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サンダーバーズがジェット機のコクピット内で機械式のストップウォッチを使い続ける理由とは

マニューバ成功の鍵を握るアナログストップウォッチ。

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ミシェル・カラン少佐はF-16ファイティング・ファルコンの起動シーケンスを何千回も経験している。彼女は1500時間以上の搭乗経験があり、そのうち163時間はアフガニスタンでのレゾリュート・サポート作戦とフリーダムズ・センチネル作戦での戦闘時間として記録されている。

F-16は正式には「ファイティング・ファルコン」と呼ばれているが、多くの人には「バイパー」という愛称で知られている。視界を確保するためのバブルキャノピーにご注目。この写真を撮影された後、カランは大尉から少佐に昇進した。 

 現在、サンダーバード5号機として、アメリカ空軍航空デモ隊の主席ソロパイロットを務めているカラン少佐は、飛行開始時にもう1つステップを踏んでいる。彼女は飛行前に、F-16 ファイティング・ファルコンのグレアシールドの左側にねじ込まれた金属製ブラケットの中にある機械式ストップウォッチを巻き上げているのだ。

カラン少佐は「ダイヤモンド隊形」の後ろを辿る。 ストップウォッチは、HUDの左側のグレアシールドに取り付けられている。

 他の計器類と共にマラソンのストップウォッチが視覚的に溶け込んでいる。レーダー警告受信機の真上にあり、コックピットのHUD(ヘッドアップディスプレイ)の左に搭載されている。ロッキード・マーティン工場の組み立てラインから転がり落ちてきたようにも見えます。しかし、実はこれはサンダーバーズのソロパイロット特有の改造なのだ。

 サンダーバードのデモ飛行隊は6人のパイロットで構成されており、そのほとんどが戦闘経験者で、さまざまな種類の飛行に長けており、6人のパイロットは全員、タイトで優雅な陣形での飛行を得意とする。標準的な「ダイヤモンド(デルタ)隊形」で飛行するとき、彼らはお互いに3フィート(約1m)以下の距離にいる。標準的なデモンストレーションでは、2人のパイロットが編隊から離脱し、他の4機は「ダイヤモンド隊形 」を維持。この2人のパイロットというのが指定されたソロパイロットであり、カラン少佐がソロパイロットの指揮を執っている。

 私は先週カラン少佐とお話する機会を得た。サンダーバードのパイロットが安全かつ信じられないほどの精度でルーティンを実行することを可能にするミッションクリティカル(それが欠けると業務の遂行に致命的な悪影響が出るほど重要)な計時方法についてだ。典型的なショーでは、ソロパイロットは地上約200フィート(約60m)上空を450ノット(時速833km)で飛行。カラン少佐は地味な機械式ストップウォッチに頼っているが、これは基本的にはイギリスの時計師トーマス・マッジがレバー脱進機を世に送り出した1755年の技術に基づいている。最先端のフライトシステムや最先端の素材と共に、時代遅れの技術も、デモフライトを実行する上で重要な役割を果たしているのである。

 サンダーバーズは1953年にデビューしたが、その使命はチームの発足以来変わってはいない。それは、「人材を確保し、維持し、鼓舞すること」だ。サンダーバードのパイロットに応募するには、少なくとも750時間以上の飛行時間が必要となる。これは同チームのパイロットになることが、アメリカ空軍の有資格操縦士の中でも最も切望されるポジションの1つだからである。チームに参加する前は、日本の三沢で3年間F-16に搭乗し、フォートワースで教官パイロットとして3年間を過ごした。彼女は初の女性パイロットであり、ソロでの主席操縦者となったのだ。サンダーバードのパイロットとしての任務は通常2年間だが、COVID-19のために1年延長された。サンダーバーズは、アメリカ・ストロング作戦(新型コロナウイルスに対応する医療従事者などへの感謝と激励をおくる飛行作戦)に参加。4月28日サンダーバーズは、海軍のデモ飛行隊ブルーエンジェルズと共に、ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルベニア州の上空を飛行した。カラン少佐は、アメリカ・ストロング作戦のような飛行は二度と起こらないだろうと私に話した。「FAA(アメリカ連邦航空局)が参加し、都市も参加。通常アメリカで最も忙しいエリアの空の交通量が軽減されていました。通常なら信じられないほどの制限があるのです。」

サンダーバーズの第一の使命は、将来の飛行士を募集すること。

 今年はショーシーズンが短くなってしまったが、8月15日から正式にメリーランド州オーシャンシティでのショーが始まった。チームは地上にいる間にルーティンを吟味し、より良いものにしてきた。サンダーバードの司令官であり、サンダーバーズのパイロットナンバー1であるジョン・D・コールドウェル中佐は、1990年代から今日までのルーティンを分析することで、検証し、何年もかけてどのように変化してきたかを理解しようと努力してきた。花火大会のようにグランドフィナーレを迎えるのか、それとも徐々にしていくのか。パイロットたちは一見、楽に飛んでいるように見えるかもしれないが、ルーティンの計画には心理学的な要素が大きく関わっている。サンダーバーズは歴史的に、完璧にシンクロして優雅に飛ぶことで知られているが、サンダーバーズが運用していたF-100スーパーセイバーの1965年の映像をご覧いただきたい。この完璧さは、今日のルーティンでも発揮されているが、生々しく、速く、派手で、そして荒々しい飛行は、F-16の本質にスポットライトを当てている。

1966年の編隊飛行。

サンダーバーズのカラーリングを施した北米仕様のF-100スーパーセイバー。

 F-16のユニークな能力は、ソロでのデモンストレーションパスの間に、その威力を発揮する。最初に行われるマニューバは通常ナイフエッジパスで、ここで機械的な計時が行われる。カラン少佐は、ストップウォッチを使ってどのようにしてこのマニューバを成功させているのか、詳しく説明してくれた。

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 ショーの前日には、カラン少佐と飛行するソロパイロットのカイル・S・オリバー大尉がショーエリアを調査し、あらかじめ決められた「ショーセンター」と呼ばれる観戦エリアのちょうど真ん中にあるポイントを基準に「ハックポイント」を決定する。サンダーバーズが練習しているネリス空軍基地周辺の砂漠では、ショーセンターが鮮やかなオレンジ色で模擬的に塗られた輸送用コンテナによってマークされている。ハックポイントはGPS座標として記録されているが、主に視覚的な参照が使用されている。カラン少佐は、時には家だったり、畑だったり、建物だったりすることもあると説明している。ハックポイントはショーセンターから4マイル(約6kmほど)離れたところにあり、鏡のように左右に1つずつある。パスでは、F-16が反対方向からショーエリアに入り、お互いに向かってまっすぐに450ノット(時速833km)で飛行し、両方とも2000フィートから200フィート(約609mから約60m)に降下して、お互いに向かって直接飛びライン上で交わる。

カラン少佐の左手はスロットルに、右手はフレームの外にあるサイドスティックにある。F-16は伝統的な2ペダル式のラダーコントロールを採用している。

 いったん、ソロパイロットが編隊から離脱するとカラン少佐は無線に向かって宣言する「ソロ、自分のハックを目指して!」と。

 F-16は前日に決めた基準点に向かって旋回を開始。

 次に、ダイヤモンド隊形からのパイロットが、ソロパイロットのパスルーティンを開始するための位置についたことをコール。

 ソロパイロットはすぐにハックポイントに近づき、両パイロットがハックポイントに到達しようとしているところで、カラン少佐は無線で「スタンバイハック、レッツ ハック ナウ(今すぐハックしよう)」と呼びかける。ジェット機の中では、ソロパイロット両方が「レッツ ハック ナウ」を繰り返し、ストップウォッチを「ナウ」に合わせ、30秒の同期タイマーを開始する。

 私がサンダーバーズのルーティンの計時に興味を持っていることを知ったカラン少佐は、90年と91年のシーズンに活躍したサンダーバードのソロパイロットに連絡を取ってくれた。そのパイロットは、全く同じストップウォッチを使って全く同じことをしていると彼女に話した。この方法は少なくとも30年前から使われているようだ。その元サンダーバーズのパイロットは、存命の同パイロットの中で最も古参のジェラルド・D・ラーソン少将に連絡を取り、サンダーバーズがF-100Cに乗っていた初期の頃、ソロパスがどのように行われていたのかを聞き出した。ラーソン少将によると、彼らはショーセンターから測定された視覚的な基準をもっていて、1965年には無線機を使用してシンクロするが、ストップウォッチは使用されていなかったという。

ジェラルド・D・ラーソン少将は現存する最高齢のサンダーバードパイロットだ。1965年にはソロパイロットをリードした。

 面白いのは、ストップウォッチは1965年(というかそれ以前)からほとんど変わっていないということだが、唯一の違いは、早くも90年代にサンダーバーズが使用することを選んだということだ。カラン少佐は「チャンプのように走ります。私がチームに入って以来、彼らは何も交換していないと思います」と言う。彼女はサンダーバーズで2年目である。標準的なルーティンでは、ストップウォッチ(とパイロット)の負荷は何度も9Gに達する。それは半日単位で受けると途方もない負荷だが、この30年間ずっと機能しているし、壊れていなければ直す必要はない。

 パイロットがストップウォッチをハックした時点で、彼らはそれぞれが450ノット(時速833km)の対地速度を走行し、ショーセンターから4マイル(約6kmほど)の地点でなければならない。ジェット機は指示された対気速度、対地速度、および真の対気速度を表示することができるが、風のように、この高度でのタイミングに影響を与える変数があるため、このようなマニューバー(航空機の機動)のためには、対地速度が使用されている。一方のパイロットは向かい風に直面することになるのだが、それは他方のパイロットにとっては追い風を意味し、それは彼らが正確にショーセンターで交差しないことを意味するため、パターンが崩れる可能性がある。ソロパイロットは常に "スイープ(一定速度での飛行) "を実行し、コックピット内の複数の計器を確認している。その中の一つがストップウォッチなのである。カラン少佐は、コックピット内のアナログ時計の視認性を高く評価していると報告している。スイープ運針の針を見ることは、彼女の飛行ルーティンの標準的な部分となっている。

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 タイマーが15秒を指したら、両パイロットはショーセンターから3.7マイル(約6km)の距離にいなければならない。

 20秒で3.2マイル(約5km)。

 25秒で2.6マイル(約4km)。

 残り30秒でショーセンターから2マイル(約)の距離まで、対地速度900ノット(時速1666km)で接近。カラン少佐は「ナイフエッジ!」と呼びかけ、6号機のオリバー大尉も「ナイフエッジ!」と応答する。

 この時点で、ストップウォッチとコックピットのレンジ表示やGPSを照合することはもうない。今は全て視覚的なものになるのだ。両パイロットは完璧なアプローチを維持するためにスロットルを調節したり、スピードブレーキをかけたりするかもしれないだろう。

これが「逆ナイフエッジ」パスと呼ばれている理由だ。

 2機のF-16が接触しそうになった瞬間に、パイロットは地面に対して完全に垂直になるように機体の下面がお互いに向き合うようにロールする。これが「ナイフエッジ」マニューバーの名前の由来だ。専門家たちの操縦と信頼性の高いストップウォッチのおかげで、マニューバーは滞りなく完了する。

F-16は2万7000ポンド(約1万2247kg)の推力をもっている。

 ここで注意しなければならないのは、すべてのマニューバーは等級化されており、ジェットが通過するたびに全てのメトリック(距離)が分析されているということです。ジェット機が数百フィートずれていた場合、パイロットは報告会でそれについて聞かれることになる。正確さが鍵であり、ストップウォッチが非常に重要な理由なのだ。

Zoomを介して、カラン少佐は、彼女がソロフライトのデモンストレーションでストップウォッチをどのように使用しているかを説明してる。

ロレックス「サンダーバード」の広告。パイロットたちがロレックスからこの時計をもらったという話だ。

 ここでもちろん、コクピット内で何を身に着けているのか、カラン少佐に聞いてみた。私は密かにロレックスのデイトジャスト ターノグラフ、特に1950年代に生産されたサンダーバード(先住民に伝わる神話の生き物を描いた)の記章をあしらったものを期待していた。しかし、今日のサンダーバーズは機能性を重視したものであり、コレクション性を重視したものではない。カラン少佐は、コックピットの圧力が公称パラメータを超えて変動し、コックピットが完全に減圧される可能性がある場合にアラームとして機能するため、ガーミンのフェニックスウォッチが支給されたと述べている。通常、コックピットの気圧は8000フィートに保たれているが、急激に変化すると時計が振動するようになっている。

 サンダーバーズでの任務終了後、カラン少佐は戦闘任務の飛行に戻ることになる。「戦術飛行とデモンストレーション飛行への移行は必ずしも容易ではありません」と彼女は言う。

 しかし、彼女はきっといとも簡単そうにやるのだろう。