来、ヴティライネンはブランドの次なる計画を練ってきた。自身の名を冠したブランドと時間を共有しながら、現在8人、そして年末には10人の時計職人からなるヤーゲンセンの工房を強化するために多くのことが行われてきた。そのビエンヌの工房の責任者は、ヴティライネンの娘であるヴェンラである。かつてのウルバン・ヤーゲンセンがそうであったように、再び家族経営に戻そうというわけだ。

　最後にヴティライネンに“新しい”ベンチャーについてインタビューしたとき、最初の仕事はヤーゲンセンの旧作を整備することに集中しており、今年2023年に大きなアニバーサリーを記念して新しい時計を発表する予定だと聞いた。現在も新しいモデルに向けて作業は進められているが、そのスケジュールは“おそらく来年”だと彼は言う。アニバーサリーイヤーは重要だが、ヴティライネンはリリース時に最終的な製品を完成させることを優先している。

　ヴティライネンは語る。「私は待つほうがいいと思いますし、物事をきちんとやって、準備ができたときに発表するほうがいいと思います」と。

　ヴティライネンと話してみると、彼のウルバン・ヤーゲンセンに対する情熱がひしひしと伝わってくる。時計職人として当然のことだが、彼は今後の展開について少し口を閉ざすが、自分が関わる以前の250年にわたる時計製造に最大限の敬意を払っていることは明らかだ。ヴティライネンが特に興味を示しているのは、ウルバン・ヤーゲンセンという人物が製作した時計と、バウムバーガーやプラット時代の後期の腕時計である。

 「19世紀のウルバン・ヤーゲンセンはお手本のような存在でした。パテック フィリップやオーデマ ピゲが製造を始めた100年以上前から、このブランドは存在していましたから」。腕時計では、ヴティライネンはRef.1、2、3を審美的なハイライトとして挙げる。

 「私たちは何もかも手に入れたのだから新しい歴史を発明する必要はまったくありません。しかし、新しいコレクション、新しいムーブメントを考えています」とヴティライネンは言う。

　バウムバーガーやプラット時代の特徴的な針やラグは、次のコレクションでも大きくフィーチャーされるのだろうかと尋ねると、ヴティライネンはこう答えた。 「まあ、時間が経てばわかるでしょう」と。