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In-Depth フォティーナ、その歴史と長所、短所とは

ヴィンテージ風の夜光塗料は、本当に受け入れられたのか、否か。

双方に熱烈な支持者があるものについて、二者択一の問いを投げることほど議論を過熱させるものはない。ボルドーかブルゴーニュか、マニュファクチュールかエボーシュか、火を通した牡蠣か生牡蠣か、日付窓はありかなしか――おそらく挙げていけばきりがない。一般的に人はどちらか一方を絶対の正解だと思って選び、反対意見がいくら合理的であろうと頑固かつ独断的に立場を固持するものだ。

 しかし、単純に思える質問でも、詳しく見てみれば少し意味が変わってくることがある。先日コール・ペニントン(Cole Pennington)は、ヘサライトかサファイヤ風防かの問題をさまざまな複雑な要素に分解した。そして私はこう思った。ヴィンテージ時計本来の色に似せて着色された夜光塗料はすっかり定着し、これからも使われ続けるだろうから、それについても見てみよう、と。この塗料は「フォティーナ夜光塗料」あるいは単に「フォティーナ」と呼ばれることがある。この名前は「フォゥ」(faux: 偽物)と「パティーナ」(patina: 経年変化)を合わせた造語で、いわば偽物の経年変化という意味だ。これを認められないという人もいるが、では、現実にこれが有効に機能する場面はあるのだろうか? 今回、その歴史について掘り下げてみて、登場以来どのように愛好家に受け取られてきたかを見ていこう。

2019年10月に登場したブレゲ タイプ 20 オンリー ウォッチ。ヴィンテージスタイルの夜光塗料、ケース、プッシュボタン、リューズだけでなく、ヴィンテージのムーブメントであるバルジュー 235 フライバック クロノグラフを採用。


フォティーナの略史

 ヴィンテージ風の夜光塗料、およびさまざまあるその呼び名(また、過去との繋がりを示すことが目的のデザイン上の特徴)がもつ興味深い特徴のひとつは、必然的に、かなり最近になって現れたものであることだ。ラジウム、トリチウム塗料、スーパールミノバなどの夜光塗料は、塗ったばかりの時点では一般的に白ないしは、白に近い色をしている。ここにさまざまな顔料や素材を足せば、自然光の下での発色を変えることができるほか、放つ光の色もある程度調整できるのだ。(ロレックスは、鮮やかなピーコックブルーに光るクロマライトと呼ばれる夜光塗料の製造法を占有している)

ロンジン WWW 「ダーティ ダース」。ラジウム塗料が塗られた針とインデックスは経年変化して色あせている。

 現代のスーパールミノバとそれに類する夜光塗料は素晴らしいまでに安定している。一方、特にラジウムとトリチウムは、時間が経つにつれてある程度の褪色や変色が起こる傾向にあり、この色のあせ具合がヴィンテージ時計を評価する上での基本的な特徴の一つになっている。(夜光塗料付き時計のインデックスと針が時計本来のものであるか、あるいは少なくとも同じ年代のものであるかどうか知りたい場合、まずはそれぞれの夜光塗料を比較して一致するかどうかを見る)。そして、夜光塗料の自然な経年変化と退色が目で見て分かると、多くの人がノスタルジーに浸り、本物であるという感覚と古い時代の時計づくりの誠実さを強く感じるようになった。多くの人を魅了するヴィンテージウォッチの特徴である。

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 私が示す命題はこうだ。色あせた、あるいは経年変化した夜光塗料がヴィンテージ品の魅力の象徴となるためには、人々の欲求を満たすだけの十分な品数が揃っており、かつ集めたいという人もまた十分な数揃っていなければならない。つまり需要と供給のバランスだ。トリチウムは、暗闇での視認性を確保するために針とダイヤルに塗られていたが、後になってルミノバがその座を奪った。放射性のトリチウムから非放射性のルミノバ(およびスーパールミノバ)への移行は1990年代半ばから後半にかけて起こった。さまざまなブランドが移行する中、ロレックスもついに1998年に追従した(その後、2008年からクロマライトが使われ始めた)。おおまかに言って、トリチウムの時代は1960年代半ばから1990年半ばまで続いたことになる。

暗闇でどうやって光るのか

ダイヤルの夜光塗料の経過年数と状態は、時計の年代、状態、価値を評価するうえで重要な要素だ。しかし夜光塗料の仕組みはどうなっているのだろう? ラジウムから今日に至るまでの夜光塗料の詳しい紹介は、発光ダイヤルの科学的バックグラウンドに関するストーリーをご参照いただきたい(日本版準備中)。画像:H.モーザー ストリームライナー フライバック クロノグラフ

 ラジウムなどの放射性元素と同様、トリチウムには半減期がある。これはある量の物質が与えられた場合、そのおよそ半分が崩壊するのにかかる時間だ。トリチウムの半減期は12.5年とかなり短い。(比較のため併記すると、ラジウムの半減期は1600年)。1997年にインデックスと針にトリチウム塗料を使って製造されたロレックスをオリジナルの状態で持っているとすれば、夜光塗料の光の強さは2009年までに(おおよそ)半減していることになる。そのため、概して、2009年までの時点でトリチウム塗料を使った時計はある程度光量が落ち、場合によっては多少の退色も起きていると考えられる。

 別の要因もある。収集対象となっているヴィンテージウォッチの価格はトリチウムの使用が廃止されたのとほぼ同じ年に急激な上昇を始めた。例えば1998年から2003年の間にポール ニューマン デイトナのホワイトダイヤルの6239は約216万円から約432万円に値を上げた。その後同じだけの時間が経ち、2008年までにはさらにその倍近い値になっていた。そのため同じ時期に、最初の「エイジング済み夜光塗料」の時計が登場し始めたと予想するのは、あながち間違いではないだろう。ヴィンテージウォッチへの関心が高まる一方で、トリチウムが使われていた最後の年に作られて以来レストアされていない時計が、目を奪うクリーミーな色合いを獲得するのに十分な時間が経った(それ以前に作られ、元々の状態を保っていた時計については言うまでもない)。2008年は、トリチウムダイヤルが使われた時計の最後の集団の半減期目前だった。ここで2008年頃の状況を振り返り、時計の世界で何が起きていたかを見てみよう。

1964年から1965年、および1969年のシーラボでのミッション中に潜水技術者のボブ・バース(Bob Barth)が着用したロレックス サブマリーナーの色あせたトリチウム。


初のフォティーナを称えよ

 いわゆるフォティーナ夜光塗料が使われた最初の新作時計が何であったか、それを知ることは驚くほど困難なことであると分かった。手がかりを探り始めてすぐに行き当たった問題は、ブランドが「フォティーナ」という用語を使用しなかったこと、加えて「エイジング済み」という単語を往々にして避けていたらしいことだ。おそらく、少なくとも一部の愛好家には、過去の栄光を借用して時計を飾ろうとしているように受け取られると直感したのだろう。であれば火に油を注ぐことはないということだ。とういうことは、どちらの用語もブランド発ではなく、私が言える限りは、愛好家コミュニティから生まれたのだ。

 これは、「フォティーナ」や「エイジング済み夜光塗料」(あるいは他の用語を試した方もいるかもしれない)を検索用語として、さまざまなフォーラム投稿やオンライン記事のアーカイブの中に探し始めると、フォティーナが登場して以降の記事や投稿に遭遇するということだ。ウェブサイト『タイムゾーン』の公開フォーラム上で私が見つけた「フォティーナ」という用語の初出は2012年の投稿だった。ただしこれは、この時点で既に確立された用語として使われていた。したがって、用語も素材も2012年以前に登場したものではないかと私は考えた。

 これが使われた時計を初めて見たのがいつだったか、私自身もHODINKEEの皆も思い出せなかった。おそらく2012年か2013年頃だったろうというぼんやりした雰囲気がオフィスにはあったが、正確にいつだったか、あるいはどの時計だったかは誰もはっきりと覚えていなかった。
 しかし最後には運を掴んだ。ヴィンテージ風夜光塗料を使ったかなり初期の時計だと思われるものを見つけたのだ。タイムゾーンでそれが取り上げられたのは2008年のことで、トリチウムの半減期とヴィンテージウォッチ収集への関心の高まりをもとに推測した時期と一致していた。それこそがジャガー・ルクルトのメモボックス トリビュート トゥ ポラリスだ。ステンレスが768本、プラチナが65本製造された限定モデルである。

2008年にSIHHで発表された、ジャガー・ルクルト メモボックス トリビュート トゥ ポラリス。画像、Timezone.com。

 タイムゾーンにある元の投稿へのコメントからは、当時のフォティーナが新しいものだったことがうかがえる。あるコメントには「夜光塗料が経年変化して見えるように着色したみたいだ」とある。タイムゾーンで長く時計を扱ってきたウィリアム・マセナ(William Massena)は、eメールでこう述べている。

「これ以前にフォティーナを使った時計というのは考えつきません。3年後にJLCが、レベルソ トリビュート USエディションでもう一度フォティーナを使ったみたいです。しかしレベルソとなると事情が違ったのようで、フォティーナを使っていないバージョンも同時に発売されています」

「こちらでも考えてみますが、あなたが正しいようです。ルミノバの時代(2000年以降)に作られたメモボックス トリビュートはフォティーナを使った最初の例です」

 興味深いことだが、タイムゾーンのフォーラムで「フォウ パティーナ」と最初に書かれた例は、ウィリアム・マセナが2011年のレベルソを紹介する投稿で見つかった。「フォティーナ」の語もきっと同じ時期に作られたはずだが、誰が最初に使ったかまでは分からなかった。

2011年のジャガー・ルクルト レベルソ「トリビュート トゥ 1931」。その年の時計を紹介するタイムゾーンの投稿を見ると、公開フォーラムで初めて「フォウ パティーナ」の語が使われている。画像、Timezone.com。


フォティーナの過去と現在

 2008年には興味深い新作がいくつも登場した。例えば、ロレックスがヨットマスター IIをリリースしたのはこの年だ。現在のエイジドスタイル夜光塗料と同じほどに賛否が分かれた。リーマンショックが起きたのは2008年9月で、世界全体が金融危機に陥った。またこの年の5月には、ベン・クライマーというそれほど有名ではないが非常に熱烈な時計愛好家がウェブサイトで、当時驚きをもって迎えられた、オークション結果についての短い記事を公開した。それはエリック・クラプトンが過去に所有していたことがある1971年製ロレックス デイトナのオークションだった。落札価格は約5470万円で、それを報じたウェブサイトはHODINKEE.comだった。この時計は2015年に、5億円ほどで売りに出された。

 金融危機の影響は今もまだ残る一方、ヴィンテージウォッチへの関心は(ほとんど)抑えられることなく高まり続けてきた。時計業界としてみれば、特定のブランドだけでなく急成長を遂げるヴィンテージウォッチ収集の世界とも直接繋がりをもてるということは、ヴィンテージスタイルの時計とヴィンテージスタイルの夜光塗料が売上を大きく左右することを意味した。

ヴィンテージ風のダイヤルを備えたロンジン ミリタリーウォッチ。

 それ以来フォティーナは我々と共にあり、エイジング済み夜光塗料やエイジング済みダイヤルに加え、現在と過去の点を線で結ぶいくつもの時計を我々にもたらした。また、このような素材を使うことの長所と短所について時折議論が交わされるようにもなった。愛好家コミュニティの意見は、あなたが思うほど反フォティーナ一色ではないようだ。WatchUSeek上で2017年に交わされた議論で、ある参加者は次のように書いた。「フォウ パティーナ(フォティーナ)を好むべきではないと分かってはいます。なぜならこれは、経年変化したトリチウムを人工的に再現したに過ぎないからです。それでも、私はヴィンテージスタイルを愛せずにはいられません。現代の夜光塗料では自然な経年変化を見ることができないので、人工的に着色するほか選択肢はありません。真っ白な色よりも、クリーム色が似合う時計もあるのではないでしょうか?」

ラコ パイロットウォッチ オリジナル レプリカ 55 「エルシュテュック」

 これらすべての論理的結論として、議論をする間にエイジドスタイルの夜光塗料に合わせたエイジドスタイルのダイヤルを作り、エイジング済みのケースに入れればいいのでは、と考える人もいるかもしれない。ロンジンはロンジン ミリタリーウォッチにエイジング済みダイヤルを採用している(ロンジンいわく、各ダイヤルにはランダムにシミを配置しているため、同じものはふたつとないという)し、ラコはエルシュテュックのケースを「精巧な手作業でアンティーク風の見た目に仕上げ」ている。


長所と短所

 ヴィンテージスタイルの夜光塗料の長所はかなり直接的なものだ。ノスタルジーさと本格的な見た目、そして円熟の風味はこれらの時計の売上を今でも伸ばしている。ブランドにとってみれば、面倒を大幅に省いたうえでヴィンテージウォッチの美の一端を表現できる、デザイン上の堅実な選択肢の一つなのだ。少しくすみのある芳醇な夜光塗料の輝きは好きだが、機械トラブルを抱えたムーブメントや古いガスケットに手を焼きたくないという人にとって、いわゆるフォティーナは現実的な選択肢たりえる。さらに、通常のヴィンテージウォッチよりも化学的に安定したダイヤルと夜光塗料を使ったヴィンテージスタイルの時計を持てるということを意味してもいる。
 マニュファクチュール側も夜光塗料やダイヤル仕上げがいつまでも変わらず耐えられるとは期待していない。経年変化が進むにつれ、トリチウムやラジウム夜光の本来の見た目も変化し続けるのだろうと予想はできるが、どの程度変化するかは予測しづらい(気温や湿度、太陽光にさらされる期間など、環境的要因によるばらつきもあるだろう)。

ヴィンテージスタイルのムーブメントとヴィンテージスタイル夜光塗料:オメガ Cal.321 スピードマスター

今現在ヴィンテージスタイルを最も徹底している時計はおそらくこれだろう。新作のステンレス製でCal.321を搭載したスピードマスター通称「エド・ホワイト」は、ヴィンテージスタイルの夜光塗料を使っているだけでなく、ブレスレット、ケースなど他の要素もヴィンテージのスピードマスターからそのまま抽出されている。もちろん、1968年に生産停止となったCal.321も復活させていることは言うに及ばない。

 さらにヴィンテージスタイルの夜光塗料は、経年変化を経たトリチウムあるいはラジウムよりも物理的に堅牢だ。塗料がダイヤルや針から剥がれ、ダイヤルの下に細かなクズとなって漂うのを見るのは不愉快なものだが、フォティーナを受け入れればこれを避けられる。

 フォティーナの短所もまた複雑なものではない。一部の人々にとって単なる偽物のように感じられる、ということだ。当初私も確かにそう感じたが、致命的なまでに偽物のように思えてしまうことがある。自分のものでない借り物の栄光で新品の時計を着飾ろうとする厚かましい試みのように感じられるのだ。意図的に古びた様子を出した素材の使用は、時計の世界では比較的新しいことだ。ヴィンテージウォッチ、特に経年変化が明らかに見えるダイヤルと針を備えた腕時計の収集が真の文化的現象になる前は、単純にこのようなテイストのものが存在していなかったから、たいへん不自然なものと取られかねない。
 最も人気のある実用時計にとって、色あせたトリチウムはその真正性と果たすべき機能への献身の証である。フォティーナを使えば最悪の場合、本物の計器としての時計ではなく、絵に描いた時計を腕に着けているような心地にさえなるだろう。

 ヴィンテージスタイルの夜光塗料の一般的な呼び名であるフォティーナが本来的に蔑称であるという事実によっても状況は変わらない。これを「ヴィンテージスタイル夜光塗料と針」と呼び変えればその性質をより自然に表すことができ、僭称しようという試みではなくデザイン上の判断という方に印象を寄せられる。しかし残念ながらこれではキャッチーさを欠くため、塗料そのものと同様、フォティーナという呼び名も変わることはないのだろう。

ブロンズとSSコンビのオリス ダイバーズ ブロンズ 65 「ビコ」、2019年。

 多くの時計愛好家が辿った道だが、私はフォティーナ(あるいはヴィンテージスタイル夜光塗料)を猛烈に否定する立場から、ケースバイケースで判断するという立場へと変わった。しばらくの間、上で挙げられたような理由によって、私はフォティーナを一切好んではいなかった。ヴィンテージウォッチ熱につけこんで金を得ようとするペテンのように感じられた。2008年当時の私はそのヴィンテージ熱の高まりについて、純粋ではあるが比較的資金力の足りない私のような愛好家が、法外な値付けによって市場から閉め出されるというひねくれた見方をしていた(現実にそうなったが、一部で恐れられていたほど全体に波及するものではなかった。ただ私はポール・ニューマン デイトナを少しも気に入ってはいない)。そんな私も、2011年には例外を受け入れる準備ができた。ジャガー・ルクルト トリビュート トゥ 1931 USエディションをたいへん気に入ったのだ。絶対不変のものなどなかった。

 今の私はヴィンテージスタイルの夜光塗料を一つのデザイン上の特徴として見ており、あからさまな金儲けの試みだとは以前ほどには思っていない。当然ながら、哲学的な異論はいくつか残っている。また、愛好家以外も懸念を抱いている。昨年のSIHHにてカルティエのタイムピース クリエイション ディレクターであるマリー・ロール・セレード(Marie-Laure Cérède)にインタビューしたとき、彼女はこう述べた。「私にとってヴィンテージとはトレンドです。ヴィンテージには良い面と悪い面があります。人々は積極的にヴィンテージ品を探していますが、新しい時計がヴィンテージ品のように見えても何の意味もありません。意味すらない、無であるとも言えます。ミレニアル世代を主な対象にこうした品を販売している新興ブランドがあります。たいへん興味深くはありますが、一体何がどうなれば、それが何らかの意味を持つようになるのでしょうか?」

HODINKEE スウォッチ システム 51 ジェネレーション 1986。

 他のデザイン上の判断と同様、怠慢あるいは独断的に受け取られるリスクがあることには私も同意する。ただ以前のように怒り狂うことはないし、真新しい夜光塗料よりも心地よさと調和を演出できるものだと思っている(HODINKEEのCOOであるエネリ・アコスタ(Eneuri Acosta)は、これについて私と話す中で、今の職に就く以前にHODINKEEを読み始めた頃、真新しい夜光塗料がどれほど目に痛く無機質かという苦情を多く受けたことを思い出したと言っていた)。また逆説的ながらフォティーナは、黄色の無発光塗料を使う場合にも問題を引き起こしうる。HODINKEE スウォッチ システム 51 ジェネレーション 1986のデザインチームに寄せられたコミュニティからのフィードバックの中には、ダイヤルにフォティーナを使っていることに失望した、という意見が少なからずあった。しかし実際はダイヤルのマーカーには夜光塗料を使っておらず、ダイヤルと針の色との調和を考えて色を選んでいた。これを偽フォティーナと捉えた人がいたのは興味深いことだ。2019年の時計デザイナーの課題として非常に相応しい。

2018年のジャガー・ルクルト ポラリス メモボックス リミテッド エディション。

 また時計ブランドは、時間と共に、色付きの夜光塗料を高圧的になりすぎないよう使うことに長けてきた印象だ。結局のところ少量使えば十分なのであり、古きよき時代は頭ごなしに叩きつけるよりもかすかに匂わせる方が効果的なのだろう。ジャガー・ルクルトは2018年にメモボックス ポラリスの限定版オマージュ品を発売した。それには2008年版と同じようにヴィンテージスタイルの夜光塗料が使われているが、その使い方は非常にさりげない。最初は見過ごすほどのさりげなさだが、目に痛い視覚効果になってしまうことを防いたことは確かだ。

 私が娘の名前に「フォティーナ」とつけることがないのは間違いない(そして最初のフォティーナが登場した年にHODINKEEが創刊されたという事実に陰謀論者がどう反応するかはぜひ見てみたい)が、けして許容できないものでもなく、時間と共に態度を軟化させている人もそれなりにいるものと考えている。適切に使えば(SS製の新作321 スピードマスターのように)、ヴィンテージ品に起こりうるトラブルの一部を避けつつその魅力と温かみを感じられる良い方法になる。