trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth 最高の音色をめぐって: オーデマ ピゲ ロイヤル オーク コンセプトスーパーソヌリ

オーデマ ピゲによれば、これは今まで製造したミニッツリピーターの中で、最も高度な技術を駆使したものだという。

本稿は2016年7月に執筆された本国版の翻訳です。

スーパーソヌリはスーパー(カー)ウォッチである。企業がコンセプトモデルを作るのは、それが売れると思っているからではなく、売れることを示すためである。例えば、カルティエがID ONETWOのようなものをつくったが、これはF1カーを作るようなものだ。それらを販売して利益を得ることは期待していないが、それらをつくるということは、よりいい技術を駆使して競合他社よりも優位に立つことであり、多くの時計を売るのに役立つかもしれないということだ。今回取り上げるスーパーソヌリについて、これはAPが8年前から取り組んできたミニッツリピーターであり、100年以上にわたるリピーター製造の歴史のなかで最も新しいもので、しかも実際に購入ができる時計だ(まあ、普通は無理かもしれない。もちろん私は無理だ。しかし誰かは買える)。

ADVERTISEMENT

 スーパーソヌリの実機を見たり、実際にチャイムを聴いたりするのは簡単ではない。現在生産されている、完成品の時計を見たり聴いたりするにはル・ブラッシュまで足を運ぶ必要があった。実際、スーパーソヌリは2年間にわたるティザーシリーズを経て、徐々にゆっくりと市場に登場した。オーデマ ピゲがリピーターに大きな変革をもたらすとして、開発に取り組んでいることを最初に示唆したのは2014年11月のこと。そのとき、オーデマ ピゲはロイヤル オーク コンセプト アコースティック リサーチ RD#1と呼ばれる時計のプレス画像&リリースを発表した。そして2015年1月、オーデマ ピゲがSIHHのブース内に特別に設置したマルチメディアポッドのようなもののなかで、我々の何人かがその音を聴く機会を得た。このアイデアは音響的にクリーンな環境でRD#1を聴けるのと同時に、8年間の研究開発投資であるRD#1から、目や耳をそらさないようにするためのものだった。それは大音量なだけでなく、暖かく、クリアで、豊かなサウンドが印象的だった。しかし当時は、RD#1がどのように機能するのか、技術的にほかのリピーターとどう違うのかについての説明はほとんどなかった。

 しかし今回は、我々に埋め合わせをするかのように、オーデマ ピゲが開発プロセスに関する豊富な情報を提供してくれた。オーデマ ピゲがなぜエンジニアリングソリューションの面で同じことをしたのかを理解するには、従来の方法でリピーターをつくるには何が必要なのか、そしてなぜリピーターウォッチをつくることがこれほどまでに難しいのかを理解する必要がある。そのために、オーデマ ピゲ ミュージアムの豊富なリピーターコレクションから、いくつかのリピーターを見てみようと思う。

 上のふたつの懐中時計はオーデマ ピゲ ミュージアムにあるコレクションの一部で、当時は最先端のものであった。写真1枚目はグランドストライク付きのクォーターリピーターである。ジュール=ルイ・オーデマ(Jules-Louis Audemars)が、幼なじみのエドワード=オーギュスト・ピゲ(Edward-Auguste Piguet)と組んで、1881年にオーデマ ピゲを設立する前に製作したものだ。2枚目はムーブメントと文字盤にサインが入った、超複雑な初期のオーデマ ピゲ ラトラパンテ・クロノグラフ・ミニッツリピーターだ。

 上のムーブメントはビッグ・ベンとしても知られる、ウェストミンスター宮殿の時計を手がけたイギリスの時計メーカー、デントのために作られたものだ。これはジュウ渓谷とオーデマ ピゲの複雑なムーブメントの取引が、いかに早く、そしていかに国際的に取引されていたかを示している。実際、オーデマ ピゲはほぼ創立当初からリピーターに特化していたメーカーであり、1882年ごろから始まるオーデマ ピゲのアーカイブには、多くのリピーターが記録されている。記録簿の最初のページにある13本の時計のうち9本がリピーターで、19世紀にオーデマ ピゲが製造した時計の半分がリピーターであった。

オーデマ ピゲ ミュージアムにある、ミニチュアな8リーニュのリピーター。

 例えば、あなたが時計職人で、1882年に(ジュウ)渓谷で懐中時計のリピーターの注文を受け、素晴らしい音を奏でるものをつくりたいと思っているとしよう。楽器製作における課題として、物理学/音響学の問題など、リピーターにはいろいろな見方がある。しかし、ここでは作り手の視点から見てみよう。

 まずケースが重要だ。金属によって音質が異なるが、1882年には金無垢やローズゴールドが使われていた。金は豊かな音を出すだけでなく、音をよりよく伝えるよう薄くすることもできる。あなたは時計職人であるため、音の伝達の物理的なことはよくわかっていないが、時計から最高の音を引き出すためには、比較的薄く、比較的硬いゴールド製ケースが必要なことは理解している。

 次に重要なのはゴングである。弦楽器のサウンドボード(共鳴する大きな表面積を提供することで音を増幅し、豊かにする)のように機能するケースとは異なり、ゴングはハンマーからエネルギーを受け取り、時計の基本的な音を作り出す役割を担っている。ケースのように、ゴングも薄く、比較的硬い必要がある。伝統的にリピーター用ゴングは鋼線を引き、馬の尿で焼き戻しをしていた(口伝ではそう言われている)。ゴングを調整するには、正しい音が出るまでゴングの外側の端を丁寧にヤスリで削っていく。また、ゴングを長く振動させるために、ゴングの足の部分も先細りの形にヤスリで削っていく(ゴングを固定するブロックとケースとの接続が固すぎると、枯れたような短い音になってしまう。ただしゴングを固定するネジが緩すぎても、時計本体への音の伝達が悪くなる)。

 第3に、ゴングを打つ速度について。テンポを制御するために、各リピーターには、リピーターの輪列のギアの回転速度を決定する調整機構がある。最も一般的で、実際何十年にもわたって使用されてきた唯一のシステムは、一種のアンクル脱進機だった。一連の歯車は、リピーター輪列に動力を供給するゼンマイ香箱から動き、ガンギ車とアンクルで終わる。ガンギ車が回転すると、アンクルはその歯をキャッチしてリリースする。唯一の問題は、チャイムが鳴っているあいだ、常に怒ったマルハナバチのような音がすることだが、懐中時計のリピーターはたいていかなりの音量が出るので、誰もが多かれ少なかれそれを我慢していた。

 つまりこれまで述べてきたことに加え、さらに多くのことが行われる。リピーターを作っている人の耳が悪くなく、そしてケースメーカーが正しい仕事をし、さらにゴングを正しくチューニングをすることで、素晴らしい音を奏でることができるのだ(ゴングを打ったあとにハンマーがどこまで反動するかを制御するためには別途調整が必要になるなど、一例を挙げればきりがない)。だからこそ、リピーター(とにかく優秀なもの)は尊敬されるのだ。魔法が起こるためには、1000の物事がちょうどいい状態でなければならない。

ADVERTISEMENT

腕時計用のリピーター

  意地の悪いサミュエル・ジョンソン(Samuel Johnson)は、かつて(ジェイムズ・)ボズウェル(Boswell)が女性の伝道師を見たことがあると彼に話をしたとき、そんなものは犬が後ろ足だけで歩くようなものだと不遜な見解を述べたことがある。“うまくはないが、まったくできていないことに驚かされる”。腕時計型のリピーターがそうだ。手首は、本当に時計にとってはバカみたいな場所で、ダメージや激しい温度変化、急な動きなどにさらされる。リピーターにとっては最悪の場所だ。さら、リピーターを腕時計のケースに入れるということは、正しく共鳴するのに十分な大きさのケース、そこそこの大きさのゴング、いい音を出すのに十分な力を発揮するハンマーなど、リピーターの音をよくするすべてのものを取り除くことを意味する。そのためリピーターの小型化は非常に難しく、高い技術力が必要であった。そして、その要求は消費者にも伝わることになる。19世紀後半から20世紀にかけて、リピーターは小型であればあるほど高価だったのだ。

ADVERTISEMENT

 ちなみに、1910年代のオーデマ ピゲのグランドコンプリケーション懐中時計は2200フラン(当時の相場で約330万円、1フラン=1500円で換算)だった。直径8リーニュ(リーニュは2.2558mmなので、直径20.464mmのムーブメントとなる)の小型リピータームーブメントを搭載したペンダントチャイムウォッチは2700フラン(当時の相場で約405万円)だった。ここでちょっと考えてみて欲しい。女性用ペンダントリピーターウォッチは、グランドコンプリケーションよりも高価なのだ。最初の腕時計用リピーターは、ルイ・ブラン(オメガの前身)のために1892年に完成し(オーデマ ピゲムーブメントを搭載)、オーデマ ピゲのサイン入り腕時計用リピーターは1925年に完成した。オーデマ ピゲのアーカイブによると、8リーニュのリピータームーブメントは、実際には少し大きい9リーニュのバージョンの2倍のコストがかかっていた。昔は複雑コンプリケーションムーブメントの直径を、2.558mm削るためにかなりの金額を払っていたのだ。

 上の写真は、1932年に製作された腕時計用リピーターの最新技術の一例である。プラチナ製ケースのなかに9リーニュ(20.2022mm)のムーブメントを収めているが、ケースサイズはわずか26mm×26mmである。素晴らしいのはその音のよさだ。まず第1にこの小ささ、第2にプラチナの音響特性はチャレンジ精神にあふれていると言えよう。というのもプラチナは非常に密度の高い金属であり、すぐに音のエネルギーを鈍らせてしまうのだ。ほかのすべての条件が同じであれば、プラチナ製リピーターは金無垢ほどいい音を奏でないが、ただこのリピーターは我々が聴いたゴールドリピーターと比べると、やや控えめではあるものの驚くほどクリアだった。実際、我々は今回の訪問のなか、ほとんどの人が一生のうちに聞くことができるよりも多くのリピーターを1日で聞けた。私自身の人生は、リピーターにかなり触れる機会に恵まれてきたが、その総数が午後1回で倍増したと思う。懐中時計のリピーターは(この記事で見たものはすべて、撮影する時間がなかったほかのいくつかも含めて正常に稼働していた)、部屋いっぱいに広がるほどのボリュームと存在感を備え、群を抜いて優れており、第2次世界大戦前の最も小さなリピーターでさえ、現代の多くのリピーターでは太刀打ちできないほどの鮮明さと品質を持っていた。少なくとも私が聞いたことのある、音量を売りにする新しいリピーターのなかには、音質をある程度犠牲にしているものもあるようだった。確かに音量は大きいのだが、それだけではなく、音が脆くて、少し明るすぎたのだ。

 第2次世界大戦までの数年間、オーデマ ピゲなどは基本的に、腕時計用リピーターの生産を停止していた。大恐慌から戦争までのあいだ、超繊細で非常に高価なチャイムウォッチは人々の関心を引くことはなく、耐衝撃性と防水機能が普及したためかエレガントな腕時計の時代は実用時計の時代に取って代わった。しかしクォーツショックは、時計への関心を復活させるという予期せぬ結果をもたらし、1992年にオーデマ ピゲは数十年ぶりとなる新しいリピーターウォッチ(9¾リーニュのCal.2865を搭載した、ジャンピングアワー ミニッツリピーター)を発表した。これは素晴らしいものだったが、ミニッツリピーターの設計には多くの疑問が残っていた。


ミニッツリピーターのベンチマーク

 ここでオーデマ ピゲ・ルノー・エ・パピが物語に登場する。1986年、APRP(オーデマ ピゲ・ルノー・エ・パピ)はドミニク・ルノー(Dominique Renaud)とジュリオ・パピ(Giulio Papi)のふたりが、オーデマ ピゲで複雑時計の製造に携わるには20年かかると言われたことに不満を抱き、独立を決意したことから始まる。興味深いことに、決別として始まったこの関係であるがオーデマ ピゲは1992年にルノー・エ・パピの株式を52%買収し、現在(編注;記事執筆当時)では80%を有するなど、結果的に相互利益のある結果に終わる。さらにAPRP側は、今後も外部の顧客を開拓できるという、92年に確立された合意もいまだ残っている。今日、彼らは世界で最も重要なムーブメントスペシャリストのひとつである。ジュリオ・パピは現在も同社の経営に携わっているが(ドミニク・ルノーは自身のプロジェクトを進めるべく会社を辞めた)、彼は小さくて気まぐれな機械に囲まれて仕事をしている割には、驚くほど温厚で社交的な人物である。

 パピによると、9年前に同氏が“リピーター問題”に取り組むことを決めたとき、最初のステップは、サウンド的に理想的な時計を見つけることだったという。

 彼らが選んだのが、1924年に製造されたこの時計であったことはかなり重要だ。壊れやすく、防塵・防水性もない、衝撃保護機能もないなど、20年代の腕時計にある技術的な欠点をすべて備えている。しかし、この時計には天使の声がある(聞いてみなければわからないが)。これまでに、今回の訪問時と2年前の訪問時の計2回、この腕時計の音を聴いたことがある。ほとんどのヴィンテージリピーターウォッチの音質は素晴らしいのだが、一般的には静かで小さい音の群集だ。大音量というわけではないが、想像以上の音量になるため、どこかにスピーカーが隠されていないか部屋を見回したくなる。

 HODINKEEは、2014年にオーデマ ピゲ ミュージアムを訪問した際、この時計を録音している。下のビデオからは3:45頃から聞くことができる。また3:00からは、有名なジョン・シェーファー(John Shaeffer)のミニッツリピーターも聞くことができる。

 時計業界と幅広く仕事をしている、スイス連邦工科大学ローザンヌ校による、無響室で邪魔なエコーを除去する技術協力を得て、録音および分析が行われた。「私たちは、音が何に依存しているのかというプロセス全体を理解したかったのです」とパピは言う。

ADVERTISEMENT

スーパーソヌリの革新

 目標とする周波数スペクトルを武器に、APRPは一連の革新的な技術を開発した。これにより堅牢性、防水性、音量に優れているだけでなく、非常に高品質なサウンドを実現したのだ。

 ゴングが最適な音色を出すことを確認するのが最初のステップだった(スーパーソヌリは伝統的なふたつのゴングを使ったリピーターだ)。ゴング自体の断面は円形の強化スティール製という伝統的なものだった(APRPが現在も馬尿を使用しているかどうかは不明だ)。パピは円形の断面と形が最高だと言う。ゴングのフォルムに角度がついていると、音のエネルギーが失われやすくなり、音質や音量に悪影響をおよぼすと言うのだ。ゴング製造における、すべての伝統的な側面は依然として重要だが、ベンチマークとなる周波数を使用すると、最適な目標を達成するのがはるかに容易になり、また人間の判断にそれほど頼ることなく一貫して行うことができる。

 スーパーソヌリで最も興味深い新パーツのひとつは、調整装置である。これまで述べてきたように、伝統的な解決策はアンクルであり、それが役割を果たすと独特のブザー音が鳴る(動画だと容易に聞こえる)。いくつかのリピーターに使われているフライレギュレーターには、いくつかの利点がある(基本的には遠心式の調速機)。ブザー音のノイズはないが、完全に無音というわけではなく、摩擦に依存しているため、使用されている潤滑油が古くなると、リピーターのテンポは時間とともに変化する。オーデマ ピゲはこれまで、一般的にアンクルレギュレーターに固執してきた。これがそのひとつだ。

 新しいバージョンのアンクルの外観はかなり異なって見える。

ADVERTISEMENT

 アンクルから発せられるノイズを調査中、APRPは、そのほとんどが実際にはアンクルと回転を制御するリピータートレインのガンギ車との相互作用から来ていないことを発見した。原因の多くは、実際にはピボットから来ていたのだ。上の写真は、伝統的な基本のアンクル調速機だが、それに衝撃吸収システムが追加されている。Bの字のような形をした、複雑かつとてもとても小さなバネがほとんどの働きをする。全体の長さはわずか1.5mmほどで、最も薄いショックバネの厚さは0.08mmだ。しかし、結果的には、安定したテンポが得られ、事実上無音のレギュレーターが完成した。音は可聴域をはるかに下回り、スーパーソヌリが動作しているときにはまったく聞こえなかった。通常どれだけクリアに聞こえるかを考えると、かなり驚くべきことだ。このシステムは実生活での15年間の使用に相当する期間、摩耗テストが実施されているため、信頼性も非常に高そうだ。

 では、実際どのようにしてスーパーソヌリから音が出ているのかを話そう。

 上の図は、スーパーソヌリに搭載されたムーブメント、AP Cal.2937の文字盤側と背面だ。これはオーデマ ピゲ初のミニッツリピーターを搭載したトゥールビヨンクロノグラフではないが、独自のムーブメント呼称に値するほど十分異なる。写真上の文字盤側には、トゥールビヨンと多くのリピーター機構が見え、下の写真にはコラムホイールとラテラル・クラッチ機構を備えたクロノグラフシステム、リピーター用のふたつのハンマー(左下)が見える。しかし、このムーブメントが従来のリピーターと大きく違うのは、ゴングがムーブメントプレートに取り付けられていないことである。

 上の写真はスーパーソヌリを裏側から見た分解図だ。ご覧のように、ゴングはプレートに取り付けられているのではなく、実際にレゾナンスメンブレン(膜)として機能する、インナーケースバックに取り付けられている。これはほかの最新のリピーターよりも大きな利点だ。膜はゴングの固有振動数で共鳴するのに十分な剛性があり、また音のエネルギーを吸収しすぎない程度に軽量だ。この内側の膜は、おそらく想像がつくかと思うが、銅合金(素晴らしい音を奏でたが酸化しやすい)から、信じられないかもしれないが合成サファイアまで、オーデマ ピゲは素材に関して多くの検討をした(パピいわく、サファイア膜の厚さは0.01mmしかなく、変な使い方をすると粉々になるのでサファイアはダメだったと言う)。また膜とケース本体のあいだにはガスケットが入るので、リピーターとしてはかなりの防水性を実現していた(ただリピーターの歴史の大半において防水性がゼロであったことを思い出すまで、20mという防水性は大したことには聞こえないかもしれない)。

 もうひとつ言わなければいけないことがある。従来のリピーターでは、時を打刻したあと、次に打つべき4分の1がない場合、通常クォーターの打刻が行われる区間を通過するあいだチャイムの音は止まる。その点スーパーソヌリがこのような状況に置かれた場合、時の打刻が完了した直後に分も打刻される。無音の間隔はまだ存在するが、機械的に分が打たれたあとのインターバルにシフトされるのだ。

ADVERTISEMENT

 もちろん、これを読んでいる人が本当に知りたいのは、それがどのように聞こえるかということだろう。ここでスーパーソヌリが動いている短いビデオを掲載したかったし、オーデマ ピゲもSIHHの期間中いくつかの録画を許可していたのだが、残念ながら彼らはオンラインにアップされたものは重要ではないと決めたようだ(さまざまな程度の歪みや環境ノイズは、展示会にはつきものなのだ)。最終的に完成したモデルを、よりいい音響環境で録音できることを望んでいるし、記事の最後が少し拍子抜けしてしまうのは悔しいが、オーデマ ピゲの言い分も理解できる(更新: オーデマ ピゲがスーパーソヌリの録音を公開した)。

 きちんとした録音ができるようになれば待つだけの価値はあると思うし、それまでは、私が本当に素晴らしい音だと言っても荒らしていると読者が思わないことを願っている。騒がしい部屋のなかにいても、普通の会話の音よりも大きく、簡単に聞き取れる。実際、手首につけたときの音はオフのときよりも大きく聞こえる(これは異なる材料の層を介して音波を送信するという特殊性によるもので、構成が異なる場合は、音が反射して戻ってくる。時計を装着していない状態では、音は時計から多かれ少なかれ分散されるが、装着している状態では皮膚と裏蓋の境界が音を前方に反射するのだ)。音が大きいだけでなく、美しく、クリアな音だ。音量は大きいが耳障りな音ではなく、心地よい倍音にあふれ、レギュレーターからの不快なブザー音もない。スーパーソヌリがオペラ歌手だったとしたら、歌手の声が力強さとしなやかさをあわせ持つ魔法の時期、つまり声が成熟している時期と言える。ただ年齢を重ねる以前に、スーパーソヌリに年齢が影響することはない。

 スーパーソヌリのような時計は、腕時計に8桁台中盤のお金をかけることができる、非常に裕福なごく一部の人を除いて、所有することにそれほど意味はない。しかし、このクラスの時計を興味深いものにしているのは、時計製造における基本的な問題と、その創造の取り組み方について、どれだけ多くのことを教えてくれるかということだ。そして、それから学ぶためにスーパーソナリーを所有している必要はありません(我々のほとんどは選択の余地がないので、これは幸運なことなのだ)。これは私が長年見てきた、時計製造のかなり難解な分野を学ぶための最高な教材のひとつであり、またジュウ渓谷とオーデマ ピゲの物語に深く関わる、この複雑機構の製造における歴史の一部でもあるのだ。

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ。2音のミニッツリピーター、トゥールビヨン、スイープ式センターセコンド針搭載の30分積算計クロノグラフ。チタン製ケース、ブラックセラミック製リューズとチタン製プッシュボタン。44mm径、2気圧防水、内側に密閉された“サウンドボード”と裏蓋の開口部から音を逃がす。手巻きCal.2937、29.90m径×7.7mm厚、2万1600振動/時、部品点数478点、43石。ブラックラバーストラップ、チタン製オーデマ ピゲ フォールディングバックル。詳しくはオーデマ ピゲ公式ウェブサイトをご覧ください。