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A Week On The Wrist 衛星同期の高精度を誇るチタン製のセイコー アストロン ソーラー SBXC107を1週間レビュー

クォーツ次世代機の代表格、GPS同期の超複雑機構を搭載したアストロン。

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1969年12月25日、スイスの時計業界は機械式時計の製造を小休止し、“クォーツ危機”という単語も知らぬまま、クリスマスの宴に興じていた。同じころ、数千km離れた場所でセイコーが世界初のクォーツ腕時計を発表していた。それがセイコー クォーツ アストロン 35SQである。

 音叉型に成形されたクォーツ振動子とオープンステップモーターにより、月差±5秒の精度を実現したこのクリスマスプレゼントは、世界を一変させることとなった。程なくしてセイコーは、この新しい時計に関する多くの特許を公開し、クォーツ技術を急速に普及させることになった。それは革命であり、立場によっては危機を引き起こした。

Seiko Quartz Astron

初代セイコー クォーツ アストロン35SQ。

 セイコーとクォーツは、1970年代から80年代にかけてのスイス機械式時計産業の衰退の要因であったと、今となっては振り返ることができよう。しかし、スイスの機械式時計産業が大きく立ち直った今、日本のかつてのゲームチェンジャーを敵視する必要はない。

 そして、セイコーは、“非機械式”時計に関しても、革新的な取り組みの歩みを止めていない。しかし、それはすべてアストロンから始まったのだ。今日、我々が見ているのは、ヴィンテージの前身であるアストロンとは名前以外に共通点がほとんどない、現代のセイコー アストロンだ。略史的なプロローグは、あくまでプロローグに過ぎない。

 現代のアストロンは、セイコーのカタログのなかで変り種の顔も持ちつつも、ある面では現代の革命ともいえる存在だ。変わり種と呼んだのは、シャープなエッジを有するケースデザイン、モダンすぎるダイヤルレイアウトなど、審美面でセクシーとは捉えがたいため、幅広いマーケットに受け入れられることはなかったからだ。しかし、このモデルは、人工衛星(サテライト!)と同期する画期的なモデルであり、スマートウォッチに限りなく近い、自立型の時計だ。実際、セイコー アストロンは、1日中手首に携帯電話をつけることに興味がない人向けのスマートウォッチの代替品だともいえよう。

 というのも、アストロンは非常に多くの機能を備えているからだ。その複雑な機能は多岐にわたるので、次に列挙したい。時、分、秒、日付、曜日、GPSソーラー、永久カレンダー、デュアルタイム表示、GPS同期時刻、タイムゾーン調整である。2012年に発売された現代版アストロンは、セイコーによれば、GPS衛星信号受信による時刻同期とタイムゾーン調整機能を備えた世界初の量産型腕時計だいうことだ。セイコーは、その世界初の称号をアストロンのために用意したということになる。

Astron 7x

2012年に発売されたセイコー アストロン7xシリーズにはGPS衛星同期機能が搭載された。

 通常、私は複雑機構というと、文字どおり複雑なため、自分にとってどれだけ複雑なのかということを考える。アストロンの場合、(ユーザビリティ面で)複雑な時計であると同時に、多くの情報を提供しながらも非常にシンプルな時計であるともいえる。

 実際、巻き上げや時刻合わせをする時間がない友人にもすすめられるかもしれない。その友人というのも、見当がつくだろう。初めての機械式時計をどれにしようか相談してくる人たちのことだ。もしかしたら、プレゼントとして贈ることもあるかもしれない。ある日、あなたは「時計が壊れた…動かないんだ」というメールを受け取ったとしよう。そして、すぐに巻き上げ不足だと気づく。あるいは、サマータイムに切り替わったときに…まぁ、言いたいことはわかるだろう。

 アストロンを受け取って箱を開けると、不思議なことが起こった。太陽光がダイヤルに降り注ぎ、針があらゆる方向に動き始め、最終的に正しい時刻、曜日、日付に着地したのだ。文字どおり、何もしなくていい。最初は“魔術”と思ったが、「そうだった、人工衛星と同期したんだ」と思い直したほどだ。

Astron

 そう、複数の人工衛星がこの時計と通信し、常に秒単位で正確な時刻を刻んでいるのだ。具体的に解説すると、この時計に送信されるGPS信号は、1000年に1秒の誤差しか生じない原子時計から発信されている。そのため、初代アストロンの月差±5秒が機械式時計の精度に感じられるほどだ。

 アストロンは一見するとクロノグラフのようだが、技術的には計測機能はないし、この時計でそのようなことをやってみようとも思わないだろう。ダイヤルは無数の機能を表示するために用意されている。外側のミニッツトラックは、セイコー独自のルミブライトを塗布したアプライドインデックスが配置されていて、針と見事に調和している。3時位置の曜日表示(内側に24時間表示のさらに小さなインダイヤル)、6時位置の第2タイムゾーン表示、9時位置の機能・パワーリザーブ表示と、計4つのインダイヤルを備えている。

Astron
Astron caseback
Astron case profile

 忘れてはならないのが、デイト表示機能だ。何日かわからないのでは、何のための複雑機構だろう? それは、誰もが気に入る場所にある。ダイヤルの4時30分位置だ。さらにその先には、UTCタイムゾーンを表示するベゼルが取り付けられている。

 この時計はクォーツ式であり、ソーラー発電し、GPS機能を備えている。アンチ機械式時計でありながら、スマートウォッチに挑戦もしている。私はまだ、スマートウォッチの魅力に取り憑かれたことがない。私は完全なアナログ人間だ。この時計もアナログ表示だ。その性能は私の旧世界の感性に馴染んだからこそ、こうしてレビューしてみる気になったといえる。


ア・ウィーク・オン・ザ・リスト
Astron

 この軽くてチタン製のハイテク製品とともに1週間を過ごしたのは、時計を操作する必要がほとんどなかったため、とても楽だった。複雑機構を搭載したこの時計は、自分で設定するのではなく、楽しむためにあるのだ。この時計の体験でより興味深かったのは、衛星GPS信号受信時の挙動を目の当たりにしたことだ。

 私がこの時計を自動巻きや手巻き式の時計の技術的な偉業と同列に見なすのは、目に見えないパワーが手首に伝わってくるからだ。スタートレック的でありながら、時計学的でもあるからである。

Astron

 私のアストロンに対する認識は、47mmの巨大なものであり、その大きさは技術的な必要悪である、というものだった。セイコーが42mmモデルを発表したとき、このブランドは私の心を捉えた。ブレスレットが一体化されているため、手首に占める面積は大きくなるが、アストロンは日常使いにピッタリだ。

 この時計の難点は、そのルックスだ。この時計としばらく過ごした後、セイコーはこのモデル専門の、まったく別のデザイン部門を持っているのだろうかと、不思議に思わずにいられなくなった。セイコーの別ラインには、セイコー プロスペックスダイバーズやアルピニストのようなヘリテージにインスピレーションを得た作品が並ぶ。その一方で、このアグレッシブで未来的な腕時計は、ダイヤルレイアウトから“私はテクノロジーだ! テクノロジー史上主義万歳!”と主張している。

 それがわかるからこそ、私は審美面での欠点に目を瞑ることができる。スーツにもカジュアルにも合わせてみたが、決して違和感はなかった(スーツには無理があるかもしれないが)。

 アストロンでいちばん気に入ったのは、その精度の高さだ。私たちはここに座って、COSCやMETASについて青筋を立てて議論している。この時計はGPS同期だ。それも原子時計の。その事実は、ほかのすべてを吹き飛ばしてしまう。だからといって、私は今でも自動巻き時計を愛していないわけではない。むしろ逆である。でも、だからといって、この時計を愛せないわけではない。


競合モデル
シチズン サテライト ウェーブGPS スーパーチタニウム
Citizen Satellite

 我々は、セイコーとシチズンの時計を比較検討することがよくある。そんななか、シチズンからアストロンと同じようなアグレッシブなスタイルのGPS電波時計が登場した。シチズンの時計は、エコドライブムーブメントを搭載し、27都市(40タイムゾーン)のワールドタイマー、クロノグラフ、デュアルタイムゾーン、UTC表示、永久カレンダー、サマータイム表示、パワーリザーブ表示、ライトレベル表示など複雑な機能を備えている。価格もセイコーより若干手頃な25万3000円である(国内生産終了品)。

ブライトリング エマージェンシー
Breitling Emergency

 価格面では対極に位置するブライトリングは、アストロンを購入する層の比較候補に挙がるブランドというよりは、“史上初"と新しいテクノロジーの導入への飽くなき好奇心にかけては決して引けを取らないメーカーだ。エマージェンシーは、緊急時にどこからでも助けを呼ぶことができる本格的な2周波救難信号を搭載した世界初の腕時計である(救難にはかなりの費用がかかるため、この機能はオモチャではない)。195万円以上のブライトリングは、まったく別の種類の時計であることだけは間違いない。

Apple Watch ウルトラ
Apple Watch Ultra

 腕時計といえば、スマートウォッチも外せない。Apple Watchは、その無限の機能性から、このリストの一角を占めるにふさわしい。Apple Watchは、基本的にスマートフォンの拡張機能、つまり地球上のもっとも有用なテクノロジーの拡張機能である。その気になれば、Apple Watchは最も複雑でパワフルな腕時計になり得る。難点は、ソフトウェア次第ということになるため、アストロンのように長期間の使用には耐えないことだ。しかし、これを競合に挙げないわけにはいかないだろう。

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終わりに
Astron

 セイコー クォーツ アストロンが、スイス機械式時計業界を揺るがしたクォーツ危機のきっかけになったとすれば、スマートテクノロジーがすべての時計を飲み込もうとしている現在、新生アストロンは機械式時計の最大の味方になるかもしれないと私は考えている。

 アストロンは、セイコーのなかで最もセクシーな時計ではないかもしれない。それどころか、セイコーのなかですら最高にセクシーとは言い難い。しかし、最も正確で、最も技術的競争力のある時計である。結局のところ、時計がどれだけ進歩したかを証明する存在なのである。

セイコー アストロン ソーラー チタン:ケース、チタン製、100m防水、42.7mm×12.2mm。パーペチュアルデイ&デイトカレンダー付き。ムーブメント、セイコー自社製キャリバー5X33、GPSソーラー、電波受信表示機能、パワーセーブ機能、ローカルタイムからホームタイムへの転送機能付き。無反射コーティングサファイアクリスタル風防。プッシュボタン式クラスプ。価格は28万6000円(税込)

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