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※本記事は2022年5月に執筆された本国版の翻訳です 。
ラグジュアリークロノグラフのカテゴリーには、スピードマスター、デイトナ、ポルトギーゼ、エル・プリメロ、ビッグバン、ナビタイマーなどが割拠している。この分野は非常に競争が激しいため、クロノグラフ製造の歴史で大ヒットを飛ばした大物ブランドでもあっても、愛好家の想像のなかで忘れ去られてしまうのも無理はない。
それこそまさに、ブレゲのタイプXX(およびXXI、XXII)が過去10年間に経験したことと符合する。スイスの時計メーカーであるブレゲは、1990年代半ばに20世紀で最も有名なパイロットクロノグラフを復活させて以降製造を続けるなど、21世紀のクロノグラフレースにいち早く参入した。しかし、どういうわけかタイプXX系は、90年代後半に時計コレクターの熱狂的な支持を得た当初と同じ熱量を維持するのに苦戦を強いられている。
タイプXX/XXI/XXIIシリーズは私を魅了してやまない。歴史も申し分なく、時計自体も美しい。しかしもっと重要なのは、ブレゲが製造するほかのどのモデルとも似ていないということだ。スポーティなマリーンでさえ、まったく異なる雰囲気を持っている。だからこそ、最近タイプXXの新作があまり話題にならないことはとても残念に感じている。
2021年に発表されたばかりのカラフルなタイプXXIのペアや、2年に1度開催されるOnly Watchチャリティーオークションで絶賛されたユニークピース(この記事とこの記事を参照)など、散発的なアップデートはあるにはあった。しかし、2010年にタイプXXIIがデビューして以来、このコレクションはブレゲから後回しにされてきた感が拭えない。
1990年代半ばに復活を遂げてからのタイプXX/XXIの進化をざっと振り返ってみたい。もしかすると、このコレクションがこれまで歩んできた道、そしてこれから向かうべき道の手がかかりになるかもしれない。
今回は、ブレゲが製造したタイプXX、XXI、XXIIのモダン/コンテンポラリーのパイロットウォッチに焦点を当てるため、タイプ20の軍仕様の歴史や、航空業界におけるブレゲの歴史について深く掘り下げないことは承知いただきたい。それらについては、ジャックが2015年の記事でひととおり網羅しているので、航空界におけるブレゲの歴史的な位置付けや、ヴィンテージのタイプ20腕時計の影響力についてご存じない方は、この記事を一読されることをおすすめする。
歴史についてそのすべてを深掘りすることはしないが、ブレゲが1990年代半ば以降に製造したさまざまなリファレンスについて解説する前に、あらかじめ整理しておくべきことがいくつかある。
ブレゲ タイプXX/XXI/XXII 早見表
アラビア数字で判別可能の“タイプ20”とは、1950年代にフランス軍が、パイロットが飛行中に着用するフライバッククロノグラフをフランスとスイスのトップクラスの時計メーカーから製造するよう暫定契約した際に提供されたオリジナルの仕様書を指すことが一般的だ。仕様書の原本は紛失し、現在も見つかっていない。しかしタイプ20とは、ブレゲの名がダイヤルに刻印されたオリジナルのミルスペッククロノグラフだけでなく、タイプ20の要求仕様に応えたエイラン、ドダーヌ、ヴィクサ、アウリコスタ、マセイ・ティソといったほかの時計メーカーの製品も指すと一般に理解される(後者は実際にブレゲやほかの時計メーカーのために時計を製造していた)。
一方、タイプXXという名称は、タイプ20のデザイン言語を市販品向けにアレンジしたものだけを指す。1995年に復活を遂げて以来、ブレゲがパイロットクロノグラフの旗印の下に製造してきた時計の99%が、これに含まれる。
ブレゲが1970年代にオリジナルのタイプXXI腕時計を製造していたことも注目に値するが、現行のタイプXXIとはほとんど関係がない。私が知る限り、最初のXXIIは2010年に製造されたものである。
オリジナルの仕様書によると、現代のタイプXXとタイプXXIはすべてフライバッククロノグラフで、文字盤には通常、フランス語で“レトゥール・アン・ヴォル”、つまり“fly back(フライバック)”と表記される。現在ブレゲがコレクションで採用しているクロノグラフムーブメントは、もともと1992年にブレゲが買収したレマニア社によって開発されたものである。
さて、タイプXX、XXI、XXIIの各コレクションを分ける固有の違いだけでなく、その背景を最低限理解するのに十分な歴史のレッスンは以上だ。それでは、ブレゲのアヴィエーション(航空機)にインスパイアされたクロノグラフがどのように進化し、現在の地位を築いたかをより理解するために、振り出しに戻ろう。
新たなスタート(1995年~1998年)
現在に至るタイプXXは、1995年にバーレーンを拠点とするオルタナティブ投資会社インベストコープの傘下にあったブレゲがリリースしたタイプXX Ref.3800である。これがタイプXXの第3世代の始まりであり、今日存在するコレクション全体のバックボーンであると多くの人が考えている。
タイプXX Ref.3800は、オリジナルのタイプXXのデザイン言語を進化させたモデルだ。ブレゲはケース径を38mmから39mmに拡大し、ミドルケースに施された特徴的なコインエッジやポリッシュ仕上げされたベゼルなどの装飾効果を取り入れた。また、レマニア1350をベースとしたブレゲ自社製自動巻きムーブメント、Cal.582が搭載され、過去のモデルのような手巻きムーブメントではなく、フライバックモジュールが搭載された。フライバック機能と逆回転防止ベゼルはオリジナルを踏襲し(初期モデルでは逆回転防止ベゼルが採用された個体も報告されている)、視認性に優れたブラックマットダイヤルに白文字表記が採用された。このリファレンスの初期のモデルは、トリチウム夜光とゴールドメッキのリューズが特徴であった。
ステンレススティール製モデルの成功に続き、ブレゲはすぐにイエローゴールド製でブラックダイヤル仕様のRef.3800BA、ローズゴールド製でブルーダイヤル仕様のRef.3800BRをリリース。とりわけ後者は、これまでのタイプXXシリーズのなかでも最も魅力的で華やかな配色のひとつだと私は考えている。
Ref.3800PTもまた、この時期に発表されたあまり知られていないモデルで、このモデルが製造開始されて1年か2年後に製造された。プラチナケースにブラックダイヤル仕様のタイプXXは、合計100本の限定生産だった。
デイト表示あり、それともノンデイト?(1998年~1999年)
その3年後、ブレゲはデイト表示機能を備えたタイプXX トランスアトランティック Ref.3820を加えることでXX系の充実を図った。6時位置のインダイヤルの内側にクイックセット式のデイト窓が追加され、ベゼルにサテン仕上げが施された以外は、従来のタイプXXとほぼ同じであった。トランスアトランティックに搭載されたムーブメントは、レマニア1372をベースとしてデイト表示付きのCal.582Qにアップデートされた。
私が知る限り、1995年以降の非クロノグラフのタイプXXは、1998年に発表されたモデルだけだ。タイプXX Ref.3860 レヴェイユは、生産数が非常に限られたアラームウォッチで、トランスアトランティックと同じケースを採用し、SS製とゴールド製が展開された。ブレゲのスポーツウォッチに興味をお持ちの方には、ノンクロノグラフかつノンマリーンという素晴らしい選択肢になると思う。
ブレゲはこの時点で、実験的フェーズに真っ先に飛び込んだ。アエロナバル Ref.3807として知られるこのモデルは、ポリッシュ仕上げのベゼルとブレスレット、光沢のあるダークブルーのコバルトダイヤル、そしてタイプXXシリーズで初めて採用されたシースルーバックを備えた、約1500本限定のシンプルで美しいSSモデルだ。
この時期に発表されたモデルとしては、ブラックのカーボンファイバーダイヤルを備えたチタンケースのトランスアトランティック Ref.3820、ブルーダイヤルを備えたプラチナケースのトランスアトランティック Ref.3820、ディープブルー、ブラック、ホワイトダイヤルを備えたイエローゴールド(BA)、ホワイトゴールド(BB)、ローズゴールド(BR)製のトランスアトランティック Ref.3820などが展開された。WGケースとホワイトダイヤルの組み合わせは、伝統的なミルスペックにインスパイアされたクロノグラフに、とりわけ意外性を与えている。
ブレゲはRef.4820も同じ2000年代初頭に発表した。こちらは直径33.5mmで、女性時計コレクターをターゲットにした小型のタイプXXトランスアトランティックだ。あまり知られていないRef.4821は、マザー オブ パール(MOP)ダイヤルとダイヤモンドがセッティングされたベゼルを備えたタイプXXである。
スウォッチ傘下へ。そしてタイプXXIに(1999年~2010年)
1999年、ブレゲはスウォッチグループに買収された。やがてブレゲは、ニコラス・ハイエックが率いる世界屈指の高級時計メーカーとなる。買収から5年以内に、ブレゲはタイプXXIの最初の現代的モデルであるRef.3810を市場に送り出した。ただし、当初のタイプ21の仕様とはまったく異なるものだった。
タイプXXIは、42mm径のチタン製ケースを採用。フライバッククロノグラフ機能を搭載し、同軸上に配置された秒針と分針で経過時間を計測可能だ。さらには24時間針を備えたことでAM/PMも判別も可能となった。
現代のタイプXXとタイプXXIの最初のモデルを並べると、タイプXX Ref.3800の比較的フラットなダイヤル形状に対し、タイプXXIでは段差のあるダイヤルに凹型のインダイヤルなど、ほかにもいくつかのデザイン上の変遷があった。最初のRef.3810のデザインは、ブラウンダイヤルとチタン製ケースが特徴だったが、すぐにブラウンダイヤルを引き立てる、魅力的で温かみのあるRG製ケースが登場した。
ブレゲが新しいタイプXXIを試行錯誤していたのと同時期に、デイト表示を搭載した90本限定のタイプXXも発表された。プラチナケースのRef.3827PTは、ゴージャスなサーモンダイヤルとシースルーバックを備えていた。これは、これまでに発表されたタイプXX/XXIのなかで個人的に最も好きなモデルである。クリスティーズのオンラインオークションでは、2023年12月に1本が出品された。正直に言うと、すぐに予想価格帯を外れてしまったが、私はこの時計を注視していた。
スピード“狂”時代(2010年~2016年)
ブレゲのパイロットウォッチの系譜の次の大きな発表は2010年のこと。初のタイプXXIIが発表されたのだ。タイプXXII Ref.3880は、10Hz、すなわち7万2000振動/時という驚異的な振動数で作動する新ムーブメントを搭載していた。内部に搭載された自社製ムーブメント、Cal.589Fには、脱進機の素材にいち早く採用された軽量で耐磁性のあるシリコンが、超ハイビートの実現に貢献した。
驚異的な振動数の高さによって、クロノグラフ秒針は60秒ではなく、30秒に1回転、つまり1分間に2回転することになった。振動数が高いため、経過時間を計測する際の精度も高くなり、ブレゲはダイヤルの外周部に赤と白のダッシュ記号を交互に使用することでこの特性を強調している。しかもなぜかブレゲは、ダイヤルに第2タイムゾーン表示まで搭載することができたのだ。
2010年のバーゼルワールドでプロトタイプとしてデビューしたこのモデルは、2011年にブラックダイヤルの44mm径SS製ケースに収められた量産モデルとして復活を遂げた。その2年後、ブレゲはブラウンダイヤルのRG製ケースと、それにマッチするゴールドのブレスレット/ストラップを追加した。それ以来、タイプXXIIについてはほとんど音沙汰がないが、その開発に用いられた技術の一部は、2014年にGPHGで“金の針”を受賞したクラシック クロノメトリーRef.7727にはっきりと受け継がれた。
ブレゲがタイプXXファミリーを技術革新の触媒として使っていたのと同じ時期に、タイプXXのプラットフォームを最も魅力的かつ古典的に学習させたモデルのひとつを発表したのは、少々皮肉なことである。フランスのアエロナバル結成100周年を記念して、ブレゲはタイプXX Ref.3803STを、タイプXXの特徴である39mmSS製ケースを備えた1000本限定モデルとして発表した。ブラックラッカー仕上げの回転ベゼルに浮き彫りの数字、そしてフランス海軍航空100周年記念の公式エンブレムが刻印されたソリッドケースバックが特徴だ。
緩やかな進化
ブレゲは次に、2016年にタイプXXIをリフレッシュした。新しい外観のタイプXXI Ref.3817は、42mm径のSS製ケースを採用し、わずかに色あせたように見えるヴィンテージ風のスレートグレーダイヤルには、通常よりも大きなアラビア数字があしらわれた。内部のムーブメントはシリコン製部品が追加されたCal.584Qにアップグレードされた。双方向回転ベゼルにはエングレービングが施され、滑らかなサテン仕上げが施されている。その一方で、裏蓋全体がサファイアのシースルーバックとなったのは、タイプXXIとして初めてのことであった。SS製のRef.3817が発表されてから2年後、RG製でブラウンダイヤルのモデルが発表された。
2010年代後半、ブレゲはオリジナルのモダンなパイロットクロノグラフ、タイプXXを製造中止とした。ノンデイトのRef.3800系は2018年に正式に消滅し、トランスアトランティック Ref.3820モデルは2020年に生産を終了した。しかし、タイプXXシリーズ全体からもたらされた最も新しいニュースは、2021年、グレード5のチタニウム製ケースに、グリーン(3815TI/HM/3ZU)またはオレンジ(3815TI/HO/3ZU)の夜光を好みで選べる限定版タイプXXIのペアが発表されたことである。
この奇妙なペアは2021年に突然現れた。ミッドセンチュリーの真髄とも言えるパイロットクロノグラフが、これほどまでにカラフルな夜光塗料で彩られると誰かが予想していたとはとても思えない。夜光塗料は確かに散漫な印象を与えるが、ブレゲはここでかなり巧妙なトリックをやってのけた。12時間積算計を排除し、3時と9時位置の“ビッグ・アイ”デイ/ナイト表示とスモールセコンドをそのままとすることで、タイプXXIを2レジスタークロノグラフに変身させたのだ。もちろん、同軸上に配置されたセンタークロノグラフ秒針と分針は、これまでと同じように作動する。
ユニークピースの数々
ブレゲは近年、2年に1度開催される、神経筋疾患治療のための資金を集めるOnly Watchチャリティオークションにユニークピースを3本提供している。ブレゲは2005年の初年度からこのオークションに参加しており、このイベントのための初ユニークピースのタイプXXIを発表したのは2015年のことだった。
プラチナケースのタイプXXI Ref.3813 Only Watch 2015は、ケース素材を引き立てる温かみのあるグレーダイヤルを備えていた。このOnly Watch限定モデルのデザインは、翌2016年にデビューしたタイプXXI 3817の審美面に影響を与えることになる。ブレゲ タイプXXI 3813は最終的に9万スイスフラン(当時の相場で約1130万円)で落札された。
ブレゲはOnly Watch 2019のためにパイロットウォッチラインに回帰したが、タイプXXを取り上げるのではなく、第1世代の軍仕様のヴィンテージ腕時計タイプ20の復刻を選んだ。つまり、同サイズのインダイヤルを備えた2レジスターダイヤル、オニオン型リューズ、アラビア数字、38.3mmのSS製ケースという仕様である。この時計の内部には、フライバッククロノグラフの手巻きムーブメント、バルジュー23が搭載されており、オリジナルモデルに搭載されていたものをアップデートしたものだった。ダイヤルには意図的にエイジング加工が施され、柔らかなブラス/ブラウンの色調に仕上がっている。関心が高まり、21万スイスフラン(当時の相場で約2300万円)で落札された。
そして2021年、ジュネーブで開催されたOnly Watch 2021オークションでは、ブレゲは再びヴィンテージのアーカイブに着目し、38.3mmのSS製ケース、3時位置の“ビッグ・アイ”インダイヤル、目盛り付きの両方向12時間ベゼルを備えたヴィンテージのタイプXXクロノグラフに新たな解釈を加えた。タイプXX Only Watch 2021は最終的に25万スイスフラン(当時の相場で約300万円)で落札された。
最終的な感想
ブレゲ タイプXXコレクションは、ヒットと失敗を繰り返しながら、長い道のりを歩んできた。ブレゲは歴史的に、高級複雑時計、トゥールビヨン、ギヨシェ装飾がふんだんに施された超薄型ドレスウォッチを得意としてきたメーカーである。では、タイプXXコレクションはいまでもブレゲの主力商品として通用するのだろうか?
私はそうだと考えている。15年前、スウォッチグループに属するブレゲの高級時計ブランド、ブランパンでも同じような疑問が投げかけられた。ブランパンは2007年に量産再開までの数十年間、同社の最大の歴史的名声を誇ったダイバーズウォッチのフィフティ ファゾムスを発表することなく過ごした。そしていま、かつてないほど多くの人々がフィフティ ファゾムスを実際に所有したか、少なくともこのコレクションの価値と歴史的影響力を理解したのは明らかである。
私は、ブレゲのタイプXXがブランパンと同じようなカテゴリー内における存在感を獲得するのを、いますぐにでも見てみたいと願っている。
Lead image, Christie's
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